ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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独自設定多めです。
メインストーリー第2部Vol.1「炎と影編」までのネタバレが含まれます。
表題はMKウルトラ計画→NKウルトラ計画の様に名称を変更しています。
あとがきに不謹慎、閲覧注意、汚いネタがあります。ちょっと頭嵐で正気じゃなかったです。


3話 ヒラデルヒア・エクスリペリメント(Hiladelhia Experiment)

「これ、どうしましょうか……」

 

 

 本館から帰還して、ノノミは苦々しくも呟いた。

 

 ノノミの視線は、部室中央のテーブル。その真ん中に鎮座したモノを見つめている。勿論、シロコ、セリカ、アヤネの三人もそうだ。テーブルのそれを見て全員が全員、何も言えないでいる。

 

 テーブルの上に載っている物は、武骨な箱。横長の立方体で側面にしっかりと留め具が付いているそれは、どう見てもアタッシュケースだった。

 

 それだけならよかったのにと、ノノミは思う。きっと、他のメンバーもそうだろう。それだけであれば、このケースの処遇には悩まなかった。ケースの正面、一番よく見える場所に、あるモノが激しく存在を主張していた。

 

 

「アビドスとゲヘナの校章ですか……発見した場所から考えて。これは、どう考えても」

 

「ええ、アヤネちゃんの予想は正しいでしょうね。シェマタと同じ記載の仕方です。恐らくこれは……雷帝の遺産です」

 

 

 ノノミは苦々し気に二つの校章を見つめる。それは何も言わないが、シェマタと同じく嫌な雰囲気を漂わせていた。その雰囲気が部室内に伝播している気さえする。

 

 それを振り払うように、アヤネが声を絞り出してくる。

 

 

「ノノミ先輩。マトさんに連絡は……」

 

「もうしました。それと、カヤツリ先輩とホシノ先輩にも」

 

 

 そう言うノノミ自身が気まずそうな顔をしているのが自分でも分かる。それは、この場の全員がそうだ。

 

 今日と言わず数日前から、二人は休暇を取っている。ここでこんな厄ネタでとんぼ返りになるとは思ってもいないだろう。まさか、後輩たちが余計なことをしてこんなものを掘り出すとは想像だにしていないはずだ。

 

 悪気はない、こんなことになるなどノノミは思いもしなかった。だが、結果が全てだ。ノノミはアビドスだけでは対処出来ない問題を、文字通りに掘り起こしてしまった。

 

 シロコも、居心地悪そうに聞いてくる。

 

 

「二人は、何て?」

 

「直ぐに戻ってくるそうです。カヤツリ先輩はゲヘナに寄ってから来るそうなので、最初にここにくるのはホシノ先輩ですね」

 

「そう……」

 

 

 シロコの耳は萎れていた。宝物だと騒いでいた時とは大違いだった。場の空気がさらに悪くなる。

 

 ノノミの気分も最悪だ。出来の悪いのが分かっているテストの答案が返ってくる気分。ホシノが帰ってくる、その時間が刻一刻と迫ってきている気分に叫び出しそうになる。

 

 今頃、二人は何と思っているのだろうか。出来の悪い後輩とか思っているのだろうか?

 

 決して。決してそんなことは思わないだろう。二人はそんな人間ではない。寧ろ、電話では褒めてくれたのだ。良く報告してくれたと。

 

 それは、きっと本心だろう。でも、それがただただ辛い。期待に応えきれなかったこと、迷惑を掛けたこと、ノノミは全く変わっていないこと。その事実が滅茶苦茶にノノミを打ちのめすのだ。

 

 責任という言葉が頭にチラつく。ノノミは何も分かってはいなかったのかもしれない。言葉だけで、見ただけで、分かった気になっていただけだったのかもしれない。

 

 責任とは、こんなに重い。今の重い空気が、全員の沈んだ顔が。この全てが、ノノミのせいなのだ。

 

 これを、あの二人の先輩はずっと抱えていたのだろうか。今よりももっと重い。後輩たちだけでなくアビドス全ての責任を抱えていたのだろうか。そんなものはノノミは想像できない。

 

 あの理事も甘ちゃんだと笑うはずだ。理事も分かっている側の人間だからだ。

 

 これから先、ノノミはちゃんと出来るのだろうか? 一年後とは言わず、遥か先の未来で、ちゃんとできているのだろうか。

 

