ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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372話 王女の決意

「名もなき神々の王女。まさか、存在していたとはね」

 

 

 その言葉が聞こえた時、王女の行動は早かった。思考が飛ぶより先に手が出る。それが間違いだったと気づいたのは、カヤツリの静止と、伸ばしたハッキングのための()が防壁に弾かれてからだった。

 

 

「どうして……」

 

 

 思いもよらない反撃に驚愕の声が漏れるが、続くその理由を聞いて王女の機嫌が急降下し、逆に怒りのボルテージが急上昇する。自身が目の前の大人に手玉に取られているなど、王女にとっては屈辱以外の何物でもない。しかも、時間を掛ければ完全に王女を手中に収められるような言い方だ。それらは著しく王女のプライドを傷つけた。

 

 しかし、黒服とかいう大人の手腕は本物であることは間違いなく、文字通りの手痛い反撃を受けた王女は手出しができなかった。二人の話は聞こえるが、ハッキング等の手出しができない。そのための機能が妨害されており、誰の仕業かは明白だった。

 

 

「本気が出せれば……」

 

 

 負け惜しみのように、王女は呻くもどうしようもない。ギリギリと奥歯を鳴らして、黒服とカヤツリの会話を聞くことしかできないのが現状である。そして、話の行き先がどことなく怪しくなってくる。

 

 

 ──連邦生徒会長から話を聞いていると思っていました。彼女の、名もなき神々の王女の危険性について。

 

 

「え……?」

 

 

 黒服の、その言葉が聞こえた時に、ゾッとした。黒服は、王女の事をカヤツリへと伝えようとしていた。王女が今まで隠し、これが終わった後に伝えようとしていた事柄を。寄りにもよって、一方的な立場の人間から。

 

 そんなことをされればどうなるかなんて、日を見るよりも明らかで、王女の頭が一瞬で怒りに染まった。

 

 

「ふざ……ふざけるな!」

 

 

 怒りと焦りで口調が崩れるが、気にする暇もない。すぐに目の前の大人の口をふさがなければならなかった。だが、悲しいかな。王女は今、取れる手段がほとんど残っていない。

 

 ハッキングをしようにも、それは封じられている。出来たとして、周りには稼働している機械は存在しない。カヤツリのヘッドセットは残っているが、カヤツリに声を掛けることくらいしかできない。

 

 それをしたとて意味は無い。今更、今更、本当の事を話したところで、取り繕っているようにしか聞こえないだろう。正しくは黒服の言葉の前に言うべきであって、今更もう遅いのだ。

 

 

「止めてください……お願いです……やめて……」

 

 

 だから、王女はそう懇願するしかない。カヤツリは困惑しているが、黒服は容赦なく、それが演技だと切り捨ててくる。

 

 

 ──彼女は、今のキヴォトスを。この世界を滅ぼすために、そうあれかしと。無名の司祭たちに作り出された決戦兵器なのですよ

 

 

 続けざまの致命的な発言に、王女はただその場に崩れ落ちた。もう、終わりだからだ。

 

 あの黒服とかいう大人は、カヤツリの保護者か何かだった。会話はどう見ても気安いし、長い間面倒を見たと、そう自分で言っており、カヤツリも否定しなかった。

 

 そんな相手からの言葉と、地下深くで監禁されていた尋常ではない能力を振るい、今の今まで自身の素性を話さなかった少女の形をした兵器。そのどちらを信じるだろう。

 

 考えるまでも無い。きっと黒服の方を選ぶ。信用度が全く違うから。安全性もそうだろう。少なくとも、この黒い大人は世界を気分次第で滅ぼしそうにないことは分かる。何一つ、王女には上回る点がなかった。

 

 

「ううううう……」

 

 

 暗い地下で、さっきと同じように王女は膝を抱える。さっきと違うのは、もうカヤツリが慰めてくれないことだけ。それを思うだけで、気分が底へ底へと沈んでいく。黒服がカヤツリに向かって、ぺらぺらと口を回すのがやけに耳に残っていて、とてつもなく不快だ。

 

 それが、全く間違いではないと言うのも、王女の不快さに拍車をかける。

 

 だって仕方がないじゃないか。

 

 初めまして、私は世界を滅ぼす兵器です。今のところは滅ぼすつもりはありませんのでよろしくお願いします? 

