ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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48話 誘拐

「あれは、反則じゃないか」

 

 

 ホシノとの通話が終わった後に、そうカヤツリは呟く。最近ホシノのカウンターの威力が上がっている。そのせいで前は流せたのに最近は流せなくなってきていた。さっきも復帰するまでどれ位かかったか分からない。

 

 前は一緒にいるだけでよかったのに、今はそうではなくなっている。さっきの電話のように話しているだけでも楽しいし、この一週間は退屈で、さっさと帰りたい気持ちが強い。それをまたホシノに気取られたら、何を言われるか分かったものではない。ニヤニヤ笑いで揶揄われるのはもう御免だった。

 

 

 ──できたらそうしているんだよ。

 

 

 舌打ちしてカヤツリは茹ったままだった頭を冷やしつつ、最後の仕上げを急ぐことにした。

 

 カヤツリが今いる場所は、ヘルメット団の拠点が良く見える廃ビルの一フロアだった。望遠鏡代わりにするために狙撃銃を組み立てていく。

 

 

「悔しいって言ってたな……」

 

 

 組み立てながら電話でのホシノの言葉を思い出す。少しだけ笑みがこぼれた。

 

 ”私のせい”でも、”もっと頑張らなきゃ”でもなく、”悔しい”とホシノが思っていたことが、カヤツリは嬉しかった。

 

 ホシノが二年生の頃ならおそらく言わなかっただろう。全部自分のせいだと、自分の頑張りが足りないからだと抱え込んで、そんな台詞を吐いたに違いなかった。

 

 でも、今回は悔しいと言ったのだ。悔しいなんて言葉は、もう全てを、自分ができることをやり切ったと思わない限り、出てこない言葉だった。

 

 それが出てきたということは、ホシノが自分の頑張りをある程度は認められたという事だから。

 

 カヤツリはそれが、ただただ嬉しかった。

 

 そんな事を思いながら手を動かせば、銃は直ぐ完成して、覗き見の準備は整った。

 

 ヘルメット団に潜入して分かったことがいくつかある。それは、意外と仲間意識がある事や、他にいくつも名前の違う団があること、金欠に苦しんでいること、そして派閥がある事だった。

 

 それで、アビドスを攻撃していたヘルメット団にも派閥はあった。今の主流派が、”謎の人物の援助を受けつつガンガン行こうぜ”派。残りは、”このままでいいのか”派だった。一応、ヘルメット団にも理性というものがあったらしい。

 

 

「おお、やってる。やってる」

 

 

 狙撃銃のスコープで、彼女たちの拠点を覗き見る。どうも、言い争いをしているようだった。盗聴器のスイッチも入れる。言い争いは、もう野次の飛ばし合いになっていたが、おおむねの内容は理解できた。

 

 

 ──私たちは良いように使われているだけじゃないのか? 確かに物資は増えて楽になった。だけどアビドス校舎はいつまでたっても落とせないし、今回は被害が出た。これは泥船じゃないのか。使いつぶされる前に逃げた方がいいんじゃないか?

 

 ──前のゴミ漁りの生活に戻りたいのか? 次は勝てばいい。今の充実した生活を捨てるのは惜しい。武器も弾薬も食料もある。もう苦労して廃墟漁りもしなくてもいい。そんな生活を捨てるって言うのか?

 

 

 まあ、そんな言い争いをしているのだ。今までは主流派が潤沢な物資と対策委員に勝ちはしないが、負けもしない。その実績で残りの派閥を黙らせていた。ただ昨日こっぴどく負けてしまった今。もうそれは使えないわけで。物資をちらつかせて引き留めるしかない状況になっている。

 

 火種は沢山あった。主流派も最初は普通だったのだろう。普通に皆に分け隔てなく物資を分配していた。ただ人は慣れるし、段々と傲慢になるものだ。今まではそれでよかったのだろうが、もうそうはいかない。

 

 溜まりに溜まった不満が爆発する。カヤツリが火に油を注いだせいで、もう主流派だけでは抑えきれないところまで来ている。これから主流派がどうするか手に取るようにカヤツリには分かった。

 

 

「実績を作って黙らせるしかない。そのためには黒幕に泣きつくしかないぞ」

 

 

 きっと、黒幕に連絡するだろう。今回は盗聴の準備も万全だった。尻尾をようやくつかめるかもしれない。

 

