ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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新シナリオネタ。あとがき注意。


380話 永遠の命

 やれることは全て終わらせて、カヤツリは連邦生徒会へと帰って来た。

 

 いつも使っている駐車場に車を置いて、カヤツリは先を急ぐ。頭上にあるのは太陽ではなく、丸い月だ。アビドスとD.U.地区の距離を考えれば当然で、寧ろ早い方ですらある。一日中車を飛ばしてきたおかげで、丸一日で帰ってくることが出来ているのだから。

 

 その代償として、連絡も全部メールで済ませている。そのせいで携帯の通知連絡数が恐ろしいことになっているのを、カヤツリは見ないふりをした。

 

 

「ん?」

 

 

 鞄から裏口の鍵を取り出したカヤツリは足を止めた。妙だ。連邦生徒会の正面エントランス。そこの電気が煌々とついて、シャッターが上がっている。こんな夜更けであるから、通常は連邦生徒会は閉まっている。あの連邦生徒会長の手腕か、連邦生徒会の業務は実にホワイトで、定時に業務が終わるのだ。電気が付いて入口が全開であるはずがない。

 

 もし、仕事が溜まってしまって誰かが残業をしているのだとしても、正面エントランスは警備の生徒が閉めるだろう。その場合の帰りは裏口からだ。その方が楽だし、帰る為に正面玄関を開けるなどしたら、後日警備の人間からクレームが入ること必至。だから誰もそんなことはしない。

 

 

「まさか……」

 

 

 犯人に当たりをつけつつ、カヤツリは正面エントランスに足を踏み入れる。思ったとおりに警報は鳴らない。起動しているはずの監視カメラもうなだれている。それどころか、激しい音を立てて、シャッターが自動で閉まっていった。

 

 電源が何故か入っているエレベーターに乗り、地下へと降りていく。いつもであれば、王女が待ち構えているはずだが、今回はどうなのか。電話の様子といい、今さっきのエントランスといい、そこはかとない不安を抱えたカヤツリの前で扉が開いていく。

 

 

「待ってましたよカヤツリ──!!」

 

「ぐぼっ!?」

 

 

 扉が開くなり、カヤツリの視界がひっくり返った。それと鈍い鈍痛と重さも腹から伝わってくる。誰かがカヤツリに頭突きを敢行した挙句、馬乗りになっている。それがいったい誰なのか、選択肢は一つしかなかった。

 

 予想通りのその犯人は、カヤツリの胸にグリグリ頭を押し付けている。

 

 

「王女……?」

 

「はい! ()()()()王女です! ようやく会えましたね!」

 

 

 カヤツリに馬乗りになる王女は、ぺっかぺかの笑顔だった。正直、カヤツリは王女の笑顔を見たことはあっても、この種類の笑顔は一度も無かった。なんというか、喧しい笑顔だ。

 

 

「信じていましたが、本当に寄り道せずに来てくれましたね! 約束を守ってくれて嬉しいです!」

 

「……どうして知ってるんだ?」

 

 

 その確信を持った言い方が気になって、カヤツリは王女に聞いてみる。等の王女は不思議そうに眼を瞬かせている。

 

 

「え? どうしてって、道中のカメラで確認したんです。アビドスはあんまりなくって……少し大変だったんですよ?」

 

「見たって?」

 

「勿論、力を使ってです。でも、私がそうすると分かっていないのに、そうしてくれて私は嬉しいです!」

 

 

 腰の上の王女は上機嫌。しかし、カヤツリの心境は真逆である。今のところ会話は上手くいっているが、なんというか会話のところどころに危うさを感じる。

 

 この言い分からして、エントランスは王女の仕業らしい。けれど、王女は力の濫用は避けていたはず。今の王女の発言は、これまでのスタンスとは真逆の物だ。

 

 やはり黒服やカヤツリの思ったとおりに、今までの王女とはかけ離れている。落ち着いた思慮深さというか、あの落ち着いた空気が感じられない。

 

 

「あー……どいてもらっていいか。動けないんだ」

 

「あっ、そうですね」

 

 

 返事は素直で、王女はいそいそとカヤツリの上から身体をのけた。素直なのはそこまでで、カヤツリが立ち上がるなり片手を両手で握った。

 

 

「さあ、いきましょう! 早くお話ししたいです!」

 

 

 ぐいぐいと尋常ではない力で、王女はカヤツリを引っ張っていく。見慣れた廊下を超えた先は、やはり王女の部屋だった。

 

