ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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359話 全てに優先されるもの

 カヤツリの言葉に、対策委員会はどよめいていた。その提案は、あまりにもカヤツリらしく無かった。

 

 自分を倒せたら、言うことを聞く。これまで大人としての責任を全面に押し出していたカヤツリから出たとは思えない。それは子供同士で出てくる理論であるからだ。

 

 

「本気で言ってるの?」

 

「本気も本気だが? 随分と余裕じゃないか」

 

 

 ホシノが猜疑心で一杯の表情で問いかけるが、カヤツリは気にした様子も無い。ノノミも心配そうにカヤツリを観察している。

 

 

「あなたは一人だけなんですよ? まさか、シェマタでも使うんですか?」

 

「あれは遠くにある。ここに撃ったら自爆するようなものだよ。勿論、警備も使わない。俺とそっちで戦う」

 

 

 観察の結果のノノミの言葉にも、カヤツリは態度を崩さなかった。提案に乗る乗らない以前に、カヤツリにはこの勝負に勝機があるようだった。

 

 そしてカヤツリとは正反対に、対策委員会は乗り気ではない。全員が困惑した表情で、互いに顔を見合わせている。

 

 

「そっちが不利すぎる」

 

 

 その理由は、シロコの一言に全て集約されていた。この提案はカヤツリが不利に過ぎる。

 

 まずは数の問題がある。カヤツリ一人に対して、対策委員会は五人。そして、シロコ・テラーとここに居ないテラノ。サポート役のアヤネを除くにしても、おおよそ六倍の戦力差になる。

 

 そして、各々の戦闘力の問題。シロコ・テラーとテラノは言わずもがな、キヴォトス内の数々の学園を見てきた先生は、あらゆる生徒を見てきた。その上で言えることがある。

 

 

 ──対策委員会は強い。

 

 

 強さには色々種類がある。それは、純粋な戦闘力にも言えた。個々の力が弱くとも連携と数でそれを補う者。純粋に個人の力が抜きんでている者。それぞれが各技術のエキスパートで、少人数ながら協力し合う者。

 

 その中で、対策委員会の立ち位置は特殊だ。全員が全員、他の学園で言う幹部級の力量なのである。高々五人しかいないが、何倍もの兵力差に抗うことが出来る。それは、風紀委員やカイザーPMC、ユスティナ聖徒会との戦いが証明していた。

 

 それに、先生の指揮が付くのである。カヤツリもマトが言うには強いらしいが、この布陣に太刀打ちできるとは思わなかった。

 

 でも、カヤツリはやる気だった。きっと勝算がある。持てる全てを使って抗うつもりなのが伝わってくる。

 

 

「ねぇ、カヤツリ。何を企んでるの?」

 

 

 ホシノが何かを確信したらしく、カヤツリを問い詰めていた。

 

 

「すごい私たちに有利な条件だよ。そうやって、私たちにこの提案を呑ませたいようにしか見えないよ」

 

「それで?」

 

「それでって……」

 

 

 言い淀むホシノに、カヤツリが冷たい目を向ける。

 

 

「やるのか、やらないのか。俺が聞きたいのはそれだけだよ」

 

「先生に脅されたから? だから、そうやって……話せば分かるよ。私は……」

 

「これは、納得の問題なんだよ。ホシノ」

 

 

 カヤツリの思惑は、やはり先生の考えと合っているようだった。けれど、ホシノは分からないのか首を左右に振っている。

 

 

「納得って何!? 私とカヤツリが戦って、それで何が分かるの!?」

 

「分かるさ。少なくとも、この先どうなるかは分かる」

 

「何言ってるのか全然わかんないよ!」

 

 

 ホシノの叫びに、カヤツリは呆れたようだった。長い溜息一つ吐いた後、ポツリと呟く。

 

 

「そっちが、どれだけ酷い事を言っている自覚はあるか?」

 

「そんなの……」

 

「ないんだろうよ。そうでなきゃ、こんなことにはなっていない」

 

 

 なぁホシノと、カヤツリが言う。

 

 

「最初から言っていることだよ。ホシノ達は、ホシノたちの基準で間違っているから、何もせずに諦めろと言ってる。無駄だからって」

 

「そんなつもりじゃ……」

 

「ああ、そんなつもりは無いんだろう。此処じゃ皆そうだから気に病まなくてもいい」

 

 

