ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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400話 余波

 アトラ・ハシースの方舟襲撃から数日が経った。

 

 世界の危機でもあるこの事件だが、それを知っている者は王女を含めてもあまりいない。公にハッキリしている事は、カイザーPMCがシャーレビルとサンクトゥムタワーに襲撃をかけ、失敗し、壊滅したと言う事実だけだ。

 

 その事実も、破壊された建築物の修繕が終われば忘れられるほどの小さいものでしかない。建物の倒壊以外に大した被害が出ていないせいでもあるし、カイザーも特に追及を受けず元気に活動しているせいかもしれない。

 

 とりあえずキヴォトスは表向き、普段の日常を取り戻していた。

 

 その中で、王女は病院の白い廊下を人目もはばからずにひた走っていた。特別棟なのか、キヴォトス人は入院などしないせいか、人気はない。全力で王女は足を回転させて、目当ての病室に突撃する。

 

 

「カヤツリ! 起きたんですか!?」

 

「んあ……王女か。まぁ、座ってくれ」

 

 

 扉を勢い良く開ければ、ベッドでカヤツリが剥いた柿を頬張っていた。サイドテーブルにはお見舞いの品だろう食べ物が幾つか置いてあり。そこへ、皿を戻して。カヤツリは幾つかある椅子を指差した。

 

 

「大丈夫……みたいですね」

 

「おかげさまで」

 

 

 座った王女が聞けば、カヤツリは少し笑って答えた。王女の目から見ても、普通のカヤツリに見えた。はやる心を落ち着かせて、王女は質問する。

 

 

「おかげさまで。と言う事は覚えているんですか?」

 

「うん。あの妙な炎の塊から庇った辺りまでは」

 

「そうですか……」

 

 

 王女は、安心して、少し息を吐いた。カヤツリの記憶が飛んでいるなどと言う事はなさそうだった。安心すると、言いたいのを我慢していたことが零れだす。

 

 

「……私の油断でした。それは認めます。ですが、ああいうのは、もう止めてください」

 

 

 今日、報せを聞くまで、王女は生きた心地がしなかった。死んでいないのは分かっていたが、記憶喪失や、植物状態など。死以外の嫌な想像が全く止まらなかった。その上、嫌な新発見もある。

 

 

「その見舞いの品を見るに、貴方は怒られたのではないですか? 小鳥遊ホシノに」

 

「ああ、来て早々怒られた。一番知っているはずだよねって」

 

 

 カヤツリはバツの悪そうな顔をしていた。怒られている時の様子がありありと想像できて、王女は渋面になる。

 

 

 ──一番知っているはずだよね。

 

 

 それの意味するところは分からない。だが、それが理由だと言うのは分かる。

 

 先生と一緒に事情を聞いていた小鳥遊ホシノは、王女に怒りもしなかったのだ。それどころか寝ているカヤツリに怒り、王女を気遣いさえした。そして、あの表情。カヤツリの事もあるだろうが、王女を見て傷ついていた。意味が分からない。

 

 だから、胸の重さが減るどころか増えたまま、今日までそれを抱え続ける羽目になった。この事件の後始末も、それを紛らわすには不十分に過ぎ、小鳥遊ホシノにも聞けない。耐えきれなくて、王女は疑問を口に出す。

 

 

「……何を知っているんですか?」

 

「……置いて行かれる方の気持ち」

 

 

 ぼそりと言う、カヤツリの声を聞いて、王女は聞かなければよかったと思った。アビドスはそう言った場所だと言うのを忘れていた。きっと、あの場所を捨てて出て行った人間をたくさん見てきたのだろう。

 

 

 ──いや……ちょっと待ってください……あの時、生き返らせられないなんて……

 

 

 王女の頭に何かが引っかかった。ここ最近ずっと、最初に会った時の事を考えていたせいだ。あの時の会話を思い出してしまっていた。

 

 最初に会った時、どうして。王女の問いにあんなことを言ったのだろう? 人を生き返らせられるかなんて。まさか、置いて行かれたとは、そういう意味だったのだろうか?

