ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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54話 個人面談2

 柴関での騒動の翌日。カヤツリは朝早くから屋上で整備と補充をしていた。

 

 本当なら昨日の先生との話し合いの後にやる予定だったのだが、ホシノに屋上に拉致されたのと、柴関に行ったおかげで一週間前からそのままだ。幸いにも、ドローンはほぼ異常はなく、弾と爆弾の補充だけで良さそうだった。けれど屋上まで弾を運ぶのは骨が折れそうで、カヤツリはため息をつく。

 

 ため息は弾の運搬の事だけでない。昨日の事や、あのゲヘナの四人組の事も入っている。

 

 よく眠れなかったせいで身体は両方の意味でボロボロだし、あの四人組が何かする前に補充をしなければならない。ずうっと心が休まらない。

 

 あの話しぶりだと、たぶん今日に攻めてくるだろう。傭兵を雇って一日遊ばせておくなんて無駄にもほどがある。

 

 カヤツリが、疲れた体に鞭打って屋上から出ようとすると屋上のドアが開いた。

 

 先生だ。

 

 そういえば自分の空き教室を貸したままにしていた。誰もいないと思って整備や運搬やらで騒がしくしていたから、何事かと思ったのだろう。

 

 

「おはようございます」

 

「おはよう。随分早いね……ちゃんと寝たの?」

 

 

 先生がカヤツリの顔を見て驚いた顔をしている。隈が酷いことになっているのは、朝に鏡を見たから知っていた。昨夜は眠れなかったから、ホシノはぐっすりだったけれど。

 

 

「今夜は眠れそうですよ。先生」

 

 

 安心させるために先生に、そう言う。実際、今日の襲撃を捌ければなんとかなる予定だ。これ以上何か起こったら、ホシノと先生に丸投げすることになるだろう。その前に今日起こるであろうことを先生に言っておかねばならないが。

 

 

「……それは、また。いつもこんな感じなのかい?」

 

 

 これからの話を聞いた先生は苦笑いだ。連日襲撃されていると聞けばこんな顔になるのも当然と言えば当然だった。

 

 

「いえ、今回みたいな頻度は初めてですね。先生が来たからでしょうが」

 

「え?」

 

 

 何かショックを受けたような顔をする先生が、カヤツリは不思議だった。今回の襲撃は、きっと先生が来たのが理由ではあるが、先生のせいではない。気にする理由が分からなかった。

 

 

「そりゃあ、兵糧攻めにしていたところに補給が来たら、攻め手を緩めるわけにはいかないでしょう? 先生が理由ではありますが、先生のせいじゃないですよ」

 

「そうかな」

 

「そうですよ。そんなこと一々気にしてたら、バカみたいじゃないですか」

 

 

 人は自分の思うようになんか動いてはくれないし、世界もそういう風には出来ていない。どうしようもないことで悩むほど馬鹿馬鹿しいことはない。そう答えると先生は少し安心したように笑った。

 

 

「それで何で、こんな朝早くから?」

 

 

 考えてる事を教えてよ、と先生がカヤツリに問う。確かに考えてはいるが、特に変わったことをするつもりはない。普通に先生に指揮をしてもらって撃退するだけだ。そう説明すれば、先生はカヤツリの隣までやってきて確認した。

 

 

「それで良いの?」

 

「それ以外に何があるんですか? 弾もあるし、対策委員が全員揃っていて、先生もいるんですよ」

 

「いや。カヤツリは色々考えてるでしょう?」

 

 

 よく分からない事を言う先生に、カヤツリは眉をひそめた。この感じは昨日の話し合いが影響しているに違いなかった。

 

 ただ、それでは困るのだ。

 

 

 ──なんで反応しちゃったかなぁ。

 

 

 先生がいくら自分の地雷を踏んだからとはいえ、普段は流せるものを流せなかった。そのツケがここまで来ている。あそこでぐっと我慢して流せていれば、言いたくないことも言わなくて済んだのに。

 

 もういっそぶちまけた方が楽かもしれない。ここは先生と二人だけだから。

 

 

「この前のことなら、気にしないでください。変なことを言いましたから」

 

 

