ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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393話 隣の芝

「早く入ってください」

 

 

 入口の前に陣取っていたカヤツリは、代行以外見覚えのない集団をシャーレビルへと迎え入れた。全員が入ったのを確認し、ざっと周囲を見渡す。

 

 一応、周辺は掃除はしたが、残存勢力が居ないとも限らない。あの狐坂ワカモとやらも、まだ周囲をうろついているかもしれなかった。

 

 

「王女」

 

『もう、誰もいないようです。安心していいですよ』

 

 

 頭上を見れば、無数のドローンがシャーレの屋上へと帰っていくところだった。礼を言って無線を切ろうとすると、王女が待ったをかけた。

 

 

『どうするんですか? 本当に来ましたけど』

 

「どうするもこうするも、仕事をするしかない。どう見ても荒事に慣れてない……いや、指揮だけは異常だったが……」

 

 

 屋上でみた戦闘を思い出す。動きは素人のそれ丸出しだが、指示出しは見事だった。相手の先を読んだうえでの最高のタイミング。文句のつけ処などあるはずもない。

 

 

「これが、連邦生徒会長の呼んだ理由か? まさかな……」

 

 

 浮かんだ考えを、カヤツリ自身で否定した。あの食えない人間が呼んだ理由が、そんな即物的なものだとは思えなかった。もっと、特別な何かを期待して、先生をここへと呼んだはずだからだ。

 

 

『しかし、カヤツリ。あの先生とやらを、いきなりあの防衛室長にぶつけるんですか? 荷が重すぎると思いますよ。下手をすれば、私たちはあのいけ好かないピンク頭に、こき使われることになります』

 

 

 そんなのは御免ですよと、王女は不機嫌そうだ。それは、カヤツリもそう思う。あの防衛室長に使われるのは御免被る。だが、それは、カヤだけに言えることでは無い。

 

 

「それは、先生もそうだろう。ド素人に好き勝手されるのは俺だって嫌だ。ただでさえ鍵が探せていないのに、訳の分からん人間の面倒は見たくもない」

 

『それで、様子を見ると? あの女に丸め込まれませんか? 幾ら貴方から見てポンコツでも、一応は防衛室長の座についた女です。外の世界の素人相手には荷が重すぎやしませんか?』

 

「そこはほら、助け舟を出すさ。その上で、見るんだよ。俺の考えを鵜呑みにするのか、全く聞かないのか、何か太い芯があるのか、逆に何にもないのか。それで分かる」

 

 

 どうか? そう確認すれば、王女は納得したのか通話が切れた。時計を見れば、一、二分は過ぎていて、慌てて扉を開いた。

 

 

「以前来た時より随分と綺麗になっていますね……この四ヶ月近く、引きこもっていただけはあるということですか」

 

 

 ロビーに入れば、床やソファーをリンが確認している。そんなリンと、指で埃を確認する姑像が重なる。今は綺麗だからいいが、汚かったら、”最近は忙しかったようですね?”そう言いそうな雰囲気を感じさせる。それは先生も同じだったのか少し咽せていた。

 

 その先生の、あまりの能天気具合に溜め息しか出てこない。

 

 

「そんなことしてないで、代行と先生はついて来てください。他の学園の方々はここで休息を。飲み物と摘まむものくらいは用意してあります」

 

 

 先生が何を言う間もなく、飲み物とお菓子、布巾が置いてある一角を指さして、そのまま足早に奥へと向かっていく。ここまで護衛して来た生徒たちまで連れてはいけない。連れて行って、代行とカヤの話を聞いてしまえば、完全に連邦生徒会との関係に亀裂が入りかねない。

 

 後ろを見れば、先生とリンだけが付いて来ている。残りの四人は軽食の一角に群がっていて、正義実現委員会だろうか、黒の制服の生徒がやたら荒ぶっている。お高い菓子を用意した甲斐があった。

 

 三人で廊下を歩く中、カヤツリは片眼をリンへと向ける。代行はどこか、余裕がある表情だった。先生が来たおかげで問題が解決するお陰だろう。だから、カヤツリは探りを入れた。

 

 

「代行。先生にはどこまで説明を? シッテムの箱と行政権の話はしたわけですか?」

 

「とりあえず一通りは。それとシャーレについて少々」

 

 

 カヤツリと王女について、恐らく話しただろう事は言わないらしかった。まぁ、そうだろう。当人の居ない所で好き勝手に人物評を話す等、無礼千万だ。そんな事を自白して、自分から痛い腹を晒す人間はいない。

 

 

