ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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395話 鬼ごっこ

 シャーレビルの、カヤツリと王女に割り当てられた執務室。そこで終業を告げるチャイムが鳴った。もう、そんな時間かとカヤツリは紙面から顔を上げる。

 

 

「もう夕方か……」

 

 

 外を見れば、いつの間にか窓の外はオレンジ色に染まっていて、もう少しもすれば暗くなるだろうと言う塩梅だ。終業時刻にふさわしい景色である。

 

 

「はぁ……」

 

 

 だが、カヤツリの口から出るのは溜息だ。シャーレビルでの残業が確定したのだ。その上、今日中に終わるかも怪しいと来ている。溜息を吐きたくもなるし、文句も言いたくなる。

 

 

「ゲヘナとトリニティのカスどもめ……」

 

 

 午前中の会議の混沌具合を思い出し、カヤツリの溜息がまた深くなった。

 

 キヴォトスの各地点に、正体不明のエネルギー反応がある。交通室からの報告に、連邦生徒会は各自治区の代表を呼び出し、協力を願った。

 

 これが、今日の午前までの流れになる。エネルギー反応は巨大なうえ、各自治区にまたがって存在するからだ。アビドス砂漠、D.U.近郊の廃墟化した遊園地、ミレニアム郊外の閉鎖地域、トリニティとゲヘナの境界付近、ミレニアム近郊の新しい都市、そしてD.U.のサンクトゥムタワー。少なくとも連邦生徒会やシャーレが個別に対処できる範囲を超えていた。

 

 会議は順調に進むはずだった。ゲヘナとトリニティの席に気を使い、生徒会長が来ない事が分かっているミレニアムが発言しやすいように気を使い、止めにシャーレも出席するとまで明記した。その効果は絶大で、すぐさま各校から出席の返事が来たことに胸を撫で下ろしたものだ。

 

 だが、良かったのはここまでだった。会議はカヤツリの予想に反して、異様に荒れたのである。

 

 まず良くなかったのは、ゲヘナの態度だった。なんというか万魔殿議長の対トリニティへのヘイトが凄まじい。どうにも、嵌められたとかなんとか。あの発言と調印式にゲヘナが行ったことから鑑みるに。アリウスと、正しくはベアトリーチェと取引して騙されたのだろう。

 

 あの王女が分解した巡航ミサイル。あれを打ち込むことは知っていたから、飛行船に乗っていた。けれど、それにも細工がされていたのは知らなかった。トリニティにも巡航ミサイルが降って来ていれば、ああまでならなかっただろうが現実は違う。トリニティは被害を受けず、ゲヘナだけが被害を受けた。あの議長からすれば、アリウスとトリニティが共同してゲヘナを嵌めたように見えるだろう。

 

 それに加え、今回のエネルギー反応がゲヘナ領内でなくトリニティとの境界なのが災いして、また騙されるのではと疑心暗鬼になっているのだ。

 

 だがそれを、会議の場にまで引っ張ってきて、ワザとらしくそうしてほしくは無かった。トリニティはトリニティで、そんなつもりは無いのだから。そうではないのに、そう決めつけられればいい気分はしない。

 

 

「何が、先生だけにお話ししたいことがあるだ。時と場所を考えてくれ……」

 

 

 あのシスターフッド代表の発言を思い出し、カヤツリは机を引っぱたいた。あれも良くなかった。カヤツリ経由ではダメで、先生でないといけないと頑なに言うものだから。トリニティはシャーレの先生を抱え込もうとしていると、ゲヘナの議長が騒ぎ出す始末だ。

 

 場所さえ考えてくれたら、後日秘密裏にセッティングしたものを。救護騎士団も融通が利かないと言うかなんというか……会議のスケジュールを合わせるのが、どれだけ大変か知らないのだろうか。トリニティ内で行うのとはわけが違う。今もまだ、次回の予定のすり合わせが終わっていない。

 

 イライラしながら、紙面とにらめっこしていると。電話が鳴った。少し期待に胸を膨らませつつ、カヤツリは受話器を取った。

 

 

「もしもし、見つかったか?」

 

『いいや。見つからない。砂狼シロコも先生も、あらゆる監視カメラを総ざらいしているがどこにも映っていない。現状、二名は行方不明のままだ』

 

 

 上階からのデカグラマトンからの返答に、カヤツリはがっくりと肩を落とした。これが、カヤツリの頭を悩ませている問題の二つ目だ。デカグラマトンの言った通り、先生とシロコは行方不明になっていた。