 先生の強みは、正攻法を取れることだと思っている。その強みを自分を気遣って使わないのは台無しだ。

 

 

「別に搦手が好きな訳じゃないんですよ」

 

 

 普通にいけばいいと思う。今まで、奇をてらったことをしていたのは、単純に手がそれしかないからだ。今はそうではないのだから、リスクを取らなくてもいい。余裕があるというのは良いことだから。

 

 

「先生は、そうしなくてもいいでしょう?」

 

 

 俺とは違って。言いかけた言葉を飲み込んで先生に視線を向ける。

 

 

「カヤツリはどうしたい?」

 

 

 隣の先生は、また良く分からない質問をする。

 

 どうしたいも何も、対策会議で決まったことをやるだけだ。それが一番早道で無駄がない。一足跳びに何かやろうとすると碌なことにならないのだ。一人で突っ走ると本当に。ホシノもカヤツリもそれを良く知っている。

 

 だから、今やるべきことはあの四人組の撃退と黒幕への手がかりを探すことだ。

 

 それを聞いた先生は困ったような顔をして言う。

 

 

「それもそうだけど、聞きたいのはそういう事じゃなくてね。カヤツリがやりたいことだよ」

 

「そんな個人の好き嫌いは関係ないでしょう? 昨日の対策会議みたいに先生が最終決定すればいいじゃないですか」

 

「私が全部決めるのは違うと思うよ。私は君たちの手助けができればいいと思っているけど、何もかもを代わりにやるのは違うだろう?」

 

 

 確かに、先生はあくまで支援で来ただけだ。今の状況と言葉だけなら、”何で全部やらなきゃいけないの”とも聞こえるだろう。でも、カヤツリにはそういう風には聞こえなかった。

 

 自分のしたいようにして良い。そんな風に聞こえた。

 

 

「カヤツリは”先生”はどんなものか知ってるかい?」

 

「ものを教える職業だとしか知りませんよ」

 

 

 自分が来た時にはアビドスにはそれすらいなかったわけだが。そう心の中で悪態をつく。そんなカヤツリの内心を知りもしない先生は口を開いた。

 

 

「それもそうだし、人によっていろいろな解釈があると思うんだけど、私はね。生徒のやりたいことをやらせてあげたいんだよ」

 

「それが、犯罪でもですか?」

 

「流石にそれは止めるかな。状況によるけど」

 

 

 先生は苦笑してカヤツリの隣に座った。

 

 

「やりたいことが犯罪なら止めるよ。でも、やりたいことの為に犯罪をしなければならないのなら、しなくていい方法を探すよ」

 

 

 じゃあ、それが見つからなかったら? そう聞こうとしてカヤツリは止めた。揚げ足取りにも程がある。

 

 

「端折って言えば、生徒の望みを現実的な範囲で叶える仕事かな」

 

 

 言い切った先生は、じっとカヤツリを見た。

 

 やりたいことはある。昔ホシノに言ったことだ。昨日は出来ていたか怪しいし、あの後ひどい目にあった。今も首と肩と指が痛い。

 

 ホシノに笑っていてもらう事。先輩の事や借金の事。でもそれらは時間や後輩たちが解決してくれると信じている。

 

 だから、自分は時間では解決しないものを何とかしなければならなかった。

 

 そこに至るまでの道のりは遠くて、険しい。一回だけ、黒服に方法を興味本位で聞いたことがある。あの大人はあると言った。正攻法と裏技の二つを。

 

 正攻法はやっている。借金を返して、土地を取り戻して、人を呼び戻す。まさに王道だった。

 

 裏技も聞いた。昔はやれただろうが、今はもう出来ない。したいと思えない。理論上は砂嵐を永遠に止められるらしいが、その方法は前提条件が崩れてしまうから。それをやったが最期、死ぬまでカヤツリはホシノに会えないのだから。

 

 

 ──それを選べば、貴方は守りたかった物を全て壊す事になるでしょう。

 

 

 だから、選択肢は正攻法のみだった。

 

 先生がいるから、正攻法は取れるようになった。もっと巻き込んでいいのだろうか? カヤツリには失敗の責任は取れないのに。欲張ってもいいのだろうか。

 