「……そうですか。なら、シャーレオフィスまで行きますよ。そこで渡しますし、都合が良いので」

 

「都合がいいとは? それに今日は随分としゃべりますね」

 

「これが初仕事なので。仕事をまじめにやるのは代行もそうでしょう? だから、ここにいる。違いますか?」

 

 

 乗り込んだエレベーターのボタンを押しながら、カヤツリはリンを盗み見た。やたらと元気だ。いつもなら、どこか恨めしそうな顔でカヤツリを見るくせに。今日はなにかと好戦的だ。

 

 

「ちょっといいかな」

 

「なんでしょうか。先生」

 

 

 リンから目が先生へと向く。普通の、スーツを着た男性だ。黒服とは似てもつかない、粘つかない好奇の目で聞いてくる。

 

 

「君の名前を聞いてもいいかな。私は君が部員だとは聞いたけど、名前はまだなんだ」

 

「兎馬カヤツリです。よろしくお願いします」

 

 

 カヤツリはテキパキ名前を答える。ならば追加の質問をと、先生は言葉を投げてくる。

 

 

「えっと……私が来ない間は、何をしてたの?」

 

「ああ、特に活動はしていません。先生が来るまではシャーレの規則上はそうできないので。精々がこの建物の管理くらいでしょうかね」

 

 

 何というか、カヤツリは拍子抜けしていた。如何にも普通だ。強いて言うなら善良そうではある。だが、それだけだった。

 

 先生との受け答えをしているうちに、エレベーターの勢いが止まる。扉の先をカヤツリは指差した。

 

 

「どうぞ。ここがシャーレのオフィスがある階です」

 

「うわ……広いね」

 

 

 エレベーターの扉が開くと、広大なフロアが広がっていた。オフィスだけでなく、仮眠室やら給湯室もある。もちろん全て清掃済みで、いつでも使える。

 

 感動したのか、きょろきょろとあたりを見渡す先生に、ずいとカヤツリは物を押し付けた。

 

 

「どうぞ。シッテムの箱です」

 

「これが……?」

 

 

 困惑する先生に、カヤツリは不安を覚えた。これを渡せばいいと、伝言にはあったが、この反応。シッテムの箱を起動できないなどという最悪の事態は考えたくもなかった。

 

 だが、その心配は杞憂だったらしい。先生が何かを呟くと、画面に光が灯るのが分かった。

 

 

「教室に……子供?」

 

 

 先生は画面を見て、何かを呟く。ナビゲートシステムでもあるのか。ガイドを聞いているらしかった。同族のよしみだろうか、先ほどから様子を伺っていた王女がぬるりと姿を現す。

 

 

「へぇ、子供が見えるんですか?」

 

「うん……って誰!?」

 

 

 先生が驚いているが、また別の問題が発生していた。王女にはカヤの面倒を任せていたのだ。王女がここに居るのなら、カヤはフリーと言う事になる。

 

 

「ここで、何をしているのですか? 不知火防衛室長」

 

「どこでなにをしようと私の勝手でしょう。七神代行」

 

 

 リンとカヤが睨み合っていた。お互いの間に火花が散る幻視すら見える。しかも、リンはカヤツリへ噛みついてくる。

 

 

「……都合がいいとは、このことですか? なぜここに防衛室長がいるのか、今すぐ答えてください」

 

「……今は、サンクトゥムタワーの行政権を回復させるのが先じゃないですかね。代行。それで先生、どうですか? 上手くいきそうですか?」

 

「えっと……やってみるよ」

 

 

 先生はブツブツ呟きながら、タブレットと悪戦苦闘している。

 

 

「ふぅん……幼児プレイとは、たいしたものですね。幼児であるが故の理由なき肯定は、高い身分の人間には特攻……あまりの中毒性に止められないと言うくらいです。こういうの何て言うんでしたっけ? バブみ幼稚園? バブってオギャってジャンケンポンでしたっけ」

 

「急に何なんだ……」

 

 

 いつの間にか傍に戻ってきた王女が、腹立たしいのか悪態を吐いていた。どうにも、シッテムの箱のナビゲーションシステムと相性が良くないらしい。

 

 そうこうしている間に、サンクトゥムタワーが回復したのだろう。カヤツリの携帯が喚き始めた。先生やリンは喜んでいるが、カヤツリはそれどころではない。

 

 発信者の名前を見れば、予想通りの名前に眩暈がする。

 

 

 ──小鳥遊ホシノ。

 

 