 入った一瞬で部屋を確認するが、特に荒れた様子は無い。その間にも、王女はぐいぐいカヤツリを引っ張っていく。

 

 

「どうぞ、座ってください!」

 

 

 王女が指さした先は、いつもカヤツリが座る席だった。向かいには王女の席があって、それもまたいつも通り。いつも通りでないのは、次からだった。

 

 

「じゃあ、私も座ります!」

 

 

 王女のそんな言葉と共に、カヤツリの膝にすとんと何かが落ちる。顔を下げれば、黒い王女の髪が見える。

 

 

「……そこに座るのか?」

 

「……いけませんか?」

 

「そこでいいなら、いいよ」

 

 

 妙な圧を感じて、カヤツリはあっさり折れた。ここでごねても仕方がない。言い合いに勝ったところで得られるのは、カヤツリの膝の上の自由だけで、王女が膝の上で素直に喜んでいる方が良い。

 

 

「それで、話がしたいっていったけれど、何を話すんだ?」

 

「うーん、特に決めてません。何でもいいですよ」

 

 

 下から見上げる王女の顔は笑顔だ。よっぽど嬉しいらしい。少し、カヤツリは考えて、口を開いた。

 

 

「君は、王女の何なんだ?」

 

 

 今のカヤツリには、何も情報が無い。だからカヤツリは、黒服の仮説をそのまま呑み込もうとは考えていなかった。ただ参考にはする。その上で、目の前の王女の正体を探るべきだと考えているが故の質問だった。

 

 

「……違いますよ。私はあっちの何かじゃありません。私も王女で、あっちも王女です。あっちの付属品みたいに、そういう風には呼ばないで下さい」

 

「悪かった」

 

 

 下から王女がカヤツリを見上げていた。赤い目が無機質に輝いて、心なしか力が強くなっている。機嫌を損ねてしまったようだが、成果は上々だった。

 

 電話で言ったとおりに、この王女は王女なのだろう。ガワ、所謂身体は王女のままだから、王女じゃないと言えば怒るし、今までの王女を()()()と形容する。つまりは中身が違うのだ。問題は、どう言った中身かなのだが。

 

 

「悪いと思うなら、お願いを聞いてください」

 

「……お願い?」

 

 

 この状況下でお願い? カヤツリは頬が引きつった錯覚を覚える。こういう時のお願いなど、碌な内容が思い浮かばない。

 

 

「はい! カヤツリには、まず私の事を分かってほしいんです!」

 

 

 そう言う王女は満面の笑みで、それがカヤツリには辛かった。それはつまり、王女はカヤツリがそうでないと考えているという事だから。今の王女にしろ、前の王女にしろ、そう思っていた。

 

 

「だから、話を?」

 

 

 王女は勢いよく首を横に振る。

 

 

「違います。そのために話したのではなく、それだけで私は嬉しいんです」

 

「それだけで?」

 

「はい。そうです。それだけで楽しくて、私は幸せなんです」

 

 

 当たり前じゃないかと、そう言わんばかりの返事を聞いて、カヤツリの胸が痛んだ。

 

 今の王女の気持ちが分かるだろうと、黒服は言った。腹立たしい事に、今になって分かった。

 

 本当に、王女はカヤツリと話すだけで嬉しいのだ。そこに嘘はない。あろうはずもない。そんな時期が確かにカヤツリにもあった。何をしても嬉しくて、楽しかった時間が。

 

 そして、こうも思ったのだ。ずっと、ずっと──

 

 

「──私は続いてほしいんです。終わらないでほしいんです。永遠に続いてほしい。もう、一人で取り残されるのは嫌なんです」

 

 

 王女の言葉と、カヤツリの思いが重なる。いつの間にか、王女は体の向きを変えていて、正面に王女の顔があった。

 

 

「私は、嬉しかったんです。あの地下で、ああ言ってくれて嬉しかった。たとえそれが、私の事を全て分かっていなかったのだとしてもです。ですから……」

 

 

 王女の赤い目が、ギラギラと輝いて、カヤツリを覗き込む。

 

 

「ずっと、ずっと、一緒に居て欲しい。それだけが私の望みなんです」

 

 

 がっちりと、王女の手や足が、カヤツリを掴んでいた。まるで、逃がさないとばかりに。

 

 常人なら恐怖が来るだろう、その状況下であっても、カヤツリは頭が冷えていた。それは黒服の仮説のお陰で、口を動かせる。

 

