ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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55話 防衛戦と昨夜の事

 想像の通りに便利屋たちは傭兵を引き連れて襲撃しに来た。分かっているなら対処のしようは幾らでもあるのだ。 

 

 カヤツリの視線の先では爆弾が雨あられと降り注いで地獄の様相を呈していた。あれでは数の多さなど関係ない。傭兵にはご愁傷さまだ。

 

 空ではドローンが忙しそうに、自分のいる屋上と爆撃地点である校門前とを往復している。先生の補給によって実現した大盤振る舞いだった。

 

 

『あれ大丈夫なの?』

 

 

 セリカ後輩の心配そうな声が無線から聞こえるし、他の対策委員たちも同じような様子だが、心配はしなくても良いとは思う。流石にカヤツリも加減はするし、爆弾もそろそろ打ち止めだ。

 

 もうモノが無くなり爆撃は止む。煙が晴れると倒れ伏す傭兵たちと昨日の四人組が見えた。傭兵たちはまだまだ残っているが怯えているし、四人組のリーダーらしき長髪の生徒は白目を剥いている。

 

 今のところ、先生との話し合いの通りに進んでいた。

 

 対策委員会には、先生から説明する予定だったが、説明のタイミングで彼女達が戦力を集結させているのが分かった。

 

 そのため対策委員は何も知らないが、今のところ上手くいっているようだった。

 

 

『あ…あんた達。昨日の。ラーメンをサービスしてやったのに! この恩知らず!』

 

 

 セリカ後輩が、襲撃者の正体に気がついたようで声を上げる。

 

 昨日の今日だ。気がつかない方がおかしい。他の対策委員も気づいて、口調も険しい。当たり前の話だ。昨日の歓談で、アビドスの状況についても話していた。それを承知で攻めてきているのだ。面の皮が厚いというレベルではない。

 

 四人の内三人はやる気充分といった感じだが、リーダーであろう長髪の彼女だけは、対策委員の言葉に傷ついているような様子だった。でもそれはすぐに無くなって戦闘が始まった。

 

 

「いいですか先生。傭兵は何とかしますが、便利屋は難しいでしょう」

 

 

 カヤツリは屋上での会話の続きを思い返す。爆撃は雑魚散らしには便利だが、そこそこの強さの奴には効かないことがあった。ホシノなど最たる例だ。予想の通り、彼女たちは砂ぼこりで薄汚れてはいるがほぼ無傷だ。

 

 カヤツリは便利屋が弱いとは思っていない。少なくとも、ゲヘナの風紀委員長から逃げ切るだけの能力はあるのだ。その風紀委員長とやらに会ったことはないが余程強いという噂は聞く。

 

 おそらく、ここで先生の指揮とホシノの力があれば撃退とは言わず捕縛まで行けるかもしれない。別にそれもいい案だが、もっといい案があった。

 

 

 引き分けに持っていくこと。

 

 

 今のところ、カヤツリがやられて嫌なことは、この状況がずっと続くことだ。寝ても覚めても襲撃続き。幾ら補給があるとはいえ毎月の利息の支払いもある。防衛戦に注力し過ぎて、そちらに影響が出ては本末転倒だった。

 

 ここで便利屋を捕縛したところで、別の勢力が攻めてくるだけだ。それなら引き分けに持ち込んだ方がまだ余裕ができる。引き分けなら黒幕もすぐに便利屋を切ることはしないだろう。それに、カヤツリは彼女たちが金欠──傭兵で金を使いきったことを知っている。すぐに資金は補充されるかもしれないが、攻めてくる者が分かっているなら、さっきみたいに対処のしようは幾らでもある。

 

 傭兵だってもう手を貸さないだろう。この爆撃は警告だ。匂いで分かるはずだ。

 

 屋上から戦闘を眺めれば、少し対策委員が押している。まだ様子見でいいだろう。

 

 

「テュポーンね……。相変わらず、趣味の悪い名前」

 

 

 名づけは黒服だ。これまでの名と同じように趣味が悪い。黒服が言うには全部意味は一緒らしいが、カヤツリには関係のない話だった。

 