 それでも、今の責任者はノノミなのだ。ノノミは何とか自分を取り繕って、口を開く。

 

 

「とりあえずは、マトさんから連絡が来るまでは現状維持ですね。何の情報もありませんから」

 

「え? ノノミ先輩。今からかけ直すんじゃないの? 二人に掛けるから切っただけで……」

 

「いいえ、違いますよ。最初に掛けたのは先輩たちです。その後、マトさんに掛けたんですよ」

 

 

 セリカだけでなく、他の二人も妙な顔になった。

 

 

「……一旦切ったってこと? どうして?」

 

「そうですよ。そのまま通話して、情報収集すれば……」

 

 

 シロコとアヤネの言う通りだ。途中でホシノとカヤツリに掛ける必要があるなら切ってもおかしくない。けれど、ノノミは連絡の優先度もあったが。それがスムーズでないと感じたから、ゲヘナを後回しにした。そうすれば、スムーズにこのケースの正体が分かるかもしれなかったからだ。だが、そうなっていない。

 

 

「マトさん、準備がいると言ってましたから。多分、それほど危険なんでしょうね……」

 

 

 ノノミ以外の全員が、少し椅子をテーブルから離す音がした。

 

 

「持って帰らなければよかった……!」

 

「いいえ、シロコちゃん。その場合は、これが第三者にわたる可能性もあります。その第三者が、カイザーの類だったら危険ですよ。ましてや、何も知らない第三者なら。誤作動させる危険性すらあります。だから、この判断は正しいんですよ」

 

 

 どちらにせよ、見つけてしまった以上。この不発弾は対策委員会が処分するしかないのだ。そして、これが何かも分からない。マトからの連絡を待つほかはない。それが嫌なら、良い手はあまり残されていない。

 

 

「……一番の確実な方法は中を開けてみることでしょうね」

 

「ちょっとノノミ先輩!?」

 

「まさか、開けませんよ。セリカちゃ……ん?」

 

 

 ノノミは笑いながら否定して、ケースの表面に気が付く。二つの校章に気を取られて気づかなかったが、間に何か文字が彫ってある。その時、電話が鳴った。通知名を見れば、マトと表示されている。

 

 

『待たせたね。準備は終わったから、詳細を説明しておくれ』

 

「分かりましたが……すごい雑音ですね」

 

 

 電話を取ると声は聞こえるが、テレビの砂嵐のような雑音が聞こえる。スピーカにするとそれは顕著になった。いったいこれは何なのだろう。

 

 

『悪いね。これの準備に手間取ったんだ。毒電波なんか二度と御免だからね。サツキに感謝だよ全く……』

 

「毒電波……?」

 

 

 聞き捨てならない単語が聞こえて、思わず聞き返す。すると申し訳なさそうな声が帰って来た。

 

 

『いやね。こっちで色々あったんだよ。遺産絡みでね。一応の対策として、これを間に噛ませてる』

 

「ちょっと!? 私たちは!? 大丈夫なんでしょうね!?」

 

 

 セリカが髪を逆立てて叫ぶ。いきなり、目の前にあるものは、それほどの危険物ですと言われたのと同じだ。けれど、マトは軽い調子で言う。

 

 

『毒電波に関しては心配ないさ。それに私の予想が正しけりゃ、それは爆弾の類じゃないからね』

 

「これの正体を知ってるんですか?」

 

『ああ、噂でね。兎に角、まず確認して欲しいんだよ。そのケースのどこかに、何か文字か何かないかい? あれば、読んで欲しいんだ』

 

 

 それはきっと、さっき見つけた文字列の事だろう。ノノミはそれを読もうとする。

 

 

「レインボー……ヒ……ヒラデル……ヒア、エク……?」

 

 

 英語だ。英語で書いてある。だが、恐ろしく読みにくい。掠れたり、溝に砂が詰まって文字がつぶれてしまっている。それを何とか苦心して、ノノミは読み進めていく。

 

 

「レインボープラン。ヒラデルヒア、エクスペリメント?」

 

『……本当に? 本当に、そう書いてあるって?』

 

「はい。後ろにまだ文字がありますけど、それはつぶれてしまっていて……」

 

『今すぐ部屋から出な』

 

「はい?」

 

 