 

 そんなことを言えるわけもない。言ってしまったら、その瞬間に関係は破綻するだろう。王女は見る目は、兵器を見るそれになる。そんなことは嫌だった。

 

 初めてだった。あの力を振るって怯えた目で見られないのは。それは、あの黒服の男の影響だったのかもしれないが、あの時の王女は期待した。もしかしたら、連邦生徒会長が新しく誰かを連れてくると聞いた時から期待していたのかもしれない。

 

 そうでないのなら、アビドス砂漠へ飛ぶ予定の輸送ヘリにランサムウェアを仕込まないだろうし、連邦生徒会長のパソコンをハッキングして、その人間の調査資料を読んだりもしないのだ。

 

 前は暇つぶしであったが、今は違う。して良かったとすら思う。今日までの、ついさっきまでの気持ちはそうだった。初めて、名もなき神々の王女としてではなく、AL-1Sとしてでもなく、ただの王女として、何かを手に入れられそうな気がしていた。

 

 それは、今目の前で粉々に砕け散ってしまったのだが。

 

 

「じゃあ、どうすればよかったんですか。言えばよかったんですか?」

 

 

 誰に向けるでもない。八つ当たりでしかない問いが口から飛び出す。勿論、応えるものはいないが、手遅れになった今、答えはもう分かっていた。

 

 言えばよかった。カヤツリを信じて言うべきだった。ずるずると先伸ばしになんかせずに。

 

 だが、どう考えても、あの時点での王女はそんなことを出来はしないのだ。

 

 それでは、最初から望むべくもなかったと言う事だろうか。与えられた役割と名前。それ以外の道は無く、それ以外の物は何も手に入らないと言う事だろうか。このまま、それすら果たせず王女は終わるのだろうか。その答えは王女が望もうと望まなかろうと、もうすぐ出ようとしていた。

 

 

 ──クックック……ええ、その通りです。お互いに得るものしかないと思いませんか?

 

 

 黒服がカヤツリに問いかけて、その答えを待っていた。カヤツリの答えなんか聞きたくは無くて、耳を強くふさぐ。それでも、カヤツリの声は王女の耳へと入り込んでくるのだ。

 

 

 ──断る。

 

 

「……え? え? 今、なんて……」

 

 

 おかしい。変だ。道理に合わない答えが聞こえた気がする。断るなんていう、拒絶の答えが聞こえた。きっと気の所為だろう。そんな風に言い聞かせて、もう一度耳をそばだてる。

 

 

 ──ほう、理由を聞かせていただいても?

 

 

 黒服は不満そうだ。それは、つまりそういう事ではないのだろうか。断られたから、不満そうなのではないだろうか。王女の耳には続けてカヤツリの答えが聞こえてきて、王女は胸を押さえた。

 

 なんだかドキドキする。機体がエラーを吐いて、全身の温度が上昇している。両目から洗浄液が流れ出している。それらに止めろと命令を下しても、全く止まってはくれない。

 

 

「うあ、あ……なんで? 苦しい……痛い……」

 

 

 思考が上手く纏まらない。胸の中で衝動が暴れまわっていて、抑えるのに精いっぱいだ。そのくせ、衝動が強すぎて、どうすればいいのか全く分からない。只今できるのは、漏れ聞こえてくる黒服とカヤツリの言葉を聞くことだけだ。

 

 黒服は問う。責任はどうするのか、王女の危険性はどうするのか。

 

 カヤツリは答える。それは、みんなで背負うべきものだと。そして、王女を信じていると。嘘を吐いていたのだとしても、言えなかったのだとしても、そこにどんな意図があったとしても、そう信じるのだと。信じてくれるのだと。

 

 

 ──……君の見解が間違っていたら? その時はどうしますか?