 

 ──ふん。君はもっと欲張った方がいい。私ほど金と権力と地位に貪欲になれとは言わないが。世間では強欲は戒められる。が、全く持たないのもつまらない。

 

 

 昔、ずっと昔。まだアビドスに来る前の頃。そこで誰かに言われたことを思い出した。あの大人は、止まらなかった。昔は危ういと思ったが、今ならああいうのも必要なのだと分かる。

 

 少しだけなら話してもいいだろう。先生が襟元を開いたのなら、こちらも意地を張るべきではない。少しだけ欲張ってもいいだろう。

 

 

「やりたいことはありますよ。ただそれには、まずは借金が邪魔なんです」

 

「借金を返した先にやりたいことがあるんだね」

 

「そうですよ」

 

 

 先生は何か納得したようだった。カヤツリのこの曖昧な答えでもよかったらしい。もっと深堀りしてくるかと思ったがここでやめるようだった。

 

 

「じゃあ、手伝わせてほしいな。私は先生だからね」

 

 

 先生は何かいいことがあったかのように笑う。何故なのか分からないが、それなら、そこに甘えるだけだ。先生が、どこまで助けてくれるかは分からない。ただ嘘は言っていないだろうから。

 

 

 □

 

 

「じゃあ、説明始めますよ。先生」

 

 

 さっきの屋上で先生はカヤツリの説明を聞いていた。他の対策委員が来る前に情報共有をすると、カヤツリは言ったのだ。ただ先生の耳にはあまり内容が入ってこなかった。

 

 先生は少し嬉しかった。カヤツリの本音を少しだけ聞くことが出来たからだ。

 

 先生は、カヤツリがやりたいことの断片を知っている。昨日、シロコとノノミを含めた三人で覗いてしまったからだ。あまり近づくと気がつかれるとのことで、話している内容は聞こえなかった。けれど、彼らが何をしているかは分かった。

 

 お互い傍により合いながら、仲が良さそうに話した後。屋上に敷いたマットで眠る。

 

 言葉にすればそれだけだが、映像越しでもなにか独特の雰囲気があった。二人の顔はきっと穏やかであるのが分かるのだ。

 

 二人の関係については、シロコは知らないようだったが、ノノミは心当たりがあるようで、知っていることを断片的に教えてくれた。

 

 ノノミが来るまでは二人で頑張っていたこと、ちょうど一年前に二人が大喧嘩をしたこと、たぶんそれからこうなったんじゃないかと等々。

 

 あれを見て先生は察した。カヤツリの守りたいものはこれだったのだと。言えないだろう。あまりにも私情が過ぎる。

 

 きっと、彼は死に物狂いだった。手段を選んでいる余裕もなくて、望んでいたものも得られない。そこで何も知らない大人にこう言われるのだ。

 

 

 ──もっとやり方があったんじゃないか?

 

 

 自分の言葉ながら、それはない。知らなかったとはいえ、それは言ってはいけない言葉だった。先入観がなければ気がついたかもしれなかったのに。

 

 謝りたかったが、知った方法が方法だからどうしようもない。二人には口止めをして、自分も知らないふりをする。そうするしかなかった。

 

 それからずっと、カヤツリの様子を見ていた。柴関での歓迎会の時も。楽しんでいる後輩たちを尻目に、あの四人組を監視していた。ホシノの方も途中で気づいたのかカヤツリをじっと見ていた。

 

 

 ──何とかしてやりたい。そう思った。

 

 

 それは、大人がやるべきことだった。歓迎会の時ですら気を抜けていないのだ。今朝の事もそうだ。まだ朝の五時だ。いくら何でも早すぎる。たぶん歓迎会の終わりにホシノがカヤツリを引きずっていったのも、理由をつけて強引に寝かせているのだろう。

 

 今朝はチャンスだと思って、この屋上で声を掛けたのだ。カヤツリとの会話は難しかった。覗いたことを言えないから、世間話でもしようかと思ったが目論見は水泡に帰した。

 

 昨日の四人組が攻めてくるという。

 

 カヤツリは疲れた顔をしていた。寝ぼけて怪我でもしたのか左の手は絆創膏塗れだ。

 

