ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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3話 初仕事

 支度を終えたカヤツリはアビドス分校の校門へ急いでいた。小鳥遊との集合場所がそこだったからである。ただでさえそりが悪いのだから、小鳥遊の後に着いたら何を言われるか分かったものではない。罵られて喜ぶ趣味はないのだ。

 

 急いだ甲斐もあり、校門に人影はなく小鳥遊はまだ来ていないようだった。校舎の方を見上げると生徒会室に2人分の人影が見えた。まだ、あそこにいるらしい。

 

 

「今日は厄日か」

 

 

 カヤツリはため息ともに呟く。今日は朝から散々だ。当初の予定では挨拶を済ませたら、オーパーツの発掘の準備をするつもりだったのだ。

 

 一昨日の依頼の地図は、原本はオーナーに渡したがコピーは作ってある。昨日の努力が無駄になってしまった。

 

これからのことに憂鬱になったカヤツリは校門に凭れてぼんやりと朝日を見つめる。まだ朝早く丁度いい暖かさの日差しを感じながら、さっきの先輩の言葉がリフレインした。

 

 

 ──”私はカヤツリ君に手伝ってほしいの”

 

 

 最初に金銭の話を出したのは失敗だったかもしれない。今落ち着いて考えるとそう思えた。最近は大人との取引ばかりで、どうしても考え方がそっち側によっていた。大人相手だと金銭とか価値の話を出さないと話にならないから、いつもの通りにやってしまったのだ。

 

 あの時は本当に意味が分からなかった。彼女たちは借金で苦しんでいるはずだった。金は喉から手が出るほど欲しいはずだ。だからカヤツリは金銭を提示したのだ。まさか断られるとは思わなかった。それどころか、手伝いの方がいいと言うのだ。少なくとも、そういう事を言えるのはアビドスでは珍しいくらいまともな方だ。

 

 一昨日のことや小鳥遊の対応もあって、嫌なことを思い出してひどい対応をしたが、彼女たちはここの大人とは違って話せる方の人物だったのではないだろうか。少なくとも小鳥遊はともかく先輩はそうだったのではないだろうか。カヤツリは対応を間違えたことを後悔した。

 

 ただもう過ぎたことは仕方がない。カヤツリは切り替えていくことにした。今できることをやるしかないだろう。生徒会室の窓をちらりと確認するとまだ人影が2人分ある。小鳥遊が来るまで時間がありそうだった。

 

 その間にカヤツリはオーナーに電話を掛ける必要があった。一応、校庭の方を向いて小鳥遊に見つからないよう確認する。いつものように数コールですぐに通話がつながった。

 

 

『依頼の進捗報告には早いですね。どうかしましたか』

 

「別口で少し頼みごとがありまして、この場所の図面が欲しいんです」

 

 

 カヤツリはチラシの指定場所の図面が必要だった。いつもは事前に自分で用意するのだが、今回はその暇がないため泣く泣くオーナーに頼むのだ。オーナーは仕事が速く正確だが、その分割高だった。

 

 

『ええ、いいでしょう。何時ものように後で料金は請求しておきますよ』

 

 

 思いがけない出費にカヤツリの懐が痛むが背に腹は代えられなかった。そんなカヤツリにオーナーが言葉を続けた。

 

 

『ああ、それと、アビドスの件で言い忘れていたことがありまして。一応の確認を。と』

 

 

 オーナーにしては珍しかった。普段からそういう所はきっちりしているのだが、何の話だろうか。

 

 

『依頼に期間を設けたでしょう?あれは実験の上で最低限の期間ですので。意味が分かりますか?』

 

 

 昨日の会話を思い出す。確かに言っていた。やけに中途半端な期間だと思っていたが、そういった意図があったらしい。

 カヤツリは嫌な疑問が思い浮かび、オーナに質問した。

 

 

「あの。1年たたないうちにアビドスが廃校になった場合はどうなるんです?」

 

『もちろん依頼は失敗ですよ。依頼内容は貴方が1年間アビドス高等学校にいることですから。廃校になったら、そこはもう学園ではありませんからね』

 

 

 ──本当に今日は厄日なんじゃないか。カヤツリにとって最悪の報せであった。

 

