ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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365話 AL‐1S in underground

 連邦生徒会長のヘリコプターによる移動は思ったよりも早く、始業一時間前にはD.U.地区へと到着することが出来た。

 

 カヤツリの予測よりも随分早い。流石SRT御用達の輸送用ヘリという事だろう。速度の割には振動は殆ど無く、同乗していたSRT生徒たちの冷たい視線を除けば、快適な空の旅だった。

 

 

「では、私について来てください」

 

 

 連邦生徒会のヘリポートに到着するなり、連邦生徒会長は歩き出す。足取りは速足で迷いがない。四人のSRT生を置きざりに、サンクトゥムタワーが輝く連邦生徒会本部へと入っていく。そこまでは良かった。

 

 

「……どこへ行くんだ?」

 

「言いましたよね。今日からの貴方の仕事場ですよ」

 

 

 当たり前のように返されるが、カヤツリの心中は不安しかない。エレベーターに乗ったと思えば、真っ先に地上階のボタンを押している。それが今の状況だ。カヤツリの想定とはだいぶ異なっている。

 

 

「ここが仕事場じゃないのか?」

 

「はい? この建物内にありますよ?」

 

「何言ってるんだ……?」

 

 

 今の現状は、地上階へ降りようとしている。確か、一階にはロビーしかなかったはずで、外へ出るためにしか経由しないはず。

 

 普通は始業前の朝会でカヤツリを紹介、その後は職場の説明と案内をして一日が終わる。少なくともカイザーではそうで、カヤツリはここもそうだと思っていた。けれど全くその素振りが無い。紹介どころか、案内も無いままに外へ出ようとしている。

 

 こんなにもカヤツリの想定とかけ離れていては、こんな言葉の一つも言いたくなる。

 

 

「まずは……」

 

 

 そう言って、気にした様子もなく連邦生徒会長は鍵を取り出している。どう見ても、いたって普通の鍵でしかない。困惑するカヤツリに連邦生徒会長は言う。

 

 

「最初は、こうします」

 

 

 幾つかのボタンを、連邦生徒会長は押しっぱなしにする。すると、エレベーター内の階表示モニターに自動とランプが付いた。

 

 

「これで、一階に到着するまではどの階にも止まりません。そして次です」

 

 

 そのまま、エレベーター内部の階表示ボタンの下。メンテナンス用のふたを開け、そこにある鍵穴に鍵を突き刺して捻った。

 

 

「隠し階層……?」

 

 

 お高いホテルでよくある仕様だ。スイートルームなど、エレベーターに乗るだけでは行けない階というものが存在する。そこに行くためには専用の鍵が必要なのである。今、連邦生徒会長がやっているように鍵を差し込んで、目当ての階層に合わせて捻る必要がある。

 

 

「最後はこれですが、一回しか見せませんから、よく見て覚えておいてくださいね」

 

 

 エレベーターの階層ボタンを、連邦生徒会長はゆっくり押していく。よりにもよってパスワードらしい。そして、最後のボタンを押した後、エレベーターに異変が起きた。

 

 

「うわっ!?」

 

 

 段々と、エレベーターの落下速度が増していく。とうに地上階は通り過ぎ、地下へと突入する。腹の底が涼しくなる浮遊感と目まぐるしく変わる階層表示、痛くなる耳の奥が、その速度と深さを物語っていた。唾を何度も飲み込むカヤツリとは真逆に、連邦生徒会長は悠々と佇んで、此方を揶揄う様に見ていた。

 

 数十秒か、数分か。嫌な浮遊感はゆっくりと終わりを告げ、短いチャイム音と共に扉が開いて、冷たい空気が頬を撫でた。

 

 

「ここが……?」

 

「はい。貴方の仕事場。その予定地になります」

 

 

 目の前に広がるのは次々と点灯していく蛍光灯に照らされた、まっすぐ伸びる廊下。その左右に、規則正しく並ぶ無機質な扉。連邦生徒会長は仕事場などというが、収容所と言った方がしっくりくる。

 

 それを目の当たりにして、カヤツリは判断を誤ったかもしれないと、今更ながらに後悔し始めていた。

 

 

「業務内容の話になりますが、貴方たちにはこの場所に、私の言った危険物を収容してもらいます」

 

 

 連邦生徒会長の口から、聞き捨てならない言葉が聞こえた。聞き間違いであってほしいと思いながらも、カヤツリは聞き返す。

 

 

「たち?」

 