 分かっていた。分かってはいたが、少し待ってほしい。悪いのはカヤツリではない。サンクトゥムタワーが悪いのだ。いや、寧ろアレに依存しているキヴォトスが悪い。だから、カヤツリは悪くない。この三ヶ月、連絡を一つも寄こさなかったのはカヤツリの所為では無いのだ。

 

 内心で言い訳しようとも、何の意味もない。仕方なく、通話ボタンを押した。

 

 

『カヤツリ』

 

「はい……」

 

 

 ダメだと直ぐに分かった。声で分かる。怒っている。心配と怒りが半々という所か。長年の経験で、こういう時に言い訳は逆効果だと、カヤツリは身をもって知っていた。

 

 

『なんで、掛け──』

 

「あ」

 

 

 傾聴するカヤツリから、王女が携帯をひったくった。そのまま、王女が出てしまう。

 

 

「はい、もしもし。今カヤツリは、私(・)と(・)の(・)仕事で忙しいんです。邪魔はしないでほしいですね。三ヶ月と言わず、もっと」

 

 

 王女はホシノと会話しながら、指をさす。その方角を見て、カヤツリは微妙な気分になる。

 

 

「治安維持は、あなたの仕事では? 不知火防衛室長。先生に依頼をするよりもまず、私に報告すべきでは?」

 

「報告はしました。もっと予算を配分して欲しいと。何度も。先立つ物がなければ、どうしようもありませんよ」

 

「安心してください。先生が着任し、サンクトゥムタワーも復旧しました。この治安は一時的なものに過ぎません」

 

「もっとましな予算の使い方をしろと言っているのが分からないと?」

 

 

 バチバチと、さっきよりも激しく二人の間に火花が散っている。二人は前に居る先生のことを忘れたように言い争っていた。

 

 何が起きたなど、火を見るよりも明らかだった。リンの前で、カヤが先生に依頼をしたのだろう。

 

 

 ──連邦生徒会への助力を、お願いしたいのです。ここまでの道のりを来たなら理解して頂けると思いますが、治安維持に手が回っていません。

 

 

 このくらいのことは言ったか。カヤツリが焚きつけたとはいえ、リンがここまで回復しているとは思わなかった。そもそも、ここまで同行してくるとも思ってはいなかったのだが。なら、そうさせたのは、一人だけだ。

 

 

「どうしますか。先生」

 

 

 ぬるりと、カヤツリは先生の横へと移動した。先生は助かったとでも言うように、安堵の表情を浮かべている。

 

 

「止めますか? 無理やりにでもと言うのなら、そうしますが」

 

「カヤツリ君は知っているの?」

 

「……あの二人がいがみ合っている理由ですか? 知ってますよ。ですが、知ってどうするんですか? 私にも、先生にも、直接どうにかできる事柄じゃないですよ」

 

「それでもだよ」

 

 

 へぇと、カヤツリは少し先生を見直した。どこか懐かしさもある。自分の意思が無い木偶の棒ではないらしかった。そうでなったのなら、カヤツリの提案に軽々と乗っただろう。

 

 

「一言で言ってしまえば、単純に互いのスタンスの違いです。一人で立つのか、立たないかの」

 

 

 だからカヤツリは、正直に全てを教える事にした。すると、予想だにしない事を先生が言う。

 

 

「それは失踪した連邦生徒会長のこと?」

 

「……何でわかったんですか?」

 

 

 カヤツリは相応に驚いて、先生を見た。少し悲しそうに先生はリンを見ている。

 

 

「話の流れで聞いたんだよ。リンちゃんは限界そうだったから……」

 

「リンちゃん……? 代行の事をそう呼ぶんですか。そして、それを代行が許したと……なら、防衛室長の方も分かるんじゃないですか?」

 

 

 カヤとリンのスタンスは真逆で、それは失踪した連邦生徒会長のこと。そのうちリンのスタンスを知っているのなら、カヤのスタンスも分かる。ただリンの反対を言えばいい。

 

 だが、それは難しい。カヤツリの様に、時間をかけて読み取ったのではない。先生はこの短時間で、リンからそれを聞き出したのだ。恐らく答えもあっているだろう。

 

 

「カヤは連邦生徒会長のことを気にしていない?」

 

「ちょっとだけ違いますね。防衛室長は連邦生徒会長になりたいんですよ。役職云々ではなく、ああいう人間になりたいんです。随分と捻くれていますが」

 

 

 ああと、先生は納得の声を出して、その答えを口に出す。

 

 

「カヤは連邦生徒会長が帰ってこないと思ってるんだね」

 