 つまり、何らかの要因で生徒会の彼女たちが返済に失敗した場合、自動的にカヤツリの依頼も失敗になるのだ。

 

 いつの間にか運命共同体にされていた。こういうのが嫌だから一人でいたいのだ。カヤツリは他人に迷惑をかけられるのもかけるのも嫌いだった。

 

 

「……一昨日の依頼はそのためですか?」

 

『ええ、流石にその土地でまともな仕事を見つけるのは難しいでしょう?貴方のことですから、地図も覚えて複製くらい作るでしょうし。私からのささやかなサービスです』

 

 

 しれっと言うオーナーにカヤツリは呆れた。どうも、ずっと計画されていたことだったらしい。相変わらずオーナーはオーナーだった。どうせ電話の向こうで薄ら笑いでも浮かべているのだろう。そんな顔のつくりをしていないだろうが。

 

 

『それでは、依頼の成功を祈っていますよ。黄昏のセ──』

 

 

 オーナーが喋り終わる前にカヤツリは途中で通話を切った。そのまま校門に凭れて悪いことばかりではないと思い直す。

 

 生徒会の手伝いをすることになったのは、ある意味よかったのかもしれない。当初の想定通りに、彼女たちと関係を持たずに発掘ばかりしていたら、自分の手の届かないところで詰んでいたかもしれない。

 

 いくら発掘に専念したとして、それだけで9億も稼げるとはカヤツリは思わなかった。

 

 それにあのチラシの依頼をまともなものだと思っている生徒会長だ。第一、思想や性格はともかく悪意を知らなさすぎる。借金も騙されていないか心配だった。

 

 

「何してるんです。早く行きますよ」

 

 

 声の方へ振り向くといつの間にか小鳥遊が校舎から出てきていた。制服の上から防弾ベストを着て、砂漠でも見たショットガンを持っている。準備は万端のようだった。

 

 ただカヤツリは小鳥遊へ確認することがあった。そのままでは時間がもったいないので依頼の指定場所へ歩きながら小鳥遊へ問いかける。

 

 

「確認だけども、小鳥遊はあのチラシの仕事が危ないのは分かってるのか?」

 

「分かってるに決まってるじゃないですか。あんなのに引っかかるのはユメ先輩くらいですよ」

 

 

 その返事を聞いてカヤツリは安心した。ただ、これからどうするのだろうか。馬鹿正直にチラシに書いてある場所に行けば禄でもないことになるのは目に見えている。それに生徒会室で散々煽ったのにもかかわらず、噛みついてこないのが気になった。

 

 

「それでどうする。わざわざ捕まりに行くのか」

 

「潰しに行きます。学区内の治安維持も仕事なので。それに放っておけばまたユメ先輩が引っかかるかもしれませんから」

 

「その装備で?」

 

 

 小鳥遊はどう見ても、ショットガンくらいしか目立った武装を持っていない。拳銃あたりは持っているかもしれないが、敵がいるだろう拠点に襲撃をかけるにはいくら何でも軽装備過ぎやしないだろうか。

 

 

「これで十分です。むしろ、貴方の方が荷物が多過ぎじゃないですか」

 

 

 カヤツリは小鳥遊の身の丈ほどもあるケースを背負っている。普段なら必要最小限しかもっていかないが、今回は依頼がきな臭く詳細も不明なので、使いそうなものは全部持ってきているのだ。今朝、道具を持てるだけ持っていこうと思った自分を褒めてやりたいくらいだった。

 それにカヤツリは小鳥遊の対応が普通なのが不思議だった。

 

 

「ぼったくり呼びはやめたのか。梔子先輩に何か言われたか」

 

「ええ、まだなにもしていないんだから。そんな風に悪く言っちゃだめだと言われましたよ」

 

 

 やはり出てくるのが遅かったのは先輩と何かを話していたからだった。そのまま小鳥遊は相変わらずの怒ったような口調で続ける。

 

 

「私はあなたを信用できません。怪しすぎますから」

 

 

