ホシノ同級生相棒概念 作:洞鼬
目的地までの道のり。その中で先生は極度の緊張下に置かれていた。
先生は赴任早々、シャーレビルを目指していた。ただし、道中でこんな体験をするとは全く想像していなかった。
数々のビルが並び、舗装された道路。それはここへやってくる前にも見慣れた光景であったが、以前と今では明確な違いがある。
パンパンと、運動会でしか聞いたことのないような音と、花火大会でしか嗅がないような匂いが辺りに蔓延している。
足元には円筒状の何かが大量に転がっていて踏まないようにするのに忙しい。既に先生は何回か踏んで転んでいた。
極度の緊張下にある理由は単純で、先生は銃撃戦の中を潜り抜けて移動しているのだ。火薬の匂いと銃声、地面に転がる薬莢。先生は、こんなものは新聞や写真の中でしか見たことが無かった。
それでも、先生は感覚が発するままに銃撃から隠れ、瓦礫の陰から指示を飛ばす。
「今だ! 投げて!」
叫びの一拍後、瓦礫に顔を隠した先生ですら分かる強い光が一面を覆い、金属音が全ての音を飲み込んだ。続けて、断続的な重い音が響き、しばらく後にそれも止んだ。
「大丈夫ですか。先生」
「ありがとう。助かったよ……」
瓦礫から身を出せば、五人の子供が銃を持って佇んでいた。その内の一人、先生に手を差し伸べる黒髪の少女が持つライフルからは煙が立ち上っている。断続的な銃声の正体はこれだろう。
このキヴォトスでは子供が銃を操っている、それも女性ばかり。その上、銃撃を浴びてもピンピンしているし、目の前の少女の様に翼が生えている生徒もいる。どうにも、ここでは銃撃戦は普通のようだった。喧嘩の延長線上のものでしかないらしい。
──とんでもないところに来ちゃったかも……
そんな風に思い、先生は辺りを警戒しつつ、伸ばされた手を取って立ち上がった。
「シャーレビルまで、まだかかるの?」
「そうですね……もう少しです。もう見えていますから」
白い服を着た眼鏡の少女。七神リンが疲れた表情で呟いている。先生のサポートをしてくれたせいもあるのだろうが。この疲労は、それだけではない事は明白だった。ここに至るまでの事を思い出せば、それは容易に想像できる。
──先生は、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問として赴任すると聞いています。そのためにもまず、シャーレビルへ行く必要があります。
最初、リンは先生を案内してくれていた。キヴォトスに初めて訪れた先生がどういった部活の顧問であるのか、どこへ向かうかを説明するまでは良かった。機嫌が良いとまではいかないが、助かったと言うような雰囲気を感じたくらいだ。
問題は次だった。先生は、周りを警戒してくれている四人の生徒たちを見る。リンが遮ったせいでフルネームはまだ知らないが、このキヴォトスの各学園からやって来た生徒たち。
何のためにやって来たのかと言えば、リンの所属する連邦生徒会の対応についての苦情。それも二回目だと言う。一回目の対応が余程だったのか、各自治区からの声明を携えて来たらしい。
その内容は先生の知るところではないが、リンの表情が段々と険しくなるのを見る限り、良い内容ではなかったのだろう。これから解決に動こうとしていたところに、水を差されたのもあるかもしれない。
リンも初めは、目的地であるシャーレビルまでヘリを手配しようとしてくれていたのだ。ただ、シャーレビル付近が戦場になっているとの知らせと、交通室長の態度に遂に限界を迎えたのが今だった。近場まで飛べるとはいえ、ある程度は徒歩で行かねばならないのは腹が立つだろう。
それでも、先生としては、各学園の立派で暇な方々というのは言い過ぎだと思う。
少なくとも、この原因は連邦生徒会長の不在によるもので、先生がシャーレビルに到着すれば解決するのであれば、先生はそうするだけだ。子供たちを助けるのが、大人の責任であるし、先生自身もそうしたいと思っている。
そう思って目的の方向を見た先生は固まる。
「嘘でしょ……」
戦車だ。戦車が先生の方へと、瓦礫を押しつぶしてやって来ていた。その上、後ろから装甲車もやって来ている。
「トリニティのクルセイダーに、ヴァルキューレの装甲車? ……あれが主犯ですか」
リンが、装甲車の上に陣取っている和服染みた制服の生徒を見て言う。狐面で表情は分からないが、銃剣付きのライフルだけで危険性は分かる。彼女が、不良生徒を取りまとめて暴れている主犯なのだろう。
