ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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355話 綻び始めた世界

「それで、先生はどうするの?」

 

 

 テラノは先生に声を掛けた。この後の事を確認するためである。

 

 目的であったスオウは、この状況の説明を受けた後、どこかへ電話を掛けに行ってしまった。相手はきっと同級生たちだろう。きっと、全員と話をして、その結果を持ってくるはずだった。

 

 なら、次はどうするかだ。カヤツリに対して、どうするか。最悪、テラノが力を振るう事態になりかねない。その場合は準備をしておきたかった。

 

 

「元に戻そうと思うんだ。初めの状況。ネフティスとハイランダー、そして対策委員会の話し合いの状況にね」

 

「どうやって?」

 

「まずはこれかな」

 

 

 ぺらりと、先生は鞄からファイルに入った紙を見せた。結構な枚数があるが、表紙でどういったモノなのかは、合点がいった。

 

 

「凄いね先生。これって、謝罪の書面?」

 

「うん。書いてもらったんだよ」

 

 

 直筆で、長い文章が書いてある。それは、今回の事態の真実とそれについての謝罪が書いてあるもので、最後には不知火カヤとサインがしてある。もう一つは同じような文面だが、最後はグチャグチャの筆跡で、羽沼マコトと何とか読めた。

 

 

「魂が抜けてるのと、病人扱いだから、まだ連れ出せなくてね……」

 

「なんて言ったの? 先生」

 

 

 あの二人が、素直にこんなものを書くとは思えない。聞けば先生は、薄く笑った。

 

 

()の話をしたんだよ。この件にケジメをつけなきゃ、どこにも行けないし、行かせないよって。カヤは病人扱いでどこにも行けないし、マコトも万魔殿の皆に嫌われたままだって。そして、私は忘れないよってね」

 

「忘れない?」

 

「うん。私は生徒は許されるべきだとは思ってる。子供は間違いを犯す物だからね。でも、無条件に許されるわけでもない。ちゃんと反省して、悪かったと思って、それなりの償いと誠意があって初めて許されるんだよ。過去の間違いを認めてこそ、次があるんだ。だから、忘れたふりをしても無駄だよって。大義だろうが何だろうが、君たちの中では終わったことかもしれないけど、私やカヤツリ君の中では終わってないよって」

 

 

 先生はちょっと怒っていた。恐らくは羽沼マコトや不知火カヤは、さぞ見苦しい言い訳をしたのだろう。反省の色もなく、次に行こうとしたのが腹に据えかねたらしい。

 

 実際、あの二人が終わったことだとか、大義があったとか言っても。先生にとっては関係が無い。

 

 

「それで、これは……凄い額だね。一、十、億跳んで兆……」

 

 

 もう一つは、賠償金の書類だった。流石に分割ではあるが、ゲヘナと連邦生徒会から一枚ずつ。ちゃんと、現代行と万魔殿のサインがある。万魔殿のサインは複数名で、知らない名前ばかりだ。少なくとも羽沼マコトは権力を停止させられたらしい。

 

 

「謝罪会見もやる様に手配したんだ。内容はアビドスかオンボスか分からないから、それは後日になるけど。あと直接謝罪もさせる」

 

 

 容赦が無かった。二人にとってはこれから、恥をかく日々が待っている。やったことを考えれば当然の措置だろうが。

 

 

「でも、先生。土地はどうするの? ミレニアムでも無理なんじゃ?」

 

 

 ミサイルで滅茶苦茶にされた土地。一番のネックはそこだった。それを修復しなければ、元通りにしたとは言えない。しかし、それは困難を極める。幾ら新進気鋭のミレニアムでも、すぐさま元通りに出来るとは思えなかった。

 

 

「それは、カヤツリ君と交渉するんだ。あの三人の力を使っても、協力して貰っても良いかって。ケイやリオ、ヒマリにも相談したんだよ」

 

「いや……カヤツリは無理だって言ってたんでしょ?」

 

 