 ──だろうな。カヤツリは納得していた。それは今日の小鳥遊の態度を見ていれば一目瞭然だった。それも小鳥遊視点で考えれば納得できる話ではあるのだ。先輩と二人きりで学園の借金返済に精を出していたら、時期外れの新入生がやってくる。そいつは借金返済を手伝いに来たわけではない。

 

 しかも、その新入生は入学の2日前に砂漠で会っており、ぼったくられかけた挙句に銃撃戦に発展しかけている。何か作為的なものを感じても仕方ないだろう。こいつは何が目的なんだと疑うのも無理はない。

 

 カヤツリなら、砂漠での復讐か、学校内の貴重品目当ての泥棒かと思う。

 

 

「ただ、ユメ先輩は貴方を信用しているので。一応、私も先輩を信じて最低限の信用はします」

 

「それでいい」

 

 

 カヤツリは小鳥遊に同意する。さっきあれだけやりあったのだ。今更、小鳥遊といい関係が築けるなど無理に近いだろう。後ろから撃たれないだけありがたかった。

 

 

「ただ仕事はきっちりやる主義だ。そこは信用して欲しい」

 

「そうだといいですが、さっさと行きますよ」

 

 

 2人は依頼の指定場所に向かって足を進めた。

 

 

 

 

 小鳥遊と2人で向かったチラシの指定場所はアビドス領内のビルだった。アビドス領内ではあるがここはほぼスラム街になっている。廃墟と化した家屋が多く目的のビルはその中にひっそり建っていた。

 

 ビルは学生が入るような雰囲気ではなく、離れたこの場所からでもまともではない場所というのが分かる。カヤツリの今迄の経験上からいってもまともな仕事が待っているとは思えない。隣の小鳥遊はビルの入り口の方へ目線を送って言った。

 

 

「じゃあ、行きますよ」

 

「待て待て待て、そのまま行く気か?」

 

「そうですが?」

 

 

 そのままビルへ突撃しようとする小鳥遊にカヤツリは待ったをかけた。止められた小鳥遊は不満そうな顔でこちらを向いた。それを見たカヤツリは大きい溜息をついた。とんでもない脳筋である。事前の準備もなしに突撃しようとしている。

 

 

「まさか今までもこんなことしてたのか?」

 

「ええ、それで事足りるので、今回も大丈夫でしょう」

 

 

 冗談かとカヤツリは思ったが、小鳥遊はどうやら本気らしい。見た目は小さい少女だが相当やるようだった。この体格だ。相当すばしっこいのだろうか。戦うとしたらカヤツリとはかなり相性が悪い。一昨日、あのまま銃撃戦になったら負けていたかもしれなかった。本人ができるというのだから、このまま突っ込ませてもいいのだが、今は一応仲間の扱いだ。カヤツリも仕事をしなければならない。

 

 

「俺も手伝う」

 

「私についてこれるんですか?」

 

「別に隣で銃を撃つだけが手伝いじゃないだろ。ほら、貸してやる」

 

 

 カヤツリは小鳥遊に背中のケースから無線機とヘッドセットを渡した。自分との通信用である。それを見た小鳥遊は不思議そうな顔をしている。

 

 

「何ですかこれ」

 

「無線機。これで敵の数とか配置とか案内する。囲まれたりしたくないだろ」

 

 

 カヤツリは続けて、ケースの中から自分の端末とドローンを取り出して起動する。小鳥遊を置いてビルに近づくと、外からトイレの窓をこじ開けてドローンを放り込んだ。そのままカヤツリは小鳥遊の所へ戻ってくる。

 

 

「何してるんです」

 

「突入の準備だが」

 

 

 問いかける小鳥遊に、端末の画面でドローンを操作しながら、カヤツリは答えた。オーナーからは図面がデータで届いており、それを元にドローンをビルに侵入させる。ハッキングのためにはトイレ内の換気口から警備室までドローンを運ぶ必要があった。

 

 アビドスのビルは機械化が他の地区に比べて進んでいない。衰退の時期から止まったままなのだ。ミレニアムあたりなら、機械化が進んでおり、難度は高いものの外からでもハッキングできただろうが、アビドスはこんな面倒な手間を踏む必要があった。

 ドローンも四つ足型のステルス機能付きのお高い奴である。オーナーから購入したもので、カヤツリは重宝していた。

 