「先生。戦車と装甲車ですが、ハスミさんの銃なら装甲を抜けるはずです。彼女を主軸に戦闘を進めてください」
「任せてください。一撃で仕留めて見せましょう……なんでしょうか。あれはシャーレビルですよね?」
ハスミが銃を構えつつ、戦車の方を見ている。正確には、奥の方を。リンも先生も、そこに目をやると妙な光景があった。
遠くのビルの頂点。シャーレビルの屋上だろうその場所で、何かが光っていた。白とも黄色ともつかぬ光が収束している。
自己紹介の際、早瀬何某と言いかけていた少女が光へと胡乱な目を向ける。
「ちょっと!? トリニティやヴァルキューレだけじゃなくて、ミレニアムからも何か流出したの!?」
「あれは……まさか!」
リンが何か気づいたのか目を見張るも、それは遅かった。先生たちの前で光が幾度か明滅し、見えない何かが殺到する。
それと同時に、戦車と装甲車が停まったように。少なくとも、先生の目にはそう見えた。
気のせいかと思った次の瞬間、二台がずるりとズレた。二つにずれて、二台はカットされた果物の如くに断面を晒し、切断面から泡を食って、五体満足の乗員が逃げ出していった。
戦車と装甲車の切断面はオレンジに染まっている。空気中に妙な線が残っている所からして、あの走った光は恐らくは熱線。それで空気中の埃と地面ごと装甲を溶断したのだろう。
「ビーム兵器……?」
そうとしか形容できないから、先生は趣味であるロボットの武装名を口にするも、状況が状況で素直に喜べない。何もないなら興奮で胸躍っただろうが、今はそんな場合ではないのだ。
心当たりがありそうなリンに、先生は質問しようとするも、目の前に何かが降ってきた。
狐面の生徒だ。面で表情の読めない彼女が、先生に急接近する。凄まじい移動速度。先生は咄嗟に反応できない。
「先生!」
リンや周りの生徒が焦った声を上げる。それもそうだろう。先生は今、銃剣を喉元に突き付けられていた。
「全く……何度も何度も忌々しい。破壊するのは私の方ですのに……」
装甲車が両断された瞬間に、ここまで跳んできたのだろう。狐面の生徒は、やれやれと言った様子で先生の後ろに回った。
「連邦生徒会の子犬とはいえ、少しは使えるでしょう。あの攻撃の盾になって頂きましょうか」
狐面の生徒は、先生を後ろから拘束する。言葉の通りに盾にしようと言うのだろう。シャーレビルから彼女を狙ったところからして、ビーム兵器の主は先生たちの味方なのだろうから。
今すぐに脱出するべきなのだが、先生は先生で、女生徒と身体が密着しているせいでそれどころではない。
「ん……? どうにも体つきが固いですね……男性?」
体つきで、今先生が誰なのか気づいたのか。狐面の生徒は、先生の顔を至近距離から覗き込む。仮面の奥の瞳が先生を捉えた途端に揺れる。
「あ……ああ」
プルプルと、狐面の生徒が震え出す。途端に先生は自由になる。振り向けば、狐面の生徒が身もだえしていた。
「し、し……失礼いたしました──!!」
謝罪の一言と共に、彼女は走り去ってしまった。来た時と同じような早業で、先生はおろか、リンたちも反応できていない。
「追った方が……」
「いえ、スズミさん。罠かもしれません。私たちの目標はシャーレビルまでの護衛です。放置で構わないでしょう。どうしますか、先生」
「その方が良いと思う。早く、サンクトゥムタワーの制御を戻さないと……」
先生が賛同すると、特に異論は上がらなかった。そのまま前方に見えるシャーレビルへと、足を進める。先を行く四人は警戒しつつ思い思いに話しているが、リンは固い顔で前を睨んでいる。
「そうだ。リンちゃん」
「……それは、私のことですか?」
眉間に皺を寄せて、リンが先生を見やる。先生は努めて気にしない振りをして、言う。
「リンだから、リンちゃんって」
「まさか、あの人から聞いて? いえ……私を揶揄っているんですか?」
リンの目つきが更に鋭くなる。生半可な事を言えば怒るだろう。だから、先生はあっけらかんと言うのだ。
「いいや。ずっと気を張っていそうだったからね。周りの子たちにも、電話の交通室の子にも。もしかしたら、自分以外の全員に」
「……そんな事はありません」
掛けている眼鏡のイメージと同じような頑固さを見せるリンに、先生は問う。