 

 

 けれど、それに冷や水を浴びせるが如く黒服が切り込んできて、さっきまであった王女の熱が急速に冷めていく。

 

 この大人は、生半可な答えでは納得しない。正直、王女は答えが分からない。それでも、間髪入れずに声が聞こえた。

 

 

 ──責任を取りますよ。彼女に対処しましょう。

 

 

 王女の内部処理が更にエラーを吐き出し始めた。排熱が追い付かないのか、顔の温度が段々と上がって来る。黒服が何事かを言っているが、それは耳に入らない。もう王女が聞きたいのは、カヤツリの声だけだ。

 

 

 ──だから、その時は助けてください。これはキヴォトス全体の問題なんですから。貴方も困るでしょう? その時は存分に頼りますよ。他の人間にだって頼ります。何でも使います。

 

 

「嬉しい……」

 

 

 ポツリと、そんな言葉が漏れた。意図せずに零れた言葉ではあったが、それが王女にはしっくりくる。

 

 そうだ。今、王女は嬉しいのだ。求めていたものが、ずっと欲しかったものが、今ようやく転がり込んできた。その気持ちをぎゅっと抱き締めるだけで、満足感が身体を包んでいく。

 

 これを守るためなら、王女は世界だって敵に回せるだろう。

 

 満足感だけではない。今だけでなく、その先の事が楽しみになっていた。これからの事、さっきまでは考えもしなかった未来の事が次々と思い浮かんでくる。

 

 そこまで、そこまで言ってくれるとは思ってもいなかった。そのせいか、エラーはもう処理速度を優に超え、王女の内部に溢れ出していた。そして、それは一つの大きな何かになろうとしている。

 

 

「これは……?」

 

 

 それは、上手く言葉にできなかった。さっきほど、はっきりと言葉には表せない。ただ、渦巻く感情はシンプルだった。

 

 

 ──欲しい。

 

 

 最初の言葉はそれだった。そして、直ぐに似たような言葉が次々と飛び出してくる。

 

 

 ──離さない、ゆずれない、逃がさない、渡さない。

 

 

 それは甘かった。甘くて、ドロドロしていて、煮詰まっていた。王女には少し触れただけで、それが分かった。

 

 感情の種類は無秩序でいて、その方向性は同じ方向を向いている。数多の感情が同じ方向へと流れているから、油断すれば流される程の濁流と化していた。

 

 王女は、自身の中にこんなものがあるなど、想像だにしていないし、考えたこともなかった。だから、その濁流にはなす術がない。

 

 

 ──このままだと、持っていかれる。

 

 

 それだけの思いがあった。でもどうしようもなく、それらに呑み込まれる。

 

 でも、何も起きない。流されて、我を失うと思っていたのに、そんなことは全くない。寧ろ、とても居心地が良い。よくよく考えてみれば当たり前の欲求だし、我慢する必要性を感じない。だから、カヤツリに聞けば良い。それで、受け入れてくれたら……

 

 

「……ハッ!? あれ……? 私は……?」

 

 

 突然の内部アラートに、王女が我に帰ると、カヤツリと黒服の会話は終盤に差し掛かっていた。思考が飛んでいて、何を考えたか忘れたことに焦りつつ、王女は自身の身体を次々と叩く。

 

 さっきまでの間、王女を呑み込んでいた感情の濁流は無くなっていた。あれほど溢れていたエラーも綺麗さっぱり無くなっている。自己管理プログラムを走らせるも、システムオールグリーンという結果しか出ない。各パラメータも変動していて、ウイルスに引っかかったとか、誤作動という訳ではないようだ。

 

 

「……まぁ、問題ないでしょう。話は……」

 

 

 初めての事態に混乱するも、王女は気を取り直して、残りのカヤツリと黒服の会話に耳をそばだてる。

 

 

『ここを見られたからには、貴方を生かして帰すわけにはいきません。ここで、死んでいただきましょう』

 

 

 聞くに堪えない声が聞こえて、王女の顔が歪んだ。

 