「はい。貴方のバディの話です。いえ、貴方はそう思わないかもしれませんが……」

 

 

 カヤツリは、膨れ上がる嫌な予感を押し殺しつつ、連邦生徒会長を見た。

 

 

「もう何人かいるなんて、聞いてないんですが?」

 

「ええ、言ってませんもの」

 

 

 良くもまぁ、いけしゃあしゃあと、こんなことを言えるものだ。カヤツリは悪い意味で感心した。視線を切り替えて思い切り睨みつければ、連邦生徒会長は目をそらす。

 

 

「でも、貴方が唯一の構成員であることには変わらないんですよ」

 

「その助手が構成員じゃないと。普通じゃないんですか?」

 

 

 そうカヤツリが言うと。連邦生徒会長は目を丸くする。

 

 

「……よくわかりましたね。()()ではないというのもおかしな話ですが、彼女はそうです」

 

 

 カヤツリは肩がどっと重くなるのを感じた。ここまで材料が揃えば、どうして連邦生徒会長は最初から全てを言わなかったのかが分かる。

 

 

「その彼女とやらは、貴女の言う危険物なんでしょう?」

 

「その通りです。彼女の知っているテクノロジーが使用されたものを収容して欲しいんですよ。彼女から話を聞いて、機嫌を取りながらね。貴方はお手のものでしょう?」

 

 

 道理で、あの場では言わなかったわけだ。自らの私兵であるSRTにすら聞かせたくない。だって、逆に捕まりかねない。

 

 そもそもの業務内容は地下に監禁した、物扱いしている少女から話を聞いて、探し物をしてこいだ。カヤツリだって、ここまで連れて来られなければ、本気になどしなかった。

 

 

「……俺は新人のヴァルキューレですらないんですがね」

 

「ふふ。貴方を田舎者だと馬鹿にしたりはしませんよ。するとしても、靴なんか見ずに言うでしょう。さぁ、着きましたよ」

 

 

 連邦生徒会長が足を止めたのは、厳重に固められた入口だった。銀行の金庫のような円形の扉とクランクハンドル。所謂、気密扉が威圧感を醸し出している。

 

 その前のトレイを指差して、連邦生徒会長が言う。

 

 

「大丈夫だとは思いますが、携帯電話はここに置いておいてください。あるなら他の電子機器もです」

 

「そこまで警戒しなくてもいいですよ? その程度の情報量なら、無いのと同じですから」

 

 

 柔らかい声。そう形容できる声が、扉の奥からした。

 

 妙だった。見るからに扉は分厚いのに、まるで普通に話す声量で聞こえる。

 

 あの扉の防音性は高いだろうし、よしんばそれを抜けるとしても、こちらからは小さな声にしか聞こえず、ああも柔らかい声にはならない。

 

 それを如何にかしている扉の向こうの存在に、カヤツリの警戒レベルが跳ね上がる。

 

 

「ええ……」

 

 

 トレイを指差したままの連邦生徒会長の方は苦笑いをして、エレベーターでも使った鍵を鍵穴に刺す。そうすればモーター音と共に、支障なく扉が開いて、白い照明の光が漏れ出してくる。

 

 扉の内は外側の威圧感のある様相とは真逆だ。綺麗な家具が置かれ、清潔感がある一室。そこで、一人の小柄な人影が椅子に座っていた。

 

 

「ようこそ。その人は、新しいここの住人ですか?」

 

 

 人影は黒髪の少女だった。髪は切っていないのか長すぎて、床にまで広がっている。少女は、真っ赤な目でカヤツリを一瞥した。

 

 

「いえ、今日から配属する人員ですよ。収容されている貴女とは違います」

 

 

 連邦生徒会長が、カヤツリを庇う様に一歩出る。それを少女は薄く微笑んで見るだけだ。

 

 

「随分と警戒していますね。前にも言いましたが、私は何もする気はありません。サンクトゥムタワーの地下深くに押し込められては、私もこの程度しかできませんから」

 

 

 少女が扉を一瞥すると、それまでこの部屋を守っていただろう扉が消えた。バラバラになったとか、崩れて消えたとかではなく、溶けるように消えて。代わりに美味しそうなお菓子とお茶がテーブルに出現する。

 

 連邦生徒会長の言った、普通ではないと言う言葉の意味はこれだろう。消えた扉の跡を確認していると、少女の声がカヤツリに向けられた。

 

 

「驚かないんですか?」

 

