ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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40話 ふんわりいこうよ

「カヤツリ先輩も私とお揃いにしたの?」

 

 

 マフラーを巻いているカヤツリを見たシロコの発言だった。シロコは、ホシノに貰ったマフラーをなくさないように巻いているからいい。ただ普通は暖房が掛かった部屋でもマフラーを巻いているのがおかしいのだ。

 

 首の跡を隠すためにしています。なんて言えるわけがない。ただでさえ苦しい状況にやけくそで返事をひねり出す。

 

 

「たまにそういう気分になるんだ。それに寒いしな」

 

「ん。わかった。そんなことより、クリスマスってカヤツリ先輩は知ってる?」

 

 

 問い詰められるかと思ったが、直ぐに流された。それにクリスマス?

 

 なにを言うかと思えば、もちろん知っている。なんなら、ケーキも予約済みだ。今年は四人だから、大きいホールケーキを十六夜後輩のおすすめの店で予約してある。値段はかなり張ったけれど。

 

 思えば、記憶の無いシロコは知らないのだろう。たぶん、今日の買い物のモール内で、何かクリスマス関連の物を見たに違いなかった。

 

 

「ケーキなら安心していいぞ。チョコレートとクリームの奴を一つずつ予約したから、好きなものを食べていい」

 

「それは、とてもうれしい。でもそうじゃない」

 

 シロコの目的はケーキではないようだった。

 

 それ以外に何を気にする必要があるのか、カヤツリには分からなかった。すると十六夜後輩が申し訳なさそうな顔で言ってきた。

 

 

「シロコちゃんにサンタクロースの事を話してしまって……」

 

「別にいいんじゃないか?」

 

 

 サンタクロース自体は邪悪な存在ではないし、むしろ逆の存在だろう。十六夜後輩は首を振る。

 

 

「そういう事じゃなくてですね……」

 

「サンタクロースはこないの?」

 

「小学生ならまだしも高校生にサンタが来るわけ──」

 

 

 シロコが、ここに来たばかりだった時みたいな小ささならともかく、今はもうホシノの背丈を通り越して、カヤツリの首元くらいの背丈まで成長している。

 

 最近は弱肉強食の思想も、すっかり鳴りを潜めている。ホシノと十六夜後輩の教育の賜物だった。

 

 シロコはもう、来たばかりの頃のような何も知らない獣ではなくなっていた。

 

 最近はシロコの成長にカヤツリは嬉しい反面、寂しさも感じていた。シロコの事は、もう世話を焼かなくても良いくらいには認めていた。

 

 だから、シロコの素朴な疑問に、当たり前の答えを返そうとして、カヤツリは無言の圧を感じて口を閉じた。

 

 

 ──ホシノだ。

 

 

 さっきまで挙動不審だったくせに。こっちをじっと見ている。目を見れば大体言いたいことは分かる。ただ高校生にもなって、それはちょっとどうなんだろうか。抗議の視線を送るが却下された。

 

 

「──いや。シロコには来るかもしれないな。一回も来たことないんだろ?」

 

 

 仕方なく軌道修正を図ると圧は霧散した。シロコの夢を壊すなという事だろう。十六夜後輩は相変わらずの苦笑いで、シロコはどことなく嬉しそうだった。ホシノが待ってましたとばかりに聞き出そうとする。

 

 

「シロコちゃんは何が欲しいの? おじさんに言ってみなよ。サンタさんに伝えといてあげるからさ」

 

「ん。秘密。ノノミが手紙を書いておけばいいって言ってた。早速書いてくる」

 

 

 シロコが意気揚々と部室を出て行ったあと、ホシノと二人で顔を見合わせる。これでは、先んじてプレゼントを用意することができない。

 

 

「サンタを襲うとでも言いださなかったのが救いか?」

 

「シロコちゃんは、もうそんなことしないよ。カヤツリも分かってるでしょ。でもどうしようか」

 

「大丈夫ですよ。解決策はあります」

 

 