 マトはそれ以上答えずに、短く言った。良く聞こえなくて、ノノミが聞き返すと、電話口がビリビリ震えた。

 

 

『いいから! 貴重品だけ持って、その部屋から出るんだ! 扉に鍵を閉めて、距離を取るんだ! 校庭まで早く!』

 

 

 突然の大声に返事もできない。けれど、その声はそうしてほしい、そうするべきという感情に満ちていて、ノノミたちは一も二も無く従った。校庭まで退避してから、電話からマトの声がした。

 

 

『怒鳴って済まなかったね。だが、そうしないと危ないんだよ』

 

「なんなんですか。あれは……爆弾じゃないんでしょう? 爆弾じゃないのに、ここまでする必要があるものなんですか?」

 

『念のためだよ。廊下じゃ不安だから、校庭まで出てきてもらった。ここなら、ある程度安心して話せる』

 

 

 そう言って、マトは箱の正体について話し出す。

 

 

『それは間違いなく、雷帝の遺産だよ。かなり危険な代物さ』

 

「それはいったいどういう……?」

 

『……瞬間移動装置。しかも、かなりの距離の。そうだね。ゲヘナからトリニティまでは余裕じゃないかね』

 

 

 ほうと、ノノミはこれまでため込んでいた空気を吐き出す。爆弾の類でなくて、ホッとしたのだ。

 

 

「だから、校庭に避難指示を出したんですね。もしも誤作動を起こしたら、巻き込まれてしまうから」

 

『……私が言ったのはね。物さ。人を送れるなんて言ってないんだよ』

 

 

 急に、マトは不穏なことを言い出した。声も沈んでいる。

 

 

『送るには送れるんだ。ただ無事じゃすまないってだけでね。もし誤作動でも起こして、あんたらが巻き込まれてみな? 無事じゃすまないよ? そうなったら全く持って最悪だし、私はカヤツリと小鳥遊ホシノに殺されちまうよ』

 

 

 その想像は容易かった。きっと二人は怒るだろう。それも、ノノミが見たこと無いくらいに。マトもそうだったのか、次の言葉には間があった。

 

 

『まぁ、兎に角。あれを破壊しなきゃならないのは分かったね。できれば近付かずに破壊したいところだけど……』

 

「それはダメですよ。部室がなくなってしまいますから。ドローンあたりで運べばいいでしょう」

 

『ああ、いい考えだね。あとは場所の選定かね』

 

 

 機械であるドローンなら巻き込まれても問題ない。それでアビドス砂漠にでも運んでしまえばいい。ノノミの考えに賛同したのか、マトの声には感心の色が見えた。

 

 ふと、チャンスだと思った。他の対策委員が思い思いに話している今なら、マトだけと話すことができる。ノノミの知りたいことを知ることができる。きっと今しか聞けないような気がする。ノノミは何かを言いそうなマトに向かって言う。

 

 

「マトさん。聞きたいことがあります。私たちだけで話したいんです」

 

『……何だい? 十六夜ノノミ。あんたが知りたいようなことを、私が知っているとは思えないけどね?』

 

 

 マトの声色は明るいが、答え方には聞かれたくないことがあるようだった。でも、ノノミは知りたかった。皆に秘密で聞きたいことがあった。

 

 

「噂についてです。三年生の間で噂になってるって、この遺産の事じゃないでしょう? もしかしたら、もっと別の事なんじゃないですか? 例えば、雷帝とか」

 

『……はぁ、なるほどね。確かにそうさ。今は雷帝の話で持ち切りだよ。遺産の事件があったからね。私たちの把握していない遺産が他にあるんじゃないか。それをわざと、いつか使うために雷帝が仕込んだんじゃないかってね』

 

「でもなんで、こんなものがアビドスにあるんですか?」

 

 

 ノノミはケースのある部室を見上げて、言う。

 

 

「アビドスとゲヘナの校章があったってことは、二校で作ったんですよね? 今思うとさっきのは、ゲヘナが使うような言い方じゃないです」

 

『だから、そうなんだろう。シェマタも、それも。ゲヘナが使うつもりで作ったんじゃないかね。アビドスにあるのは目くらましのためで』

 

「ああ、やっぱり」

 