 

 そのことに気が付いて、王女は自己嫌悪で一杯になった。なんてことを聞いてしまったのだろう。カヤツリも小鳥遊ホシノも詳しく言わないはずだ。軽々しく言っていいいことでも、聞いて良い事でもない。

 

 きっと二人は、親しい人間を失くしたのだ。それも納得のいかない形で。置いて行かれたとは、そんな時にしか使わない。

 

 だから、小鳥遊ホシノはカヤツリに怒ったのだ。その立場に居たくせに、それをまた繰り返すのかと。きっと、カヤツリも理解はしていたはずだ。怒られた時も、庇ってくれた時も同様に。

 

 そして、迷わずに王女を庇った。その時の気持ちは分からない。そんな事を考える余裕もなかったのかもしれない。でも、王女はカヤツリにそうさせてしまったのだ。

 

 ただの油断、無名の司祭が相手だった。今回は助かった。言い訳は幾らでも出来る。でも、次もそうだとは限らない。無事に終わるとは限らない。

 

 

 ──もう二度と、繰り返させはしません

 

 

 王女は、今回の件で思い知っていた。アトラ・ハシースの方舟と、リオたちやケイの助力があってもこれだ。カヤツリは死に掛けた。いや、実際一回死んでいたのかもしれない。

 

 名もなき神々の王女の力があったのに、この事態。これからの事を考えれば、徹底的に対策するべきだった。

 

 そうでなくては、王女はいつか、カヤツリを殺してしまうだろう。そんなのは真っ平ごめんだった。

 

 

「そう言えば、どうしてそんなに急いで来たんだ? ここはシャーレから遠くないだろ?」

 

 

 共有していた沈黙を終わらせるためか、カヤツリが普段通りの口調で聞いてくる。

 

 

「色々あったんですよ」

 

 

 王女の返答はげんなりした物になった。本当に色々あった。ちらりとカヤツリへと目をやる。

 

 

「今、聞きますか? 面倒で、愚かで、嫌な話になりますが」

 

「聞いた方がいいんだろ?」

 

 

 少し悩んで、王女は頷く。嫌でもカヤツリの耳に入るだろうし、それが遅いか早いかの違いだけだ。

 

 

「それでは、この事件の概要からいきましょうか」

 

 

 王女は、王女から見た方舟襲来の事実を語った。別次元からの襲来であったこと。あのアヌビスは別世界の砂狼シロコで、もう一人は別世界の先生であること。全ての元凶は無名の司祭であること。

 

 ここまでを聞いたカヤツリは、どこか納得したような表情で何度も頷く。

 

 

「あのシロコはシロコで合っていたんだな……今どうしてるんだ? それに……別世界の先生も」

 

「別世界の砂狼シロコは、この世界のアビドスに滞在するようです。先生は……ダメでした」

 

 

 いうか一瞬迷ったが、王女は言い切る。でも、悪い事ばかりでもない。

 

 

「ダメでしたが、最期に先生は、全員に言いたいことを言えたようです。それだけの時間は十分すぎるほどに確保できました」

 

 

 助からない事は、あの先生自身分かっていたのだろう。流石の王女も、包帯の下に何もないなら手の打ちようがない。あれはもう死んで身体すら朽ちているのを、意地と根性で踏みとどまっていただけだ。身体を失っても、何を失っても。言うべきことを言うためだけに、あの大人はそうしていた。言い終えたなら、もう理由が無い。それ以上の事をあの大人は望まなかった。

 

 

「じゃあ……シロコは元気にしてるんだな」

 

「はい。一人じゃありませんからね。この世界の対策委員会もいますし……」

 

「も? も。ってなんだ? 他に誰かいるのか?」

 

 

 王女はキョトンとして、カヤツリを見た。それが誰かなんて、言わずとも……

 

 

「ああ……そういえば見てないんでしたね。砂狼シロコと先生以外にも、来た人物が二人います」

 

「誰だ?」

 

「貴方と小鳥遊ホシノですよ」

 

 

 そう言うと、カヤツリは口をへの字にして黙った。何か気に障ったらしい。それも当然かもしれない。別世界の自分など、好きな方が珍しいだろうから。少なくとも、王女は好きではない。