 少しでも頼ってほしくて、”先生”の話をした。たぶん最初からこうすればよかったのだ。やったことの規模が大きすぎて錯覚したがまだ彼は子供なのだ。大人になりかけている途中の。

 

 それが通じたのか、そうでないかは分からない。けれど曖昧にぼかしてでも、答えを返してくれたのだ。先生はそれが嬉しかった。

 

 

「……先生。聞いてます?」

 

「あっ。ごめん」

 

 

 カヤツリは先生にため息をついて再度説明を始めた。

 

 

「まずは昨日の四人組ですが、ゲヘナの生徒で便利屋68って言う部活をやっているみたいですね。本人たちは会社だと言っているみたいですが」

 

「学生で起業っていいの?」

 

「良くないから、口座を凍結されてますね。風紀委員長直々に」

 

 

 それで、その便利屋とやらが攻めてくるらしい。ただ四人なら何とかなるのではないだろうか。それを聞いたカヤツリは首を横に振った。

 

 

「傭兵を数合わせで雇っています。どれくらいの金額を積んだのかは知りませんが、一人や二人ではないでしょうね」

 

 

 正面から戦うと言っていたが、大丈夫なのだろうか。少なくとも個々人はヘルメット団より強そうだ。自分も指揮は頑張るが不安がよぎる。

 

 

「だから、今その準備をしてるんですよ。俺の戦い方はとにかく金と弾がかかるので」

 

 

 その代わりに火力は保証しますよ。とカヤツリが自信ありげに言う。

 

 

「カヤツリが前に言っていた、ほら何だっけ。何かの効果音みたいな。裏の名義」

 

「ああ、テュポーンのことですか。黒……いえ。勝手に押し付けられて、広められた名前ですが。あれは、まだ使いませんよ。強すぎるので。使うにしても全部終わった後ですよ」

 

 

 強すぎる? 強いなら越したことはないと先生は思うのだが、そうではないらしかった。カヤツリは面倒臭そうな顔をしている。

 

 

「相手が傭兵なら、その名前を使うまでもなく、こんなことはしてきませんよ。今回の主体は便利屋なのが面倒なんですよ」

 

「ゲヘナ生だから?」

 

「ええ。風紀委員にマークされていますが、まだ彼女たちはゲヘナの学生です。そんな彼女たちにあの名前を使うと面倒ごとになります」

 

 

 ゲヘナが喧嘩を買うとは思えなかった。あくまでその裏名義はアビドス周辺だけのものだ。マフィアにそこらの犬が吠えるようなものだ。気にもしないだろう。

 

 

「逆ですよ。先生。アビドスのバカの方が暴走しかねないんですよ。今回その便利屋を撃退してもゲヘナからお咎めはないでしょう。それを勘違いしたバカがゲヘナで、その名前を出して好き勝手やられると困るんです」

 

「……あんまり便利じゃないんだね。その名前」

 

「普段は便利なんですよ……。便利屋じゃなかったら、傭兵たちも乗らなかったでしょうが、今回は言い訳の効くラインですからね。自分から売り込んだわけでもない。あくまで雇われの立場。うん。まあ、イエローカードってとこでしょうかね。警告はしましょうか」

 

 

 そういえば、これの事をホシノは知っているのだろうか。それを言うとカヤツリの顔が真っ青になった。

 

 

「……言ったんですか?」

 

「言ってないけど……?」

 

「どうかお願いですから。そのまま。胸の中に仕舞っていてください。先生は共犯者なんですよ。バレた時は巻き込みますからね」

 

 

 顔色を元に戻したカヤツリは、話を纏めにかかった。

 

 

「兎に角、今日中に彼女たちは来るでしょう。先生は指揮をお願いします。他の対策委員で便利屋を抑えてください。傭兵は俺が焼き払うので」

 

 

 やけに自信たっぷりなカヤツリに先生は気になった。カヤツリを信用していないわけではないが、できるのだろうか?

 

 そんな先生の疑問を吹き飛ばすようにカヤツリはニィと笑う。

 

 

「伊達にいくつも名前を持っているわけじゃないんですよ。先生」

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