ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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47話 過程と結果

 先生がやってきてから次の日。ホシノは昨日のように屋上で寝転んでいた。いつもの定期連絡の時間だからだ。昨日と時間は同じで、天気も似たようなもの。ただ一つ違うのはホシノの気分だけだった。

 

 

『なんか機嫌が悪そうだけど、何かあったか?』

 

 

 ホシノから昨日の顛末を聞き終わったカヤツリは、少し黙った後にそう言った。

 

 いきなり、そんな一言を言い放つので、ホシノは嬉しさ半分と恥ずかしさ半分の複雑な気持ちになる。そんなに分かりやすいだろうか。

 

 

『当ててやろうか。先生が思ったよりいい人で、気に入らないんだろ』

 

「ちょっと違うよ」

 

 

 ホシノは曖昧な返事を返す。当たらずとも遠からずと言ったところだろうか。いい人だと思ったのは確かだ。気に入らないのもそうなのだろうが、それよりもホシノを襲ったのは無力感だった。

 

 ある意味、昨日のセリカちゃんの叫びはホシノの叫びでもあった。今まで六人でやってきたところに入ってきた先生という異物。それは苦労していたヘルメット団の問題を、あっという間に解決してしまった。

 

 確かに善人ではあるのだろう。いい大人なのかもしれない。ただ、それとこれとは話が別だった。頭では分かっていても、気持ちが許さないのだ。とても、もやもやする。

 

 

『……やっている仕事を途中で取り上げられたようなものだからな。それで最良の結果をお出しされたら、まぁいい気分にはならないか』

 

「カヤツリは違うの?」

 

『そりゃあ、俺もいい気はしないよ。ほら。ホシノとかセリカ後輩。シロコや十六夜後輩や奥空後輩は求める物が微妙に違うから』

 

 

 カヤツリが少し面白そうな話を始めた。対策委員をこの二人と三人で分けるのは中々面白いと思ったから。学年も性格もバラバラだ。どう考えてもシロコちゃんとノノミちゃんは似ていないし、セリカちゃんと私は似ていない。

 

 

『ホシノはさ。求めた結果と過程が釣り合っていないと不満なタイプだろ。良くも悪くもな。逆にあの三人は、結果と過程が釣り合っていなくても、ある程度は許容できるタイプ』

 

「よくわからないよ」

 

 

 相変わらず、抽象的で分かりにくい。こういう所は黒服みたいで、あまり好きではなかった。

 

 

『まあ、簡単に言えば、奇跡……は大袈裟だな。棚ぼたをただの幸運として信じられるかみたいな話だよ』

 

 

 ──ホシノには難しいだろ?

 

 

 確かにそうだった。余りに都合が良いと、疑念から入るようになってしまった。昔はそうでは無かった気がしたが、いつからそうなったかは分からなかった。

 

 

「セリカちゃんは? 私には、そう思えないけど?」

 

『まあ、あんなのに騙されてちゃな』

 

 

 声の調子で、電話の向こうでカヤツリが苦笑いしているのが想像できた。

 

 セリカちゃんは騙されやすい。ユメ先輩までとはいかないが、相応に。ユメ先輩は人を信じ過ぎて騙されていたが、セリカちゃんの場合は物だった。

 

 

『このブレスレットで、貴方も勝ちまくり! モテまくり! だったか?』

 

 

 カヤツリが、その商品の謳い文句を呟く。早い話が、怪しげな開運グッズで散財したのだ。しかも、マルチ商法に誘導するタチの悪さだった。その販売会社はカヤツリの逆鱗に触れた事で、アビドスから追い出されていたが。

 

 

「まさに、幸運を信じて騙されてるじゃない。私とは違うよ」

 

『……例えが悪かったかな。別にセリカ後輩は、空から大金が降ってくるとか、道端で高価な物を拾うとか、そういう幸運を信じているわけじゃない。あの娘は真面目だよ。だからバイトだって掛け持ちしてるし、俺だって柴関を紹介した』

 

 