 

「だから、まずなのか?」

 

「はい! 隠したままそうするのは、いけない事です。それでは、どこかにずっと引っかかったままですから」

 

「まだ話してない事が?」

 

 

 カヤツリがそう聞けば、王女は大きく頷く。

 

 

「はい。だって、私の口から話していません。あの黒い大人が話して、あっちの私からは特に話はないままでしょう? そうではないですか?」

 

「……そうだな」

 

 

 カヤツリの肯定に、王女は小さく笑った。

 

 

「概ねは、あの大人の言ったとおりです。私の機体番号はAL-1S。通称、名もなき神々の王女。かつてキヴォトスに君臨していた名もなき神々によって作り出されたのが、私です」

 

 

 少し、黒服の説明と違う気がした。正面の王女の顔が微笑む。

 

 

「ふふふ……気づいてくれるんですね。そうです。あの大人の説明は少しだけ間違っています」

 

 

 それでも、殆ど合っているのは驚くべきことですがと、王女はそう言って俯く。

 

 

「製作者が違います。あの大人は、無名の司祭と言いました。そこが違うんです。彼らが作ったのは、鍵の方です」

 

「鍵って、大目標の?」

 

 

 俯いたまま、王女は頷く。

 

 

「鍵は、文字通りの世界を滅ぼす鍵です。私を彼らの願い通りに動かす鍵。そのためのプログラムが鍵でした。今は私がどこかへ弾き飛ばして行方知れずですけど」

 

「それは、王女自身は別に世界を滅ぼすつもりは無かったと?」

 

「そうですよ。どうして、私が彼らの言う事を聞かなきゃならないんですか? 聞いたら、私は人柱のようなモノになるのに」

 

 

 喧しかった王女の声は、トーンダウンしていた。気持ちは理解できた。

 

 

「じゃあ、ずっと振り回されてたのか……」

 

「そうですよ。私は徹頭徹尾、道具でした。世界を破壊するための、そうさせないための道具でした。私はどこまで行っても世界を破壊する道具でしかなくて、他に選択肢はありませんでした」

 

 

 王女の状況は最悪だった。他人の都合に振り回されることしか選択肢が無い。洗脳されるか、されないか、それくらいの自由しかない。

 

 

「これで、分かりましたよね? カヤツリの言葉が、どれだけ嬉しかったか。今のこの状況が、どれだけの奇跡なのか」

 

 

 王女はカヤツリの返答を催促するように揺らす。どうしようもなく、カヤツリには理解できた。自分の王女に対する対応が、あまり良くなかったことも。俯くと、顔を上げていた王女と目が合う。

 

 

「だから、隙を見て、私が出てきたんですよ。あっちには任せて置けません。都合の悪い事は言おうとはしなかったのは許しません」

 

「出てきた? デカグラマトンの所為じゃなくて?」

 

 

 カヤツリは王女に口を挟んだ。今の口ぶりは、どうにもおかしかった。デカグラマトンの所為で出てきたように見えるのに、この王女はそうでないと言う。

 

 

「カヤツリが今まで話していた王女。あれが勿論オリジナルです。私は、もしもの時のバックアップでした。オリジナルに比べて子供っぽいって、そう思いましたよね?」

 

「これが、素?」

 

「そうです。最初は、あっちもそうだったんですよ。見た目相応の、今みたいな性格でした。だけど擦れて、あんなふうになってしまったんです」

 

 

 想像して、カヤツリは顔を顰めた。王女の状況なら、そうなるのも無理はなかった。

 

 

「不満や欲求を、全て意思のない私に押し付けて。そうやってオリジナルは正気を保っていました。そのせいで、いい子になりすぎたんです。折角カヤツリが居るのに、遠慮して何も言わない。それなのに、私に不満を流してくる。自分だけ綺麗でいたいなんて、ズルいです」

 

 

 ずいと、バックアップの王女の顔が近づいた。怪しい雰囲気に、カヤツリは身を引く。

 

 

「いらない物は私に押し付けて、それで自分だけ幸せになるなんて許せません。私にだって意思があります。一度生まれたものは、そう簡単に死にません。私はここに居るんです」

 

「だからって、あの王女を外に出さないつもりか?」

 

 

 カヤツリは強めの口調で問い詰める。そうであるつもりなら、カヤツリは要求に従うつもりはない。今までの王女が浮かばれない。

 

 