 連邦生徒会とのごたごたで、アビドス自治区を牛耳っている奴がいる。そういう噂が流れた時、カヤツリは火消しに動いた。自分では制御できないと思ったからだ。けれど、火消しをしようにもやり方が分からない。仕方なく、本当に仕方なく黒服の所に電話をした。

 

 久しぶりの電話に黒服は嬉しそうだった。カヤツリの相談も上機嫌で答えを教えてくれた。答えというよりも利用法だったが。

 

 

 ──折角ですから上手く使ってみては? やり方や道具も提供しましょう。ああ、通り名も必要でしょう? テュポーンというのはどうです? ぴったりだと思いますよ。

 

 

 ずっと、べらべら機嫌良さそうに話すのものだから押し通されてしまった。こうして、アビドスを牛耳る悪党──テュポーンが誕生した。

 

 やることは簡単だった。今まで通りにラインを超えた奴を追い出せばいい。ただやることが一つ増えていた。

 

 

 ──やったのが貴方だというモノを遺しておくといいでしょう。誰にもまねできないものを。匂いがいいでしょうね。

 

 

 追い出した者の拠点を爆破することにした。サービスで黒服はそれ用の爆薬も売ってくれた。本当に変な匂いがするのだ。今の投下した爆弾にも混ぜたから、傭兵は気がつくはずだ。

 

 

「ん?」

 

 

 突然、傭兵たちが退いていく。まだ戦闘終了にはほぼ遠いのに。まだ便利屋も対策委員会も手傷を負っていない。これでは敵前逃亡だ。まさか脅しが効きすぎたのだろうか。

 

 不思議に思うカヤツリの耳にチャイムの音が響いた。正午のチャイムだ。まさか──

 

 

「昼までしか契約できなかったのか……」

 

 

 契約金が足りなかったのか、傭兵が渋ったのかは分からないが、あまりにもしょうもない終わり方だった。これなら爆撃もいらなかったかもしれない。

 

 屋上からではおおよそにしか分からないが、便利屋たちも撤退していく。これでもう安心だった。

 

 あとは頼んだとおりに先生が対策委員の全員に説明してくれるから、その間にカヤツリはどこかに隠れるだけだ。少なくとも今日はホシノに見つかるわけにはいかなかったから。

 

 左手を撫でながら、カヤツリは安堵の息をついた。

 

 

 □

 

 

 ホシノは激怒した。必ずあの大バカ者のカヤツリを見つけなければならぬと決意した。ホシノにはカヤツリの考えは分からぬ。ホシノは廃校対策委員長である。借金を返し後輩を守ってきた。ただカヤツリの隠し事には人一倍に敏感であった。

 

 

「そういうわけで、先生はカヤツリがどこに居るか知ってる?」

 

 

 ホシノの質問に先生は目を白黒させていた。当然の反応かもしれない。今の自分は少し素が出ている。カヤツリの居ない対策会議が終わった昼過ぎの事だった。

 

 今日は朝から散々だった。目が覚めたらカヤツリは居ないし、登校したらしたで昨日の四人組が襲撃してきた。撃退してやっと一息ついたと思えばカヤツリがいない。どこへ逃げたのだろう。

 

 あの爆撃はカヤツリの仕業ということも分かっている。あんな量のドローンの同時操作などアヤネちゃんにはまだできない。それに、襲撃後の対策会議での先生の説明はどう考えてもカヤツリが噛んでいる。先生がしたカヤツリは早退したというのも嘘だ。カヤツリが自分の家など、そんな分かりやすい場所にいるはずがない。後輩たちは納得していたが、ホシノにはわかる。

 

 だから、後輩たちがいない今。先生に聞いているのだ。知っているはずだ。カヤツリは隠していたようだが、先生に腹を立てていたのは分かっている。いつの間に仲良くなったというのか。それもホシノは不満だった。

 

 

「いや、場所は知らないよ?」

 

 

 ──場所は? じゃあ何かは知ってるんだ。

 

 

 ホシノの視線に根負けしたのか、先生は口を開く。

 

 

「どこかで寝るって言ってたよ」

 

 

 それなら校内に居るということだ。それなら虱潰しに探せば見つかるだろう。お礼を言って探しに行こうとするホシノに先生が声をかける。

 

 

「何でカヤツリを探してるんだい? 彼なら疲れてそうだったから寝せてあげてほしいな」

 