 カヤツリの言っていることは、何となく分かるような気もする。ホシノは、セリカちゃんが真面目なのも知っているし、変な手段に頼らずにバイトを頑張っているのも知っていた。きっと、カヤツリが言いたいのは、彼女はとても真っ当だということなのだろう。

 

 

『セリカ後輩が求めている幸運は。真っ当な手段で金を稼ぐ機会に恵まれることなんだよ。だから金運なのさ。決して棚ぼたで大金が転がり込んでくることを求めているわけじゃない。……たぶん』

 

 

 途中までは自信たっぷりだったカヤツリの言葉が最後は尻すぼみになった。何ともしまらない。きっと途中で、その場面を想像して自信がなくなったのかもしれなかった。ホシノも信じてはいるけれど、断言はしにくかった。きっと、セリカちゃんはとても悩むだろうことは想像できた。

 

 誤魔化すようにカヤツリが話を進める。

 

 

『ホシノとセリカ後輩が似てるって言ったのは。そういう所だ。二人とも、過程と結果の両方に価値を見ている。どちらかが大きすぎても小さすぎても嫌なんだよ』

 

 

 ──だから、セリカ後輩は怒って教室を飛び出したし、ホシノはもやもやしてるんだろ?

 

 

 そうだ。だから、ホシノはもやもやしていた。先生の人柄が、もっと悪かったらよかったのに。そうすれば、このもやもやをぶつけることが出来ただろう。ただホシノはセリカとは違って、それをしないだけの分別と、それをしたらどうなるか考える頭があった。だから、自分の中にため込むしかなかったのだ。

 

 

「だってさ。あんなに簡単に解決されたら悔しいよ。私だって頑張ったし、皆だってそうだよ」

 

『……そうだな』

 

 

 一回自覚したら止まらなかった。次々出てくる。カヤツリは黙って、話を聞いてくれていた。

 

 

「先生だって、簡単じゃないのかもしれないけどさ。分かってるんだよ。そんな事は。これが八つ当たりだってことくらい」

 

 

 きっと、嫌だったのだ。ただの大人一人の助力で何とかなってしまったことが。たった一日で何とかなってしまったことが。暗に、こういわれているみたいだった。

 

 

 ──お前たちの頑張りは、こんなものなんだよ。大人一人だけで解決するなんて、とってもちっぽけな問題じゃないか。お前なんか、いなくても変わらないんじゃないのか?

 

 

 ヘルメット団に対処していた自分たちの努力がちっぽけに見えて、悔しかった。自分がいらないんじゃないかと思えて、嫌だった。そして、そんな事を思ってしまう自分が何よりも嫌だった。

 

 

『別にいいんじゃないのか。そう思うのは別におかしいことじゃないだろ。普通だよ普通』

 

 

 カヤツリが何でもない事のように言う。本当に何でもない事のように。

 

 

『確かに、ちっぽけな問題だよ。ただそれは弾がない事であって、ヘルメット団の対処じゃない。そこは間違えない方がいい。弾がないから苦戦していたのであって、対処がうまくいかなかったのはホシノのせいじゃないだろ。実際弾がきてからは楽勝だったろ?』

 

 

 誰でもよかったんだよ。そうカヤツリは言う。

 

 たまたま、偶然、弾を持ってきて、支援してくれたのが先生だっただけだと。それが、先生じゃなくても、大人じゃなくても、きっと同じように思うだろうからと。

 

 だから、そういう気持ちになるのは、別に普通の事なんだよと。そうしてもいいのだと。それでもいいのだと。そう言ってくれた。

 

 

「……そうかな」

 

『みんなやってることだよ。他人に身勝手な理由で腹を立てるなんてことは。それこそ俺だってな。流石にずっとは、いただけないけど』

 

 

 昔、カヤツリもずっとイラついていた時期があったのを思い出した。自分だけじゃないと思えたのと、吐き出したこともあって、少しだけもやもやが晴れた気がした。

 

 

「カヤツリはどっちなの?」

 

『何が?』

 

 