 先生の耳が痛い。それは、先生にも当てはまることだったから。

 

 カイザーPMC 、ベアトリーチェ、調月リオ、デカグラマトン。彼ら彼女らの行動を間違っていると、そう先生は言った。

 

 けれど、その中にも種類はあった。

 

 真っ向から間違っていると断言できるもの。

 

 向こうなりの正義があって、仕方なくその手段を取ったもの。

 

 その相手の願いを、先生は踏み潰して来た。相手の願いを跳ね除けて、自分なりの正義を押し付けて来た。

 

 それまで平気だったのは、向こうが納得していたからだ。そんな相手は納得してそうしていたから、先生は心置きなく敵対できた。

 

 

「俺は納得が欲しいんだよホシノ」

 

「納得なら、話せば分かるでしょ!? 何で」

 

「じゃあカイザー理事に、借金が返せないからアビドスは終わりだと。そう言われた時に納得できたのか? もし理事と話して、納得出来たか?」

 

 

 ホシノだけでなく、対策委員会、シロコ・テラーすら黙った。出来なかったからこそ、対策委員会はまだここにあるから。

 

 

「出来なかったから、やれる事をやったんだろうが。アビドスを諦めなかった。それと同じだよ。俺も諦めたくは無い。諦めるに足る理由が無い。ホシノの願いだけでは釣り合わない」

 

「それが戦いだって言うの!?」

 

「そうだよ? だってそうだろう?」

 

 

 カヤツリは当然のように頷いていた。

 

 

「お互いに譲れないラインがある。なら、最後は力づくだろう。そっちが今まで散々にやって来た事だ。そうして初めて、そう出来て初めて、俺は納得出来る」

 

 

 カヤツリの言いたいことは簡潔だった。カヤツリは納得したいのだ。本当にそれだけなのだろう。春先の対策委員会と同じ。もしかしたら、全員がそうなのだろう。

 

 全員が納得したいのだ。今までの敵たちも、先生も、全員が目の前のことに納得したかった。その為に行動した。

 

 カイザー理事やベアトリーチェはそうだ。リオはそうではなかったから、生徒に頼る形になり、選択肢のなかったデカグラマトンは終わってから後悔に襲われた。

 

 結局の所、一言で表せる。

 

 

 ──納得は全てに優先される。

 

 

「カイザー理事に啖呵を切ったお前らと同じだ。ここまでの軌跡が俺の青春で、最後までやり切ってこそ意味がある。失敗だろうが、成功だろうが、納得出来る。ここまでやって出来なかったらなら仕方ないって」

 

 

 そして、カヤツリは初めてそうしようとしている。今までの様に、立つための理由を必要としていない。

 

 だから、カヤツリはここに居る。結果がどうであれ、その全てに納得する為に。

 

 それは、子供の理屈だった。カヤツリが振りかざしてこなかった子供の理屈。

 

 カヤツリはそれを唾棄すべきものとしていたけれど、先生はそうは思わなかった。

 

 大人は、ずっと大人では居られないのだ。

 

 大人とは、社会を回す上で好ましい、それらしい行動規範を示すもの。所謂、他人の為の行い。

 

 だからどうしても、大人を続けていくと自分がおざなりになる。それは生物として間違っていて、ずっとは続けられない。だから適度なタイミングで、大人を止める必要がある。

 

 それは、全員がそうだ。先生や理事、黒服だってそうだろう。見えないところで、自分しかいないところで、肩の力を抜いている。けれど、カヤツリはそうではなかった。ずっと、大人をやっていた。やらざるを得なかった。

 

 先生から見たカヤツリは限界だった。けれど、あの時点では助けられはしない。

 

 カヤツリは助けを求めていなかった。助けが必要な状態であるにもかかわらず、そう出来なかった。

 

 カヤツリは、それが大人なのだと、そう思っていたから、助けを求める事は敗北を認める事に等しい。同時に、先生から何か言うのも出来なかった。敵愾心が凄まじいのもあったし、安易に助けを申し出るのはカヤツリへの侮辱行為だと思ったから。

 

 あのミサイルの時の対応もそうだ。大人の対応としては過激に過ぎる。黒服やカイザー理事なら、証拠固めをしてから滅ぼすだろう。先生が事件を目撃した、圧倒的に悪いのは向こう、それらのアドバンテージをしっかりと使い切ったはずだ。

 