 換気口を抜け警備室にドローンが侵入したが、警備室にはロボットが1体詰めていた。

 

 

「どうするんですか。これじゃどうしようもできませんよ」

 

 

 耳元で声がしてカヤツリは飛び上がった。いつの間にか小鳥遊が横に移動して画面をのぞき込んでいたからである。

 

 

「驚かせないでくれ。何とかするから見てろ」

 

 

 カヤツリはドローンを操作して、ロボットに取りつかせる。ロボットは抵抗するが、取りついたドローンから直接プログラムを流し込まれ昏倒した。しばらくは目を覚まさないはずだった。

 

 カヤツリはそのままドローン経由でハッキングした。監視カメラの映像を端末に表示する。映像を切り替えると、各階に何やら物々しい警備ロボットが詰めている。1階と最上階は普通のオフィスなのだが、その他の階は監禁部屋なのか、殺風景な部屋が広がっていた。

 

 チラシに従った場合、受付から最上階までエレベーターで直行させられる。そのあと下の階の警備ロボットが押し寄せてくるのだ。逃げ場はないし、おそらくだが乗ってきたエレベータも遠隔で止められるようになっている。中々悪辣な罠だった。

 

 

「禄でもない建物だ。チラシで釣って、最上階まで誘導して拘束、監禁。身代金の回収ってところか。できなかった場合はまあ考えたくないな」

 

 

カヤツリの手際をみて、小鳥遊は言葉を零した。

 

 

「そんなこと出来たんですか」

 

「出来るようにしたんだ。で、どうする。手伝いはいるか?」

 

 

 カヤツリが端末を使いだしてからずっと小鳥遊は何か考え込んでいるようだったが、最終的に納得したのかカヤツリの案に賛成した。

 

しばらく小鳥遊がビルの入り口前で待機するのをカヤツリは待っていた。待ちくたびれた頃に無線に連絡が入った。

 

 

『準備できましたよ』

 

「手順の確認だが、まず1階のロボを吹き飛ばせ。そのあとに異変を感じた警備ロボットが下りてくるはずだ」

 

『それじゃあ、私が突撃するのと変わらないじゃないですか』

 

 

 不満そうに言う小鳥遊をカヤツリは宥める。

 

 

「エレベーターはこっちで止めておくから、階段から降りてくる奴だけ潰せばいい。一度に相手できる数は1-2体くらいになるように、各階のドアをロックして時間稼ぎする。一度に10機以上狭いところで相手したくないだろう?」

 

『まあ、確かにそれは手間ですが……』

 

 

 そのまま小鳥遊は指示通りにビルの中に入る。それを察知した1階のロボットが反応したが、小鳥遊はそのまま発砲した。受付のロボはそのまま吹き飛んでいく。カヤツリの言ったとおりに階段の方が騒がしくなってきた。それと同時にエレベーターも上階から降下してきている。警備ロボが乗っているのを確認したカヤツリはエレベーターを止めた。

 

 

「小鳥遊。階段からロボが2機ずつ来る。それが5セットだ」

 

 

 カヤツリの無線の通りに階段から2機のロボが現れる。物騒な武器を構えているが、角待ちしている小鳥遊の方が反応が速い。散弾を叩き込んで黙らせていく。処理速度がカヤツリの想定よりも速い。ドローンでの手助けはいらなさそうだった。次々とロボを処理している小鳥遊の呟きが無線から聞こえた。

 

 

『楽でいいですね』

 

「だろう?もういい。あとはエレベーターの中のやつだけだ」

 

 

 カヤツリはエレベーターを遠隔で1階まで下ろす。中のロボットは、扉が開いた瞬間に小鳥遊がショットガンの連射を撃ち込んで処理していた。鮮やかな手際だった。

 

 

「最後に、警備室のドローンを持ってきて欲しい。それで終わりだ。外で待っている。お疲れ様」

 

 

 カヤツリは小鳥遊にねぎらいの言葉をかけた後、一息ついた。まあまあスムーズにいったのではないだろうか。これなら小鳥遊も文句はそんなにないだろう。頭上に高く上った太陽を見上げてカヤツリはそう思った。

 

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