 不思議そうに聞き返すカヤツリに聞いてみたくなった。対策委員の分け方の話だった。カヤツリはさらりと自分を省いたけれど、どちらなのかホシノは気になった。自分と同じなのか。それとも、シロコちゃん達と同じなのか。

 

 

『言ったじゃないか。二度も言わせないでくれ』

 

「言ってよ。ほら、もう一回。いつ言ったか分からないからさ」

 

 

 ぶっきらぼうに答えるカヤツリ相手にごねる。そんなことを言っただろうか? ホシノは聞いた覚えがなかった。カヤツリは、諦めたように口を開いた。

 

 

『最初に言っただろ。”俺もいい気はしないよ”って。十分だろ、これで。説明までさせないでくれ』

 

「……あのさ。何度も言うようだけど、そういうところだよ。カヤツリ。本当にそういうところ」

 

 

 まただ。ずるい。そういうところは本当に。言ってほしいときに、言ってほしい言葉をくれるのは。しかも今回は時間差攻撃だった。これに関しては、まだホシノはカヤツリに勝てる気はしなかった。

 

 

『ホシノが俺に口で勝とうなんて十年は早いね』

 

 

 それは言い過ぎだとホシノは思った。だから少しだけ反撃することにした。やられっぱなしは性に合わないし、昔のままではないのだ。とっておきを使う。今じゃないと、電話越しじゃないと言えない、とっておき。

 

 

「十年しか一緒にいてくれないの? それは少し寂しいな……」

 

『………………』

 

 

 電話の向こうのカヤツリの顔は、ホシノには分からなかった。けれどカヤツリの反応から、やり返してやったという感覚と、ある程度カヤツリがしている顔も想像がついて、ホシノは大声で笑った。もう、もやもやは消え去っていた。

 

 

 □

 

 

『で? 今日はセリカ後輩はどうしたんだ? 登校拒否でもしてるのか?』

 

 

 カヤツリが元に戻るのにしばらくの時間を要した。今は元に戻って、セリカちゃんのことを聞いている。ホシノとしてはもう少しあのままでもよかったのだが。あんなカヤツリは珍しいから、もう少しだけ話していたかった。

 

 

「今日はほら、自由登校日だよ。登校しなくてもいい日だから、バイトでもしてるんじゃないかな」

 

『……今日は確か柴関か。バイトの邪魔だけはしてやるなよ。行くのは良いかもしれないけどな』

 

 

 カヤツリが真剣な声で言う。ホシノは邪魔するつもりはない。けれど、先生はどうだろう。もう遭難しないように地図は渡したし、住居も仮の物として、カヤツリの教室を貸している。ただ昨日のセリカちゃんの様子だと、認めてもらおうとして付きまとっているのではないだろうか。

 

 

『それなら多分、しばらくしたらホシノに聞きに来るんじゃないか? セリカ後輩の居場所をさ。教えるのか?』

 

「あのままじゃ、いけないよね」

 

 

 セリカちゃんの気持ちは分かる。さっきまでホシノも同じだったから。それにセリカちゃんが多分、先生のことを認めているであろう事も。でなければ、ホシノと言い争った時に、迷って言い篭らなかった。きっと、怒りのままに、思うがままに言葉を吐き出していただろう。

 

 

『放っておくのは悪手だ。多分セリカ後輩だと、引っ込みがつかなくなる。折をみて介入しないと』

 

 

 カヤツリの懸念はもっともで、だからホシノはさっきの方法を使うことに決めた。効果はホシノとカヤツリのお墨付きだ。

 

 

「先生には教えるよ。さっきの私とカヤツリみたいにすれば良いんだよ。話せばなんとかなるんじゃない?」

 

『ホシノがいいなら、いいけどさ。ホシノはうまくいくと思うのか? 俺は先生と直に話したわけじゃないから分からないぞ』

 

 

 昨日の一日を思い出す。心のもやもやが取れた今なら、ある程度は先生の事を公平に見れそうな気がする。

 