 自分で言うのもなんだが、このアドバンテージは大きい。それこそ、言えば何でも通っただろう。二人であれば、妥協案でお茶を濁し、時間を稼いでから、徹底的に叩き潰す。しかも叩き潰す前に被害額以上の物を回収して。

 

 けれど、カヤツリはそうしなかった。そう出来るし、そうした方が大人らしい対応のはずなのに、全てを滅ぼすことを優先した。途中で思い直していたが、他人の心象を考えるならない方が良い。

 

 あのミサイルへの報復は性急だった。搾り取れるだけ搾り取る前に、全て滅ぼそうとしていた。あれは、とうとう抑えきれなくなった感情が噴き出した結果だった。

 

 やりたい結果を先に出し、後から大人の理屈を付け足した。何を言っても、聞けるはずもない。

 

 待つべきでは無かったのだ。先生の思った以上にカヤツリは限界で、落ち着いた態度は擬態でしかない。助けての一言を待つのでは遅すぎた。

 

 そうやって足踏みしている間に、先生はカヤツリを追い詰めてしまった。今やった時の様に、ちゃんと対応すべきだったのに。

 

 けれど、今のカヤツリは違う。自身の求める物をしっかりと分かっている。その為に相手を必要としている。

 

 なら、先生はそれを受けて立つ義務がある。今まで敵対して来たものと同じ様に。ちゃんと、カヤツリの意見を聞いて、それを受け止める義務が。

 

 

「……戦うしかないって事だね?」

 

「最初からそう言ってますが?」

 

 

 試しの最初の脅しも、最終確認もパスされて、向こうの準備は万端だった。その代わり、カヤツリの表情はつまらなさそうになる。

 

 答えは単純で、さっきからずっと対策委員会のやる気がない。戸惑っている。その原因はどう見てもホシノとノノミの二人だった。

 

 この二人は、カヤツリがどういった人間だったのか知っている。だから、事を構えたくない。事を構えて関係を壊したくないのが透けて見える。

 

 ノノミはまだマシとして、酷いのはホシノだった。イヤイヤをするように、ずっと首を振っている。

 

 

「選べないのか?」

 

 

 ピタリとホシノの動きが止まった。どこか顔色も悪いように思う。きっと、図星だったに違いない。

 

 ホシノは選べない。いや、選びたくないのだ。それは、過去の再現だから。

 

 戦闘を選べば、ホシノは勝つ自信があるのだろう。無理やり、カヤツリに言う事を聞かせることが出来る自信がある。でも、それを選べない。過去、そうしたからこその今だから。

 

 カヤツリからの提案でも、ホシノは頷けない。カヤツリの望みを無理やり邪魔することが、もうできない。そうしてしまったが最後、関係性が完全に破綻する。そう、思っている。思っていなくとも、最悪の可能性がちらつく。

 

 だから、言葉での説得に拘るに違いなかった。悲しい事に、まだその段階の話では無い。その話をするのは、これが終わってからでないと意味がない。この戦いを終わらせなければ、カヤツリは前に進めない。

 

 

「じゃあ、俺が選ぼうか。ルール説明をする」

 

「えっ、待ってよ!」

 

「時間切れだ。もう、チャンスはない。決められないなら、俺が条件を決めよう」

 

 

 ホシノが呆けた顔をした後、焦ったように叫ぶ。でも、カヤツリはにべもない。遠くの方を指差している。

 

 

「あそこに塔が見えるだろう? アレが完成すると、オンボスはこのキヴォトスに固定される。あと一日か二日で完成するだろう」

 

「それが、タイムリミットなんだね?」

 

「ええ、そうです。それまでに俺を倒せれば、()()()()()()()()()()()()()()()。オンボスを解除するのも、仲直りしろでも、アビドスに入学しろでもね」

 

 

 対策委員会にエンジンが入った。良い具合にカヤツリが餌を垂らしたからだろう。

 

 

()()()()()()()()()?」

 

「ええ、()()()()()? ちゃんと()()()()()()()()()

 

 

 先生の確認にも、カヤツリはハッキリと答えた。きっと、言葉通りの意味だ。聞いて、考えるだけ。その結果どうするか、誰の願いを聞くのか、何時叶えるのかは、戦いの結果いかんなのだろう。これまでの、話を聞いたようでいて、全く耳を貸さないよりはよっぽどいい。

 

 

「期限内であれば、何度挑戦しても構わない。お前ら以外を頼ってもいい。向こうが承諾すればだが……チッ」

 