 確かに、アイン、ソフ、オウルの力。名もなき神々の力を使えば、すっかり元通りに出来るかもしれない。けれど、それは不可能だと、カヤツリが言っていたと先生自身がそう言ったはずだったが、先生は首を振った。

 

 

「ケイが言うには……あれは純然たる技術なんだそうだよ。特に資格とかはいらないんだって。だから、あの三人も、カヤツリ君も使えてる。それで本家本元の手際は、それこそ、穴だらけになったアビドスを一瞬で元通りに出来るくらいには凄いんだって」

 

「でも……アリスちゃんだっけ。もう使えないんじゃ?」

 

「そうだね。でも、そこはケイが居るから。ケイとあの三人と、ヒマリとリオの補助。それと過去のアビドスの調査データ。それがあれば、何とか復旧は出来るって」

 

 

 あの電話はそれだったらしい。それなら、何とかなりそうだった。あのミサイルが落ちる前、最初の状況へと戻すことが出来る。そうすれば、話し合いのテーブルには着けそうだった。

 

 

「じゃあ、一先ずは安心だね。あれ? ユメ先輩……?」

 

 

 テラノはきょろきょろ辺りを見回す。いつの間にかユメの姿が無かった。あの特徴的な悲鳴も聞こえないし、全く気配がない。砂も溜まっていないから、足跡もなく、どこへ行ったかもわからない。ただ、居場所の見当はついた。

 

 

「まさか、アビドス校舎……!?」

 

 

 この世界に来て初めて、テラノの顔が青くなった。

 

 

 □

 

 

「これで、回数は超えちゃったわね」

 

 

 カヤツリは困惑していた。いきなり呼び出されたと思ったら、まさかの事態に陥っている。

 

 カヤツリの目の前には、セイント・ネフティス会長夫妻が座っていた。二人とも穏やかな雰囲気なのが妙に恐ろしい。朝食の時のような、明るい雰囲気だ。

 

 カヤツリに呼び出される心当たりはなかった。夫人の方が言う、回数とやらにも心当たりはない。

 

 朝食の時と同じ席だが、さっきとは違って座り心地は最悪だ。出された紅茶の味もよくわからない。分からないなら、分からないなりにやるしかない。カヤツリは取り敢えず、話の口火を切ることにした。

 

 

「……何か、話があるとのことでしたが?」

 

「ああ、そんなに緊張しないでいいよ。いつもみたいにしてくれればいいさ」

 

 

 会長はそんな風に言うけれども、そう出来たら苦労はしない。誰が上司兼、仮の義両親予定の二人に呼ばれて穏やかでいられるのか。出来るのなら方法を教えて欲しい位だ。

 

 

「それで、何の話ですか?」

 

「ノノミからよ。あなたの様子がおかしいって」

 

 

 内心でカヤツリは舌打ちを放った。ノノミにではない。分体たるカミガヤにである。

 

 カミガヤは分け身に過ぎず、与えられているのは仕事に必要な能力だけだ。よって、ノノミの相手は本体のカヤツリに丸投げしている。それで、この場でこうなっているという事は、カミガヤが何か下手を打った可能性がある。

 

 

「どうおかしいって言うんですか?」

 

「さあ? ノノミも分からないみたい。ただ、おかしい。変だと。そう言ってるの」

 

 

 とうとう化けの皮が剝がれてきたらしい。起きた事実の記憶と、上から貼り付けたテクスチャの記憶とで齟齬が出始めている。まだ違和感に収まってはいるが、いつか隠しきれなくなるのが目に見えていた。

 

 それは中途半端だからだ。オンボスではないアビドスの記憶を、カヤツリは消さなかった。消せなかった。それをしたらもう、彼女たちは本体の救いたかった人間ではなくなってしまう。彼女たちを彼女たち足らしめるのはアビドスの記憶で、オンボスの記憶ではない。

 

 でも、いつかは隠しきれなくなるだろう。決していい結果にならない事は分かっていた。

 

 ただ、それはまだ先の話。今はとにかくこの場を乗り切らねばならない。

 

 

「分からない物はどうしようもありませんよ」

 

「まぁ、待ちなさいな」

 

 