 なんだか柔らかい雰囲気と遭難しかけたという事実が、頼りなさを倍増させていた。けれど、”対策委員の一員として協力させてほしい”という言葉は信じてもいいかもしれない。借金の額を聞いて、状況を知っていて尚その言葉が出るのなら。セリカちゃんのことくらいは、先生自身で何とかしようとするだろう。だから自分に聞きに来たのなら、答えようとは思った。

 

 

『じゃあ、拗れたら言ってくれ。何とかしてみるから』

 

 

 カヤツリの言葉に安心しつつも、ホシノは昨日の夜から気になっていたことを聞いてみることにした。

 

 

「昨日ずっと、ヘルメット団の中にいたよね?」

 

『まあ、わかるよな。助かっただろ?』

 

 

 しれっと、カヤツリは認める。校舎での防衛戦も、前哨基地での強襲でも、カヤツリがいたことにホシノは気づいていた。さっきのカヤツリとの問答でも思ったけれど都合が良すぎた。怪しく思って、ヘルメット団をよく見れば普通に混じってヘルメットを被ったカヤツリがいた。

 

 戦闘はサボりながら、さりげなく”勝てない”とか”もう逃げよう”とか、そういう事をヘルメット団に囁いていた。昨日の朝に言っていた足止めだって、また碌でもない手段を使ったに違いなかった。

 

 

『ああ、飲料水のタンクに下剤を混ぜたのと、車両の燃料タンクに不思議な粉を混ぜた』

 

「ちょっとは加減しなよ。確かに助かったけどさ」

 

 

 カヤツリの自白でヘルメット団が腹を下したのと、車両が壊れていた原因が判明した。カヤツリは外敵には容赦がない。その割には先生には妙に好意的なのが気になった。アビドスの外から来た人に対して、カヤツリが好意的なことを言うなんて事は今までなかったから。

 

 

『先生に怪我されたら困るんだよ。外から来たって話だけど、いくら何でも危険認識が甘すぎる』

 

 

 カヤツリの呆れたような声が聞こえる。確かにアビドスでは命とりだろう。他の学区と違って、治安が悪いうえに遭難の危険がつきまとうからだ。

 

 

『だから、今回の戦闘で覚えてほしかったんだよ。ここは貴方が思っているより危ないところなんだって。だから、ちょっと過剰に手助けしたし、不良生徒のいい例を置いていっただろ。ヘルメット団にしちゃ良い奴だったみたいだけど』

 

 

 あの逃げ遅れは、やっぱりカヤツリが閉じ込めたようで、ヘルメット団の拠点の案内役以外にも役目があったようだ。ただホシノはカヤツリが、そこまで世話を焼く価値が先生にあるのか疑問だった。良い人ではあるだろうが、それだけだ。

 

 

「カヤツリはさ。やけに先生に親切だよね? 何か理由でもあるの?」

 

 

 ホシノの質問にカヤツリは、あまり答えなくなさそうだった。しばらく沈黙が続いた後にカヤツリは話し出す。

 

 

『現状をいい意味で変えてくれるんじゃないかって思ってるんだよ。少なくとも俺とは違って大人だからさ。俺では出来ないことをやってくれるかもしれないだろ』

 

 

 ホシノから見れば、先生にまだその兆しはなさそうだった。カヤツリの事だから、また色々考えているのだろう。それについて、まだまだ話していたかったが、そろそろ終わりの時間が近づいていた。

 

 だから、ホシノはカヤツリに確認だけすることにする。最初に決めた潜入期間の確認だった。

 

 

「カヤツリは、予定通り明日の昼くらいに帰ってくるってことでいいの? それで一週間だよね」

 

『その予定だよ。今、ヘルメット団の拠点に最後の仕上げをしてるから。それが終わったら帰る。じゃあ、また明日』

 

 

 電話はそうして切れたが、カヤツリが明日帰ってくると聞いて、ホシノは嬉しく思った。ようやくいつもの日々が帰ってくるからだ。今日はカヤツリがいなくとも、楽しく過ごせそうだった。

 

 

 ──それに、セリカちゃんのこともうまくいきそうだしね。

 

 

 屋上に続く階段を誰かが昇ってくる気配を感じながら、ホシノはそう呟いた。

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