 誰の声かは分かっている。カヤツリの片目を損傷させた大元の原因だ。カヤツリが紅ショウガと呼んだ、あの大人。

 

 

「見るに堪えないですね……」

 

 

 漸く回復した()を使って、ヘッドセットの視界を確認すれば、()がそこに居た。

 

 途中に漏れ聞こえた濁音の混じった音からして、あの大人の戦闘形態だろう。あり得ない濃度の神秘が花から漏れだしている。

 

 

「なるほど。これなら、アリウスを支配したと言うのも頷けますね」

 

 

 神秘とは、それを宿すものに依存する。神秘が濃ければそれを宿す物は強く、薄ければ弱い。それを、この大人は逆手に取ったのだろう。

 

 神秘を外付けで注入すれば、注入した神秘の濃度に引きずられて、存在の位階が上がる。ただ、注入した神秘が良くない。薄く雑多な神秘を濃縮還元でもしたのか雑味が多い。これでは、この見た目なのも頷ける。

 

 

「シンプルゆえに対処が困難ですか……」

 

 

 カヤツリも善戦している。相手の光弾や拳を躱して反撃を入れてはいる。けれど、全く効いていない。二次元が三次元に干渉できないのと原理は同じ。位階が違えば攻撃は通りにくく、相手の神秘の濃度はあり得ない値。つまりは、全く攻撃は通らない。

 

 攻略法は二つ。

 

 一つは、時間切れを待つこと。あれは自前の神秘ではないから、時間経過で減少していくはず。それまで耐えきれば、攻撃が通るようになる。

 

 だが、相手が追加の神秘を用意していなければの話だ。時間制限があるはずなのに、カヤツリを甚振る様な攻撃の温さから見て、追加分があると考えるのが妥当だろう。

 

 残るは単純だ。同じ位階に上がること。相手の神秘を上回る濃度で攻撃すれば良い。相手の原理に付き合えば、相手もそれには従わざるを得ない。

 

 けれど、カヤツリの神秘の濃度は高いが、相手には及ばない。カヤツリでなくても不可能だろう。何しろ相手の神秘は違法手段(チート行為)に他ならない。通常の手段では対処は不可能。

 

 そう、通常の手段であればだ。通常で無い手段はここにある。名もなき神々の王女の力がここに。

 

 

「……ですが」

 

 

 王女はカヤツリに繋ごうとして、躊躇った。

 

 ここから、名もなき神々の王女の力は振るえない。頭上にあるサンクトゥムタワーのせいだ。あれが、名もなき神々の王女の力をジャミングしている。

 

 王女が名もなき神々の王女として、力を振るう事を許さないのだ。だから、王女はヘッドセットを介して、ヘッドセットの躯体の許す範囲でしか介入が出来ない。

 

 ヘッドセットはヘッドセットでしかない。目の前の相手を打ち倒すことは不可能だ。

 

 だったら、それに耐えられる躯体を作ってしまえばいい。それを介して、相手に干渉すれば良い。

 

 そして、そのためにはカヤツリへの許可が必要だった。カヤツリに説明して納得してもらわなければならない。

 

 それは、恐ろしい事だった。ああカヤツリは言ってくれたが、実際の所、口だけなら何とでも言えるのだ。土壇場で意見を翻すかもしれない。

 

 でも、王女は信じたかった。カヤツリが己を信じてくれたように、王女もカヤツリを信じてみたかった。

 

 

「……信じていますよ」

 

 

 だから、王女は決意を胸に抱いて、声を繋いだ。

 

 

「聞こえていますか?」

 

『聞こえてる! 大丈夫か!?』

 

 

 一番最初の言葉が、此方を心配する言葉であることに王女は微笑む。それだけで、不安が吹き飛ばされていく。

 

 

「目の前の敵に苦戦しているでしょう。私に対抗策があります」

 

『じゃあ、今すぐやってくれ。どうにもならないんだコイツ!』

 

 