 

 

「それ、ホシノは知ってるのか?」

 

「知ってますよ。この世界の砂狼シロコが攫われた以上、対策委員会には説明の義務がありました。それは別世界の砂狼シロコが望んだことでもある」

 

 

 再び、カヤツリは口を噤んだ。知らない間に、別世界の自分が交流しているのが気に入らなかったのだろうか。この反応は珍しい。その理由は直ぐ知れた。

 

 

「向こうの俺は何してたんだ……」

 

「砂狼シロコを止められなかったのは、別に力不足でも何でもありませんよ。寧ろよくやった方だと思います」

 

 

 砂狼シロコを酷い目に遭わせたことについてだろう。しかし、あれ以上を求めるのは酷だと思う。それに、この世界のカヤツリが気にすることでもない。悪いのは無名の司祭だ。そう慰めると、少しだけカヤツリの表情が緩んだ。

 

 

「その無名の司祭だけど、大丈夫なのか?」

 

「ああ、気にしなくて大丈夫ですよ。向こうのも、この世界も。全て対処しました」

 

 

 だから、心配の必要はないと伝えても、カヤツリは心配そうだ。

 

 

「いや、その……なんだかんだ言って、同郷だろう? いいのか?」

 

「良いも何も、あれらは私の事を道具位にしか思っていませんでしたよ。気に病む要素がどこにもありません。気持ちは嬉しいですけどね」

 

「……じゃあ、何が嫌な話なんだ?」

 

 

 王女が、無名の司祭を排除したことを気に病んでいる。どうにも、カヤツリはそう思っていたらしい。最初に嫌な話だと前置きしたのが良くなかった。

 

 

「嫌な話は、この後です。この襲撃事件が、ここまで拗れた遠因についてになります」

 

「カイザーか? それともベアトリーチェ?」

 

「カイザーの方です。ベアトリーチェは……無名の司祭の方だと思いますから、気にしないで良いです」

 

 

 アヌビスからの話を整理するに、ベアトリーチェはカヤツリを追っていたらしい。それで、カヤツリはシャーレビルではなく、サンクトゥムタワーにいた。

 

 どうにも正気を失っているようだったとの話もある。採取され、調整された神秘を服用していたとも。なら、神秘経由で都合のいいように動かされていた可能性もなくはない。

 

 だが、シャーレビルとサンクトゥムタワーにはカイザーも居た。カイザーは神秘とは関係が無いから、また別口になる。

 

 

「カイザーを引き入れ、先生を拉致したのは防衛室。その後、カイザーが裏切った。貴方の推測を元に、デカグラマトンが調べてくれましたよ」

 

 

 中々に間抜けな顛末だ。そのお陰で、疑いの目が離れているともいえる。そのせいで、王女は被害を被っているのだが。

 

 

「何? 王女は、ちょっかいでも出されたのか?」

 

「今もですよ? 今日、誰よりも遅く来たのも、アイツらの所為ですからね。今私は事情聴取とやらで、長時間の拘束を受けているんですよ。先生の口添えが無かったら、ここまで来れませんでした」

 

 

 今王女は、サンクトゥムタワーとシャーレビル倒壊の重要参考人であった。そのせいで、毎日呼び出されて、事情聴取で拘束されている。

 

 

「はぁ……」

 

 

 カヤツリの顔が険しくなった。眉間の皺が深くなって、頭にきていることが分かる。

 

 

「何を根拠にしているんだ? あの場から逃げたなら、そこに居たと分からないだろう? 全部カイザーの所為にできる。カイザーに見られていたとして、その証言を使うわけにもいかない」

 

 

 カイザーが、あの場に居るのを見たとの証言があるようです。あなたは何をしていたのですか? そんな事を防衛室は口が裂けても言えない。言ったとしても、否定すれば終わる。襲撃犯の証言の信憑性など、底辺に等しい。

 

 だが、王女が拘束されている理由はそこでは無かった。王女は携帯電話を出して、カヤツリに見せる。

 

 

「何だこれは……SNSか?」

 

「見ててください」

 

 

