ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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練習を兼ねたのと、筆が乗ってここまで書いたけど、大丈夫かなこれ……。


39話 枕とマフラーと二人

 もうあと一ヶ月で、一年が終わろうとしていた。思えば時間が経つのは案外早いもので、カヤツリの足もある程度は治って、普段通りの生活に戻る事ができていた。

 

 対策委員の部室でカヤツリとホシノは、特にやる事も無いため、だらだらしていた。後輩二人は今は居ない。少し前にシロコの家が決まって、生活必需品やら小物やらを買いに行っているからだ。

 

 カヤツリは女性のそういった物は、よくわからないから残った。ホシノはホシノで、もう年齢(トシ)だから寒さが身に染みるとか言って、ここに残っていた。

 

 

「もう大丈夫なの?」

 

 

 ホシノが、カヤツリの足を見て心配そうに言う。もう杖もいらないし、見た目は完治しているように見える。

 

 

「普通に生活する分には良いって。年明けまでには治るでしょうみたいなことは言われたよ。ほぼ治ったってところか」

 

 

 その答えを聞いてホシノは申し訳なさそうな顔をした。

 

 

「……本当にごめんね」

 

 

 その顔を見て、対応を間違えたとカヤツリは後悔した。足がある程度、治れば落ち着くと思ったのに。

 

 あれはもう終わった話で、お互いの命令を完遂したら気にしない。そういう話だったのに、ホシノはそうもいかないようだった。

 

 松葉杖の時期なんか、杖がいらなくなるまでの間、ずっとカヤツリの傍に張り付いていたのだ。

 

 悪いことをしたら、謝れるし、埋め合わせもする。そういったところはホシノの良いところだが、今回ばかりは、それが悪い方向にいっているように見えた。

 

 どう考えても気に病み過ぎだ。自分の事など、もう少し雑に扱えばいいのだ。そこまでの壊れ物扱いはしなくていい。

 

 こういう所があるのは承知していたから、”お互いが悪かったね”と言う風に話を持って行った。でも今の様子を見るに、そうしない方が良かったのかもしれない。

 

 

 ──私はカヤツリと一緒に頑張りたかった。

 

 

 あの時にホシノが言っていた言葉を思い出す。自分がもっとホシノに頼れば、彼女は自信を持てるのだろうか? でも、どうすれば良いのか分からない。足がまともでないときは、かなり手伝ってもらった。カヤツリにとっては、あれが頼ることだった。ただ、ホシノの様子を見るに少し違う気もした。あれはホシノが求めたものではないのだ。

 

 ただ今は聞くという選択肢が取れる。あの時のカヤツリとは違うのだ。あの夜は足が使いものにならなくなったり、また不自由な身の上になったり、他にもあったが、ホシノに聞けるようになったのはいいことだと思っていた。

 

 

「ホシノは、何かやりたい事とかないのか? 足も治ったし、パトロールも復帰できるけど」

 

「ん~。今は別にいいかな。シロコちゃんもノノミちゃんもいるしね。私は十分満足してるから。どうせなら一緒に寝る? 私の枕なら貸してあげるよ。私はなくても眠れるから」

 

「……」

 

 

 カヤツリの隣で、ホシノは机の上にうつ伏せになって溶けていたが、からかうように笑って言った。

 

 あの夜の後は、足のこと以外ではホシノは大分落ち着いている。だからこんな提案をしてくることも増えた。こっちをからかっているのだ。

 

 ……たまには良いかもしれない。今日くらいはいいだろう。後輩たちもいないし、少しは我儘になってもいいかもしれない。ホシノから誘ったんだから。これは、ほんのきまぐれだから。

 

 

「……じゃあ貸してくれ」

 

「うえっ!?」

 

 

 変な声をあげて、ホシノが飛び起きた。予想外の答えに慌てたような表情をしている。どうせ断られると思って聞いたことが丸わかりだった。

 

 カヤツリは少し笑って、もう一度言う。

 

 

「何だよ。貸してくれるんじゃないのか」

 

「いや~。ほ、ほら、いつもは断るからさ。どういう風の吹き回しかなって」

 

 

 慌てるホシノを見る。自覚はないようだが表情がころころ変わっていて見ていて面白いし可愛かった。

 