「いや、驚いたが」

 

 

 へぇと、少女はカヤツリをじろじろと嘗め回すように見る。

 

 

「本当に少ししか驚いてませんね。理由を聞いてもいいですか?」

 

「普通じゃないと聞いていたから。そういうこともあるんだろうと思っただけだ」

 

 

 扉の消失は驚くべきことだ。だが、カヤツリは事前に普通ではないと聞いているし、オーナーという普通ではない手段を駆使する存在も知っている。

 

 今のが魔法であれ、進みすぎた科学であれ、きっと何かしらの絡繰りが存在する。絡繰りがあるという事は、それは技術で、操る者がいると言う事。

 

 それをカヤツリは知っている。だから、そういうこともあると知ってさえいれば、必要以上に驚く必要はない。

 

 それだけであるのだが、少女は何故か機嫌がよさそうだ。薄かった微笑みが、微かに濃くなってきている。

 

 

「良いですね。貴方なら、話くらいはしてもいいかもしれません。今回は、いい人選ですね?」

 

「では顔合わせも済みましたし、地上に戻りましょうか」

 

 

 嫌みだろうその言葉を、連邦生徒会長は受け流しつつ、退却を選んでいた。

 

 

「鍵は良いんですか? それと聖十文字、あの者達の遺産も」

 

 

 不意に放たれた少女の言葉に、連邦生徒会長の足が止まった。横顔は変わらないが、考え込んでいるのは明らかだった。少なくとも、連邦生徒会長はこの少女に手を焼いている。恐らくはずっと前から。

 

 

 ──鍵、聖十文字、遺産。

 

 

 今上げた三つの名前。アレが収容物の名前で、この少女はその在りかを知っている。

 

 力づくで聞き出そうにも、あの妙な能力でそうもいかないのだろう。かと言って、放置もできないという訳だ。そして今、向こうからチャンスを投げてきた。会話をする切っ掛けを。

 

 なら、そのチャンスは掴むべきではないだろうか。

 

 少女の方もこれは挑発に過ぎないだろう。そのまま見逃してはくれる。連邦生徒会長はそれで良いかもしれないが、カヤツリはそうもいかない。

 

 これから、目の前の少女と交流するのはカヤツリだ。そして、ここで関係性を拗らせて困るのもカヤツリなのである。

 

 第一印象は大事であり、このまま退けばカヤツリの第一印象は負け犬になる。事実はどうであれ、この少女の中ではそうなる。

 

 そうしてしまえば、これから困ったことになるのは目に見えていた。何を言おうとも下に見られてしまえば、全てが上手くいかない。

 

 幸いにも、話のネタにできそうなものがある。少し考えてから、カヤツリは口を開いた。

 

 

「連邦生徒会長が遅刻はマズイんじゃ?」

 

「ちょっと!? 何言ってるか分かってるんですか!? なんで今……!?」

 

 

 分かっている。だが、それはそちらもそうだ。ただカヤツリも同じように、何を考えているかと聞きたい事は山ほどある。

 

 実際のところ、昨夜の事をカヤツリは飲み込んでいるだけで、ムカついていない訳ではない。実際、連邦生徒会長はカヤツリの嫌いなタイプだ。

 

 大事な情報を抱え込んでいるくせに、最後の最後までそれを開示しない。もうどうしようもなくなってからブチまけて、何とかしてもらう。

 

 何処かの誰かみたいだ。それを見るのも、やるのも。そんなものはもうゴメンなのだ。

 

 話さないというのなら、こちらから引き出してやるまで。カヤツリは、この少女の事を知らねばならない。

 

 きっと、目の前の少女が普通ではないというのは真実だろう。連邦生徒会長が事前に言ったという事は、それだけ大事なのだから。そして、挑発に乗るか考えているから、少なくとも勝算はあるとみている。

 

 今回は相手から言ってきている。こちらが断ると分かって言っていて、反応が返ったことに驚いている。だから、今。少女はどう言おうか考えている。

 

 

「……そうです。遅刻は良くないですね。急いだ方が良いです。計算上、今から急げば間に合いますよ?」

 

「ああ、もう。なんで、貴方はいつもこんな……最低限の情報は……いや、もしかしたら……」

 

 

 連邦生徒会長がカヤツリをじろじろ見て、何かを思いついたように目を見開く。

 

 

「じゃあ、そうしましょう。後は頼みましたよ」

 

 