「そうかな? だったら、どうしてあんな悪辣な言い方をするの? 私には、リンちゃんがもう限界の様に見えるよ。初めて会った私が思うんだから相当だと思うよ?」
「それと、先生が私をああ呼ぶ理由に関連性は見られませんが」
「うん。私には気を張らなくていいと思ってね。だから、あんなふうに軽い呼び方をしたんだ。毎日、毎日、七神リン連邦生徒会長代行。そんな風に呼ばれてたら疲れちゃうでしょう」
先生は、リンがもう限界の様に見えた。聞けば、連邦生徒会長は今年の頭から失踪していて、今は四月の頭だ。連邦生徒会長が失踪して、約四ヶ月になる。
前の四人への対応からして、あんな風にいつも誰かが来るのではないだろうか。そして、出来もしないことを責めるのかもしれない。それを、あの鉄面皮で流し続けている。
そんな仕事は子供がするべきではない。などと、そんなことを言うつもりはない。ここはそう言った場所なのだろうから。先生の世界の常識を持ち出すほど、無礼なことはないから。だから先生はこうするのだ。
人は限界に陥ると、人に頼らなくなる。人に頼るために行動する方がコストが掛かると思うようになる。肉体的なコストよりも、精神的なコストを優先するようになる。つまり、全部抱え込むのだ。
人に頼む方が面倒くさい。聞いてもらえるように頼むのに労力を使いたくない。嫌な顔をされたくない。それらを恐れるあまり、自分で処理を優先し、抱えきれなくなり、最後は自爆する。
今のリンは、そうなっていないだけに見えた。そして、リンは一人ではないような気もする。あのモモカと呼ばれていた交通室長も、リンに対する気安さが見えた。リンが何か言えば、ちゃんと聞いてくれるのではないだろうか。
だから、リンがそう出来るようになるまでの避難所位にはなれると、先生は思う。
「だから、私には気を張らなくていいよ。私たちはまだ出会ったばかりだし、リンちゃんに色々教えて貰う立場だからね。私と居る時くらいは気を楽にしてほしいんだ」
「はぁ……そうですか」
先生の言葉に対し、リンの答えは溜め息だった。でも、それに拒絶の意思は感じない。
「連邦生徒会長が先生を呼んだ理由が、少しだけわかったような気がします」
リンは先生を見てはいなかったが、強張っていた表情が少し緩んだのを確認するには十分だった。それはリンも分かっていたのか、雰囲気を変えるため眼鏡を輝かせて話し始める。
「では、シャーレビルに着くまで直ぐですが、その間にこれからやるべきことを説明します」
「何かを取りに行くんだよね?」
連邦生徒会長が、先生の為に何かを用意しているらしい。そうリンが言っていたのを覚えている。それは合っていたのか、リンは頷く。
「それはシッテムの箱と呼ばれるオーパーツです。見た目は普通のタブレットでしかありませんが、製造会社やOS、内部構造も全くもって解析不能。勿論、私たちの誰も起動も出来ませんでした」
「え? だったら……」
先生も起動できないのではないのか。そう言おうとする先生に、リンは首を横に振った。
「連邦生徒会長が言ったのです。あれは先生の物で、サンクトゥムタワーの行政権を回復させることが出来ると。なら、そうなのでしょう。あの人は嘘は言いませんでしたから」
昔を、その時の事を思い出したのか。リンは目線を上へやっていた。またため息を一つ吐いて、呟く。
「次に行政権を回復した後の話ですが、先生は連邦捜査部シャーレの顧問として赴任しました。ですが、このシャーレというのが、中々の曲者なのです。先生は、前方の四人へ言ったことを覚えていますか?」
「えーと、確か、学園の垣根を越えて生徒を集められるとか……」
「覚えて頂けていたようで何よりです。そして、そう出来る事が問題なのです。先生」
覚えていたことが喜ばしかったのか、リンは微笑んでいる。それを先生は一々指摘はしなかった。意味がない。
「このキヴォトスは学園都市です。そう名乗るだけあって、各々の学園が自治権を持っています。先生は学園の許可なく自治区へ立ち入り、そこから生徒を好きなように招集できる。その権利がある。その意味が分かりますか? これは、私たち連邦生徒会にはない権利。それこそ、連邦生徒会長に並ぶほどの権利です」
先生はゆっくりと頷く。これはとんでもないことだからだ。
先生の世界風に言えば、先生が好きなように外国から人材を引っ張ってこれるのだ。それも、その国の許可なくそうすることが出来る。強権と言ってもいいだろう。その権利を先生が持っていると言う事だ。リンが確認するのも仕方ないと言える。