 意地の悪い笑みを浮かべて、カヤツリは盗み聞きに集中した。

 

 

 □

 

 

 その日の夜。アビドス校舎にはセリカとカヤツリを除いた対策委員四人と先生が集まっていた。なぜかと言えば、非常事態が発生したからだ。

 

 

 ──セリカが行方不明。

 

 

 そうアヤネが先生含めた対策委員全員に連絡して、今集合したところだった。全員が揃ったのを確認してアヤネが説明を始めた。

 

 

「状況を整理します。まず、セリカちゃんは柴関のバイト終わりまでは姿が確認されています。柴関の大将はしっかり確認したそうです」

 

 

 赴任当日にセリカに拒絶された先生は、どうにか話を聞いてもらおうとセリカをつけ回した。怒鳴られた挙句にすぐ俊足で撒かれてしまったけれど。どうしたものかと思った先生はホシノに相談したのだ。

 

 

 ──先生はセリカちゃんと話したいんだね。いいよ。セリカちゃんのバイト先まで連れていってあげる。

 

 

 ホシノは、そんな台詞と共に対策委員の全員でバイト先の柴関ラーメンまで案内してくれた。セリカも、もちろんそこにいて、先生の目的は達成できそうだった。そこまでは良かったのだが、バイトの邪魔をされたセリカは怒ってしまい取りつく島もなく目的は果たせず終わる。そのまま、お礼に対策委員にラーメンを奢った後に解散になった。

 

 そこから、連絡が取れないことに気がついたアヤネが、セリカの自宅まで行って確認するが自宅に帰った形跡もなかったらしい。

 

 

「柴関から家に帰る途中で何かあったってことだね」

 

「誰かに攫われた。そういうことかい?」

 

 

 先生はホシノの呟きに答えを投げた。ホシノは黙って頷く。そうともなれば犯人の候補は限られる。ここにいる全員に心当たりがあった。

 

 

「ん。ヘルメット団の連中」

 

 

 シロコが全員の心中を代表して話した。先生も同意見だった。人一人を攫うのは簡単ではない。先生が元居たところでも、誘拐は小さい子供でもない限り複数犯だ。そんなことが出来そうなのと、動機があるのはヘルメット団くらいだから。

 

 

「でも、どこにいるんでしょう? 昨日の拠点ですかね?」

 

「場所の見当はついてるよ。ノノミちゃん」

 

 

 ホシノの確信を持った答えにノノミは不思議そうだったが、そこは心配いらなかった。なぜなら先生の権力を使ったからだ。

 

 

「先生が持ってる権限を使って、連邦生徒会の管理するセントラルネットワークにアクセスできた。これで、セリカちゃんの携帯の反応を調べたんだよ」

 

「……それって、大丈夫なんですか?」

 

 

 アヤネが心配そうに言うが、もちろん大丈夫ではない。私的に個人情報を覗き見したようなものだ。緊急事態とはいえバレたら大目玉を食らうだろう。それを正直に言っても不安にさせるだけだ。生徒の安全には代えられない。

 

 

「ああ、大丈夫だよ。緊急事態だからね」

 

 

 その答えにアヤネは安心したようだが、ホシノやノノミからは違った視線を感じた。おそらく見透かされているだろう。そうこうしているうちに場所の見当をつけたアヤネが声をあげた。

 

 

「ここは砂漠化した市街地の端ですね。この近くに以前、カヤツリ先輩が見つけたヘルメット団の集積地があります。きっとそこにセリカちゃんは連れていかれたんでしょう」

 

「なるほどね。セリカちゃんを誘拐して、自分たちの隠れ家に連れて行ったってことか。私たちや先生に対しての人質ってところかな。きっと待ち伏せもされてるだろうね」

 

「関係ない。早くセリカを助けに行こう」

 

 

 ホシノの懸念を気にした様子もなく、シロコは正面から突入する気満々だった。それをホシノは嬉しそうに見た後に号令をかける。

 

 

「それじゃあ、セリカちゃんを助けに行こうか。先生も指揮の方はお願いするよ」

 

 

 ホシノの言葉に先生は頷く。それとホシノにセリカの居場所を調べる時に頼まれたことを伝える。もう一人分の携帯の反応を。思いがけない場所に反応があって先生は驚いた。それはホシノも同様のようで、先生は初めて見る何とも言えない顔をしていた。

