ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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354話 オンボスの実態

『良いですか! 何かあったら、必ず連絡してくださいね!』

 

 

 ケイが先生に向かって最後の確認をしていた。大声のせいで、電話口でなくとも声が聞こえる。もう何回目か忘れたが、ケイとしては心配でしかないだろう。

 

 今は朝だ。もうオンボスへ向けて出発し、数時間となる。しかし、ここにケイはいない。ケイはミレニアムで留守番だった。

 

 

 ──本当は着いていきたかっただろうにねぇ……

 

 

 テラノはぼやくが仕方がない。カヤツリの居るオンボスに、名もなき神々の匂いがプンプンするケイが足を踏み入れたらどうなるか。流石にカヤツリが気づいて飛んでくるのは間違いなかった。話し合いに来たのに、これでは宣戦布告になってしまう。だから、ケイは留守番だ。

 

 だが、ケイとて、役目が無いわけでは無いらしい。先生が用意した車の後部座席で、助手席に座る先生を眺めれば、先生はケイに頼みごとをしている。

 

 

「あの三人を頼むよ。それと、リオやヒマリにも情報共有をお願い。全部喋って良いから」

 

 

 少し、テラノは驚いた。本当になりふり構わないらしい。ミレニアムの手を借りるとなると、色々と思いつく。それは、その時までのお楽しみだろう。

 

 

「ん。そろそろオンボス」

 

 

 運転席のシロコ・テラーの声が窓の外を指す。見れば、外には巨大な砂嵐。砂色の竜巻が複数点在していて、その中心には広大な都市が見えた。

 

 

「……これが、本当にアビドスだった場所なの……?」

 

 

 先生の呟きは当然の反応だろう。眼で見たテラノでも実際に見ると驚くし、隣のユメは目を輝かせて窓に齧りついている。

 

 

「これをカヤツリ君が作ったんだね……」

 

 

 どことなく、鋼鉄大陸に似ているだろうか。中心に巨大な(オベリスク)がある。その周囲に高層ビルや住宅地などが網目のように広がって、更に線路が四方八方に伸びていた。完全に三大校に負けないほどの大都市だ。

 

 それをユメは憂いを帯びた表情で、ずっと見ている。テラノから見て、今のユメの感情は分からない。単純に、もうテラノの知っているユメでは無いからだ。

 

 水族館から帰ってきたユメは、色々と思い出したらしい。臭いも不発なのも含めて、そこまではテラノの想定通りだった。ただ、ユメは様変わりしていた。テラノのイメージとは全く持って違っていた。

 

 ここに至るまでのオンボスの状況を聞いてから、ずっと何かを考えている。性格は変わらないが、態度がまるきり違った。それはきっと今の状況がそうさせているのと、テラノはこのユメにとっての小鳥遊ホシノでは無いからだ。

 

 つまりは、ユメの素はこうだったのかもしれないという事。後輩であるテラノの前では見せなかっただけで、最初からこうであった。それをまざまざと見せつけられて、テラノは心中穏やかではない。

 

 一体、カヤツリに対して何を言おうとしているのか。それを聞くのは憚られたし、聞いたところで教えてくれなさそうな雰囲気がする。そして、オンボスに近づいている今も、記憶がドンドン蘇っているに違いないのだ。

 

 

「あの塔はなに?」

 

「まだ、完成途中と言ったところですか」

 

 

 遠くにそびえる塔を指差して、ユメが問う。そびえる塔はまだ形が不格好で見ただけで分かる。でも、アレが何のための物なのかは、ケイとテラノくらいしか分からないだろう。

 

 

「あれは、サンクトゥムタワーのようなモノですよ。固定用の釘と言ったところでしょうか。アレが完成して起動すれば、テクスチャは引きはがせなくなるでしょうね」

 

「そうなんだね……」

 

 

