ホシノ同級生相棒概念 作:洞鼬
道中は特に何事もなく目的地に着いた。遠くに広がっている光景はドローンでの映像とおおむね変わりは無い。ただ一つを除いて。
「パワーローダーだっけ、あれ。動いてない?」
「動いてるな……」
ヘルメット団の拠点から遠く離れた場所にバイクを止め、お互いに顔を見合わせる。拠点の方向からうっすらではあるが銃声とパワーローダーが見えた。カヤツリはハッキングのために用意していたドローンを飛ばして様子を見る。しばらくすると映像が端末のディスプレイに再生された。
昨日の時点ではコンテナに入っていたはずのパワーローダーが起動していた。それどころか周りの物資を踏みつぶしながら移動している。
「なんか、ヘルメット団も慌ててるよ」
「慌ててるな……」
ヘルメット団もこの事態は予想外だったのか、外へ出てきて銃で応戦している。ただ装甲が厚いせいか大したダメージになっていないようで、パワーローダーの足は全く鈍らず、進行方向上の物を機銃やロケット弾で薙ぎ払いながら前進していた。
あまりの事態にカヤツリは頭を抱えた。このまま放っておけば、ろくでもないことになるのは間違いなかった。
「あー。なんで毎回こうなるかな。これまでの苦労が水の泡だよ」
「カヤツリ。説明してよ。昨日のうちに何かやったんでしょ? なにやったの?」
急に頭を抱えたカヤツリをホシノは問い詰める。彼女からしたら、爆破するはずの物が敵の拠点で暴れまわっているのだから意味が分からないだろう。
「まだ何もやってない。それにあれが、ただ暴走してるように見えるのか?」
「私には、そう見えるんだけど?」
ホシノは疑わしそうに、カヤツリの方を見る。ホシノはこういったものはあまり詳しくない。そういった物は奥空後輩かカヤツリが説明するからだ。彼女にとっては、どんな攻撃か、装甲の弱点は何かだけ知っておけば困ることはあまりないのだ。
「ああいうのは暴走するんだったらその場で暴れる。建物だろうが、味方だろうが、敵だろうが、周りのものにひたすら攻撃する。後先なんて考えない。今みたいに、弾を使う場所を選んで一定の方向に、ひたすら前進なんかしない」
カヤツリは吐き捨てるように言う。あまりにも動きが機械的だから、どうせ中に誰も乗っていないだろう。
ホシノもパワーローダーの挙動を見て納得したように頷いた。確かにヘルメット団に発砲していない。ヘルメット団がこれだけ抵抗できているのもパワーローダーが障害物にのみ火器類を使っているからだ。
これからどうしようかと、しばらくヘルメット団の奮闘を画面越しに二人で見守っていたが、途中でホシノが何かに気づいた。
「今、気づいたんだけどさ」
「何? まだ悪い報せでも?」
「あれ、こっちに向かってきてない?」
「……そうだな」
「しかも、あれ私たちの学校の方に向かってない?」
「……向かってるな」
カヤツリは拠点の方向を見る。パワーローダーのシルエットがさっきよりも大きく見えた。ここにやってくるのは時間の問題だ。こちらの方がバイクの分足が速いから、逃げるだけなら可能ではある。ただ、最終的には学校までくるだろう。学校で迎撃は無理だ。校舎の損害が計り知れない。だから、ここで迎撃するしかない。
背中のガンケースを見やる。正確には中の狙撃銃だが。中には新調した対物ライフルが入っている。
弾もある。距離も射程圏内。場所もよさそうな所がいくつかある。
狙撃してパワーローダーの脚を使い物にならなくさせるのは、カヤツリにとって、そう難しいことではない。
ただ一人では難しかった。パワーローダーとの距離があるのはいいことだ。反撃は貰いたくないから。
けれども、いささか遠い。
手伝いが必要だった。幸いなことに今日は二人いるから何とかなるが、あれだけ拒否しておいて、いざとなったら手伝いを頼むのは情けなかった。
「……少し手伝ってもらってもいいか?」
「狙撃? また、いつもみたいに風速とかを読み上げればいいの?」
「そう。頼むよ」
慣れた手つきで移動の準備をしながら、”やっぱりついてきてよかったでしょ?”と言うホシノにカヤツリは何も言い返せない。事実ほど刺さるものは無いのだ。
□