 付けて置いたブックマークから辿った動画を再生した。ミレニアムの屋上に出現するアトラ・ハシースの方舟と、宙に浮く王女が映った動画だ。同じようなものが複数ある。

 

 

「……方舟とやらをを止めに行った時のか。誰だ。こんなの撮ったのは……」

 

「通行人ですね。急に上空にこんなものが現れれば動画くらい撮るでしょうし、SNSにだって上げますよ」

 

 

 ただの動画だ。証拠は何もない。今流行りのAI製だとゴリ押すことも可能ではある。先生も、ミレニアムのリオやヒマリも出来得る限り庇ってはくれている。だから、捕まってはいない。

 

 

「決定的な証拠ではないですが。これを根拠に事情聴取として拘束することは出来ます。まぁ、嫌がらせでしょうね」

 

「取り調べは……防衛室長?」

 

「いいえ? 来たのは一回だけですね? 随分と優しく接してくれましたよ」

 

「捻りがない……」

 

 

 カヤツリの眉間の皺が段々と深くなってきていた。王女も事前知識があれば分かる。これが、懐柔の方法であることは。優しい警官と怖い警官というやつだ。目的も何となく分かる。

 

 

「きっと、私を手駒にしたいんでしょう。これを止めて欲しければ……と言う感じです」

 

「FOX小隊の穴埋めか……きっとこの動画が本物だと確信しているんだろう。動画は外部機関あたりに調べさせたな」

 

 

 今の防衛室長は手駒が無い。ならば代替を探そうとするのは当然のことだろう。事情聴取も、何時までもは出来ない。でもまた次の嫌がらせも用意していそうな気もする。王女としては、うっとおしいことこの上ない。簡単に潰せるが、そうすれば王女が悪い事になる。

 

 

「……暴発させるか」

 

「カヤツリ?」

 

 

 急に物騒なことをカヤツリが言い始めた。もう眉間の皺は、深い谷の様になっている。

 

 

「いい加減にうざったいな。余裕があるからこんなことをする。だったら、雑に暴発させてすり潰した方が早いんじゃないか」

 

「……参考までに聞きますけど。どうするんですか?」

 

「一番言われたくないことを言ってやればいいんだよ。だから、お前は連邦生徒会長に成れないんだよって」

 

 

 うわと、王女は表情を引き攣らせる。中々に火力が高い。

 

 

「お前は自信が無い。心のどこかでは自信がないから、外付けのラベルである役職に拘る。そして、大事な事ですら人にやらせるんだって」

 

 

 言われた防衛室長が鉄面皮になるのが簡単に想像できる。それでも、カヤツリの責め手は緩まない。

 

 

「人にやらせたなら言い訳できる。自分の所為じゃなくて、失敗した奴の所為だって。失敗も受け止められないし、そうやって他人のせいにするから、誰も着いてこない」

 

 

 酷い。よくもまぁ、ここまで言える。全部は合っていないかもしれないが、少しは当たっていそうな部分がありそうなところが質が悪い。心当たりがある方が、こういったものは効く。

 

 

「それで、最後にこう言ってやればいいんだ。失敗を受け止めるなんて、連邦生徒会長は出来たし、今の代行も出来てる。お前がそこに居るのは、お前自身の所為でしかないんだぞって」

 

「……言いませんよ?」

 

 

 そんなことを言えば、防衛室長は何をするか分からない。カヤツリはそれを想像したのか、小さく笑う。

 

 

「そりゃあ、そうだ。機会を見て俺が言うよ。やる前にも先生やらに相談しなきゃならない。自分が話すから、やめろと言われるかもな」

 

 

 言うだけ言ってスッキリしたのか、カヤツリの眉間の皺は取れていた。そのせいだろう、何かを思い出したらしく、聞いてくる。

 

 

「そういえば、ケイの件はどうするんだ。そんなに拘束されているんじゃ、先伸ばしになるんじゃないのか?」

 

「あー……そうですね。ケイは気にしないでいいとは言ってくれましたが……」

 

 

