ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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41話 今後ともよろしく

「どうする?」

 

「まさか、こんなお願いだとは思わなかったよ」

 

「そこがシロコちゃんの良いところなんですけどね」

 

 

 翌日、朝早くからシロコを除いた三人で、これからの事を話し合っていた。部室のテーブルの真ん中に置いてあるシロコの手紙には、確かにお願いが書いてあった。

 

 

 ──みんなにもプレゼントを配ってほしい。

 

 

 そんな欲張りで優しいお願いが書いてある。だから、昨日、十六夜後輩と帰ってきたシロコが欲しいものを聞いてきた理由が分かった。

 

 とりあえず、モノは手配するのは難しくない。問題は誰がどうやって配るかだ。

 

 

「シロコが、十六夜後輩と一緒だった頃なら簡単だったんだけどな」

 

 

 初めは、プレゼントをアビドス校舎に置いておく算段だった。

 

 ただ、シロコが信じているのは、原典のサンタクロースだ。夜中に家に侵入し、靴下にプレゼントを入れて去っていく、赤い服の老人。

 

 シロコが十六夜後輩と一緒に住んでいる場合だったら簡単だった。普通に、シロコが寝た後に用意するよう十六夜後輩に頼めば良いからだ。

 

 今は一人暮らしだ。プレゼントを渡す。そのためだけに家に侵入するのは憚られる。

 

 

「引越し祝いのパーティとクリスマスイブを被らせるのは、どうですか?」

 

「私は良いと思うよ。全員でさ。お泊まり会すれば良いよ。プレゼントは、その時に持ち込めばいいんじゃない?」

 

 

 十六夜後輩が案を出して、ホシノが修正するが、問題はまだ残っている。

 

 

「持ち込める大きさなら良いけど、皆はどうなんだ? 俺は大丈夫だけど」

 

「おじさんも小さいやつだから大丈夫だよ。シロコちゃんのもね」

 

「私は微妙ですね……。ダンベルなんですけど」

 

 

 ホシノは大丈夫そうだが、十六夜後輩は悩んだ様子だ。確かにダンベルは微妙な大きさだ。持ち込むには大きすぎるともいえるし、そうでないとも言いにくいのも確かだった。

 

 

「どこかに置いておいて、寝静まった頃に取りに行くしかないんじゃないか?」

 

 

 どうせ、男の自分は途中で離脱する。まさかあの三人と泊まる訳にはいかないから。その時に回収して、家の中の二人に渡せばいいだろう。

 

 

「どこに置くの?」

 

「ホシノも知ってるところ。まあ任せときな。まず見つからないから」

 

 

 二人が首を傾げるが、そこがどこかはカヤツリは言うつもりはなかった。

 

 

 □

 

 

 そうして時は流れて、イブの当日になった。

 

 準備は滞りなく終わり、あとは夕方にシロコの家に集合するだけだったが、カヤツリはまだ柴関でバイトの最中だった。

 

 今年最後のバイトだ。足が使えなかった間は休みをもらっていたから、しっかり働いておきたかった。それに挨拶もしておきたかった。

 

 

「もう足はいいのかい?」

 

「ほぼ完治しましたよ。ほら」

 

 

 洗い物を中断して大将の前で普通に歩いて見せる。それを見て大将は安心したようだった。

 

 

「いや、無事でなによりだ。嬢ちゃんにボコボコにされたから、しばらく休むって言われた時は、焚きつけなきゃよかったと思ったぞ」

 

「色々ありましたからね」

 

 

 何か言いたそうな目を大将は向けるが、カヤツリは無視した。しばらくすると大将はフッと笑った。

 

 

「まあ聞くのは野暮っていうもんか。坊主の顔を見れば分かる」

 

「そんなに違うんですか?」

 

 

 毎朝、鏡で自分の顔を見ているが、カヤツリには違いが分からない。大将は大きく頷いて言う。

 

 

「前なんかは過労死寸前の会社員みたいな顔してたぞ。ああ安心しな。今は年相応の顔をしている」 

 

「初めて会った時も?」

 

 

 少し興味本位で大将に聞いてみる。大将は少し黙った後に口を開いた。

 

 