 カヤツリは話を切り上げる。でも、そうは問屋が卸さなかった。夫人の方が、カヤツリを呼び止める。

 

 

「何ですか? まだ、話でも?」

 

「あなた、何かやったでしょ? 信じられないけど……例えば、記憶を書き換えるとか」

 

 

 狼狽えなかったのを褒めてやりたいくらいだった。カヤツリは鉄面皮を崩さないでいられた。でも、相手が悪かった。

 

 

「ああ、やっぱり。ノノミの勘も凄いわね……さしずめ、ノノミは自分じゃ無理って分かって私に投げたのね」

 

 

 バレている。そこまでいかなくとも、見透かされている。

 

 相手はセイント・ネフティスの会長夫妻。少なくとも、カミガヤや、本体たるカヤツリよりも場数も経験も上だ。そもそも、あの災害がなければカイザーと殴り合えていたネフティスを運営していた人間。こうなるのは自明の理だった。

 

 

「それで、話とは? これの事ですか? 今すぐに止めろと。そういう事ですか?」

 

 

 カヤツリは話し出す。随分と攻撃的だと可笑しくなる。どうせまた記憶を封鎖するのに、何故だか苛立ちが治まらない。

 

 

「止めたらどうなるか。貴方達は分かってない」

 

「そうね。分からない。でも、この生活が終わるのは分かるわ」

 

 

 夫人はしっかりと、自身の言っている意味を分かっていた。

 

 

「ここは全部叶う。でも、全部上手くいくなんてことはありはしないの。どんなに準備したってそう。絶対にそんなことは無いの。そして致命的なのは、あなたの人選。普通の日常が楽しいなんてことを自覚するのは、その普通が無かった人間だけよ。直ぐに違和感に気づく。普通はありふれているからこそ、普通なのよ」

 

 

 少し、カヤツリは驚いた。普通は楽しい思い出だけを覚えていたいものだ。好き好んで忌み嫌う記憶を思い出すものなどいない。でも、この二人はそれを見つめたのだろう。その証拠に、偽りの記憶が剥がれている。もう、アビドスの記憶を取り戻していた。

 

 そうともなれば犯人を特定するのは簡単だろう。前後を比べて、一番得をしていそうな人間を調べればいい。

 

 

「それで、私を止めるか、責めに来たわけですか?」

 

「そんなことはしないよ」

 

 

 会長はとぼけた返事を返してくる。本当にそのつもりがないように見えた。隣の夫人は、居心地悪そうにするカヤツリを面白そうに見つめている。

 

 問い詰めないのが不思議? そう、夫人が問う。ええ、不思議ですねとカヤツリはそれに乗った。

 

 分からないからだ。問い詰めて、撤回させるために呼んだとしか思えない。カイザー理事だったら、今頃戦闘部隊に銃を突きつけられている時分だ。

 

 

「この状況から察するに、あなたはノノミを含めて、あの娘たち全員を幸せにしたかったんでしょう? これから先の障害を、全部取り除いてあげたかった。苦労なんてしてほしくないし、辛い目にも合ってほしくなかった。違う?」

 

「全部が全部ではないですよ」

 

 

 素直にカヤツリは答えた。ここで誤魔化すのも面倒で、話が終わったらまた強めに偽りの記憶を被せればいいからか、苛立ちは減っている。それか、大人と話すのが久しぶりだったからか、単純に何を言うのか気になったのもあるかもしれない。

 

 

「理不尽な目に会ってほしくなかっただけです。避けられる困難はこちらで避けただけですよ」

 

「そう……でも、それは上手くいかないわよ」

 

 

 どこか達観した様子で、夫人はカヤツリを見た。

 

 

「あなたの思いは伝わらないわ。言った言わないじゃなく。伝わらない。きっと理解もしてくれない」

 

「断言しますね」

 

「ええ、するわよ。だって、私がそうだったもの」

 

 

 短いため息とともに、夫人は宙を見つめる。何のことを、誰とのことを思い浮かべているのかはすぐに分かった。

 

 

「お嬢ですか?」

 