「そうです。反対に代行は帰って来ると思っている。だから、捜索隊を出すんですよ。予算を確保してまでね」

 

 

 そう言いながら、哀れなものを見る目で、カヤツリはリンを見る。

 

 実際、哀れだ。恐らくだが、あの連邦生徒会長は自ら消えた。自ら消えたのであれば、早々見つからないだろう。大体が、見つけたところでどうするのか。素直に帰って来ない可能性だってあるのに。

 

 

「代行のやっていることは現状維持です。防衛室長はそれが気に入らない。居ないなら居ないでどうにかするしかない。そう思っている。それが出来るのが代行なのに、代行はそうしない。いや、出来ない」

 

 

 それは、あの連邦生徒会長の座を奪う事だ。それが何よりも難しく、大変で、何を意味するのか。リンはおそらく分かっているのだろう。

 

 

「そうすると言う事は、連邦生徒会長が帰って来ないのだと言う事を認める事になる。だからまだ、出来はしないでしょうね。そして、防衛室長はそれを理解しない。いや、出来ない」

 

 

 あれは、連邦生徒会長の事を理解しているようでいて、出来ていない。連邦生徒会長の座に座れば、ああなれると思っている。確かに、役職が人を形作る。そういう側面もあるだろう。だが、カヤは連邦生徒会長に憧れて、ああなりたくて、行動している。

 

 よく聞く言葉だ。憧れは理解から最も遠い物なのだと。だからこそ、ああやっていられるのかもしれない。

 

 

「いや、本当に足して二で割れば丁度いいんですがね」

 

「その……連邦生徒会長はそれを期待したんじゃないかな。四ヶ月もあって、ある程度仕事は終わらせてあったのなら、協力してことに当たってほしかったんじゃ……」

 

 

 先生の言葉を頭の中でこねくり回して、カヤツリは息を吐く。とてもありそうだったからだ。あの人を見ているようで見ていない。遠くばかり見て近くを見ない。遠視眼の、あの人間ならやりそうだった。

 

 困れば、苦境に追いやられれば、いがみ合う者でも協力する。呉越同舟と言う奴だろうが、そんなものは生き死にでも関わらなければ望めない。

 

 カヤツリとしては、あの二人は、ずいぶん余裕があるとすら思う。手段を選ぶ余裕があるのだからそうだろう。本当に、本当に辛くて苦しいのなら何だって出来る筈。嫌な奴と手を組むぐらいはして見せろと思う。苦しく辛いと言いながら、一番辛くて面倒な事には手を出さない。

 

 いいじゃないか。自分のせいで失踪したわけでは無いのだから。ただ勝手に、あの連邦生徒会長は居なくなった。ただそれだけだ。死んだ訳ではない。

 

 それもあって、カヤツリは自主的に動いてやるつもりはないのだ。大体、カヤツリが口を出したところでヘソを曲げるだけだろう。だってまだ余裕があるから。口喧嘩してプライドを守る余裕がある。

 

 

「まぁ、そんなわけで。どうしようもできないんですよ。あの二人に必要なのは時間です。私たちは外野でしかなく、連邦生徒会長は失踪中ですからね」

 

「それでも、出来る事があるはずだよ。解決まで行かなくとも、負担くらいは減らせるんじゃないかな。ちゃんと向き合う時間を与えたい。ここまで事態を把握しているなら、カヤツリ君は、その方法を知ってるんじゃない?」

 

 

 ──カヤツリ君。私にできることはないの? なんでもいいよ?

 

 

 余裕のあるなしを考えたせいだろう。カヤツリを見る先生と、かつての記憶が重なった。フラッシュバックだ。懐かしさに揺れる心を押しつぶす。

 

 

「……そこまでする必要はありますか? あれはあの二人の問題で、拘りに過ぎないんです。それに首を突っ込む理由はないんじゃないですか?」

 

「あるよ」

 

 

 何故だろう。それは今までのどれよりも確信のある声だった。

 

 

「私は先生だからね。先生は生徒の面倒を見るものだから」

 

「……それは、そうここに呼ばれたからでしょう」

 

 

 ──私はカヤツリ君とホシノちゃんの先輩だからね。先輩は後輩の面倒を見るものだから。

 

 

 再びのフラッシュバックを踏みつぶすが、意味はない。何となく、カヤツリには先生が何を言うか分かっていた。

 

 

「私は、先生だからね。私は自分で決めて先生になったんだよ」

 

 