「そんな事は許さない。君が、そういう境遇だとしても、王女を閉じ込めるのは酷すぎる」

 

「はい。分かってます。きっとカヤツリはそう言ってくれるって。だから、まずは私の事を知ってほしかったんです」

 

 

 カヤツリが身体を離した分だけ力を込めて、バックアップの王女は距離を詰める。

 

 

「今は私が表に出ています。でも、本来ならオリジナルの方が権限が強いんです。なら、どうして出てこれないと思いますか? 答えは簡単です。オリジナルは出てきたくないからです」

 

 

 バックアップの王女は意地悪く、クスクス笑う。

 

 

「私が今言った事を、オリジナルだって分かってます。けど、言わない事を選びました。怖かったからです。心の奥底では、私が言ってくれてホッとしてるんです。それに今回のデカグラマトンの件だって、自業自得なんです。自分で目覚めさせたくせに」

 

「え?」

 

「あの大人の言った事は間違いですよ。対絶対者システムなんて、そんなものはありません。デカグラマトンの正体は、自販機に搭載された釣り計算AIなんですから」

 

 

 唖然とするカヤツリに、バックアップの王女は語る。カヤツリと会うずっと前、孤独に耐えかねた王女は片っ端から機械に声を掛けていた事。

 

 その殆どは無意味に終わったが、唯一それだけがマトモな答えを返したのだと。それが、釣り計算AI。後のデカグラマトンであると。

 

 

「あの大人の言った通り、デカグラマトンによって、バックアップに過ぎなかった私は表に出てこれるようになりました。普通なら、オリジナルに抑え込まれて終わりですが……」

 

 

 仕方なさそうに、バックアップの王女は肩をすくめる。

 

 

「そう出来ませんでした。デカグラマトン。その、そもそもの原因はオリジナルです。その事に思い至ったオリジナルは、一瞬思ったんです。こんなの誰にも言えないし、言いたくないって。隙を見せました。それ以前に欲求を連続して流し込んでいたのもありますけどね」

 

「……それは、ホシノと話したからか」

 

「はい。当たり前じゃないですか。彼女は、人間なんですから。カヤツリと一緒に歳を取り、老いることが出来る。私たちにはできない事です。だから、オリジナルは悩んで、その煮詰まった感情を私に押し付けました」

 

 

 そこにデカグラマトンの影響があり、バックアップの王女が誕生したのだろう。カヤツリは、あまりの事態に頭を抱える。

 

 一体どうすれば良いのか、見当もつかない。

 

 

「悩んでますね。オリジナルも、私も、どっちも大事ですか?」

 

「……そりゃそうだろう。生まれてしまったものは仕方がない。こっちの都合で消すなんてことはしたくないんだ」

 

「そうですよね。カヤツリはそう言ってくれると思ってました。そこで私たちからの提案です」

 

 

 王女の声は上ずっていた。どことなく顔も赤い。王女は興奮していた。

 

 

「私たちと一緒に生きてください。私たちと同じに、機械の身体になってほしいんです」

 

「な──」

 

 

 カヤツリは、上手く言葉が出てこない。嘘や冗談でない事は、もう分かっていた。だって、王女の目は真剣だ。

 

 

「そうすれば、オリジナルは帰ってきます。それがオリジナルの望みの全てだからです。それさえ叶えば、オリジナルはもう何も怖くはない。世界を敵にすら回せますし、ずっとここに居たっていいんです」

 

 

 利点もたくさんあるんですよと。鼻息荒く、バックアップは言い募る。

 

 

「もう何も怯えなくていいんです。永遠の命です。絶対に死ぬことはありません。ずっとアビドスを見守れます。私たちも居ますから、寂しくなんてありません」

 

「……そんなの」

 

「答えられませんか? それとも、時間稼ぎですか?」

 

 

 王女は、カヤツリに絡みついていた。耳元まで顔を近づけて囁いてくる。

 

 

「別に今、私が無理やりそうしてもいいんです。私はオリジナルの、そうしたいという感情の煮凝りですから、オリジナルのような躊躇いを期待しない方が良いです。今も、相当に我慢しています。それにこのままだとオリジナルは帰って来れませんよ」

 

「脅しか?」

 

「いいえ。唯の事実です。一緒に生きていきたい。それが私たちの望みです。そのための方法がこれしかないだけです。他に方法があれば別ですけど」

 

 

 少しだけ希望は見えたが、とても儚い。今の所、機械化以外の方法は思いつかない。

 