「少し違うな。言葉にするのが少し難しいが、覚悟を決めたような顔だった。悪い顔じゃないが、今の方が断然いいと俺は思うね」

 

 

 褒められているわけではないのに急にカヤツリは恥ずかしくなった。それを隠すように洗い物を再開する。

 

 しばらくしてから、何かを思い出したかのように大将は声をあげた。

 

 

「ああ、そうだ。来年も続けるってことでいいのか?」

 

「ええ。来年もお願いします」

 

 

 きっとバイトの事だ。カヤツリの返事に大将は満足そうに頷いた。

 

 

「坊主がいると楽だしな。売り上げも右肩上がりだし、こっちも助かるってもんだ。坊主が卒業してもいて欲しいくらいだ」

 

 

 ──卒業。

 

 

 大将が何の気なしに放った言葉が、嫌に胸に刺さった。来年の今頃はもう三年生の年末だ。その時自分は何をしているのだろう。

 

 去年の今頃だって、こんなことをしているなんて思いもしなかっただろう。

 

 浮ついていた気持ちが、地面に引きずり降ろされた。また、未来への不安が襲ってくる。

 

 

「別に今すぐ決める必要はないんだ。まだまだ時間はあるんだからな。あくまで候補の一つとして考えてくれればいい」

 

 

 滑り止めだよ。と大将が言う。また見透かされていたようだった。

 

 

「前にも言ったが、良くも悪くも真面目過ぎだ。ゆっくり決めればいいんだよ。もう坊主は一人じゃないだろう?」

 

 

 大将の言葉と同時に紫関の入り口のドアが開く。ホシノとシロコと十六夜後輩だ。時間にはまだ早いが迎えに来たようだった。

 

 愉快そうに大将はカヤツリに告げる。

 

 

「少し早いが上がっていいいぞ。坊主。来年もまたよろしくな」

 

 

 □

 

 

 迎えに来た三人と合流して、シロコの家で、遅い引っ越し祝い兼、クリスマスパーティを楽しんだ。

 

 買ってきたご馳走やケーキをつつきながら、話しているだけで、こんなに楽しいものだとはカヤツリは知らなかった。気がつけば数時間が経っている。

 

 シロコの方を見ればうとうとしているのか、眼も半開きだ。そろそろ、自分が動き出す時間だろう。

 

 

「そろそろ帰ろうかな。シロコも眠そうだし」

 

「そうだね。ノノミちゃん。シロコちゃんを頼むね」

 

 

 ホシノの声に十六夜後輩は頷いて、シロコを連れて奥に引っ込んだ。後はカヤツリの仕事だ。

 

 

「じゃあ、ホシノも頼んだ。そうだな。一時間くらいで帰ってくる」

 

「うん。起きて待ってるよ」

 

 

 ホシノに一声かけて、外に出る。向かうはアビドス校舎の生徒会室だった。

 

 暗い道をバイクで走る。

 

 生徒会室を選んだのには、あまり大した理由はなかった。シロコが入らず、ある程度掃除されている部屋ならどこでもよかった。ただパッと思い浮かんだのがそこだっただけだ。

 

 きっとただの感傷だったのかもしれない。

 

 すぐに校舎には着いた。鍵を出して中へ入っていく。生徒会室にはすぐ着いた。扉を開けるが最近掃除したおかげで埃はそんなにひどくない。

 

 隠しておいたプレゼントは直ぐに見つかった。部屋を出ようとして、振り向いた。そこには当然のように何もない。

 

 

「まあ、居ないよな」

 

 

 もう、あの幻覚は現れなくなっていた。たぶん忘れてしまったからだろう。

 

 先輩の姿は思い出せるけれど、声はもう怪しかった。自信が持てない。人を忘れる時は、声から忘れると聞くが案外本当だったらしい。

 

 きっといいことなのだろうとは思う。ただ少し寂しいのも確かだった。

 

 未練を振り切って、生徒会室を後にする。

 

 戸締りをしてから、バイクを止めてある校門近くまで戻ると見覚えのある人影が見えた。

 

 

「こんばんは。カヤツリ君」

 

 