 

 シロコがいなくなったと。アビドスから連絡が来たのが会議前で、もう会場入りしていたカヤツリはどうしようもなくて、デカグラマトンに捜索を頼んでいた。

 

 先生がいなくなったのはその後だ。カヤツリの後に会場入りするはずだったのに、いつまで経ってもやって来なかった。送迎も確かに送り届けたとの報告を受けている。となると、この連邦生徒会内部で先生は消えたことになる。先生が、会議を放ってどこかへ行くはずがないのだ。必ずそうさせた犯人がいる。行方不明になったのも、到着時間から考えれば会議が始まる前。様々な学園が到着していた時間帯で、犯人が絞り切れない。

 

 こういった時は最終手段として黒服を頼るのだが、今日は連絡がつかない。

 

 

「王女がいればな……」

 

 

 カヤツリは王女の席を見る。数日前と全く同じの、綺麗に整頓された机がそこにあった。王女はここ数日いない。エネルギー反応の知らせを聞いてから、深刻そうな顔をして、カヤツリに言うのだ。

 

 

 ──ミレニアムに行って、ケイと会ってきます。しばらく帰れないでしょう。

 

 

 どうにも、あのエネルギー反応についての心当たりがあるような様子だった。ケイに会いに行くのも、その確認のためと考えれば辻褄は合う。そして一度も連絡がないのも、調査が難航しているのだろう。それについては仕方がないと諦めて、カヤツリは気分転換に入った。

 

 気分転換と言っても、デカグラマトンがピックアップした監視カメラ映像を確認するだけだが。シロコと先生が行方不明の今。ゆっくり休める気がしないのだ。

 

 

「なんか、変だな……」

 

『どこがおかしいと言うのだ。先生が送迎のヘリに搭乗しているだけだ。勿論本人だと確認済みだ。砂狼シロコも同様に途中通過のものしかない』

 

「……でも、シロコは仕方ないとして。先生が連邦生徒会に到着した時の映像はない訳だろ?」

 

『何故か連邦生徒会ヘリポートの監視カメラがメンテナンス作業中であったのだ。流石の私も、無いものは探せない』

 

 

 デカグラマトンの声は苛ついていた。鋼鉄大陸の時の全能感を懐かしんでいるのかもしれない。あの時と比べて、今は不便極まりない。たった二人の人間を探せないのだ。もどかしくもなるだろう。

 

 

「だとすれば……連邦生徒会のヘリポートについた証拠は無いんだ。途中で攫われたか?」

 

『いいや。航行経路はシャーレから連邦生徒会への直通。変更はされていない。その状態で寄り道などすれば、他のヘリの予定航路と接触する。そうしていれば、今頃はクレームの対処に追われている筈だ』

 

「だよなぁ……」

 

 

 あれは電車の時刻表のようなものだ。勝手に変えれば接触事故を起こす。変更された履歴もない。全員がグルかと思って、所属を調べても殆どバラバラだった。

 

 

「まるで、人体消失マジックだな……」

 

『フン。貴様、本物だと思っているのか? アレはただの誤魔化しのトリックに過ぎん』

 

 

 そんなことは百も承知だった。トリックだってもちろん知っている。アレは、箱に抜け道か隠れ場所があるのが常だ。そればだいたい目立たない場所にあって、台座か何かに偽造されているだけで……

 

 

 ──偽造?

 

 

 全身に電流が走り、カヤツリは資料を漁りだす。

 

 

『どうしたというのだ。何を調べている』

 

「ヘリコプターの型」

 

 

 困惑した様子のデカグラマトンに答えを返す。シャーレの備品についての書類を引っ張り出したカヤツリは納得の声を上げる。

 

 

「やっぱり……大きさが違う」

 

 

 書類の通りであるとすれば、もう少し小さい。それが違和感として引っかかっていたのだろう。これが分かれば、種も簡単に割れる。

 

 

「途中で入れ替わったな」

 

 

 デカグラマトンの言う通り、これは手品だ。先生を乗せたヘリと、そうでないヘリを入れ替えた。そうすれば、連邦生徒会には先生の乗っていないヘリが到着し、先生の乗ったヘリは誰も注目しない。

 