 そのまま連邦生徒会長は部屋から出て行った。カヤツリに対する嫌がらせか、また情報を落とさないままで。本当に信じられない。

 

 

「漸く、口煩いのが出て行きましたね」

 

 

 少女の方と言えば、連邦生徒会長が居なくなった瞬間に、椅子に寄っかかって、大きく伸びをしていた。タイミングを見て、カヤツリは話題を切り出した。

 

 

「連邦生徒会長が嫌い?」

 

「ええ、嫌いです。ですけど、見ていて面白い。試行錯誤に喘いでいる姿はもっと。そして貴方もです。貴方は、あの女にとっての炭鉱のカナリアですよ?」

 

 

 どうやら、少女は良く見える目と耳を持っているらしい。それとよろしくない性格と、それなりに回る頭を。

 

 連邦生徒会長がカヤツリをカナリア扱いしているのは分かっている。実に癪だが、仕方がない。弱いのはカヤツリで、そうであるのはカヤツリの責任だから。けれど、それを目の前の少女に笑われる義理はない。

 

 

「そっちは籠の鳥だろうに」

 

「自分からは出て行かないだけですよ。逃げ出せない貴方とは違います」

 

 

 先ほどの扉を消失させた力を思い出す。確かに、あの力の前では、いかなる拘束も意味をなさない。だが、今の言葉と今の状況が合っていない事には気づいていないらしい。

 

 

「なら、どうしてここに居るんだ? 今すぐに、出て行けばいいだろう?」

 

「言ったじゃないですか。面白いから、私はここに居るんですよ。貴方と話すのも同じ理由です」

 

 

 カヤツリの方を向いて、ふんぞり返る少女の尊大な態度に、どこか既視感があった。悩むうちに答えは出たが、それをそのままいうのは憚られ、オブラートに包んで口に出す。

 

 

「神様みたいなことを言う」

 

「……貴方。いえ、偶々ですか。ただ、神様と言うのは語弊がありますね。この世界に神様はいませんから」

 

 

 少女の方の反応は分からない。肯定してくると思っていたが、あっさり否定してきた。カヤツリの予想では、当然の様にそう言うと思っていたのだが。

 

 

「そういえば、名乗っていませんでした。そうですね……AL‐1S。いいえ、私の事は王女とでも呼んでください」

 

「王女。ねぇ……」

 

 

 王女とは、また妙な自称である。女王ではなく王女とは。まるで上に誰かが居て、それの権力を振るっているに過ぎない自覚があるかのような言い方だ。

 

 カヤツリは、この少女の事をかつて見た大人たちと重ねていた。オーナーやカイザー理事ではない。特に名前が記憶に残らなかった大人たちである。

 

 名前は憶えていない。その代わり、態度と行動だけは覚えている。つまらなさそうに生きて、碌でもない事をしていた。

 

 オーナーと理事が言うには、その大人たちは、人生に飽いてしまったのだと言う。金も名声も、何もかも。凡その人間が望む物を手に入れた結果、それらに満足できなくなったと。生きていく原動力。欲が無くなってしまったと。

 

 そして、単純に快楽を感じる閾値が壊れた場合が殆どではあるが、概ね行き着く先は同じだ。そういった大人は、碌でもない事に手を出し始める。曖昧に言えば、倫理的にやってはいけない事に手を出す。かつて持っていた欲望を取り戻したくて、何かやっていない事をやれば、それを取り戻せると信じて。

 

 結果から言えば、それは叶わない。欲とは探す物ではなく、内から湧き出る物だから。探したところで見つからない。自分探しで旅をしても、自分が見つからないのと同じ。探す場所が違う。

 

 だから、この王女とやらも同じだと思ったのだ。無から何もかもを生み出すような、あれだけの力があるから。だから全てに飽いていて、それが分かっていながらも、面白いと言うしかない。そして自らを神様だと言って慰める。そういう悲しい人間だと。

 

 そうであったなら、自らを神様だと言うようであれば、そこで話を切っていた。けれど、どうにもカヤツリの考えとは違うらしい。

 

 

「それで、王女サマは退屈だと。ここに居るのが面白いって?」

 

「何か意見が? どうぞ言ってみてください。意見するのに命を賭けろとは言いませんし、面白ければ願いの一つや二つは叶えてあげます」

 

 

 予想通りに王女の食いつきがヤケにいい。だからカヤツリは言う通りにする。

 

 

「いや、どうしてここに居るのかと思っただけだ」

 