「あの時のノノミは、私の言うことを聞いてくれなかった。いや、前からだったわね。とにかく聞いてくれなかったのよ。何を言っても、どんな利点を、どんな輝かしい未来を語っても、決して聞き入れてはくれなかったの」

 

「まぁ、はい……」

 

 

 その場面を想像して、カヤツリは苦笑いした。家族相手にノノミがどういった態度をとるかは知らないが、きっと穏やかでないだろう。目の前の夫人から見てそれが分かる。

 

 

「別にね。私の言うことはすべて正しいなんて思っているわけじゃないわ。あの娘が言うように、あの娘を利用してやろうとか。そんなことは思ったことさえない。ただ、あの娘のためだと思って、私はそうしたの。その結果は、あなたの知る通りよ」

 

 

 夫人が言ったことは正しいだろう。きっと本心だ。そうでなければ、引きこもるノノミの様子を見て、そっとしておいたりはしない。カヤツリと引き合わせたり、アビドス高校に入学したノノミを回収すらしなかった。

 

 

「あなたの介入があって、あの娘との関係はマシになったわ。そして、あなたが居なくなった瞬間に破綻した。そして、この日常を経験して分かったこともあるの」

 

 

 ノノミと似た目が、カヤツリを見る。

 

 

「きっとね。私が何を言っても、本当の意味では伝わらないの。それは、私があの娘の親だからかもしれない。親から小言を言われていい気持ちになる子供はいないもの。血は繋がっていても、所詮は他人なのよ。私はあの娘ではないし、あの娘は私じゃない。家族というのは血でつながった他人でしかないのよ」

 

 

 家族という言葉に似つかわしくない、冷たい結論。夫人の言葉に後悔が滲む。

 

 

「だから、甘えるべきじゃなかった。他人に接するのと同じように、誠意を尽くして言葉にすべきだった。全部言わなくても分かってくれるなんて甘えだったのよ。利点ばかりを語っても、私の思った事なんか一ミリも伝わりはしなかったの」

 

 

 人は思う様にしか思わない。夫人は言葉の通りに、ノノミへ言ったのだろう。あなたのためだからと。そこには心配する気持ちと傷ついて欲しくないという気持ちしかなかったはずだ。でも、ノノミには正しく伝わらなかった。ノノミは、自分の思うとおりに解釈したからだ。

 

 それは、ノノミの甘えでもあったのかもしれない。親に文句を言うのは、中々にハードルが高いと聞く。それが自分の我儘であれば猶更だとも。言わなくて済むなら、言わない方が良い。だから、ノノミは言わなかった。分かってくれると思って、言いやすいまっとうな文句を言った。

 

 互いが互いに甘えて、どうしようもなくなった。それが、十六夜家のこじれ方。

 

 

「私は別にどうでもいいんですよ。伝わろうが、そうでなかろうとね」

 

 

 カヤツリは夫人の話の結論を蹴り飛ばす。今の言葉の通りに分かってもらおうなんて、初めからカヤツリは思っていない。これはカヤツリのエゴで、ズルでしかないからだ。

 

 お涙頂戴の話で、何とか思い止まらせようと言う腹積もりだ。そんなものは聞きはしない。結果はすべてに優先される。

 

 

「ああ、さっきも言ったけど、責めてるわけじゃないんだ。止めるつもりもない。君の気持ちは推し量れるし、出来るなら同じことをやっただろう」

 

 

 今度は会長だった。夫人と同じように言ってくる。会長は指を二本立てて、重ねて言う。

 

 

「二つ、君に伝えたいことがある。一つは、君。迷ってないかい?」

 

「どうでしょうね」

 

 

 意地悪な質問に、意地悪な答え方をした。きっと答えはお互いどうでもいい。ただの共通認識がここにある。

 

 そもそもの原因はノノミの告げ口。つまりは、ノノミが心配しているから、カヤツリを心配しているのだ。

 

 

「単純な話だよ。私たちは君を心配している」

 

「……はぁ、お嬢の為ですか?」

 

「いや? 君だからだよ。これが何なのか分かるかい?」

 