 ただ馬鹿正直に理由を言うのも恥ずかしいので、はぐらかす。

 

 

「……たまにはいいだろ。たまには。今はそういう気分なんだよ」

 

 

 あわあわ言っているホシノから枕を拝借する。特に抵抗はなく枕はカヤツリの手に渡った。四角い枕だった。洗い立てなのか、そうでないのかは分からないが、ふわふわしている。とても寝心地は良さそうだった。

 

 まだ、まごまご言っているホシノを無視して寝る準備を進める。コートを掛け布団代わりにして、さっきまでのホシノみたいに枕に頭をうずめてみる。

 

 なんだか、お日様のような匂いがした。とても暖かくて落ち着く匂いだった。自分が帰ってくる場所というか、そんな安心感があった。

 

 

 ──これは、ヤバいな。ちょっと癖になるかもしれない。

 

 

 ただ安心するのだ。匂いに包まれていると、とても安心する。張り詰めている気持ちが緩んでいくのを感じる。どうせ寝れないから、寝たふりだけしてやろうと思っていたのに。

 

 気がつかないうちに、そのままカヤツリは眠りに落ちて行った。

 

 

 □

 

 

「えぇ……」

 

 

 ホシノがまごついている間に、カヤツリは眠ってしまったようだった。あっという間だ。もう規則正しい寝息が聞こえる。完全に熟睡していた。

 

 

「もっと、こう、あるんじゃないかなぁ。私だって女の子なんだよ」

 

 

 そうホシノは呟く。カヤツリにはどうせ聞こえていないだろうが。寝ながら、話とかをしてみたかったのに。

 

 ホシノは不満だった。ちょっとからかってやろうと思って誘ったのだが、見事にカウンターパンチを喰らった形になったからだ。いつもは、聞こえないふりをするくせに。普段のカヤツリは、しっかり聞こえていて、知らないふりをしていることをホシノは知っていた。

 

 

 ──あの夜だって、こっちから強く言わないと、言うこと聞いてくれなかったくせに。

 

 

 手玉に取られたのが、少し悔しくて、人差し指で眠っているカヤツリを突っつく。全く起きる気配がなかった。続けて突っつくが反応は全くなかった。

 

 無意識に自分の口の端が吊り上がるのを感じる。

 

 カヤツリが起きないからだ。

 

 ホシノは夜のパトロールや砂漠で一緒に泊まり込んだこともあるから知っていた。むしろ、ホシノしか知らないだろう。

 

 カヤツリは眠りがとても浅い。誰かが近くにいるだけで、気配がしただけで飛び起きる。本人が言うには近くに誰かがいると、まともに眠れないらしい。だから、寝ずの番はいつもカヤツリだった。

 

 今でもそれは変わらないことは、居眠りしていても後輩たちがいると、直ぐに飛び起きるのを見て知っていた。

 

 

「……うへへ」

 

 

 だから、今ホシノが近くにいるのに、すぐに熟睡したということは。ホシノが、いくら突っついても起きないほど熟睡しているということは。つまるところ、そういう事なのだろう。

 

 それが分かって、さっきから嬉しいやら、恥ずかしいやらで自分の表情が元に戻らない。

 

 

「……カヤツリはさ。さっき、たまにはいいよって言ったよね。起きないならさ。そういう事でいいんだよね」

 

 

 一応、免罪符として声をかけるが、もちろん返事があるはずもない。

 

 

 ──これは、カヤツリがいけないんだよ。本当にずるいし、こういうのは、あの夜にも伝えたとおり、言葉で言って欲しいもんなんだよ。据え膳食わずはって言うしね。私は女だけどさ。

 

 

 壁の時計を見る。シロコちゃんとノノミちゃんが帰ってくるまで、一時間はあるだろう。

 

 緊張と期待と羞恥で高鳴る胸を押し殺して、カヤツリが掛け布団代わりに掛けているコートをまくる。

 

 隣に椅子を持ってきて、枕に乗っているカヤツリの頭をもう一人分ずらす。いまだ起きる気配がないカヤツリにホシノの笑みが深くなった。

 

 カヤツリの隣に潜り込んで、自分ごと包むようにコートを掛け直す。

 