 

 ホシノは困った。理由は言えない。だから、いくつかある中で一番まともそうなものを選ぶ。

 

 流石に、ここまでしてくれているのはホシノも先生には感謝しかない。カヤツリがある程度信用しているのなら間違いではないのだろう。それなら、カヤツリの悪癖は先生も知っておいた方がいいだろうから。

 

 

「おじさんは、直に聞きたいんだ。また何か隠してるかもしれないから」

 

「隠してる?」

 

「うん。カヤツリの悪い癖でね。おじさんには必要なことしか話してくれないんだ」

 

 

 強く要求すれば話してくれるだけ、以前より成長はしているし、最近は確定事項でなくとも話してくれる。何回も言った成果が出ていてホシノは嬉しかった。これで無断の単独行動が無くなれば完璧だったのに。もう大丈夫と安心していたところで、今回の件だ。どうしてくれようか。

 

 

「今日のは、時間がなかったんだと思うよ」

 

「それは、おじさんも分かってるんだよ」

 

 

 先生はそうカヤツリをフォローする。けれどカヤツリの事だから、昨日の柴関の時点で感づいていたのだろう。そうでなければ不自然だった。

 

 

「ホシノは話してほしいの?」

 

 

 先生の質問に頷く。当たり前だろう。蚊帳の外は嫌だし、何よりも信頼されていないみたいで嫌だった。カヤツリにその気はないのは分かっているけど。そんなホシノの様子を見て、先生は何か微笑ましい物を見る顔になった。

 

 

「私にはちょっとだけカヤツリの気持ちが分かるな」

 

 

 ホシノには欠片も分からなかったカヤツリの気持ちが、先生には分かるのだという。ホシノは教えて欲しかった。それだけは分からなかったから。聞いても教えてくれなかったから。

 

 先生は”カヤツリには秘密だよ”と言って答えというか、憶測を口にした。

 

 

「カヤツリも男の子だからね。カッコつけたいんだと思うよ」

 

 

 ホシノは開いた口が塞がらなかった。そんなくだらない理由だとは思わなかったから。

 

 

「男の子ってそういうものだよ。カヤツリの場合は他の割合の方が強そうだけど」

 

「他の?」

 

 

 他に大層な理由があるのなら教えて欲しかった。同じような理由だったら許さないが。

 

 

「心配かけたくないんだと思うよ。特に好……ホシノにはね」

 

 

 何かを言いかけたように見える先生が気になるが、もっと気になるのは答えの方だった。自分は言われない方が心配なのに。カヤツリは違うのだという。

 

 

「うん。情報を共有するってことは責任も共有するからね。知らなかったならそれで済むけど、知っていたら責任は付き纏うし、ストレスにもなるから」

 

 

 そのくらいで文句は言わない。むしろそうしてほしいのに。自分は守られるばかりではないから。むしろ守られてばっかりだったから。

 

 

「他人に責任を被せるって言うのは、ホシノが思うより勇気がいるよ。成功したならいいけどね。失敗したら、自分のせいでその人に被害を及ぼすってことだから。幾らその人が良いと思っていることを知っていても、中々できる事じゃないよ」

 

「でも……」

 

「たぶんね。カヤツリはホシノに、そういう事を気にしないでほしいんだよ」

 

 

 先生は、何かまぶしい物を見るように目を細める。

 

 

「これは私の想像でしかないけど。言わないのは、ホシノを信用していないんじゃなくて、カヤツリの方が耐えられないんだと思うよ」

 

 

 自分が傷つくより、ホシノがそうなる方がずっと嫌なんだろうね。そう締める先生に、ホシノは何も言えなかった。

 

 それでは、自分がいくら言っても無駄だった。むしろカヤツリに負担を掛ける我儘だった。

 

 

「別にホシノは言っても良いと思うよ。結局カヤツリの意地の話だからね。そこは間違えないでほしいな」

 

 

 ホシノは目をぱちぱちさせた。つまり、我儘を言ってもいいのだろうか。

 

 

「ホシノの思うそれが我儘かは分からないけど。そこはカヤツリと相談すれば良いと思うよ。すぐに答えを迫るんじゃなくて、少しずつね。他人を慮り過ぎるのも良くないし、自分の意見を押し付けすぎるのも良くない。そのために言葉があるんだから」