 十六夜後輩が得意そうな顔で言う。

 

 

「シロコちゃんは、どこへ手紙を出せばいいのか知らないですから。手紙を出す時は私に頼むはずです」

 

 

 つまり、シロコがどうあがこうとも、最終的には十六夜後輩の所へ手紙が戻るようになっているのだ。そこで、欲しいものを確認すればいい。一安心といったようにホシノが呟く。

 

 

「じゃあ、大丈夫だね。おじさん焦っちゃったよ」

 

「あ。ホシノ先輩。頼まれたものを買ってきましたよ」

 

「うへへ。ありがとうね。ノノミちゃん」

 

 

 何か雑誌のようなものを十六夜後輩とホシノがやり取りしている。また、水生生物か何かの雑誌だろう。

 

 そんな二人を横から眺めながら、カヤツリは自分の用事を進める事にした。

 

 なんだかんだで後回しにしていた、銃の新調だ。前線に出るなら拳銃とドローンだけでは限界だからだ。最近は後方で引きこもれない。それに意地を張っている場合でもない。

 

 一番良いのは、あのレールガンだったが、ないものねだりをしても仕方がない。

 

 カタログをパラパラと目的のページまで捲る。銃種はもう決めてあった。対物ライフルだ。昔使っていたから少し練習すれば、なんとかなるだろう。

 

 候補の商品に印をつけながら考える。

 

 

 ──なんだか最近おかしい。

 

 

 なんだか前ほどの気力を感じないのだ。

 

 昔はずっと飢餓感や焦燥感を感じていた。だからがむしゃらに、ずっと頑張っていた。あの頃は金を稼ぐのに必死だった。

 

 今はどうだろう。居場所があって、後輩たちがいて、ホシノもいる。逆に昔と違って金はないけれど、とても充実していた。

 

 だからこそ不安に思うことが増えた。幸せ過ぎて。

 

 借金は少しずつ減っている。増えた不良やヘルメット団も何とかなっている。後輩もできた。黒服からも自由になった。ホシノともうまくいっている。今もクリスマスだなんだと騒げる余裕もある。去年の今頃なんか、死んだ目のホシノと二人で一つのコンビニケーキをつついていたのに。

 

 予算と相談しながら、候補を絞っていく。

 

 

 ──きっと、足のせいだ。

 

 

 足を怪我したことではない。むしろ、その休息期間が問題だった。初めてだったからだ。何もしないで、あんなに長い時間を過ごしたのは。

 

 ここに来る前も来てからも、ずっと働き詰めだったから。何か動いていないことが不安で仕方がなかった。

 

 普通に今を楽しんでいる自分がいる。普通の学園ならそれでいいだろうが、ここはアビドスだ。準備するに越したことはないはずなのだ。

 

 けれど途中から、それがふっと消えた。もうあの熱というか、飢えは戻ってこないのだろうか。なんだか自分が徹底的に変わってしまったみたいで怖かった。

 

 怖いといえば、ホシノとのこともそうだった。ちらりと隣を盗み見れば十六夜後輩と何かを話している。

 

 

 ──なんで、あの夜にあんなこと聞いたんだ。聞かなきゃよかった。

 

 

 あの夜。ホシノが追加の条件を盛り込んだ後の事だ。あの時のカヤツリは頭が茹っていたのだ。ホシノも目の前にいたし、あんなことを言うから。

 

 カヤツリだって、あれくらい言われれば分かる。だから顔も真っ赤になったし、まともに前が見れなかった。ホシノを引き寄せたせいで、距離はとても近かったし、雰囲気も少しアレだった。

 

 けれど、両足は興奮状態が切れて激痛が走っていたし、周りは暴れたホシノのせいで滅茶苦茶だったし、疲労で頭もうまく動いていなかった。きっとあの時の自分は仕切り直したかったのだろう。

 

 だから、恥ずかしくて、何とかしたくて、あんなことを聞いてしまったのだ。あまりにも、うかつで、バカだった。

 

 

 ──ぐちゃぐちゃにするって、何するつもりだったんだ?