 

「わぁ、これは……癖になりそう」

 

 

 暖かい。二人分の体温とコートが掛かっているし、部室には暖房もかかっているから、暖かいのは当たり前だった。

 

 ただこの暖かさはまた違った。肌で感じる暖かさではなくて、胸の奥が暖かくなるような、もっと違った暖かさだった。本当に心地よかった。

 

 なんだか安心する匂いもする。アビドスの朝に吹く風の匂いのような。爽やかな夜の冷たさの中に少しの朝の温かさを感じるような。そんな、いつも変わらないで、気づけば、ほんのすぐそばにあるような。そんな安心感があった。

 

 カヤツリの顔を見る。起きている時の目つきはかなり鋭いけど、寝てるときは、やっぱり、ちょっぴりだけユメ先輩に似ていた。髪の色も長さも性別も違うのに。

 

 ずっと見ていると、カヤツリの吐息が顔に当たる。少しくすぐったくて身じろぎした。

 

 

「うへへ。本当に悪くないね……。うえっ!?」

 

 

 カヤツリに抱きしめられる。匂いと暖かさが倍増した。これはちょっとマズイ。

 

 

「ちょっと、カヤツリ!? 起きてるんじゃないよね!?」

 

 

 びっくりして、大きめの声を出してしまうが、返事も反応もない。熟睡したままだ。何故か分からないが枕と間違えたらしい。

 

 

「え、抜け出せない」

 

 

 カヤツリの両腕の拘束は大した強さではないのだが、ホシノが動くと締め上げる強さが上がる。本気を出せば振りほどけるだろうが、そこまでしたらたぶんカヤツリは起きてしまうだろう。

 

 この状況を説明するのは流石に恥ずかしかった。カヤツリは笑ったり、からかったりはしないだろうけど、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

 

 しかも、暖かさと匂いが抱きしめられているせいで増している。壁の時計を見れば、まだ三十分くらいしか経っていない。それまで、これに耐えなければいけない? あの夜みたいに途中で我慢できるか怪しかった。

 

 

「うわわわ」

 

 

 ホシノが少しずつ動いたはいいが、バランスを崩してカヤツリの方に倒れて、椅子の上に座っているカヤツリに抱き着いた格好になってしまった。

 

 抜け出そうともたもたしているうちに、抱き枕みたいに抱きしめられている。身長差もあって、もう抜け出せない。詰みだった。頭が茹っていくのが自分でもよく分かった。

 

 

 ──もう我慢しなくてもいいんじゃない?

 

 

 脳裏に邪な考えが浮かんだ。いや、良くない。とても良くない。こういうのは違う。

 

 

 ──だって、こうなってるのはカヤツリのせいだよね? 途中で抜け出す気はあったんでしょう? カヤツリが抱きしめてるから抜けられないんだよね?

 

 

 そうだけれど……。潜り込んだ自分が悪い。

 

 

 ──ちょっとだけ楽しんじゃいなよ。バレたら、カヤツリのせいにすればいいよ。実際そうじゃないの? ずるいもんね。カヤツリは。

 

 

 ……そうかな。ちょっとだけならいいかな。

 

 

 ──そうだよ。ちょっとならいいんじゃない?

 

 

 内なる言葉に従って、逆にカヤツリを抱きしめ返してみる。おそるおそるだが。でもカヤツリは抱きしめ返してくれた。お互いの身体がくっついて、お互いの体温を感じる。

 

 

「うへ……」

 

 

 マズイ。本当にこれは良くない。お互いの体温で身体がくっついたところから、お互いに溶けるような感じがする。これは本当にマズイ。抜けられなくなる。このままだとお互いに溶け合ってしまいそうだった。ズブズブ沈んでいく。それが、悪い気がしないのが本当に良くない。話に聞く依存性のある薬物よりも性質が悪い。

 

 

 身体の感触から目をそらすように、前を見れば自分の目の前にカヤツリの首筋がある。少し筋肉質だけど、柔らかそうだった。とてもおいしそうだった。少し頭を動かすだけで届くだろう。あの夜を思い出す。ホシノの喉がゴクリと鳴って、口の中に唾液があふれてきた。

 

 

 ──ひと口だけならいいんじゃない?