 

 その答えを聞いた王女が不機嫌になった。その証拠に思い切り表情に出ている。

 

 

「さっきの会話をもう忘れましたか? 私は面白いからここに居るんです」

 

「じゃあ、どうして挑発をした? ここで見ているだけなら、声なんて掛けなくても良かった。顔合わせだけして、あの三つの物の在処も言わなければいい。ずっとそこで見ていればいいじゃないか」

 

 

 この王女は、カヤツリがここへ来た経緯を知っていた。そして、連邦生徒会長の試行錯誤とやらもだ。王女の発言の内容から、彼女はここから一歩も出ていない。

 

 であるならば、それでいいはずだ。ここに居るだけで全てが分かって、他人の醜態を楽しめるなら、ここから出る必要はない。王女が言うには、他人の醜態を見るのが好きであって、他人を貶めるのは面倒くさい。

 

 でも、彼女はそうしなかった。挑発をし、お願いを叶えてあげると言い。カヤツリや連邦生徒会長から、何かを引き出そうとした。

 

 しかし、王女は慌てるどころか。挑発的に言ってくる。

 

 

「なら、貴方はどう思うんです? 私が何を思ってここに居ると思いますか?」

 

 

 ──どうする?

 

 

 王女に対するスタンス。それをどうするか、カヤツリは決めかねていた。何となく、王女の状態は分かって、ある程度は好きに転がすことが出来る。

 

 一つは簡単。彼女の望み通りに、適当に煽てて情報を搾り取る。これでカヤツリの仕事に支障はないだろう。王女はそれでいいと言うのだから、それでいい。

 

 もう一つは、嫌な事実を突きつけて、王女に選択させる。下手を打てば怒らせて、何も教えてくれない可能性すらある。普段のカヤツリなら選ばない選択肢だ。

 

 だが、それでいいのかと思う自分が居た。王女に対して、このままでいいのかと言う思いがある。

 

 退屈であるからここから出ていかない。その必要もない。そう言っているのに、カヤツリ達にちょっかいを掛ける。行動理由の矛盾があるが、王女とやらはその理由に薄々気がついている。

 

 でも、そこから抜け出そうとはしない。理屈で固めて、そうしないようにしている。

 

 理由はきっと怖いから。決めるのが怖い。決めた結果がどうなるかが恐ろしい。そして、それを回避する方法は一つだけだ。

 

 何も決めなければいい。自分では何も決めないで、他人に決めさせて他人のせいにする。そうすれば、自身の選択の結果を受け止めなくて済む。それは他人に選ばされた結果だからだ。失敗したとしても、それは自分の所為ではない。

 

 それは、カヤツリと同じだった。ホシノと喧嘩し、謝ろうとしなかった。いや、自分は悪くないと意固地になって、何も話そうとしなかったカヤツリと。

 

 腹立たしかったが、連邦生徒会長の言葉は正しかった。ヘリでの移動中、しつこくホシノへ電話すれば、起きていたのか数コールでホシノは電話を取ってくれた。顔を合わせない電話のせいだろう。落ち着いて話す事が出来た。

 

 それはホシノもそうで、時間を置いたお陰か、すんなりお互いに謝れたのである。それを今のカヤツリは良かったと思う。まだ、今のカヤツリの状況を大まかにしか話せていないにしてもだ。

 

 そう出来なかったら、ホシノとはもう二度と話す事はなかったかもしれない。いや、きっとそうだった。

 

 ちゃんと話す。言葉にすれば簡単であるが、行動に移すのは難しい。カヤツリは連邦生徒会長にケツを叩かれて漸く出来た。

 

 それが、連邦生徒会長の狙い通りなのか、偶然だったのか。カヤツリには判断できない。でも結果として、連邦生徒会長は利用しようとしているカヤツリに機会を与えた。

 

 よって、連邦生徒会長に利用され、カヤツリにもそうされようとしている王女にそうしないのは、フェアでない。カヤツリには機会があったのだから、王女にだってあっていい。

 

 結果はどうでもいい。選択する機会を与えて、それを使うか使わないかは王女次第。そうであるならば、カヤツリは納得できる。納得して利用し倒せる。これは唯の同族嫌悪に過ぎないのだから。

 

 そう思って、カヤツリはこう口に出した。

 

 

「どこかで諦めているくせに、諦められない。そのくせ、行動して失敗するのも怖い。だから、自分に言い訳してそこに居るんだろう?」

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