 ユメの憂いがさらに増した。相変わらず、何を考えているのか分からない。きっとカヤツリなら分かるのだろうなと思うが、今テラノ側のカヤツリは眠っている状態であるから、聞くに聞けない。それに、この様子のユメをきっとカヤツリは見たことがあるのだ。ユメは、カヤツリにはこの姿を見せていたのかもしれない。いや、きっと見せていた。二人でこそこそしていた時にでも見せていたのだろう。

 

 今更だ。もう今更ではあるが、テラノは少し苦しかった。

 

 

「オンボスに入りましたね」

 

 

 車のスピードが少し緩んだ。いつの間にか砂丘による振動も無くなっている。舗装された道路に入ったらしい。地盤問題はどうやって解決したのか不思議だったが、地下の一定範囲を一枚の鋼鉄の地盤にでも変換したのだろう。物質変換は一技術に過ぎないから、あの三人が居なくても使えると言う訳だ。

 

 

「ん。なんか車が溜まってる」

 

 

 前で渋滞が起きていて、スピードが緩む。窓を開けて顔を突き出せば、オンボスの入り口で何やら揉め事らしい。

 

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

 

 一台のトラックから、何人もの生徒が引きずり出されていた。荷台だけでなく、トラックの底面からも引きずり出されて悲鳴を上げている。

 

 

「あれは……ゲヘナ?」

 

「そうだろうね。アレが最後の手駒なんじゃない?」

 

 

 恐らくは情報部のスパイか何かだ。先生が行く前にでも命令を出していたに違いない。当のスパイ達は、全員その場で集団リンチを受けている。あのまま箱詰めされて、ゲヘナに送り返されるのだろう。勿論、爆撃のおまけつきで。

 

 

「ひぃん! 大丈夫なの!?」

 

 

 あまりにも凄惨な暴行を目の当たりにしたユメが悲鳴を上げる。列は順調に掃け始めていて、もう次がテラノ達の番だから。

 

 このまま行けば、引きずり出されて暴行を受けるとでも思うのは正しい。でも、心配は要らない。

 

 

「ひぃぃぃん! 私たち別に悪い事してるわけじゃ……あれ?」

 

 

 警備員は、テラノ達の車を素通りさせた。呼び止めもせず、まるで見えていないかのような反応に、ユメは小さく蹲るのをやめて、辺りを見渡していた。

 

 

「大丈夫だって言ったじゃないですか」

 

 

 ちゃんと事前に説明したが、ユメはすっかり頭から抜けていたようだ。恥ずかしそうにユメは頭を掻いていたが、直ぐにまた窓の外に釘付けになった。

 

 

「凄いよテラノちゃん! 外見て!」

 

 

 窓の外には、元がアビドスだったとは思えない光景が広がっていた。

 

 まず思うのは、砂のこと。レッドウィンターの雪の様に道の脇に砂が積もっているのがアビドスだが。その砂が、どこにも積もっていない。

 

 そして次に目に付くのは人だ。歩道や横断歩道を大勢の人が歩いている。自治区外縁の繁華街でしか見られない光景が、至って普通の景色として存在している。いつもは静まり返っているアビドスが、打って変わってオンボスでは賑やかだった。

 

 

「……カヤツリ」

 

 

 ポツリと、テラノは呟く。見ていてあまりいい気分ではなかった。この光景を作り出すのに、目の前で数多の労力が掛けられているのが見えるからだ。シロコ・テラーも、先生も、ユメですら、その事に気づいた。

 

 

「あの働いてる人たちって……」

 

「ん。全員同じ顔」

 

 

 歩道を歩く人。その殆どはスーツを着た大人たち。きっとネフティスの社員だろう。全員が同じ方向、駅があるだろう方向へと流れていく。それはいい。テラノたちが注目したのは、それ以外の人間だ。

 

 道の砂を掃いている人間がいる。道路や電線の点検をしている者がいる。何か危険なものがないか見回っている者がいる。店で接客や配達をしている者がいる。その全員が同じ顔だった。

 

 

「……やっぱり、人手が足りないんだね。こうまでしないと維持が出来ないんだ」

 

 