 

 

 

 

 身体を小刻みに揺らす振動でセリカは目を覚ました。周りを見渡せば暗闇で何も見えなかった。身体を動かそうとすれば身動きが取れず、よく見れば縛られて転がされている。

 

 

「え、ここは!? 私どうなって!?」

 

 

 訳も分からず暴れるが縄はびくともしなくて、むしろ紐が食い込んで痛いくらいだった。しばらく暴れても何にも変わらないのでセリカは暴れるのを止めた。その間に多少は目が慣れてきて、自分がどこにいるのかが分かった。

 

 トラックの荷台の中だった。そこに自分は雑多に縛られて転がされていたのだ。それと同時に自分がこうなる直前の事を思い出した。

 

 

「そうだ。私ヘルメット団に襲われて……」

 

 

 バイトの帰り道に襲われた。もちろん抵抗したが相手は複数で戦闘車両まで持ち出していた。多勢に無勢でなおかつ大きな戦力差。抵抗むなしく気絶してそのまま攫われたという事だろう。この状況から、そうセリカは納得せざるを得なかった。

 

 

「線路?」

 

 

 荷台の隙間から電車の線路が見えた。その瞬間に自分が今、いる場所の見当がついてセリカは絶望した。

 

 

「アビドス郊外の砂漠じゃない……」

 

 

 セリカは線路がある場所はそこしか知らなかった。かつてのアビドスの繁栄の残骸が埋もれている。特に用がなければ行かない。人目につかない。そんな場所だった。そんなところに自分を連れて行ってどうしようというのか。もう嫌な想像しかセリカは出来なかった。

 

 

「まさか、私このまま埋められちゃうんじゃ……。嫌だなぁ。皆に誤解されたままなんて」

 

 

 こうなると、セリカの気持ちは嫌になるほど落ち着いていた。そのせいで、バイト先の柴関で先生と対策委員の皆に怒ってしまったことを思い出してしまった。朝方に先生にストーカーの如く付き纏われた時点で覚悟はしていたが、まさかホシノ先輩が皆と先生を連れてくるとは思わなかったのだ。

 

 だから、怒ってしまった。自分がバイトしているところを見られるのは恥ずかしかったし、昨日の事を悪いとは思っていても、昨日の今日で認めるのはなんだか違うような気がして。それに、バイトという自分の領域に先生が入ってくるのが気に入らなくて。だから、皆に会いたくなくて。あんなことを言ったのだ。

 

 

 ──みんな、死んじゃえ。なんて言わなければよかった。

 

 

 怒って自分が皆に吐いた台詞に後悔した。きっと皆、本気にはしていないと思う。だけど、このまま砂漠に埋められたら自分は死ぬだろう。そうしたら皆は探してくれるだろうか? 自分がそんなことを思っていなくなったと思うのだろうか。これまでにいなくなった他の生徒のように。それはとても嫌だった。裏切ったと思われるのは。一人は嫌だった。あの時とは違って皆に会いたかった。

 

 それと同時に、それと相反するような気持ちも湧き上がる。ずっと、先輩達には迷惑を掛けてばかりだ。今回の事や先生の事もそうだったが、大人に騙された時もそうだ。他の対策委員と違って何かに貢献できているような気がしなかった。それを誤魔化すためにバイトを掛け持ちしているが、何の慰めにもならなかった。自分に皆に探してもらって、助けてもらう価値があるとは。今のセリカには、そう思えなかった。

 

 

「そんなことを冗談でも言わない方がいいと思うぞ。まあ謝れば、皆許してくれるし、そんなことを思っていないって」

 

「そんなわけ……先輩? え? え? 何でこんなところに……」

 

「それはこっちの台詞だぞ。セリカ後輩。なんでそんなところで簀巻きになってるんだ?」

 

 

 よいしょ。と声を出して荷台に乗り込んでくる。そんなカヤツリ先輩を見てセリカは訳が分からなかった。先輩は休みのはずで、こんなところにいるはずがなかったから。そもそも、今どこから登ってきたのだろう。まさか車体の下から?