狙撃位置に着いた。向かってくるパワーローダーが良く見える。ヘルメット団は追うのを諦めたのか姿は見えない。
今カヤツリは廃ビルの屋上で腹這いになって、狙撃銃のスコープを覗いていた。脇ではホシノが周りを警戒しながら、いつものように、ドローンが拾った情報を端末で読み上げてくれている。
狙うのはパワーローダーの逆関節になっている脚の関節部分。そこが壊れれば、まともな移動はできないはずだった。
スコープで狙いをつけながら、息をゆっくり吐いて、吸う。
身体の震えが収まって、世界が狭くなる。その世界は自分とパワーローダーの二つだけ。
自分の勘が、”ここ”だと囁くところで銃の引き金を絞った。
銃から弾が飛び出していく。少し遅れて噴煙が舞い、鈍い銃声が響く。
「命中」
関節部に命中したというホシノの声を聞きながら、続けて第二射、第三射と連射する。五射目あたりで、パワーローダーの関節は機能を放棄した。
片脚は自重を支えきれず、パワーローダーは正面から崩れ落ちるように地面に激突した。起き上がろうとして、藻掻いているが片脚だけでは立ち上がれないようだった。腕を使おうとするも、その腕に向けて、カヤツリが銃を連射するので腕もすぐ使い物にならなくなる。
しばらくするとパワーローダーは地面の上で藻搔くことしかできなくなった。
「もういいよ。藻搔いてるだけだね」
ホシノの声で、身体を起こす。ずっと同じ姿勢だったせいで身体がボキボキ音を立てた。終わってみれば案外呆気なかった。毎回こういう風になってくれれば、言うことはないのだが。あとは、今地面で藻搔いているアレを調べるだけだ。何かしらわかるかもしれなかった。
調べるために近づきたい旨をホシノに伝えると、あまり乗り気でない表情だった。
「あれに近づくの? いいけど私の後ろにいてよ。もし暴れたら危ないからね」
狙撃銃を片付けてガンケースに仕舞い直した後、盾を構えたホシノを先頭にパワーローダーまで近づいていく。パワーローダーは未だに藻搔いているが、無理な体勢で藻搔いているせいか、自重でフレームでも歪んだのか鈍い動きしかできなくなっている。無理に動こうとするせいで心なしか金属の軋む音もする。
普通はこうなる前に中のシステムが機能を止めるのだが、そういうリミッターが外れているらしい。ますます怪しかった。周りの外装を調べるが思ったとおりに、型番やらロゴなどは跡形もない。ただ、こんなものを所有しているのは限られる。ここまでして身元を消しているのなら、どこからか盗んできたのも考えにくかった。盗んできたならそのまま使えばいいからだ。
「中を見るしかないか……」
機体がうつ伏せになっている関係上、機体の前面にある操縦席は入れない。隙間をこじ開けて入るしかない。それを見たホシノは真剣な表情で止めた。
「それは危ないよ。カヤツリ。ちょっとそれは見過ごせないかな。せめて、動きを完全に止めてからにして」
「でもな……」
安全面でいったら、その方がいいのだが。ここまで痕跡を消している相手だ。鹵獲された時の事も考えていそうだった。でもホシノの言うことも、もっともだった。今日はホシノがついてきたおかげで助かったし、言うことを聞くのも悪くない。そう思ってホシノに動きを止めるように頼んだ。
「じゃあ、頼むよ」
「うん。少し待っててね」
軽い返事の後に、脆そうな四肢の関節部に向けてホシノがショットガンを発砲した。ここまで近ければショットガンでも関節を破壊できる。順調に破壊は進み、動きはどんどん鈍くなっているのが分かった。それをホシノの後ろから眺めていたカヤツリは、異変に気がついた。
陽炎だ。機体の背部から立ち上っている。つまりは、かなりの熱を持っているということだ。そのくせ排気口からは何も出ていない。動力部分が熱暴走──オーバーヒートしている。このままでは少なからず爆発するだろう。
「ホシノ! 下がるぞ。爆発する!」
後方に下がりながら声かけると、ホシノは発砲を中断して、すぐさま後に続いた。
しばらくして、パワーローダーは大爆発を起こした。十分な距離を取って二人とも盾の後ろにいたのだが、爆風はここまで吹きつけてきた。近くで爆発したのならタダでは済まなかっただろう。