 先生の言うとおり。あれはカヤツリの分身たち。眼で見た時にもしやと思ったが、想像通りだった。幾ら過去を変えたところで、人が居ないことには変わらない。衰退する前のアビドスはマンモス自治区だった。その都市機能を維持しようと思うのなら、それなりの人数が必要になる。

 

 しかし、人数は対策委員会とネフティスの社員、そしてハイランダーのネフティス中学卒業生のみ。どう考えても人数が足りないし、カヤツリの性格上、巻き込んだ人間にそんなことはさせられないだろう。だから、自分でやっている。

 

 このオンボスは歪だ。そもそも、無理なところをテクスチャで補って、それでも無理が出るところをカヤツリが穴埋めしている。疲れず、文句も言わず、人一倍働く。そんな世の経営者が羨む人材を使わないと維持が出来ない。いつ崩壊するか分からない火のついた自転車操業。

 

 シロコ・テラーが走らせる車は随分な距離を走行したが、その同じ顔が途切れることは無かった。

 

 

「カヤツリ君……」

 

 

 ユメがテラノと同じように呟いている。俯いていて、発展した街並みを見た時のように愉快な気分でないのは明らかだった。

 

 

「先生。このままアビドス高校へ行くの?」

 

「いいや。シロコ。まずは駅に行くよ。ハイランダーの生徒に会いに行く」

 

 

 先生の指示通りに、シロコ・テラーはハンドルを切る。その表情は不安が見て取れる。

 

 

「先生。大丈夫なの? あの娘たちが、これを望んだ。それなら……」

 

「大丈夫だよ」

 

 

 先生がシロコ・テラーの不安を一蹴する。テラノも同意見だった。だが、シロコ・テラーはそうでない。

 

 

「私はそうは思えない。このオンボスは、彼女たちが望んだ場所。きっと楽しくて、出ていきたいなんて思わないはず。なのに、先にそっちへ行くの?」

 

「うん。最初に対策委員会に行ったら、ネフティス中学の娘たちには会えないからね。それは避けたいんだ」

 

「でも、私たちと敵対するか、カヤツリ先輩を呼ぶかもしれない。そうしたら、ホシノ先輩のところには行けない」

 

 

 シロコ・テラーの懸念は分かる。普通はそう思う。誰も楽園から出ていきたいと思う人はいない。だが、それは本当にここが、彼女たちにとっての楽園であればの話だ。

 

 

「……大丈夫だよ。きっと、そんなことにはならない。彼女たちは良い娘たちだから。カヤツリ君がそうしてあげたいと願うほどの娘たちなんだよ」

 

「どういうこと?」

 

「良い人たちだからこそなんだと思うな……」

 

 

 シロコ・テラーは首をかしげていると、ユメが口を挟んだ。

 

 

「良い人たちだから?」

 

「そう。良い人たちだからこそ、カヤツリ君はここまでしたの。そうしてもいいと思った人たちが望んだ場所を用意した。でも、その場所は、その人たちにとっての楽園なのかな……上手く口には出せないけど、たぶん違うんじゃないかな」

 

「よくわからない……」

 

 

 シロコ・テラーが不満そうに口を尖らせた。きっと分からないはずだ。そして、ハイランダーの。ネフティス中学の卒業生たちもそうだったのだ。失って初めて、環境が変わって初めて気づくこともある。

 

 

 ──お前らにとっての普通は、俺たちにとっての地獄なんだよ。

 

 

 カヤツリが言ったその言葉を先生から聞いた時、テラノの中に思い浮かんだ話があった。テラノ自身が聞いた話ではない。これは一体化した時にカヤツリと共有した知識。きっと出所は黒服だろう。

 

 地獄とは、悪いことをしたら行く場所だと言う話だが、実際そうではないという話もあるらしい。

 

 黒服が言うには、そこにふさわしい人が行くところだという。当たり散らすのが好きなら、それが当然の世界。言葉で人を傷つけるのが好きなら、それが許される世界。人を殺すのが大好きなら、それが当り前の世界。傍から見れば、異常で苦しみしかない世界でも、そこにいる当人にとっては地獄ではないのだと。