 ヘリコプターなど外装を似せて、連邦生徒会のロゴでも張ってしまえば早々気がつかない。ロゴは入れ替わった後に引っぺがしてしまえばいい。誤算は、先生が普段使用しているのは、SRTのお下がりの特注だと言う事。それを知らないでいたから、大きさを計算に入れなかった。

 

 

『……対象のヘリとすれ違う航路が一つある。今、追跡が完了した。恐らく本命だろう』

 

 

 カヤツリの前のモニターが勝手に点いて、映像が流れる。ヘリから降りたロボットたちが、人一人が入るくらいの袋を持って、ヴァルキューレの留置所へと入っていく。

 

 

『入れ替わった航路の申請元はカイザーPMC。ヴァルキューレの留置所を使用できるのも違和感はない』

 

「チッ……まだズブズブってことか」

 

『脅されたのかもしれん。過去の関係を公にするぞとな。公安局との癒着があったのだ。末端まで浸透していてもおかしくはあるまい。むしろ、ここからだったのかもしれん』

 

 

 デカグラマトンの見解に、カヤツリはノーコメントを貫いた。こうなった経緯などどうでもいい。ここからどうやって先生を引っ張り出すかが問題だった。

 

 安全を期すためにも、人手が欲しい。腹立たしい事に、あの場所はD.U.地区内だから、ヴァルキューレの管轄。だが、どこまでが味方で、どこまでが敵なのかも分からない。

 

 こういう時に、先生であれば信用できる生徒を呼び出せるのだが。カヤツリはそうもいかない。対策委員会を呼び出してもいいが、距離の問題があるし、シロコ捜索の手を緩めさせたくはない。王女も今は手が離せない。最終的に時間が無い。

 

 ともなれば、いつものやり方に帰結する。カヤツリが一人で突っ込むと言うやり方に。準備のため、立ち上がった瞬間に急に電気が消えた。直ぐに非常電源に切り替わり、明るくなる。

 

 

『……異常事態だ』

 

 

 そう言って、デカグラマトンが映像を弄った。

 

 

「……こりゃあ、マズいな」

 

 

 カイザーPMCの部隊が、D.U.地区を練り歩いていた。向かう先は景色で分かる。サンクトゥムタワーだ。そして止めを刺すように、デカグラマトンが告げる。

 

 

『……立ち上がったところ悪いが、見るがいい。もう一つ、あまり良くはない報せだ。ここにも来ている』

 

「先生の失踪は一連の作戦ってことか……タイミングが悪いんだよ」

 

 

 ガンラックを開けながら、カヤツリは悪態を吐く。あのエネルギー反応は別件であろうが、先生の失踪からサンクトゥムタワーと、ここシャーレへの襲撃は繋がっているだろう。そして、送迎にカイザーPMCが紛れ込んでいたのなら、連邦生徒会に裏切り者が居る事になる。

 

 そして最悪なのは、先生がおらず、信用できる戦力が全く確保できないと言う一点。それを考慮するなら、カヤツリの動き方は面倒なものになる。

 

 

「ここに来るカイザーPMCを蹴散らして、先生の監禁されている留置所まで突撃。そのまま戦力を集める時間を稼ぎ、サンクトゥムタワーのカイザーPMCを殲滅する……一人でか?」

 

『敵はカイザーPMCなのだろう? であれば、大部分の兵器の無力化は可能だ。そこを貴様が倒していけばよい』

 

 

 デカグラマトンの言う通り、戦車やパワーローダーは止めるか、寝返らせてくれるだろう。少し何とかなりそうな気もする。少し展望が見えて、もう一つのガンラックに向おうとした矢先、その大型のガンラックが爆発した。

 

 

「うおっ!? 何だ!?」

 

 

 慌てふためくカヤツリの前には、ビナーコアの載ったレールガンが滞空していた。ここ一ヶ月で随分と情緒が発達しているのは知っていたが、様子がおかしい。普段は人懐っこい大型犬のような感じなのに、今はどこか警戒しているような雰囲気だ。グルルと唸る幻影すら幻視できた。

 

 

『……構えよ。何かがここに来ようとしている。電話ではなく、通信に切り替えろ』

 

「何か?」

 

 

 デカグラマトンにしては珍しい。曖昧な表現だった。指示に従い聞き返すカヤツリに、どこか固い声で、デカグラマトンは言うのだ。

 

 

『何かだ。妙な気配のする何かが近づいている。来るぞ!』

 

 