「今回は、カヤツリの方が正しかったみたいだね……。ごめん」
「いや、止めなくても爆発したかもしれない。気にしないでいいよ」
ホシノが申し訳なさそうに言うが、ホシノのせいではないことを強調する。きっと機能が停止したら自爆するようになっていたのだろうが、この様子だと中に入って端末を弄っても爆発したかもしれない。鹵獲対策も万全だったということだ。むしろ、ホシノの言う通りにしてよかったのだ。中に居ても熱で気がついただろうが、外の方が早く気がつけて、逃げる時間も確保できた。
そもそも、このパワーローダーはまさに使い捨てだったのだろう。今回は無人で起動したが、有人でも挙動は変わらなかったはずだ。アビドス校舎に攻め込んで通常火器で制圧できればよし。撃破されるか、鹵獲されてもその場で自爆する。この爆発の勢いだと校舎はタダでは済まなかった。むしろ、ここで対処ができてよかった。
戻ってパワーローダーの様子を見れば、もう原形をとどめていなかった。スクラップだ。ここから分かることは何もなかった。
「偵察がこんなことになるとは思わなかったな」
思わず感想が口から零れた。最初は様子を見るつもりが、パワーローダーが起動していた。撃破したと思ったら自爆される。出来の悪い映画みたいで、朝から疲れてしまった。
「たまには、良いんじゃない? こういうのもさ」
ホシノがこっちを見て笑っている。そういえば、夜のパトロール以外でホシノと行動するのは久しぶりだった。疲れたけれど確かに悪くない気もする。
「それで、そろそろ教えてくれてもいいでしょ。私に隠してることあるよね」
カヤツリはホシノの顔と雰囲気を見るが、校舎で問い詰められた時とは様子は違った。今ならいいかもしれない。パワーローダーの件もある。ちょうどよかったのかもしれなかった。
「一年の時の迫撃砲のやつ。覚えてるか?」
「ビナーの時に横槍入れられたやつ?」
「そっちじゃなくて。その前の。ヘルメット団が乱射してた方だよ」
今でもこの間の事のように思い出せる。まだ先輩がいた時の頃の出来事だった。ヘルメット団や不良生徒が何者かから武器の供給を受けて、アビドス砂漠に爆撃を繰り返していた事件だ。
目的は黒服からビナーの誘導であることは確認していたが、どこに誘導したかったのか、目的は何だったのか、一体誰がそれを計画したのかは分からなかった。ビナーの対処で、それどころではなくなったからだ。けれど分かっていることもある。
「ほら、一緒に調べて、武器を餌に依頼していた奴がいたのは分かっただろ。今回と似てないか?」
「……そうだね。そうかもしれない。確かにあの時と似てるね。つまり誰かが、同じようにヘルメット団に物資を横流しして、私たちを攻撃してるってこと?」
カヤツリはホシノの考えを頷いて肯定する。ホシノは、さっきまでの緩んだ雰囲気が消えて、戦闘時のような雰囲気になる。眉間に皺まで寄っている。
「……だから黙ってたし、一人で調べてたの?」
「前は俺と先輩とホシノの二方向から調べても、尻尾を掴めなかっただろ? だから一人だけで調べれば、気づかれずにうまくいくかと思ったんだよ。それに、ショックじゃないか? そういう奴がいるっていうのは」
「まあ、そうだけどさ。言ってほしかったな。不安になるでしょ」
ちょっと不満そうなホシノを見る。
理屈では分かってはいるけど、なんかもやもやする。そういう顔だった。
ホシノのこういうところは変わらない。カヤツリも前みたいに黙ってビナーに突っ込んだりはもうしないが、把握しておかないと不安なのだろう。
「何でもかんでも言えばいいってわけでもない。何度も訂正されるのは面倒じゃないか。正しい情報が一発で来る方がいいだろ」
「はぁ、分かってないね。カヤツリ。何度も言ったでしょ」
ホシノは腰に両手をあてて、首を振りながらため息をつく。
「私は言ってほしいんだよ。些細なことでもね。自分でも面倒だと思うけどさ。私も毎回、今朝みたいなことはしたくないんだよ」
本当に面倒くさいヤツだな。そんな言葉が喉元まで出かかったが、我慢する。
「そう言うホシノはどうなんだ。あんまりそっちからは話さないだろ」