 

 だから、カヤツリのあの言葉は、その経験から出た言葉だったのだろう。確かに、それは的を得ていた。ゲヘナの環境は傍から見れば地獄だ。でも、ゲヘナ生にとってはそれが普通で、地獄でも何でもない。けれども、テラノたちが普通と思う環境は地獄でしかないのだろう。

 

 きっと同じことが、ネフティス中学の卒業生たちにも言えるのかもしれない。彼女たちは楽園を求めた。自分たちが持っていなくて、他の人間が当り前に持っている普通を。そして今回、それはカヤツリによって与えられた。その環境は彼女たちにとって楽園なのか。持っていなかったものを与えられて、経験して。以前の環境と比べて、何を思ったのか。

 

 普通なら喜ぶだろう。彼女らだって喜んだのは間違いない。でも、彼女らは良い娘なのだ。故郷を捨てられず、現実に打ちのめされても、心のどこかでは諦めきれなかった。だから、カヤツリの提案に乗って、ここまで頑張ってきた。かつてのテラノたちと同じように、頑張れる生徒たちだった。

 

 あの愚かな二人の横やりという紆余曲折はあったが、彼女らは求めたものを手に入れた。でも、それまでの日々が全くの無駄だったのだろうか。結果があれば、過程はどうでもいいのだろうか。

 

 テラノはそうは思わない。少なくとも、思いもかけず平穏を手に入れたテラノは時々、この世界のカヤツリに押し付けられた、この幸運に対して思うことがある。

 

 そして、それをあのネフティス中学の卒業生たちが同じように思わないとは想像できない。それは、カヤツリも認めた良い娘たちだからこそ、そう思うに違いなかった。

 

 

 □

 

 

「なんだか、つまらなさそー」

 

 

 スオウは、いきなり放たれた暴言に眉をひそめた。下手人のヒカリは、相変わらず何も考えてい無さそうな雰囲気で、飄々としている。

 

 最悪なことに、普段はストッパーであるノゾミの姿は近くにはない。宅配ピザを受け取りに行っているからだ。受取場所の外から、この指令室までは距離があるから、しばらく帰っては来ないだろう。

 

 そのことに頭を痛めつつ、スオウはとりあえずの反応を返すことにした。

 

 

「なんだ。いきなり」

 

「だから、監督官もみんなも、つまらなさそー」

 

 

 スオウは目を瞬かせる。もしかして、自分は喧嘩を売られているのだろうか。まさか、ヒカリがそんなことをするとは思えなかったが、普段から何を考えているかわからないのがヒカリだ。本当に喧嘩を売っている可能性もありうるのが困ったところだ。

 

 

「何が言いたい?」

 

 

 とりあえずの確認に、再度の質問を投げたスオウを、ヒカリは相変わらず何も考えていなさそうな目で見た。見て、言う。

 

 

「だから。前と比べてつまらなさそー。前はもっと、そー……がぁーっとしてた」

 

 

 ヒカリは両手をかぎ型にして、襲うジェスチャーをする。その言わんとすることを察したスオウは、額に青筋が立ったのが分かった。

 

 

「それは、私が腑抜けているという事か?」

 

 

 多少の自覚はあったが、ヒカリに指摘されるのは腹が立った。それも、スオウだけでなく、同級生もまとめてだ。余りにも失礼すぎるし、自分だけなら兎も角、同級生への暴言は見過ごせない。

 

 でも、ヒカリはスオウをみつめて尚も言う。

 

 

「そういうんじゃなくてー、つまらなさそうっていうかー……燃え尽きた? そー真っ白にーってかんじだ」

 

「……ッ」

 

 

 ようやく適当な言葉を絞り出せたのか。すっきりーと喜ぶヒカリと比べて、スオウは図星を突かれて言葉を吐けなかった。

 

 言い返せない。そんなことないとか、ふざけるんじゃないとか。そんな言葉は幾らでも思い浮かぶのに、ハッキリとそう口には出せなかったのだ。

 