けれど、リンの懸念はそれだけではないらしい。
「それほどの権利を有していながら、シャーレには目的がありません。連邦捜査部と名が付いていながら、その捜査の対象が決められていないのです。SRTと似たようでいて、全く違います」
「SRT?」
聞き覚えの無い単語に、先生はそれを口に出す。リンはと言えば、苦虫を噛みつぶしたかのように、苦い顔だ。地雷を踏んだかもしれない。
「どうしたの? リンちゃん……」
「いえ、これは、私の失策。それを思い出しただけです。詳しくは後で、先生にもお話します。関わりが全くない事もありませんので。本当なら、前方の彼女たちの代わりに、隣に彼女たちが居たのかも……」
今は、触りだけです。そう言ってぽつぽつと、リンは小声でSRT。SRT特殊学園の事を話し始めた。かつてあり、今はもうなくなることが決定した学園のことを。
「……それは、大丈夫なの?」
聞き終えて思わず、先生は聞いてしまった。リンは目線を落とした。
「急に廃校を決定したとして、あの状況下で、すぐにそう出来るわけもないのです。まだ廃校自体は決行されず、SRT自体は残っています。が、連邦生徒会長はいないので活動は出来ません。訓練だけして、終わりを待つだけの状況です。それなのに、勝手に入学して抗議活動を行う生徒もいる始末です。後の事を考えれば大丈夫なはずがない。全く大丈夫ではない。でも、私の所為です。私は、知らなかった。いや、止められなかった……」
それ以上のことを、リンは言おうとしなかった。先生も聞くのは止めた。後でと言うなら、そこで話すのだろう。前方に他人が居る状況で話すことではないのだ。
シャーレビルが大きくなってきていた。歩いているのだ。近づけば大きくなる。そう考えられるだけの時間、リンは黙ったままで。再び口を開いたのは、遠くにビルの入り口が見えてきてからだった。
「話を戻します。シャーレは目的が定められていません。なので、先生の好きなように活動が出来ます。そして、私からお願いしたいことがあります」
リンは歩きながらだからだろう、小さく頭を下げた。そうでなければ、深くしていたに違いない。それほどの雰囲気で、言った。
「今の連邦生徒会には数多の苦情が寄せられています。支援物資要請、環境改善、部への支援要請、SRTについても。時間がある時で構いません。それらへの対応をお願いしたいのです。これの迅速な対応は、シャーレの先生にしか頼めないことです」
声には無力感が溢れている。その理由は何となくであるが推測できた。
リンはシャーレの権利の事を強調した。シャーレの権利は強く、迅速に動くことができる。それは、先生にしか出来ない事だろう。つまり、連邦生徒会の仕事を手伝って欲しいのだ。
それを、先生だけなら兎も角、他の生徒。それも他自治区のいる前では言えなかったのだろう。それは礼儀としてどうなのかという意見もあるだろう。
ただ、先生は嬉しかった。これは、リンなりの精一杯の甘え。助けを求める声なのだ。ああ言った先生が、その手を振り払う訳にはいかないし、そうしてくれたことが嬉しい。
「分かったよ。リンちゃん。出来るだけそうするね」
「ありがとうございます。先生」
出来るだけという言葉に、リンは安心したようだ。先生も一安心する。これで、リンの重圧が減ってくれればとも思う。
「最後に、一つだけ。シャーレの部員についてです」
「え? もう部員が居るの?」
先生は驚きの声を出した。今までの話だと、居ないような響きだったからだ。
「ええ、二名ほど。男女一人ずつです。ですが……」
喜ぶ先生とは対称的に、リンは困ったような声色だ。表情も同じくらいに困り顔。
「一人は、私を含め誰も姿を見ていないのです。名前も妙ですし……」
「書類上にしか存在しない幽霊部員って事?」
「いえ、連邦生徒会長のサインがある以上、それはあり得ません。あの人が確認しているので、存在はするのでしょう。あの人と、彼以外見たことが無いだけで」
「彼? その人がもう一人?」
先生は期待を込めて、聞いてみる。男子生徒がいるかもしれないと言う期待だ。その期待は裏切られなかった。あっさりとリンは頷く。
「はい。先程の援護射撃も彼でしょうし、モモカから聞いたより相手の数が少ないのもそうでしょう。もう一人とは違い、彼は姿をよく見せます。彼が主に活動していたと言っても良いくらいです。とても気難しいですが」