「話してるよ? カヤツリが会話を切ってるんだよ。業務連絡じゃないんだから。もっと会話のキャッチボールってやつをしてよ。答えありきで正しいのかもしれないけどさ。前はできてたし、カヤツリから話してくれたじゃない」
前といっても、本当に前の話だった。まだ先輩が居た時の話だ。ただ、ホシノの言うとおり、確かに最近はそうかもしれない。単語やイエスかノーの返事で終わっている気がした。
「今回だって話してくれたら、もっと違ったと思うよ。例えば、夜のパトロールの時に様子を見るくらいはできるじゃない?」
「大変だろ。それは。もっと休んでいい」
前衛を張ってるホシノの負担は増やしたくないのだ。それを見透かしたようにホシノは言う。
「いい? 私が大事なのは分かるけど、自分の管理くらいできるよ。まあ、これは前科があるから心配なのかもしれないけどさ」
「はぁ……。また、そんなことを言う……」
二人が三年になってから、冗談なのか知らないが、こういうのが増えた。最近は慣れてしまって、反応するのも面倒になってきているのだ。
「言えばいいんだろ。言えば。後でよく分からないとか言うなよ」
「そうそう。それでいいんだよ。二人で話せば見えてくるものもあるよ。私はカヤツリと話すのは楽しいしね。じゃあ練習ね。これからどうしようか?」
さっきとはうって変わって、ホシノはニコニコしている。楽しくお喋りしようという事だろう。
「はぁ……。ヘルメット団に物資を流してるやつがいるまではいいか?」
ホシノは頷くが、問題はここからだった。その武器を流している奴を捕まえるか、所属を掴まなければならない。前のようにヘルメット団をつけ回すだけではきっと捕まらないだろう。受け身の作戦ではダメだった。
「だから、ヘルメット団に潜入しようと思ってる。そこで接触してくる奴を待つって算段」
「カヤツリが行くの? すぐにバレるよ。いくらヘルメットを被ってるとは言ってもさ。体つきや声で分かっちゃうよ」
「そこは、だぼだぼのジャージかなんかで誤魔化せばいいだろ。一々、顔なんて確認するか? 声はなんとかするよ。それに、あんなに人数がいるってことは連合を組んでるんだよ。単体の団じゃないから、知らない奴がいても普通じゃないか」
「まだ私が行った方がいいと思うよ」
ホシノはダメだった。おそらく顔や風体が割れているからだ。何回も襲撃を退けていたから、どの団員も覚えているだろう。後輩たちは論外だ。危ない目には合わせられない。
「それならカヤツリが行くのは良いよ。でもそれだけじゃ物足りないよ。潜入の間にできることがあるの? 無いなら、考え直してよ」
「攻める時期をコントロールか、情報を事前にそっちへ流すくらいはやれそうだな。そっちは何かあるか」
そうだね。とホシノが悩みながら答える。
「期限はいつまでにするの? ずっとは居れないよ。バレる可能性が上がるからね」
「一週間くらいにするかな」
「それくらいなら、いいかな。ちゃんと帰ってきてね。そうじゃないと、私がそこに突撃しなくちゃならなくなるから」
ホシノは納得したように頷く。なんだか、トントン拍子に決まった。もっと説得に手古摺ると思っていたのに拍子抜けだった。
「どう? すぐ終わるし、昔みたいで楽しいでしょ。これからはちゃんとやってよ? 別に私もカヤツリとは長いからさ。言われなくても何を思ってるかは大体わかるけど、そういうのは寂しいよ」
「分かったよ。ちゃんと言うようにする」
「ならいいよ。じゃあ帰ろうか。そろそろシロコちゃんたちが登校してくるからね」
そう言って、ホシノはバイクの方へ歩き始める。なんだか、来た時と比べて、とても機嫌が良さそうだった。足取りが見るからに軽い。
気がつけばカヤツリも気分が楽で、心地が良かった。特に問題が解決したわけではないのに。
理由は分かっている。ホシノの機嫌がいいのも同じ理由だろう。
まだ先輩がいた頃。その時にはホシノと当たり前にやっていたことだった。
答えを用意しないで、雑談みたいに相談するなんてことは。
幸せだった昔に戻ったようだった。
けれど、もう昔とは違う。ホシノも譲らないなんて事は無いし、今は、むしろ譲らないのはカヤツリだ。
でもカヤツリは平気だった。
また同じように話せばいい。もうやり方は思い出したから。