 

 

 頭の中の声への反論も忘れて、ホシノはカヤツリの首筋にむしゃぶりついた。もう止められなかった。

 

 

 □

 

 

 ──誰か助けてくれ。

 

 

 今のカヤツリの頭にはこれしかなかった。

 

 流石に熟睡したとはいっても、首筋をじゅるじゅる吸われればいくら何でも目が覚める。

 

 気がつけば、自分が何故かホシノを抱きしめていて、ホシノが自分の首筋にむしゃぶりついていた。

 

 片耳に、ホシノのじゅるじゅる、ぴちゃぴちゃという唾液の音と途切れ途切れな荒い呼吸音が聞こえて、非常に良くない。とても良くない。

 

 ホシノの身体の感触も、ホシノがもっと首筋にしゃぶりつこうとして、カヤツリに身体を押し付けてくるせいで強く感じる。やわらかい感触が非常に良くない。身体がぞわぞわする。

 

 

 ──どうしよう……。

 

 

 目が覚めた今、普通に起きれば止まるだろう。ただ、その場合に、振り切れた羞恥心でホシノがどうなるか予想ができなかった。カヤツリとしてはまた足が使い物にならなくされるのは困るのだ。それにホシノも後々後悔するだろうから。……してくれると信じたかった。

 

 そんなことを考えていると、耳までホシノによる被害が拡大した。さっきよりも音が大きいうえに、そこはカヤツリの急所だ。

 

 

 ──やめろバカホシノ!!

 

 

 頭の中で叫ぶが、その声がホシノに届くはずはない。間の悪いことに、カヤツリの目にも白いホシノの首筋が目に飛び込んできた。いい匂いがする。お互いの位置的には当然の話ではあった。

 

 

 ──わわわわ。シロコか十六夜後輩!! お願いだから早く帰ってきてくれ……。

 

 

 帰ってきてくれれば、昇降口あたりで気配が分かるから、起きるふりができる。流石にホシノも我に返るだろう。それに昇降口からここまで五分はかかるはずだ。

 

 しばらく戦いながら祈り続けていると、待ちに待った気配がした。運のいいことに結構な声で話しているから、声もかすかに聞こえるし、ゆっくり来るだろう。これなら光明が見えてきた。

 

 けれど、耳の被害は尚も拡大している。しかも自制が効いていないのか、歯まで立て始めた。

 

 

 ──甘噛みはやり過ぎだって! なんで止めないんだ……。

 

 

 まさかの事態だった。ホシノは夢中で気づいていない。もう最終手段だった。

 

 

「ッツ!?」

 

 

 わざと少し身体を痙攣させる。ホシノは、ようやく気がついたようで、慌てたように状況を確認している。とんでもない勢いでカヤツリの身体から飛びのいた。カヤツリの姿勢を戻したり、床に落ちたコートを掛け直している。

 

 ホシノの凄まじい身体能力が、しょうもない使い方をされている。本人からしたら必死なのだろうが。カヤツリは何故か涙が止まらなかった。

 

 薄目を開けて様子を見て、さも今起きたかのようなフリをする。

 

 

「……おはよう。カヤツリ。よく寝てたね」

 

 

 ──そうであればよかったのにな。本当に。

 

 

 どう見ても様子がおかしいホシノに返事をしようとして、首筋と耳がびちゃびちゃなのに気がつく。たぶん跡になっている。ホシノなら結んだ髪を解けばいいだけだが、カヤツリはそうもいかないのだ。

 

 

「なんか、首元が寒いな。暖房でも壊れた? ホシノは何か知ってるか?」

 

「あ! あー。コートが途中で落ちてたからじゃない? 寒いんだったらマフラーでも巻きなよ」

 

「そうするよ」

 

 

 安心した様子のホシノを横目に見つつ、首にマフラーを巻く。とりあえずはこれで凌ぐしかなかった。もう少し時間が欲しかったが、もう扉の外に後輩たちの気配を感じる。

 

 

 ──なんで、今なんだよ……。時と場所を選んでやってほしい。本当に頼むから。

 

 

 カヤツリは理不尽を噛み締めながら、どうやって後輩たちを誤魔化そうか必死で頭を回した。

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