 

 会長は二本の指をピコピコ動かす。唯の二本の指でしかないが、会長にとっては違うらしかった。

 

 

「二年さ。君がここ。セイント・ネフティスにやって来て二年が経つんだ。その間、ずっと君の仕事を見てきた。君がどんな人間なのか、ずっと見てきた。君は、私たちにそれだけのことをした。心配位するさ」

 

 

 唯の事実を、会長は嬉しそうに言う。

 

 

「君は事を起こす時、全員を納得させてから動く。毎回そうだった。今日まではね。今日それが無いってことは、無理筋を通したって事さ」

 

 

 腹立たしい。理屈もよく分かっていないだろうに、状況は的確に当ててきている。何もこの二人にはできない癖して、そういうことを言われるのが嫌でたまらない。

 

 じゃあ、どうすれば良かったと言うのか。言い様もない文句が、カヤツリの中で暴れ狂う。あの状況下で、一体どうすれば。一人一人聞いて回れとでもいうのか? それは綺麗事だ。

 

 

「……好きにすればいいと思うよ? 君はそれだけの力があるし、それをよく分かっている。力を無為に振り回す子供じゃない。君が想像して比較する大人は、さぞ出来た大人なんだろうけど。大人も万能じゃない。どうしようもない事は飲み込めないし、怒る時もある。何事も動じないのが、大人じゃない。自分のやった事、やろうとすることに責任を取れるのが大人さ。ただ、目的は間違えちゃいけない」

 

 

 会長の声に自嘲が混じる。

 

 

「私たちがノノミにしてしまったように、手段と目的は往々にして入れ替わる。私はノノミに幸せになってほしかったのに。いつの間にか、そうではなくなっていたから。君も、そうなってるんじゃないかと思ってね」

 

 

 一度そこで会話は途切れた。一つ目の話は終わりのようだった。カヤツリの気分は良くはない。それもあって、話を早く進めたかった。先を促せば、会長は小さく笑う。

 

 

「ああ。そうだったね。単純さ。ただ、ありがとうって言いたくてね」

 

「何がですか」

 

「この生活さ。こんなことが出来るなんて、夢にも思ってなかった。昔みたいに、ノノミとまた話せるなんてね。感謝してるんだよ」

 

 

 その笑顔と言葉に嘘はないように思えた。夫人も同様の笑顔で、本気でそう思っているらしかった。信じられなかった。絶対に文句を言われると思っていたのに、そうでは無かった。

 

 

「君が何の気なしにやったことは、私たちにとってはそれだけの価値があった。君と私たちでは、その事象についての価値は違う。君のやろうとしている事が、君にとってどれだけの価値があるのか、私たちには分からないのと同じように。物事の価値は、往々にして違う。人によって全く」

 

 

 だからと、会長は言う。

 

 

「好きなようにやればいいのさ。責任能力の範囲で好き勝手出来るのは大人の特権だし、物事の価値について、人は勝手なことを言うんだ。今私がやったように、これから君が色々言われるようにね。だから、何が本当にやりたかった事なのか。それだけは言えるようにしておきなさい。でないと私たちの様になる」

 

「話は終わりですか?」

 

 

 カヤツリは席を離れた。気分はもう滅茶苦茶で、何を言って良いのか分からない。安堵感と苛立ちがぐちゃぐちゃに混ざり合っている。まさか、純粋な善意をぶつけられるとは思わなかった。こういう、突拍子もない事をするのは十六夜家の特色なのだろうか。ペースを崩されて通常の対応ができるか怪しい。

 

 更に、対策委員会の相手をさせている分体からもヘルプが来ていて、それどころではない。オンボスが崩れかかっている。

 

 

「ああ、それと、もう一つ」

 

 

 背中に会長の声が投げつけられて、カヤツリは足を止めた。

 

 

「また、話せる機会があると嬉しい。こんな話じゃなくね」

 

 

 嫌な含みと威圧感が乗る言葉には答えずに、カヤツリはカミガヤへ後始末を押し付けて。アビドス校舎へと跳んだ。

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