『疑問に思わなかったのかい? この列車砲、補給はどうするんだって。幾ら長距離砲撃が出来るったってね、弾がなきゃ何もできないんだ。周りに囲まれたらおしまいだよ。最盛期のアビドスなら兎も角、あの時の極貧状態のアビドスじゃ使えない。でも、ゲヘナなら? 物資もあるし、一発でD.U.地区を焼け野原にする化学弾もある。実に、おあつらえ向きじゃないかい?』

 

 

 全く愉快そうでないマトの声は、嫌に通って聞こえた。

 

 

『初めっからアビドスを助けるつもりなんかないんだ。なけなしの金を搾り取って、攻め込んで、奪い取って、トリニティとの緩衝地帯か砲撃陣地にするつもりだったんだろうさ。本陣たるゲヘナから弾だけ送って撃つだけでいいんだから。寧ろ善意だったかもしれない。少なくともゲヘナになれば、あの雷帝は借金を何とかしただろう』

 

「え?」

 

 

 変な事をマトは言い出した。ノノミの反応を気にもせず、マトはブツブツと呟き続ける。

 

 

『そりゃあ、そうした以上はアビドスはゲヘナだからね。ゲヘナの為なら、あの愚かな怪物は何でもしただろうさ。でも、そうなる前に雷帝は失脚した。だから、それはそこにあるのさ。雷帝はそういうやつだよ。人の心なんか解さない。ましてや個人の想いなんてね。今となってはもう、昔の話だけどさ』

 

 

 言いたくもないだろう、冷たい想像を語るマトの声は、すっかり底冷えしていた。それを普段通りに切り替えた言葉がノノミへと向く。

 

 

『アンタが聞きたいのは別の事だろう? カヤツリの事だ。どうやったら、ああできるか知りたいんだろ? 兎に角誰でもいいから情報が欲しい。それが雷帝でも。少なくとも、ゲヘナに関しては真面目だったから』

 

 

 マトの声は、さっきとは違って同情的だった。あまりの温度差に、ノノミは電話を取り落としかけた。

 

 

「どうして……」

 

『今のアビドスの状況はカヤツリから聞いてる。引継ぎ中だってね。カヤツリの事だから、何も教えてないんだろう? らしいっちゃらしい。まぁ厳しいと思うよ。カヤツリの真似は難しいだろうさ』

 

 

 そのまま頷けば、深いため息が聞こえる。

 

 

『気持ちは分かるさ。私が思うにアンタは何もわからないんだろう? 今までは借金を返すための活動だった。だから、目標がはっきりしていた。でも、今度は違うよ。今度はアビドスを発展させなきゃならない。ネフティスの事もあるだろうしね』

 

 

 カイザー元理事とは違って、マトは責めなかった。でも居心地が悪い。

 

 

『アンタは分からない。学園の指導者とは、責任者とは、かくあるべきか。自分はどうするべきか。だから、雷帝の事を私に聞くんだ。カヤツリは教えてくれないから。カヤツリと似ているかもしれない、雷帝の話を』

 

 

 びくりと、ノノミの肩が跳ねた。まさか、言い当てられるとは思わなかった。

 

 

『どうしてって反応だね。簡単な話だよ。よくある話だからさ。アンタは今怖がってるだろ? あんな遺産なんか掘り出しちまって。問題を持ってきてしまった。期待に応えられなかったと、ミスをしてしまったとね。それに対して、言えることは一つある』

 

「それは?」

 

『アンタ、何の為にその席にいるんだい? まさか、あの二人にヨシヨシされるためにいるんじゃないだろうね。目的が怒られないため、失望させないために変わってないかい? あの二人の為にアンタは責任者をやるのかい? アンタは、それでいいのかい?』

 

 

 ノノミは、ハッキリとは言い返せなかった。それだけで、マトには分かったのだろう。少しの息が漏れる音がした。

 

 

『まぁ、アンタはよくやってるよ。前任がカヤツリと小鳥遊ホシノだ。あの二人に自覚はなくとも、重荷って奴はある。あの二人の真似ができないなら、誰かの真似をして、やり方を真似ると言うのも悪くない』

 

 

 元理事とは違って、マトはノノミを否定しなかった。でもどこか、困った口調になる。指折り数えているのだろう。ぶつぶつと呟くのが聞こえる。

 

 

『でも選択肢がねぇ……マコトはバカだし、あれで動くのはゲヘナだからだ。ティーパーティは三人で対等であるが故。ミレニアムはスペックゴリ押しで、レッドウィンターはあのカリスマだ。戻ってきた連邦生徒会長はマネするもんじゃないし……それで雷帝か。でも、選択肢はこれしかないかね』