 

 

「うん? 調べ物をしてたら、ヘルメット団が何かのブツを運ぶって言うからさ。邪魔してやろうと、ずっと車体の下に張り付いてた。そしたらそのブツがセリカ後輩っていうんだから、びっくりだな。うん」

 

 

 そう言いながら、自分の身体を縛っている紐を切ってくれる。銃も荷物も荷台の奥に転がっていて、もういつでも逃げ出せる。そう思えたら安心して腰が抜けてしまった。それに涙も出てくる。

 

 

「よかった……」

 

「安心してるとこ悪いが、セリカ後輩。少ししたら飛び降りるぞ。このままヘルメット団の集積地に連れていかれたら、どうなるか分からないからな」

 

 

 流石にそれは面倒だと、先輩は言う。けれど、何で少ししたらなんだろうか。今飛び降りても変わらないように思う。周りは何にもない砂漠だから、隠れる場所も何もない。飛び降りた音と振動ですぐ見つかってしまうだろうし、周りには護衛の車両もいる。

 

 

「あと三十分くらいで、小さい砂嵐が来るはずなんだ。それに乗じて逃げる。できれば他の皆も呼びたいけれど、ここはもう圏外だから」

 

 

 先輩の砂嵐の予測は良く当たる。だから先輩が来るというなら、きっと来るのだろう。これまでもそうだったから。望みが出てきて、時間が経って抜けていた腰も何とかなりそうだった。そうセリカは立ち上がろうとして、ふらついてしまう。これは、きっと車体の揺れのせいだけではなかった。

 

 

「……随分痛めつけられたみたいだな。背負うか……いや」

 

 

 セリカの様子を見て先輩は考えを変えたようで、スンと表情が抜け落ちて無表情になった。セリカはとても嫌な予感がした。たぶん先輩は怒っている。先輩がこういう表情を浮かべる時は敵が大変な目に合うし、相応に荒い手段を使うから。そして、それについていけるのはシロコ先輩やホシノ先輩くらいだということを、入学してまだ日が浅いセリカでも分かっていた。

 

 

「セリカ後輩。銃は撃てそうか?」

 

 

 先輩の問いに頷く。走り回るのはきついと思うが、この荷台から撃つだけなら全く負担ではなさそうだった。その答えに先輩は満足そうな顔をした後、背中のガンケースを下ろした。中身はきっと先輩の対物ライフルだ。前に狙撃を教えてもらった時に見せてもらったから知っている。

 

 

「これを貸すから荷台で砲台をやってくれ。俺は今から運転席に行って、運転手を排除してくるから」

 

「ちょっと待って! 先輩! 逃げるんじゃなかったの!?」

 

 

 さっきまでの話と方向が真逆だった。戦闘にならないように砂嵐に紛れて逃げるはずだったのに。いつからヘルメット団を殲滅する方向になったのかセリカは理解不能だった。

 

 

「セリカ後輩のその様子じゃ。砂嵐の中を搔い潜って逃げ切るのは難しそうだし、この車を奪って逃げた方がいくらか安全だろう?」

 

「でも! 周りの車両はどうするの! 数も多いし、逃げきれない! 私のせいで先輩まで巻き添えになるでしょ!」

 

 

 つい声を荒げたセリカの大声を制止するように、先輩は指を立てる。そのままの無表情ではなく、安心させるように先輩は言った。

 

 

「運転は俺がやる。攻撃はセリカ後輩に任せる。その銃なら火力は十分すぎるはずだ。それに、奥空後輩に運転を教えた俺の腕を信用できないか?」

 

「そういうんじゃなくて──」

 

 

 また大声が出てしまう。

 

 先輩の事を信用していないわけじゃないのだ。ただセリカは自分に自信が持てなかった。何か自信が持てるものが欲しかった。

 

 

「……狙撃を教えたのは向いてると思ったからだ。当たると確信するまで待ち続けるなんて真面目じゃないとできないからな。だから、今、セリカ後輩に任せるんだ。そうじゃなきゃ自分でやってる」

 

 

 ──それでも、自分に自信が持てないか?

 

 

 結局は他人の言うことで、自分にその自覚はない。ただ先輩がそう言ってくれるなら、ちょっとは自信が持てそうだった。だから、セリカは先輩のガンケースを受け取った。普段はとても重そうなそれが、今は多少軽く感じた。

 

 

「じゃあ、作戦開始と行こうか。二人で帰るぞ。セリカ後輩!」

 

 

 先輩のその声に背中を押されるように、セリカは準備を始めた。

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