ホシノ同級生相棒概念 作:洞鼬
「何さ。アルちゃん。酷い顔だね。今にも死にそうな顔をしてるよ」
「……」
覆面水着団との騒動の翌日の朝だった。便利屋のオフィスで全員が集合しアル以外の全員は明るい顔だが、アルだけは気分が優れない。そんな表情だった。
ムツキはそんなアルを見て、いつものような口調で言う。
「あんなに大金を手に入れたのに何が不満なの? 昨日まで小学生みたいにはしゃいでたじゃない?」
「それはムツキが社長に、覆面水着団の正体がアビドスだって言ったからでしょ」
カヨコがある意味正解を言い当てる。昨日、興奮冷めやらぬアルに向かって二人がその事実をばらしたのだ。アルにとってはそれも残念ではあったが、気分がすぐれない理由は別の所にある。昨日の問答と偶然手に入った大金で迷いは晴れたはずだったのに、覆面水着団の正体を聞いてまた分からなくなってしまった。
強がりの台詞を吐こうとしたアルはハルカがいないのに気がついた。彼女がいないのは珍しい。
「ハルカはどこに行ったのかしら」
「昨日のお金を使って、爆弾を仕掛けに行ったよ。キルゾーンを作ってそこにアビドスを誘い込む。この前爆撃でやられたお返しだね」
カヨコの答えにまたアルの気分が沈んだ。自分の中で二つのものが喧嘩しているのだ。
依頼をするのかしないのか。その二つ。
自分が信じるアウトローの流儀に則るのなら、依頼を途中で投げ出すのは”らしく”ない。懸念点であった金銭の問題は解決したから、皆の言う通りに進むだけでいい。けれど自分の中でそれでいいのかと思う心もある。
アビドスの彼女たちは良い人達だった。借金を返すために日々頑張っている。そんな彼女たちの学校を破壊して、彼女たちの邪魔をするのがアウトローのすることだろうか。
確かにアウトローは悪事をするものだ。ただこれは”違う”のではないかとも思うのだ。ただ何が違うのかアルはうまく言葉にできなかった。それにもやもやとした輪郭が分かるだけなのが非常にもどかしくて、ずっと気分がすぐれない。
「……そんなに悩むんだったら、全部投げ出してゲヘナに帰る?」
カヨコが別の提案をしてくれるが、アルはそれを飲む気はなかった。その選択は逃げでしかないし、それを選んだところで、このもやもやは晴れない気がする。それにゲヘナに戻るとしても、もう一つだけ問題がある。
「風紀委員会の奴らが黙っちゃいないんじゃない? 今戻るのはあんまり賛成できないな~」
ムツキが答えを言ってくれる。便利屋は風紀委員会に目をつけられているのが問題だった。今戻ればどんな目に合うのか想像もしたくない。
ゲヘナの風紀委員会は、ゲヘナにおいてある意味恐れられている。
ゲヘナの校風は自由と混沌。つまり各々がやりたいことをやりたい放題にやっている学校なのだ。所かまわず温泉を掘ったり飲食店を爆破したり、そんなことをやっている部活もあるくらいで、それでもゲヘナがまだ学校の体をなしていられるのは、風紀委員会が純然たる力でそれらをねじ伏せているからだ。
今、アルたちがこんなことをしていられるのはアビドスに居るからというのが大きい。他校の自治区にまで足を延ばすほど彼女たちは暇ではない。毎回そんな事をしていたら、ゲヘナは一日も持たずに治安が崩壊するだろう。つまりゲヘナに帰るということは風紀委員会に襲われるリスクを被るということだった。
「あんまり悩んでてもアレだしさ。ハルカちゃんが帰ってきたら、どこかに朝ごはん食べに行こっか。私おなかすいちゃった!」
空気を変えるようにムツキが朝食の提案をする。金銭の問題が解決したから、もう何でも食べられる。でもいざ何でも食べていいと言われると中々決められなかった。
「ただいま戻りました」
「あ、お帰り、ハルカ」