 いつもの格好をした黒服が立っていた。周りは暗くて、黒い服を着ている黒服は闇夜に紛れてしまいそうだったが、妙なことにはっきりと姿は見えていた。

 

 

「久しぶりですね。何か用ですか」

 

「ええ。仕事がてらに挨拶でもと思いましてね」

 

 

 黒服とはあの契約満了以降、会ってはいない。用もないし、仕事を受けようにも足が使い物にならなかったからだ。それにホシノに無用な心配を掛けたくなかった。用というのはなんなのだろう。

 

 

「どうぞ。貴方の古い知り合いからです」

 

 

 黒服が何かを手渡してきた。何枚かの紙切れだ。よく見ると転入書類だった。ミレニアムやゲヘナ、トリニティのものまである。しかも添付の書類には住居の地図まである。つまりは住居付きの入学書類だ。それが三枚もある。

 

 カヤツリに、古い知り合いなんかいない。こんなものを送り付けてきそうなのは幽霊くらいだが、彼女だったら電話してくるだろうし、知り合いなら、むしろ新しい部類だ。

 

 

「なんですか。これ?」

 

「私はこれを渡すように言われただけですので。まあ勝手な憶測ですが、貴方に選んで欲しいのでは? アビドスを出てそのどれかに行くか、そのまま残るかを」

 

 

 渡した相手を知っているくせに、知らないような感じで黒服は喋る。どうせ聞いても誰からかは答えてはくれないのだ。

 

 答えなんか決まっている。渡すのが一年ほど遅い。黒服に突き返す。あまりに不気味だった。

 

 

「これは返しますよ」

 

「ええ。そうでしょうね。安心しました」

 

 

 黒服は機嫌良さそうな声色で受け取った。まさか用というのはこれだったのだろうか。黒服は首を横に振る。

 

 

「挨拶と言ったでしょう? 来年は忙しくなりそうなので、今のうちにと思いましてね。来年もよろしくお願いしますよ。機会があればですがね」

 

「……そうですか。来年は分かりませんが、今年はありがとうございました」

 

 

 黒服は、虚を突かれたように少し固まった後、笑ったようだった。

 

 

「いえ、どうも致しまして。貴方も楽しんでいるようで何よりです。モラトリアムは楽しいものですが、案外短いですから。しっかり楽しんで決めると良いでしょう。ではまた」

 

 

 そんな、言葉を残して黒服は消えた。

 

 カヤツリは校舎に背を向けて、シロコの家へ急いだ。

 

 

 □

 

 

 扉を静かにノックするとゆっくり扉が開いた。ホシノが扉の隙間から顔を覗かせる。

 

 

「遅いよ。二人とも寝ちゃったよ」

 

「悪い。ほら、これ」

 

 

 持ってきたプレゼントの包みを渡す。受けとったホシノは中に引っ込んだかと思うと、しばらく経ってから外に出てきた。

 

 ホシノの格好を見てカヤツリは眉を顰める。

 

 

「外は冷えるぞ」

 

 

 寝巻にコートを羽織っただけだ。そのまま外に居れば、身体を冷やすであろうことは簡単に想像できた。

 

 

「今年も最後だからさ。最後くらいはいいでしょ」

 

 

 ホシノがカヤツリと向かい合いように扉に寄りかかって、言う。

 

 ヘルメット団や不良は曲がりなりにも学生だ。だから今日みたいな祝日や年末年始は活動しないか、大きく動きが鈍る事を去年の経験で知っていた。

 

 だから、今日から年末年始の時期は休みにしていた。一人の時間も欲しいから。皆もそうだろう。

 

 

「新年二日目から、また顔を合わせるだろ。一週間なんて、すぐだ」

 

「へぇ、今年も来てくれるんだ」

 

 

 嬉しそうにホシノが笑う。これはカヤツリが、そうしたいからそうしているだけだ。でも喜んでくれるのは悪い気がしなかった。

 

 

「じゃあ、そんな優しいカヤツリには、これをあげるよ。はい。おじさんからのクリスマスプレゼント」

 

 

 ホシノが何かを差し出してきた。手に乗るほどの小さい物だ。鯨のキーホルダーだった。

 

 