 負けだ。カヤツリの負けである。ここまで言われてしまえば、もう否定できない。それを否定するなら、カヤツリはユメのことも否定しなければならなくなる。それだけは、どうしてもできないから。

 

 先生はそういう大人なのだ。先生だから。それだけで、それだけの理由で、生徒の問題に突撃していける人間。

 

 そして、連邦生徒会長が選んだ理由はここなのだろう。それは十分なほどに、ここへと呼ぶ理由だった。

 

 

「そうですか。なら、ありますよ。何とかする方法は」

 

「あるの?」

 

「ありますよ。直接的でなく、間接的でいいなら、幾らでも。治安を回復して尚且つ時間稼ぎをしろって言うんでしょう。やってやりますよ」

 

 

 先生は驚いた顔をしている。急にカヤツリが豹変したのだからそうだろう。リンだって、カヤツリの事を気難しいとかなんとか言っていたに違いないのだから。実際、先生のスタンスによっては最低限の事しかしないつもりでいた。

 

 だが、先生が先生である。その理由で立つなら話は別だ。有り余る善性を、その理由で振りかざすなら。ユメと同じように振りかざし続けられるのであれば。その間であれば、本気を出してやる。

 

 これはあの二人のためでない。自分の為だ。

 

 最後までそうできて、カヤツリがそうさせられたのなら。何か吹っ切れそうな気がする。

 

 

「SRT特殊学園の話は聞きましたか?」

 

「うん……でも、もう解体されたって……」

 

 

 なら話は速いとカヤツリは笑う。あの代行も、偶にはいいことをするらしい。

 

 

「まだです。解体が決定しただけで、実行はまだ先。この様子なら、年内に出来るかも怪しい。ならまだ時間はあります」

 

「待って、待ってよ。どうする気なの?」

 

 

 どうする気も何も簡単だ。この状況は連邦生徒会長の失踪に端を発している。リンとカヤのいざこざはどうしようもできないが、今のいざこざを解決することはできる。

 

 カヤの仕事を十分に出来るようにして、リンとまともな勝負ができるようにすればいいのだろう? それなら簡単だ。

 

 

「会長捜索の予算を防衛室に割り振れるようにすればいいんでしょうが。それにおあつらえ向きの部隊がありますよ。猟犬なら、自分の飼い主くらい探せないと」

 

「SRT特殊学園の解体を撤回させるの? でも……」

 

「あれが解体されたのは、責任を負うべき人間が居なくなってしまったからです。でも、今ここに居るじゃないですか。先生は生徒の面倒を見るものなんでしょう? なら、SRTの生徒も見れるはずです」

 

 

 そう、ここに先生がいる。シャーレの先生。ありとあらゆる制約を無視できる超法規機関であれば、連邦生徒会長の代替になる。だが、問題は幾つかある。

 

 

「ですが、今の先生には信用がありません。連邦生徒会長と同等の信用は必要でしょう。そうでなくては、誰も先生に任せてくれない」

 

「つまり、他校の依頼をこなして、信頼を得ることが、カヤの依頼にもつながるって事?」

 

 

 そうですねと、カヤツリは頷いた。むしろ、そうでなくては困るのだ。他自治区に出入りして、鍵を探すのはシャーレの力が必要だから。

 

 

「ただまぁ、最初はコツコツやった方が良いでしょう。現地で協力者を募るにしても、私と王女だけでは限度がありますから……」

 

「なら、丁度いいですね」

 

 

 王女が携帯電話をぶら下げていた。電話からホシノの声が聞こえるが、スピーカーでないので、よく聞こえない。ワザとだろう、王女がホシノの代わりに口を開く。

 

 

「どうにも、アビドスでヘルメット団が急増しているようです。余りに数が多すぎて、弾も足りなくなってきているそうで。まぁ、救援物資要請と言ったところでしょうか」

 

「……カヤツリ君は、アビドス出身なんだっけ」

 

 

 そうですねと、カヤツリは先生の言葉を流した。やはり、リンはカヤツリの事を喋っていたらしい。ただ、丁度良いとは思う。

 

 アビドスにはホシノもいるし、例外的な事象も多い。他の自治区の説明を交えながら、キヴォトスの常識を体験してもらうのにぴったりだろう。王女に感謝の視線を送ると、小さく笑ったウインクが返ってきた。

 

 先生もカヤツリの出身を聞いてきたあたり、乗り気なのだろう。ただ、問題が一つある。

 

 

「とりあえず、あの二人の言い争いを止めましょうか」

 

 

 いよいよ激しさを増してきているリンとカヤの言い争いに、カヤツリはため息を吐いた。

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