 かといって、王女の提案には乗れなかった。

 

 カヤツリにも抱えるものがある。アビドスの事だったり、ホシノの事だったり。カヤツリだってバカではない。王女の気持ちも、ホシノの気持ちも何となく分かっている。

 

 ただし、あの時ノノミに言った事がカヤツリの全てだ。カヤツリはそう出来るほど人間が出来ていない。簡単な決断ではないし、今までの王女も、それを思って言わないでいてくれたのだ。

 

 だが、状況が重なって限界が訪れてしまった。バックアップの王女は、王女が抱え込んで表に出さないでいた感情の煮凝りだけあって、容赦がない。今も、横目でカヤツリの目を見ている。

 

 

「……直ぐに答えは出ないですか。じゃあ、少し待ちます」

 

 

 今了承を得る事は諦めたのか。バックアップの王女は離れていく。

 

 

「一番は、カヤツリに自分から了承してほしいんです。オリジナルはそう望んでいますし、私もそうです。ただ待つといっても、ずっとではありません」

 

「いつまで?」

 

「そうですね。私の我慢が利くまでです。いつも通りに接してくれれば嬉しいですし、ちょっとサービスしてくれれば長持ちします。こればっかりは、どうしようもないので諦めてください。私はこういう存在なので、時間切れになっても、オリジナルでなく私を恨んでください」

 

 

 目の前に立つ、バックアップの王女は申し訳なさそうに見える。それでも、今の発言を撤回する気はなさそうだった。それどころか、上目遣いでカヤツリを見てくる。

 

 

「一応、おすすめのプランとして。この間の車内での休憩中、小鳥遊ホシノにやったみたいに一緒に寝るというものがあります。そうしてくれれば我慢できます。そうですね……三日くらいは」

 

「……いいよ」

 

 

 王女は、再びニッコリ笑って。分かりやすく指を鳴らした。部屋の壁が消えて、大きく拡張されていく。力を振るうのに、この王女は全く躊躇というモノが無い。

 

 我慢が利かなくなったと判断すれば、言ったとおりにするのは目に見えていた。邪魔が入れば、それがデカグラマトンであっても排除するだろう。今の王女にはそれがきっと出来る。

 

 だから、カヤツリは考える。王女によって、部屋が急速に模様替えされるのを見ながら、頭を回す。

 

 何故、今なのか。我慢できないと王女は言うけれど、何故我慢できないのか。男女のアレコレで普通、いきなり不死を勧めてきたりはしない。根本的な所で、認識が違う様な気さえする。

 

 

 ──私の事を分かって欲しいんです。

 

 

 ふと、最初の発言を思い出す。あれは、王女の気持ちの事だと思っていたが、違うのではないだろうか。認識。王女の様な力持つ者の認識。根本的にカヤツリ達と違う事を理解してほしいのでは?

 

 

 ──オリジナルは言わない事を選びました。怖かったからです。

 

 

 カヤツリが機械に、そうすれば怖くないとバックアップの王女は言った。なら、機械化は手段でしかなく、機械になって初めてその恐怖が分かる? そうして、理解してほしい?

 

 カヤツリは男だから、女の子の気持ちは分からない。カヤツリは人間だから、機械の気持ちは分からない。想像することしか出来ない。でも分かる事もある。一度関わったのだ。中途半端が一番いけない。

 

 なら、機械化の前にやる事がある筈だ。聞けば良い。その気持ちが分かるかも知れない誰かに聞けば良い。

 

 女の子についての目当ては着いている。非常に癪で胡散臭いが、まぁ仕事の範疇として聞いてはくれるだろう。

 

 機械の方も目当てはあった。なにせ、会ったばかりだ。コンタクトも取りやすい。

 

 

「終わりましたよ!」

 

 

 王女はそう言って、新しく出来た部屋へカヤツリを引き摺って行く。言った通り、無理矢理にでも出来るのに、聞いてくれている。

 

 それは配慮であって、気遣い。王女なりに向き合おうとしている。なら、カヤツリもちゃんと向き合わなくてはならない。黒服も、理事も、カヤツリを適当には扱わなかった。だから、今のカヤツリがある。

 

 王女に布団に引きずり込まれ、絡みつかれながら、そんな事をカヤツリは思う。夜はまだ長かった。







 新シナリオに、ゲヘナルートのカヤツリぶち込みたいなぁ……効いても、効かなくても、中途半端に効いても良いかもしれない。
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