「……それは、ホシノが頼んだ奴じゃないのか?」

 

 

 ちょうど、さっき渡した包みがそれくらいの大きさだった気がする。

 

 

「いいんだよ。元々、カヤツリにあげるために用意したんだから。私とお揃いだからね。大事にするんだよ」

 

 

 キーホルダーを受け取る。別に自分の物を頼んでもよかったのに。そういうところが、ホシノらしいというか。

 

 カヤツリは微笑んで、自分の分の包みをホシノへ突き出した。

 

 

「どうしたの? 無理にお返しなんかしなくていいんだよ?」

 

 

 不思議そうな顔をするホシノに告げる。

 

 

「クリスマスプレゼントだよ。無理はしていない。初めからホシノの為に用意したから」

 

 

 本当に嫌になる。これでは二番煎じもいいところだからだ。いそいそと包みを開けるホシノへ、照れ隠しの為に言葉を重ねる。

 

 

「同じ奴は見つからなかったから、それで我慢してくれ」

 

 

 包みの中身はマフラーだ。

 

 ホシノは去年、シロコにマフラーをあげた後、代わりの物を用意していないようだったから。いい機会だと思って用意したのだ。同じ奴はいくら探しても見つからなかったが。

 

 

「ふふ。覚えてたんだ。ありがとうね。カヤツリ」

 

 

 まあ、嬉しそうなホシノの顔が見れたから、よしとする。これで、今日のやるべきことは終わりだった。あとはもう帰るだけだ。

 

 

「もう帰るの?」

 

「それ以上外にいたら風邪をひくだろ」

 

 

 少し残念そうな顔をしていたホシノが、何かを思いついたような顔をした後、にやりと笑う。

 

 嫌な予感がした。

 

 

「あったかいのならいいんだね。じゃあこれを巻いてよ。ここまでやってくれるのが、クリスマスプレゼントってものでしょ」

 

 

 ん。とマフラーを渡して首を突き出してくる。まあ納得できる言い分ではある。そんな風に言わなくても幾らでも巻いてやるのに。

 

 ため息をつきながら、しゃがんで、マフラーを巻いてやる。

 

 

「うへへ。やっぱり、あったかいね」

 

 

 マフラーを両手で触って、うへうへ言っている。気に入ってくれたようで、なによりではあった。去年と比べて元気になってくれて本当に良かったと思う。

 

 

「今年も色々あったねぇ」

 

 

 ホシノの姿を見ながら物思いに耽っていると、懐かしむような声でホシノが言う。

 

 確かに、色々あった。シロコと十六夜後輩の加入。あの夜の喧嘩。そして今日のクリスマス。

 

 随分、余裕ができたように思う。金銭面はそうでもない。むしろ精神面だろうか。一人じゃないというのは、悪くなかった。

 

 

「悪くなかっただろ」

 

 

 気がつけば、もう一年が終わろうとしている。来年の四月にはもう三年だ。問題の多くは解決しないままで、時間だけが過ぎている。後輩も今年は二人も増えたが今後はどうなるか分からない。

 

 

「うん、そうだね」

 

 

 短い返事だった。けれど、そこにはホシノの色々な感情が渦巻いているように思えた。

 

 少しの間、二人の間に沈黙が流れる。別に重苦しいものではなく、心地よいもので、いくらでもそうしていられそうだった。

 

 しばらくの間、そうしていると視界の中に白いものが混じり始めた。

 

 雪だ。

 

 名残惜しいが、そろそろ帰る時間だ。これからもっと冷えるだろうし、ホシノもマフラーを巻いたとはいえ本当に風邪をひいてしまうだろう。

 

 

「じゃあ、今度こそ帰るよ」

 

「まあ、しょうがないね。またね。カヤツリ。来年もよろしくね」

 

 

 さっきまで嬉しそうだったのに、残念そうな顔をするホシノが気にくわなかったから、ちょっとだけ意地悪な返事をする。

 

 

「ああ、今後ともよろしくな」

 

 

 考え込んで固まるホシノを背に、カヤツリはバイクで家まで逃げるように帰った。

 

 もう未来への不安は湧いてこなかった。理由は恥ずかしいから言わないけれど。

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