 ビナーコアとデカグラマトン、カヤツリが見つめる先に黒い穴が開いた。それをカヤツリは見たことがあった。使い手をよく知っているからだ。

 

 

「黒服……?」

 

「違います。あのような者と一緒にされては困りますね」

 

 

 ずるりと音を立てて、ベアトリーチェが現れた。数カ月ぶりの再会であり、お互いにいい関係ではない。それは向こうもそうなのか、カヤツリを見る視線には敵意しか感じない。

 

 カヤツリとしては、勘弁してほしいと言う思いが勝る。状況が混沌としている所に爆弾を投げ込まれた気分だった。目的など一つしかなさそうなものだが、カヤツリは我慢して聞いた。

 

 

「じゃあ、何しに来た? 今忙しいんだ。用が無いなら帰ってくれ」

 

「用ならありますとも。あなたを排除するという。大事な大事な用事がね?」

 

 

 言うなり、ベアトリーチェは扇子を持った腕を薙いだ。嫌な予感と共に頭を下げると、真上を光線が薙ぎ払っていった。あの地下通路より、先生を相手にしていた時よりも、随分と火力が高い。

 

 カヤツリが聞いてもいないのに、ベアトリーチェは勝手にべらべら話し出す。

 

 

「私の計画は失敗し続けてきました。それは、あなたの妨害があったからです。あなたがあの先生に、私の事を話さなければ、全ては上手くいっていたのに……」

 

 

 花のつぼみのような頭が、捻じれて花開いていく。腕が細く伸びて、部屋を押し破っていく。あの時と同じ姿だが、嫌な気配だ。ここに居てはいけないモノの気配。暗く、冷たい何か。デカグラマトンの言う、妙な気配がまざまざと感じられて、肌が粟立つ。

 

 完全に開いた、花のようになった頭で、ベアトリーチェはカヤツリを見下ろしていた。

 

 

「お陰で、黒服たちにも裏切られ、ゲマトリアを除名され、クソガキに襲撃を受ける始末です。ですが、色彩の力を得た私に敵はない。全て退けましたとも」

 

 

 つまりは、全てを失ってここに来たのだ。黒服相手に何をやらかしたかは知らないが、看過できないレベルの不利益をもたらしたのだろう。それで追いだされて此処にいる。やることが、カヤツリへの復讐しか残っていないのだ。

 

 

「退けた? 逃げたの間違いだろうに」

 

「このクソガキ……」

 

 

 そんなベアトリーチェの泣き所を、カヤツリは思い切り蹴り上げた。予想の通りに、ベアトリーチェの敵意が殺意へ変わる。

 

 

「お前の性格上、殺したなら、殺したって言うもんな? 言わないってことは、そういう事だよ」

 

 

 それに気づかないふりをして、カヤツリはさらに煽る。煽るたびに殺気が増していくが。それでいいのだ。ここで、戦闘は出来なかったから。

 

 上階にはデカグラマトンの本体がある。ここで戦えば、流れ弾がデカグラマトンを破壊する恐れすらあった。開幕の薙ぎ払いもかなり危なかったのだ。今だけは、先生がこの場に居ない事に感謝していた。

 

 そしてこの物言い。カイザーは関係ないだろう。図ったかのようなタイミングだが、全部別々なのだ。それなら、良い手が一つだけあった。ある意味で、戦力不足を解消できる一手だ。

 

 そのため、不意打ちとして、ハンドガンの抜き撃ちを叩き込む。が、あまり効いていない。黒い幕が、弾を消し去った。

 

 

「効きませんよ。色彩の力を得た私には、そんな豆鉄砲など効きません」

 

 

 何かを宣うベアトリーチェは余裕だが、それでいい。必死になられても困る。ここで暴れられても困る。良い感じに怒らせて……

 

 

「ああ、そういえば。あなたの後輩。砂狼シロコでしたか。行方不明のようですね?」

 

 

 ベアトリーチェの言葉に思考が冷えた。睨み返せば、それが心地いいのか。しゃがれた笑いが響く。

 

 

「気になりますか? 大事な大事な後輩と言うではないですか。心配でしょう?」

 

「何した?」

 

「私は何もしていませんよ。寧ろ私は襲われた側です。しかし、哀れですねぇ……反転してしまったようで。あれでは元になど戻りませんよ。ただ死をまき散らすだけです。お陰で、多少私も使えますが……」

 

『真面目に聞くのではない! ハッタリだと言うのが分からぬ貴様でもあるまい!』

 

 

 耳元で、デカグラマトンが何か言っているがよく聞こえない。ただベアトリーチェの声だけが耳に届く。シロコが反転? 戻らない? 哀れ?