 

「いいのかな……」

 

「いいんだよ。失敗したら、私のせいにしていいし、生徒の相談に乗るのも私の仕事だからね」

 

 

 そう言って、考え込むホシノを見て先生は薄く笑った。

 

 

 

 

「やっと見つけたよ……」

 

 

 先生に後押しされたホシノは校舎を探し回って、ガレージの車内で眠りこけているカヤツリを見つけた。

 

 車のドアを開けようと引っ張るが鍵が掛かっている。とても気にくわない。窓ガラスをコンコン叩くとカヤツリは直ぐに目を覚ました。しばらく周りをきょろきょろ見渡した後、外のホシノに気がついて固まっていた。

 

 開けるようにジェスチャーすると鍵が開く音がした。中に滑り込むと、カヤツリが絶望したような顔をしている。自覚があるなら逃げなきゃよかったのだ。それかもっとましなものを用意すればよかったのに。

 

 

「何で逃げたの?」

 

 

 あの柴関の後、ホシノはカヤツリを自宅まで引きずり込んだ。もちろん嫌な臭いのするカヤツリを一旦家に帰してから。別に変なことをするつもりはない。ただ一緒に寝てもらうだけだ。カヤツリを自分のベッドに引きずり込んで、朝までぐっすりして、一緒に登校する。そういう予定だった。

 

 そのつもりだったのに。それで許してあげようと思っていたのに。いつもの一日が始まるはずだったのに。

 

 起きればカヤツリの姿はない。携帯にはモモトークの通知が一件のみ。

 

 

 ──野暮用があるので、学校に行ってきます。

 

 

 通知時間は朝の五時前で、逃げたとしか思えなかった。今では、便利屋のせいなんだろうなとは思っている。さっきの先生の話もあるから朝ほどは怒っていないが、それはそれだ。

 

 

「自分の胸に聞いてみたらどうだ。ちょっとあれはないと思う」

 

 

 ホシノは呆気にとられた。珍しくカヤツリが言い返してきたからだ。こういう時はいつも小さくなっているのに。やけにホシノが何かしたことに対して不満があるようだった。そんなに一緒の睡眠が嫌だとは思わなかった。いつも一緒にぐっすりだからそんなことは露ほども感じなかった。残念だがこれからは妥協しなければならないだろう。

 

 

「一緒に寝るのが嫌なら、言ってくれれば……」

 

「まさか、自覚ないのか? 嘘だろ……」

 

「何の事?」

 

 

 さらに恐怖の色を増すカヤツリの表情に、ホシノは訳が分からなかった。カヤツリの様子だと自分が何かしたらしいが、ホシノには自覚がなかった。すぐに眠ってしまったから。

 

 カヤツリは黙って手の絆創膏とネクタイを緩め始めた。そういえば昨日は絆創膏なんてしていなかった。そのまま手をホシノに突き付ける。

 

 歯形だ。カヤツリの首と指が歯形塗れになっている。よっぽど強く嚙んだのか、ちょっと紫色になっている。指はともかく、首はカヤツリ自身では噛めないだろう。昨日までは無かったから、夜の間に誰かが嚙みついたということだ。犯人には心当たりしかないというか、一人しかいないだろう。

 

 自分だ。

 

 

「……ああ、うん……ごめんね……ホントに」

 

「……うん。無意識ならいいけど。次は止めてくれよ……。指を食いちぎられるかと思った」

 

 

 ホシノは茫然とした。きっと理由は想像がつくが、まさか無意識でやるとは思わなかった。目が覚めていたら絶対にしない暴挙だった。甘噛みまでならしたことがあるが、傷跡を見る限り本気で噛みついている。そんな事をされたら逃げるだろう。むしろ今、面と向かって話してくれるだけ優しいまである。

 

 二人の間に気まずい空気が流れるが、それを断ち切るようにカヤツリが話を終わらせにかかった。

 

 

「悪気がないならいいよ。用はこれで終わりでいいか? ホントに眠いから寝かせてくれ。一人で」

 

 

 ホシノはカヤツリを置いてガレージを出るしかなかった。一緒に寝ることは押せばできただろうが、また噛みつかない自信がなかったから。

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