 

 

 あのタイミングで聞くべきことではなかった。あれでホシノの目の色が変わった。たぶん何も言わなければ、そのまま終わったはずだったのに。

 

 

 ──カヤツリはどう思う? どこをぐちゃぐちゃにして欲しいの? ホントにずるいね。そういう所だよ。カヤツリ。

 

 

 そう言われて、とっさに首元を抑えたのが良くなかった。だから、とち狂って、抱きしめ合いながら、お互いに首元や耳を啜る羽目になるのだ。

 

 あれは、恐ろしかった。理性が半分溶けかけていた。するのもされるのも、心地よくてお互いに溶けてしまいそうだった。ホシノが言った、ぐちゃぐちゃにするというのは、比喩表現でもなんでもなかったのだ。ぐちゃぐちゃにされる前に反撃しなければどうなっていたか分からなかった。

 

 結局、あの場はお互い引き分けで終わったのだが、それ以降は随分と自分はホシノに甘くなったと思う。今までなら、ホシノの提案にあんな簡単に乗らなかったし、気取られなかった。だけど、ここ最近はなんだか流されることが増えたし、我慢していることを感づかれている気がする。

 

 さっきの”アレ”だって色々マズくて、カヤツリはもう半分崩れかけだった。

 

 

 ──緩みすぎだ。本当に。

 

 

 内心、自分に対して悪態をつきながら。何とか候補を絞り込んで、カタログを閉じる。周りを見渡せば十六夜後輩の姿はなく、ホシノが雑誌を読んでいるだけだった。

 

 

 ──いつ出て行ったのか気がつかなかった。

 

 

 なんだかこういう事も増えた。全体的に鈍り始めている気がする。どうしたことだろう。

 

 

「どうしたの? カヤツリ」

 

 

 一人で顔を顰めているカヤツリを心配したのかホシノが声をかけてきた。

 

 いつものように何でもないと、言おうとするが、うまく言葉が出てこなかった。誤魔化すように別の言葉を投げる。

 

 

「十六夜後輩はどこ行ったんだ?」

 

「え? さっきシロコちゃんを探しにいったよ。手紙が書けた頃だろうからって。しばらく帰ってこないんじゃない?」

 

 

 また気がつかなかった。やっぱりおかしい。

 

 

「また何か隠してるの? 早く言いなよ。怒らないからさ」

 

 

 ホシノに気取られてしまった。最近は隠れて何かやっていても直ぐ感づかれるのだ。もうここまで言われたら正直に言うしかない。

 

 

「……いやなんか、最近ボケてるというか。鈍ってるというか。前よりもやる気が妙に出ないというか。なんかおかしい」

 

「ああ、ボケてるのはそうかもね」

 

 

 少し笑って言うホシノに少しムッとするが、ホシノは気にした様子もなさそうだった。

 

 

「私はそれでいいと思うよ?」

 

 

 ホシノは、少し微笑んだまま続ける。

 

 

「ほら、カヤツリが言ったんだよ。私が頑張ってるって。覚えてないの?」

 

 

 あの夜言ったことだ。覚えてはいるが、今の自分とどう繋がるのだろうか。ホシノは困ったような顔でいる。

 

 

「それは、カヤツリもそうじゃないの? あの夜の前まで私は、それどころじゃなかったけどさ。今なら私は分かるよ。カヤツリは頑張ってくれてた、って」

 

「それは、前の話だろ」

 

 

 今はそれが出来ないという話をしているのだ。ホシノは読んでいた雑誌を閉じてこちらに向き直る。

 

 

「だから、少しは休んでも罰は当たらないって話だよ。カヤツリ」

 

 

 足の件で十分休んだではないか。ほぼ期間でいうなら半年だ。それだけの間、以前のように仕事はできていない。

 

 そんな様子のカヤツリを見て、ホシノは苦笑いしていた。

 

 