 

 

「おやおや? ショックでしたか? でも、あなたの所為ではありませんよ? ただ、あなたは間に合わなかっただけで──」

 

 

 ベアトリーチェに、フルチャージしておいたレールガンを撃ち放つ。砲撃は床を吹き飛ばしながらベアトリーチェに迫るが、あっさりとベアトリーチェは砲撃を躱した。

 

 

「やはり、幾ら大人ぶっていても、ガキはガキですか。コソコソとチャージしていたのを無駄にするとは」

 

 

 ケタケタ笑って、ベアトリーチェが手を翳す。また光線を撃とうと言うのだろう。だが、それでいい。そろそろ限界だからだ。

 

 

「さっさと……な!?」

 

 

 音を立てて、ベアトリーチェとカヤツリが居る部屋の床が抜けた。ベアトリーチェが暴れ、カヤツリがレールガンを撃ち放ったのだ。崩れない方がおかしい。落ちないように踏ん張るベアトリーチェとは違って、分かっていたカヤツリは飛び蹴りを放つ。

 

 

「墜ちろ!」

 

「ガアッ!? この! グ!?」

 

 

 カヤツリは落下しながら、ベアトリーチェへ掴みかかる。階下に落下しても、顔面に拳を叩きこんで再び落下させる。何度も何度も、拳を振るう。

 

 ベアトリーチェの言った事は、どこまで真実か分からない。でも分かる事もある。シロコはベアトリーチェたちに何かをしたのだろう。妙な物の影響下にあって、通常の状態でない。

 

 はったりであるのなら、死んだとか、殺したとか、監禁しているとか。それらしいことを言えばいい。だが、言った言葉はやたらと具体的でオードソックスでないもの。

 

 なら、ある程度は本当に起こった事なのだろう。ならばやるべきことは決まっている。ベアトリーチェを痛めつけて、知っていることを吐かせるだけだ。

 

 

「何だ!? 上から何かが!?」

 

「排除目標だ! 作戦を開始する!」

 

 

 もう床が抜けなくて。不思議に思って辺りを見渡せば、カヤツリとベアトリーチェは囲まれていた。囲んでいるのはカイザーPMCで。丁度良いとカヤツリは思う。

 

 下のベアトリーチェが暴れ出す。一息に離脱すると同時に、周囲を光線が薙ぎ払う。悲鳴と共に、カイザーPMCが蹴散らされていった。

 

 

「よくもやってくれましたねクソガキ!」

 

 

 苛立ちを、ベアトリーチェが天に向かって吠えている。此方へと向かってくる。周囲のカイザーPMCを気にもせず、踏みつぶし、薙ぎ払いながら。

 

 

「デカグラマトン。先生のモモトークのアカウントを乗っ取るなりして、先生の居場所を生徒だけに分かる様に流せ」

 

『貴様はどうするのだ。まさか……』

 

「そうだよ。このままサンクトゥムタワーまで向かう。ここはもう、そっちだけで大丈夫だろ?」

 

 

 戦力が足りないなら、連れてくればいい。ベアトリーチェの攻撃に、カイザーPMCを巻き込んでしまえばいいのだ。今の様子を見て、協力関係でない事は察せられる。ベアトリーチェの性格上、ここまでカヤツリに痛手を負わされれば、カイザーPMCと新たに協力関係も結べない。

 

 

『貴様の負担はどうすると言うのだ! ここからサンクトゥムタワーまで、30㎞もの距離があるのだぞ!』

 

「やるしかないだろ。先生が居ればいいが、今は監禁中だからな。王女も連絡がつかないんだろう?」

 

『そうだが……』

 

 

 デカグラマトンは口籠る。今はこうすることしかできない。他に名案はない。デカグラマトンが何かを呟くが、カヤツリは聞こうとも思わなかった。もう、時間切れだ。

 

 

「許さない、絶対に許さない! クソガキ! じわじわとなぶり殺しにしてくれる!」

 

 

 ベアトリーチェが大声を上げて、此方へ向かってきていた。それにカヤツリは背を向けて走り出す。

 

 長い長い、サンクトゥムタワーまで続く地獄の鬼ごっこが始まった。

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