「……活動していた? シャーレは最近に出来たんでしょう?」
確か、そうだったはずだ。最初の説明の時に、リンは言ったはずだった。リンと先生の視線がぶつかった。
「シャーレが発足したのは最近ですが、その前身組織がありました。そこの人員が、そのままシャーレへとスライドしたのです」
「それは、どんな組織だったの?」
「連邦生徒会長の直属組織で、オーパーツの回収と管理をしていたそうです。それを一人で取り仕切っていたのが彼です」
ああと、先生は呟く。だから、リンはシャーレビルへと向かい、この話をしているのだ。オーパーツの管理をしていたから、シッテムの箱を保管していた。そして、向かう先に件の二人が居るから。
そしてリンが伝えたいのは、その彼についてに違いなかった。
「連邦生徒会長が居なくなった後、SRTと同様にその前身組織を解体すると言う案が出ていました。私は勿論止め、それは成功しましたが……」
「どうしたの? それはリンちゃんが頑張ったからじゃ……」
リンはいいえと言った。それだけではないと。ハッキリと。
「私の努力もあるでしょう。必死だったことは否定しませんし、味方もいました。でも、それだけでもなかった」
一旦、リンは言葉を区切った。
「やりやすかったんです。SRTの時とは違ってやりやすかった。解体賛成派の統制はバラバラで、混乱し、互いにいがみ合ってすらした。逆に、私の意見がとても通りやすかった。きっと彼が何かをしたのでしょう。それも目立たずに。彼は、それが出来た。それが私は恐ろしくもあり、羨ましかった」
「どうして?」
「彼の場合はアビドスから。アビドスはキヴォトスの自治区の一つですが……そこから連邦生徒会長が連れて来たからですよ。先生と同じです。お二人はあの人に選ばれたんです」
そう言うリンは、どこか萎れて見えた。初対面で、アタリがきつかったのも少しわかるような気もする。きっと、先生に対しても羨ましかったのだ。
でも、先生からすれば、リンの方がすごいように思う。先生にはリンの仕事はできはしない。それに、今そうなっているのも連邦生徒会長は分かっていたと思うのだ。
「……別にリンちゃんの事を、どうでもいいと思っていたわけじゃないと思うよ? 私は、リンちゃんに頼り切りだし……気にしていなかったら、それこそ私なんか呼ばなかったと思う」
きっとどうでもよかったのなら、先生など呼びはしなかった。どうでもいいのだから、気にする必要はない。先生やその彼を呼んだこと自体が、リンたちへの気持ちの表れだろう。
「自分がいなくなった後も大丈夫なように、少しでも助けになるように。そう思ったんじゃないかな」
そうなら、そもそも失踪するなという話だが。先生はそう言ってはいけない気がした。
「……先生が私たちのために呼ばれたのなら。なら、彼は先生のために連れて来られたのかもしれませんね」
「そうかな。そうなら、申し訳ない気がするよ」
「嫌なら、断っているでしょう。そうでないのですから、先生が申し訳なく思う必要はありません」
少しだけ、リンの元気が出てきたように見えた。彼について、それだけ言えるのなら上等だろう。
彼についても。男性で、連邦生徒会長に連れてこられた。それだけの共通点であるが、先生は俄然話す気が湧いてきた。その様子を確認したのか、リンは微笑む。
「先生は先生らしくすれば良いと思います。私には、連邦生徒会長以外は彼が何を考えているか、何をしているのかは分かりませんでした。だからこそ、私は遠ざけた。でも、そうでなかったのならと思う時もあるので……いえ、やっぱり忘れて下さい……」
そう言って、リンは前を指差す。シャーレビルはもう目の前にあって、入り口が見える。そこに誰かが立っている。
「はぁ……出迎えのようです。いつ到着かは言っていないのに……」
呆れか感心か。リンは額に手を当てて俯いている。先生はそれに苦笑しつつも、興味が勝っていた。
これから、長く付き合う事になる生徒たちだし、残ってくれた生徒だからだ。
先生がどんな人間かも分からないのに、残る事を選んでくれた。それだけで先生としては興味が勝るし、感謝もある。
だから、足取り軽く、先生はシャーレビルへと足を進めた。
プロローグのリンちゃん。会長失踪から一週間で余裕無いとはいえ、誰に対しても口が悪すぎるんだよなぁ……(n敗)