「あー。今なら去年のカヤツリの気持ちがわかる気がするね。あの時の私もこんな感じだったのかな。まあ、これでおあいこだね」

 

 

 ホシノはカヤツリに質問する。

 

 

「じゃあ聞くけど、別にカヤツリはさ。やらなきゃいけない仕事に対して、やる気が湧かないわけじゃないでしょ。むしろ、やることが思い浮かばないんじゃない?」

 

「……そうだな」

 

 

 図星だった。ホシノはからかうような口調で続ける。

 

 

「でも、それは当たり前なんだよ。シロコちゃんもノノミちゃんもいるし、二人にはカヤツリが仕事を教えたでしょ。仕事は私もやってるし、一応生徒会副会長で対策委員会の委員長だからさ。仕事が残ってなくて当然だよ」

 

「……」

 

「カヤツリはさ。いつのまにか手段と目的が逆転してるよ。今、楽するために、去年あんなに頑張ってたんじゃないの? その原因の私が言えたことじゃないけど。カヤツリは自分の事を勘定に入れないのは悪い癖だよ」

 

 

 そう。確かそうだったはずだ。無茶を続けるホシノを何とかしたくて、試行錯誤していた。いつの間にか忘れてしまった。

 

 

「だから今。ありがとうって言うよ。去年私は何も言えなかったから。あの夜にカヤツリが言ってくれて、私はとても嬉しかったから。だから今があると思うから。本当に、今まで頑張ってくれてありがとうって」

 

 

 優し気なホシノの声が聞こえる。なんだか楽になった気がした。なんだかよく前が見えなかった。自分は、きっと、ずっと、言ってもらいたかったのだろう。

 

 張り詰めていたものが緩んでいくのが分かった。その緩みを急かすかのようにホシノは言葉を重ねてくる。

 

 

「一応、私たちもさ。華の高校生ってやつなんだよ。私やシロコちゃんやノノミちゃんだけじゃなくて、カヤツリにも楽しんでほしいな。そうしてくれると私も嬉しいんだよ」

 

 

 良いのだろうか。でも怖いのだ。歯止めが利かなくなりそうで、いつか頑張っておけばよかったと、後悔してしまいそうで。

 

 ホシノがまた口を開く。安心させるような声色だった。

 

 

「それでも怖いなら、私に言えばいいよ。私もそうするし手伝うから。あの時約束したしね。お互いどこにもいかないって。それにカヤツリが言ったことだよ? 二人で決めれば怖くないんでしょ? たまにはいいんじゃない? 楽しむのも休むのも。分からないなら、やり方を教えてあげるよ? 少なくとも、気持ちのいいお昼寝のやり方は詳しいからね」

 

「そりゃ、そうだろうな」

 

 

 ふふっ。とホシノは笑う。カヤツリもつられて笑ってしまった。

 

 

「そうそう。もっとふんわりいこうよ。これからも、ずっと続くんだから。まだまだ先は長いんだし時々休むのは大事だよ。さっき一緒に寝たみたいにね。もう一回試してみる? カヤツリだったら何時でも付き合ってあげるからさ」

 

 

 ホシノの言葉でなんだか、不安が消えたのを感じた。なぜか、とても安心することができた。自分が間違えてもホシノが止めてくれるのだ。逆もそうだろう。その時は自分が頑張ればいい。だから今は少し緩んだままでいようと思う。初めてで分からないけど、そこはホシノが教えてくれるらしいから。

 

 ホシノの言う通りに、また二人で並んで座る。また枕を借りて、さっきと同じように眠ってみる。すぐに瞼が重くなった。

 

 劇的なことが起きるわけではない。ただゆっくりと時が流れるだけの穏やかな時間。でもこれは確かに、カヤツリが手に入れたものだった。

 

 だから、ホシノが隣から潜り込んできても、さりげなく一人分のスペースを空けて布団代わりのコートを被せるのに抵抗感はなかった。

 

 今はそうしたい気分だったし、何かあっても別にカヤツリは構わなかったから。

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