 ケイの身体の件を思い出して、王女は申し訳なくなる。あれは一朝一夕にはいかない。エリドゥも復旧に時間がかかるだろうし、事情聴取で時間がとれない。この状況下でミレニアムに行ったところで、迷惑をかけるだけだ。

 

 

「ならいいんじゃないのか。まだ一年生だろう。時間はまだある。退院出来たら手伝う。これは王女の所為じゃないんだから、気に病むことはないだろ。ケイだって分かってるから、ああ言ったんじゃないのか」

 

「そうですね」

 

 

 王女は気持ちを持ち直した。どうにも、ここ最近弱気になっていけない。無駄に拘束されているせいか、今日までずっと落ち込んでいたせいだろう。でも、その内の一つは解決したのだ。これは喜ぶべきことだ。

 

 気を取り直して、王女は剝きかけの柿を見る。もう剝いたものは残っていないから、カヤツリの為に剥いてあげようとして、気づく。

 

 

「ナイフがありませんね。どこへやったんですか?」

 

 

 剥くための物が無い。剥いてある以上それは使われたはずなのに、どこにもない。

 

 

「ここは病院だから、刃物の所持は認められてない。見舞い客が使って持ち帰る分は問題ないらしいけどな」

 

 

 成程、病院とはそういうものらしい。借りてこようかと思うが、カヤツリが要らないと首を振った。

 

 

「重苦しい話ばかりじゃ、気が滅入るだろ? もっと別の話をしよう。いつもみたいに」

 

 

 いつものように、カヤツリは微笑んでいる。そこでようやく、王女は実感が伴ってきた。

 

 もう、心配しなくてもいいのだ。方舟襲撃の余波は終わりかけていて、未来の事を考えてもいい。そう思うと、張り詰めていた心が楽になった。

 

 

「じゃあ、そうしましょうか」

 

 

 戻ってきた日常の匂いを感じて、王女は微笑んだ。

 

 

 □

 

 

「帰ったな……」

 

 

 病室の窓から、外を眺めたカヤツリは呟く。外では、王女が軽い足取りで帰り道についているのが見えた。

 

 良かったと思う。随分と心配をかけた。王女にもホシノにもだ。でも、あれはどうしようもなかった。勝手に身体が動いていたのだから、どうしようもない。考えていたら間に合わなかった。まさか、レールガンを貫通してくるとは思わなかったが。

 

 

『起きているか』

 

 

 物思いに耽る中、携帯電話が鳴った。スピーカーモードにすれば、聞き覚えのある口調が響く。デカグラマトンである。

 

 

「起きてるよ。それで、もう一人は? 来るんだろう?」

 

『もう、来ています。ラジオをつけてください』

 

 

 カヤツリの中で、王女によく似た声がした。指示に従うとラジオから声が響く。

 

 

『王女は、大丈夫そうでしたか』

 

「落ち込んでいたが、大丈夫そうだ」

 

『そうですか……』

 

 

 声の主。ケイは安心したようだった。性格からして、王女の事をずっと気に掛けていたのは分かる。だが、デカグラマトンまで巻き込んで、この場を用意した理由は分からない。王女経由でカマ掛けしても分からないままだ。

 

 

「それで、何の用だ?」

 

『貴様、分かっているだろう!?』

 

 

 デカグラマトンが、怒りを滲ませた声で言う。いつもの反応過ぎて、全く怖くはない。

 

 

「庇った事か? あれは、確かに悪かったが……」

 

『違います』

 

 

 今度はケイが言う。デカグラマトンとは声色が違った。

 

 

『今、あなたの目を経由してここへ来たんです。あなたの状態を確認しました。健康体そのものです。恐らくはもうずっと。貴方も自覚があるのでは?』

 

 

 次の言葉にも責めるような色はない。ただ、さっきとは違ってやるせなさがあった。

 

 

『だから、この場を用意しました。話があります。あなたと王女。ここに居る私たちの、これからについてです』

 

 

 ケイは真剣だった。デカグラマトンもそうだ。だから、カヤツリもそうであるべきだった。分かったと頷いて、癖でカヤツリは唇を噛む。

 

 強く噛みすぎて、鉄の味が舌先に触れる。そして、それは少しの熱と共に消えた。

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