 

 対策委員会を見渡したカヤツリは、ホシノの様子を見て、露骨に舌打ちした。

 

 

「まだ決められないのか……」

 

 

 ホシノはまだ迷っていた。そんなホシノに、ある一言が叩きつけられる。

 

 

「ユメ先輩なら出来たぞ。きっと即決だ。俺もユメ先輩だったら、ちゃんと言うことを聞いたよ」

 

「ッ!」

 

 

 カヤツリは思い切り。きっとワザとホシノの地雷を踏みぬいた。ホシノの心情を思えば、梔子ユメとの比較など、絶対にされたくないだろう。しかも、好意を抱いているだろうカヤツリに比較され、あまつさえ、ユメの方が良いなんて。

 

 しかも、言い方が絶妙だった。ホシノは、カヤツリの為にと悩んでいる。そう思っているのに、それを理解しないような言い方だ。非常に腹が立つだろう。

 

 カヤツリの狙い通りに、ホシノの両目が吊り上がった。

 

 

「ユメ先輩は関係ないでしょ!?」

 

「へぇ、そんな格好しておいてか? 俺への当てつけかと思ってた。お嬢を引き入れたのも似てるからだと思ったよ。お嬢も、それに付き合ってるのかと」

 

「そんなわけないです!」

 

 

 無遠慮に踏み荒らされて、ホシノとノノミは完全に怒髪天だった。結果はどうあれ、対策委員会はやる気ならぬ、闘る気は十分だ。先生の傍に展開して、今か今かと指示を待っている。

 

 

「じゃあ、始めましょうか。これが、地面に着いたら始まりです」

 

 

 カヤツリが懐の財布から、硬貨を一枚出して弾く。そして、口を開く。

 

 

それでは、いい旅を(Bon voyage)。先生」

 

 

 その言葉が終わって、コインが落ちる音が響いた瞬間、先生は見知らぬ場所へと投げ出されていた。

 

 

「えっ!? ここどこ!?」

 

 

 青い。一面の青が、先生の眼前に広がっていた。その景色に感動する暇もなく、風とゴウゴウという耳鳴り、最後に内臓が冷たくなるような感覚が先生を襲った。

 

 グルグル回る視界の中で、先生は自分が何処に居るかをようやく把握した。把握して、絶叫する。

 

 

「まさか! 空の上!?」

 

 

 □

 

 

「先生!?」

 

 

 突如消えた先生に、誰かが悲鳴を上げた。

 

 何のことはない。カヤツリが発生させたピンポイントの竜巻に巻き上げられて、先生は上空へと消えていっただけだ。

 

 Bon voyageの言葉の通り、あの大気圏突入すら耐えきった防壁が先生を守るだろう。ただ、全力で防壁を展開しないといけない高さを黒服から聞き出して、そこまで上げているから指揮は出来ない。カヤツリから先生への旅行のプレゼントである。旅行中は旅行に集中するべきで、仕事とはおさらばだ。

 

 

 ──これで大技(EXスキル)は使えないし、使えたとして大した威力ではない。それに指示も届かない(コスト回復力低下)

 

 

 色々と邪魔してくれた鬱憤が少し晴れて、未だに事態を飲み込めていなさそうなツインテールに狙いを定めた。

 

 

「おお、間に合ったな」

 

 

 振るった拳が防がれて、カヤツリは相手を称賛した。ツインテール、セリカが防いだわけでは無い。ホシノが盾を展開して、間に入ったのだ。

 

 ナイスセーブであるが、それは悪手だ。ホシノの数少ない弱点を、カヤツリは知っている。止まった拳に力を入れて、もう一度盾ごと振りぬいた。

 

 

「うあっ!?」

 

 

 短い悲鳴と共に、ホシノはセリカを巻き込んで、奥へと吹き飛ばされていく(隊列破壊)

 

 これが、ホシノの数少ない弱点。小さい体躯。体重が軽い事。重量物による質量攻撃にめっぽう弱いのだ。ホシノもそれは十二分に分かっていて、だからこそ回避や受け流しの技術を身に着けている。

 

 けれど、他人をカバーするのはそうもいかない。カバーに入る隙を晒して攻撃すれば、ご覧の通りである。

 

 

「よくもセリカを!」

 

 