 燃え尽きた。そう、燃え尽きただ。ヒカリの言う事は的を得ていた。

 

 ずっと、あったはずの熱。このオンボス(アビドス)に住んで、ずっとあったはずの熱。いつしか、自分の中に燻っていたはずの熱が無くなってしまった。

 

 ずっと、スオウはこの生活を求めていたはずだ。普通に朝起きて学校に行き友人と語らう。趣味に邁進して、夜更かしをする。そしてまた何でもない明日が来る。ただその日の事だけを考えていればいい。そんなありふれた毎日を求めていた。そして、それは手に入ったはずだった。

 

 けれど、全く嬉しくない。いや、初めは嬉しかったような気がする。このオンボスに赴任になって、同級生たちと仕事をする日々は楽しかった覚えがある。

 

 いつからだろう。熱が消えたのは。いつからだろう。毎日がつまらなくなったのは。いつからだろう。何故ここまで頑張っていたのか思い出せなくなったのは。

 

 あんなに焦がれていた普通は。手にしてみれば何の事は無い物だった。あんなに頑張って手に入れたのに、それはちっぽけなものでしかなかったのだろうか。

 

 違うと、スオウはその考えを振り払った。そんな理由ではない。それだったら、ここまで嫌な気分にはならないはずだったからだ。何か違和感がある。そうだ。諦めて、オンボス以外に転入したかのような居心地の悪さがある。この生活をスオウ自身が手に入れた実感がない。

 

 スオウたちが走り出した理由が、そっくり消えてしまったかのような喪失感。燃え尽きたと言うのはこれかもしれない。今まであった燃料が無くなれば、熱が残る理由もない。燃料が無ければ、火は消える物だから。

 

 

 ──過程を吹っ飛ばして、結果だけを渡された?

 

 

 そんなバカな考えがスオウによぎるが、それはスッと気持ちを落ち着かせる。まるで、それが正解かのような心持ちになる。

 

 普通はつまらなかった。平日は働いて、家に帰ってからの寝るまでは趣味に費やして、土日はゆっくり休んで、次の平日の為の準備をする。ずっと、それの繰り返し。

 

 安定している。変わらない。つまらない。決して酷い目には会わないけれど、全くと言っていいほど満足できるわけでもない。

 

 前は満足できていた。何かに向かって努力する日々は楽しかった。あの時は何もないなんて、だから何かを手に入れるんだなんて思っていたけれど。あれが、あの日々が、スオウの求めた物だったのではないのか。あれがスオウの青春だったのではないのだろうか。

 

 それに物足りない。何かが足りない。まだ、何かのピースが欠けている。ずっと誰かと、喜びを共有したかったのだ。感謝を伝えたかった。ずっと、何も返せないけれど、ありがとうと言いたかったのだ。

 

 

 ──探しに行かなくては

 

 

 スオウは姿勢を正した。ヒカリが驚いた眼をして後ずさるが、気にもならなかった。元よりスオウは考えるのは苦手だ。出来る事は出来る人間に任せるに限る。

 

 

「お待たせー」

 

 

 同級生に連絡を取ろうと、指令室の扉を開ければ、宅配ピザの箱を持ったノゾミと鉢合わせた。真剣な顔のスオウと鉢合わせたせいか、ノゾミは目を白黒させている。

 

 

「どうしたの、監督官」

 

「野暮用だ。少し出てくる」

 

「待って」

 

 

 何だと振り向けば、ノゾミが微妙な顔をしている。ノゾミは自分の前、スオウの身体の方向を指差している。

 

 

「監督官にお客さんだよ? 一体、何やったの?」

 

 

 この忙しい時に来客と聞いて、スオウの眉間に皺が寄る。溜め息を隠しもせずに、指の方向を見れば、イラつきが吹き飛んだ。いいや、イラつきだけでなく、頭の靄も同時に吹き飛んだに違いなかった。

 

 スオウは、先生とその連れの姿を見て、そう確信していた。

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