 

 

 決めたのか、マトの声が戻った。いつもの声だ。そのまま懐かしそうな色を含めて話し始める。

 

 

『いつかの昔話をしてあげるよ』

 

 

 昔々、とそれこそ読み聞かせをするように。マトは話し出す。

 

 

『昔々、あるところに。ある女の子が居ました。その子は天才でした。何でも出来たのです。ありとあらゆることが、その子の前では達成されました。皆が彼女を褒め称えました。彼女も嬉しそうでした」

 

 

 出だしは上々の話だ。それとは反対に、マトの声は沈んでいた。

 

 

『ただし、その子には問題がありました。何もなかったのです。彼女は空っぽでした。何もかもができる故に、喜びというモノが。自分を肯定する理由がありませんでした。彼女にとってそれは、呼吸位のものだったのですから。そして、周りの人間は彼女に求めることを止めません』

 

 

 嫌な流れになってきたと、ノノミは思った。

 

 

『彼女は、それを叶え続けました。そうすれば皆が喜ぶからです。そうすれば、そこに居られたからです。それが彼女の存在意義でした。彼女を肯定する物は、それだけになりました。彼女の才能に過ぎなかったそれは、いつしか彼女そのものになっていきました。周りの人間の為に自分の力を使い続けました。そして、ある時誰かが言いました。誰しもが幸せでいられる学園が欲しいと、誰しもに存在意義がある。偉大なゲヘナが欲しいと』

 

 

 もう、終わりだ。もう、真っ逆さまに落ちるしかない。そんな予感が背中を這い上っていた。

 

 

『彼女は考えました。そしてすぐに思いつきました。One for all. All for one.全員が自分の様に、誰かの為に動けばいいのです。そうすれば嬉しいはずです。だって、自分がそうなのですから。彼女は他者の視点を決定的に欠いたまま、それを行動に移しました。最初はみんな笑っていました。それが地獄の始まりとは知らずに』

 

 

 マトの声には怒りがあった。どうにもその彼女だけでなく、他の物にも怒っている。

 

 

『全員が一丸になるためには敵が必要でした。敵を倒すためには力が必要でした。その力を運用するために、彼女は全員に自分と同じことを、大きな目標のために動くことを強制しました。そうしない人間をゴミと呼び、矯正・排除しました。個人の都合など彼女は知りません。理解などできません。妥協などしません。そんなものは無かったからです。自分のない彼女にとってはそれが幸せでした。そうしていれば、そこに居てもいいのです。褒められるのです。存在意義があります。それが幸せだと、彼女は本気で信じていたのです。いつしか彼女は、才能そのものになっていました。力は使われなければ意味がなく、そうならないために。自分が存在し続けるために誰かが望んだ夢を叶え続け、進み続ける怪物の誕生です』

 

 

 その先を、ノノミは知っている。遺産と言うのが答えだから。居る人間の物品に遺産はない。

 

 

『そしていつしか我慢できなくなった。いつの間にか切り捨てていた生徒たちに、怪物は倒されました。願いから生まれた、全てを苦しめた怪物はいなくなり、少々の火種を残して。ゲヘナは平和になりました。めでたしめでたし』

 

 

 全くめでたくなさそうな。そんなめでたしで、話は終わった。電話の向こうは全くそんな雰囲気でない。

 

 

「マトさん……?」

 

『違いは分かったかい?』

 

 

 恐る恐る聞いて帰ってきた答えに、ノノミは頷く。

 

 

「その人は、自分が無かった。自分がどこに向かっているか分からないんですね。自分でそうしたいと思ったわけじゃないから。だから、最後には切り捨てられた」

 

『そう、自分をこそぎ落とすとこうなるんだよ。評価基準を他者に依存した末路がこれさ。切っ掛けなら良いけどね。鵜呑みはいけない。飲み込んで噛み砕いて、その上で。自分自身の為に何をしたいのか決めなきゃならない。そうでないと、私はお前たちから生まれたなんて言う羽目になるからね』

 

「ありがとうございます……」

 

『いいんだよ。寧ろ聞いてくれてよかったのかもしれない』

 

 