 シロコが、銃を構えて突進してきた。怒りで攻撃的になっているようだった。後ろで叫んでいるノノミの声も入っていないだろう。指示を飛ばす先生は空の上。だから、こうなる。

 

 

「え!?」

 

 

 発砲しながら足技を繰り出したシロコの足を、カウンター気味に片手で掴んで、流れるままに地面に叩きつけた。歯を食いしばって耐えたので、もう一度。肺から息を吐ききるまで、縄跳びの縄の如くに叩きつける。

 

 

「何で効かないんですか!?」

 

 

 眼鏡。アヤネが悲鳴を上げる。シロコの私物だろう。それを白いドローンからのミサイルで、カヤツリを攻撃している。ノノミも同様にミニガンの火力をカヤツリへと投射する。

 

 だが無駄だ。風で防壁を貼っている(ダメージカット)。弾丸は威力が削がれ、ミサイルは軌道がそれてあらぬ方向へ、ドローンは飛べずに墜落する。

 

 

「返すぞ」

 

「何を……キャッ!?」

 

 

 気を失ったシロコを、アヤネとノノミが巻き込まれるようにと投げつける。脱力した身体が直撃し、お互いに絡まり合いながら、ホシノと同じように奥へと転がっていく。

 

 

「む……」

 

 

 転がっていったホシノが戻って来る頃合いかと、追撃をしようとしたカヤツリに弾丸が突き刺さった。風の防壁を貫通したところからいって、シロコ・テラーの攻撃だ。

 

 普通の銃弾にしては、青い燐光が目立つ。何かしらで強化した弾丸らしい。ドローンのミサイルや、グレネードは使わずに、転移門で高速移動しながら弾をバラまいていると来ていた。

 

 恐らく、向こうの世界のホシノから、ある程度の情報は聞いているのだろう。普通の弾丸が効かない事や、暴風を使うなど、黒い鳥相手の時の戦法は筒抜けだ。だからこそ、姿を見せず、距離を取ってチマチマと削りに入っている。

 

 焦れたこちらが隙を見せれば、戻ってきたホシノとノノミの波状攻撃で面倒なことになるだろう。先生を排除できる時間も、そう長くない。一々また砂嵐で吹き飛ばしてもいい(強化解除・防御力低下)が、同じ手を使うのも足元を掬われそうだった。

 

 こういった時に取る手段は一つだ。少し、制御が難しいが……

 

 少し力を込めれば、風が強くなり、ゴロゴロと雷鳴が響きだす。ランダムに落雷するだけという単純な攻撃だ。シロコ・テラー相手には大して効かないだろう。精々が痺れる(スタン)程度か。完全に足が止まるにも時間が掛かる。

 

 

「何それ……」

 

 

 何処に居るのかは分からないが、シロコ・テラーの呟きが聞こえる。何それも何も、圧縮した雷槍である。コソコソ隠れる相手に有効なのは、範囲攻撃と相場が決まっている。

 

 転がっている対策委員会や、隠れているシロコ・テラーもいい具合に焼いてくれるだろう。

 

 あまりの呆気なさに肩透かしだ。速攻で終わる様に、仕込みはしたけれど。もう少し粘ると思っていた。ホシノの本気はこんなものではないし、アビドスの思い入れもこんなものではない筈なのに。

 

 ただ、結果は結果。選ぶ機会は一度だけだし、今からの音より速い雷撃を避けられるものはいない。これで、ゲームセットだ。攻撃は速攻に限る。

 

 焦ったように攻撃が苛烈さを増すが、もう遅い。雷槍を振り回すだけで、弾は蒸発する。一本一本が必殺級の物を束ねたのだから、納得の威力だ。

 

 

「なんだ?」

 

 

 槍を投げつけようとしたところで、殺気を感じた。半ば反射で投げつけると、赤黒い炎の滝が上空から降り注ぐところだった。

 

 雷撃のお陰で、上手い具合に相殺出来てはいるが。光と炎の乱舞で、全く視界が効かない。そして、視界が晴れた頃には、対策委員会とシロコ・テラーの姿は影も形もない。

 

 

「逃げられた……」

 

 

 あの炎で燃え尽きたわけでは無い。この炎の使い手は、そんな事はしない。それに先生も空から降ってこない。つまりは回収されたと言う事だ。

 

 こんな事が出来る人物は一人だけで。その人間に対して、カヤツリは盛大に舌打ちする。その舌打ちも、心なしかキレが無かった。

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