 銃声に負けないように、カヤツリは声を張り上げていた。きっと余裕のなさも理由の一つだろう。その状況下で聞くことに、多少の罪悪感を感じながら、王女は口を開く。

 

 

「よく聞いてください。今から、名もなき神々の王女の力を使います」

 

『……使えないんじゃないのか?』

 

「はい。このままでは使えません。今まで使えなかったのも同じ理由です。そのためには、貴方の協力が必要なんです」

 

『協力……それは?』

 

 

 王女は、即答できずに口籠った。

 

 

「……貴方の身体を貸してほしいんです」

 

 

 王女は乾いた唇を舐める。

 

 

「今の私が力を振るえないのは、そのための条件。方舟が無いからです。その為に、貴方の身体を借りたいんです」

 

『どうするんだ?』

 

「貴方の身体を弄ります。その目を()()時に、方舟の代わりになるように弄るんです」

 

 

 今の王女が力を振るうには、アトラ・ハシースの方舟が必要になる。サンクトゥムタワーの影響を取り去るのは、あのオーパーツが無いと不可能。

 

 しかし、正規の手順で方舟を建造するには、何億エクサバイトものデータ容量が必要になる。そんなものはここに無いから、王女はやり方を変える。

 

 必要なのは、名もなき神々の王女の力を発動できる場。方舟は次元航行する都合上、内部は外部の影響を受けないように出来ている。

 

 それを、カヤツリの中に再現する。物理的に閉じていて、光だけが通る器官。眼球をその機能を持たせて再構成する。

 

 

「勿論、事が終われば元に戻します。ですが……」

 

『そうする保証はないと。この提案に頷けば、一瞬ではあるが、王女は本気で力を振るえるんだな?』

 

 

 口籠る理由。そのものを言い当てられて、王女は笑いしか出てこない。

 

 

「そうです。今の私は何もできません。今の手段であれ、勝手には出来ません。弄る対象である貴方の許可が無くては、何もできないんです」

 

 

 ですがと、王女は先を続ける。

 

 

「一度、貴方が許してくれれば。いえ、許してしまえば。私はこれまで以上の権限を手に入れるでしょう。それを使えば、貴方の協力が無くとも私単独で、全力を振るえるようにすることも可能です」

 

 

 名もなき神々の王女の力をもってすれば、そうすることも可能だ。カヤツリの協力を得られた後なら、ある程度の力は振るえるようになる。その力でもって、新たな方舟を作ればいい。そして力をさらに拡張し、その上の物を、それを繰り返していくだけで、王女は全盛の姿を取り戻す。そうならば、もう誰にも止められない。

 

 

「今の状況で決断させることではありません。他の手段もあるでしょう。余裕のない今言う事で、押し切ろうとしているとすら思うかもしれません」

 

 

 王女にそのつもりはないが、傍から見ればそうだ。状況にかこつけて、自分に有利な条件を飲ませようとしている。そうでない証拠を出せと言われても、王女に出来ることは一つだけだ。

 

 

「でも、信じてください。私にはそれしか言えません」

 

『いいよ。信じる』

 

 

 カヤツリからの返事は、即答であった。

 

 ちゃんと考えたのかとの念押しもする気は起きない程、早くてハッキリとした返事で、王女は何を言って良いか分からなくなる。

 

 きっと聞いたり、怒ったりすれば、カヤツリはその理由を言ってくれるだろう。ただそれは、無粋でしかない気がした。

 

 カヤツリは王女を信じた。詳しく細部まで説明せず、状況に乗じて提案したかもしれない王女を信じた。

 

 それなのに、王女から根堀り葉堀り聞くのは違う。これでは、王女がカヤツリを信用していないのと同義だ。幾ら何度も来たところで、王女に信じる気が無ければ意味がなく、必要以上に信じてくれているカヤツリに恥ずかしい。

 

 なら、王女がやるべきことは一つだろう。

 

 

「それでは、始めます。ちょっと痛いですよ」

 

 

 カヤツリの抵抗の無さに微笑みながら、王女は施術を開始した。

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