 それ以上は、ノノミは聞く気になれなかった。聞いてはいけない気がした。それは、マトだけの何かなのだろう。マトはマトで、すっきりしたのか。どこか声の調子が違った。

 

 

『兎に角、どうしたいのか決めるべきだね。カヤツリや小鳥遊ホシノの事は一旦外して考えるんだよ』

 

「外して?」

 

『だって、アンタはカヤツリでも小鳥遊ホシノでもないだろう? 十六夜ノノミでしかないんだ。それしかなれないんだよ。それで、勝つしかない』

 

「勝つって……」

 

 

 一体何に勝てと言うのか? 自分に勝てとかそう言う話だろうか? マトは苦笑するのが聞こえる。

 

 

『ああ、それは……』

 

「マトさん?」

 

 

 急に雑音が酷くなった。マトが何を言ったのか、全く聞き取れない。困惑するノノミは足元を見て、異常に気が付く。

 

 

「霧……?」

 

「ノノミ! 見て!」

 

 

 シロコの指は上を指していて、それを見てノノミは困惑する。

 

 

「部室が、光って。それに何ですか、引き寄せられてる……まさか、遺産が!?」

 

 

 緑の光が部室から放たれていた。バチバチと電流の走る音もする。そして、校庭の鉄棒や倉庫のドアが、部室へと殺到していく。マトに連絡しようとしたが、液晶が虹色に変色していてどうにもならない。

 

 光はどんどんと強くなり、辺り一帯が緑色だ。それは止む気配を全く見せないので、ノノミは叫ぶ。

 

 

「みんな! 早く逃げますよ!」

 

「はい! ノノ──」

 

 

 対策委員会の全員が、校舎に背を向けて走り出す。ノノミも足を大きく踏み出して、一刻も早く距離を取る。

 

 だが、地面で足を踏みしめる。それより前に、緑の光が視界を染めた。前後左右を滅茶苦茶にする浮遊感と共に、ノノミの意識は薄れていった。









【GEHENNA KING】

Tyrant Emperor! Tyrant Emperor!
独裁を行く天才のお嬢さん
ゲヘナの頂点に降り注ぐ光
秩序で我ら従える会長
彼女こそが我ら救う議長
争い絶えぬ汚れきったキヴォトス
救うために侵略するゲヘナ
我らの願い全て背負う包容
鉄血!秩序! 我ら答える応答
さあ今学園の意思を飲み干そう
そして空は鳴き大地は震える
聖なる統合を受け入れ
アセンションの時 彼女の言葉を聞け

お前任期短かスギ
Tyrant Emperor! Tyrant Emperor!
お前任期短かスギ
Tyrant Emperor! Tyrant Emperor!
お前任期短かスギ
ゲヘナの雷帝 一生ゲヘナの宝物
一生ゲヘナの宝物

偽りを謳歌する叛逆者どもよ
悔い改めて彼女に許しを請え
卒業生などではない
彼女こそが我らに認められし女
T-Y-R-A-N-T Tyrant Emperor!
嵐! 嵐! 嵐!
さあ今この衝動を飲み干そう
そして空は鳴き大地は震える
聖なる電撃戦を受け入れ
アセンションの時 彼女の言葉を聞け

お前任期短かスギ
Tyrant Emperor! Tyrant Emperor!
お前任期短かスギ
Tyrant Emperor! Tyrant Emperor!
お前任期短かスギ
雷帝の遺産 一生ゲヘナの宝物
一生ゲヘナの宝物

皆の願いを背負った女
偉大なるゲヘナを作り上げた女
叛逆者に怪物と呼ばれた女
留年生に叛逆された女
遺産の数だけ脅威が増す女
今のところ台詞全てが過去回想の女
ゲヘナに絶対の秩序を敷いた
彼女にはこの称号がふさわしい

"ゲヘナの王"

GEHENNA KING!!  GEHENNA KING!! GEHENNA KING!!

さあ今彼女の意思を受け入れよう
そして空は鳴き大地は震える
聖なる統合を享受し
アセンションの時 彼女の祈りの言葉を

お前任期短かスギ
Tyrant Emperor! Tyrant Emperor!
お前任期短かスギ
Tyrant Emperor! Tyrant Emperor!
お前任期短かスギ
ゲヘナの雷帝 一生ゲヘナの宝物
一生ゲヘナの宝物
お前任期短かスギ
ゲヘナの雷帝!
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