ちょうど良いタイミングでハルカが帰ってきた。彼女に決めてもらうのもいいかもしれないとアルは思いつく。
「え? アル様? 何が食べたいかですか? ……それなら柴関がいいです」
「また? アビドスと鉢合わせしない?」
「あのバイトちゃんは、こんな朝からは居ないとは思うよ? それに美味しいからいいじゃん。またサービスしてくれるかもしれないし」
ハルカの提案にカヨコが難色を示すが、ムツキがフォローを入れる。ハルカは嬉しそうで、カヨコもこれ以上は言う気もないようで仕方がなさそうな目でハルカをみつめている。それを見てアルも少しは気分を持ち直せた。
柴関にはすぐ着いた。店内は時間帯のせいか、がらんとしている。しばらくすると大将が厨房から顔を覗かせていた。
「ああ、この前の娘たちかい。いらっしゃい」
「……どうも」
カヨコが気まずそうに挨拶する。この様子だと大将は自分たちがアビドスを襲ったことを知らない様子だった。彼女たちは言っていないのだと分かる。アルの中に、もやもやがまた噴き出てくる。
全員でテーブル席について注文をする。この前食べた奴を四人分でいいだろう。あれは美味しかったから、また食べたかった。しばらく待っていれば頼んだ品物を大将が運んできて来てくれる。そして大将はラーメンを配膳しながら、サービスだと言ってくれた。
「アビドスの娘たちのお友達だろう? 替え玉が欲しけりゃいいな」
お代わりをサービスしてくれるというのだ。前回、金欠だったのを覚えてくれてもいる。アル以外の三人は思い思いに感想を言いあいながら、ラーメンを食べ始めていた。
良いことのはずなのに、今の自分はこの前にここに来た時より余裕があるはずなのに、もやもやがどんどん増していく。大将が居なくなってから、何かに八つ当たりをするようにアルは叫んだ。
「友だちなんかじゃないわよぉーーー!!」
□
聞こえる大声にカヤツリは顔を顰めた。あまりの声量に耳が痛いし、叫んでいるのはどう見ても便利屋だからだ。せっかくのご機嫌な食後の余韻が台無しだった。
「……そうなのか? 坊主」
「何とも答えにくいですね」
カヤツリの分のラーメンを片付けに来た大将が不思議そうに聞くが、カヤツリもどう答えたものか分からず曖昧な答えしか返せない。
そんなカヤツリの様子を見た大将は器を持って厨房に引っ込んだ後、何かを持って戻って来た。
「これをあの娘たちに持って行ってくれ」
大将が持ってきた小鉢を見てカヤツリは渋い顔になった。これで仲直りしろとでもいうのだろう。大将は勘違いしている。便利屋と喧嘩でもして仲違いしているとでも思っているのだ。
でも大将に、あの便利屋は友だちどころかアビドスを襲撃した奴なんですよ。なんて言えるはずがなかった。カヤツリは大将のこういったところに救われていたから。きっと言えば大将は止めるかもしれないが、そんな大将をカヤツリは見たくはない。
「分かりましたよ」
「おう。嬢ちゃんには黙っててやる」
勘違いしたままの大将から小鉢を受け取って便利屋のいるテーブルに近づいていく。興奮しているようで、何やら話している。距離が近づくにつれ、内容が聞き取れるようになる。
「この店がいけないのよ!こんな店があるから私は──」
「随分な言い草だな」
普通に置いて立ち去ろうとしたのに、彼女たちが柴関の悪口を言っているのが分かって、つい刺々しい言葉を放ってしまった。
テーブル席の全員がカヤツリを見た。そしてカヤツリが誰だか理解するのが分かって、カヤツリはうんざりした気分になる。本当に面倒なことになった。
「へぇ。この前のお兄さんじゃん。お兄さんもここのバイト?」
この前より少し攻撃的な口調でサイドテールが問いかけるが、カヤツリはまともに相手にするつもりは毛頭なかった。適当に返事をする。
「今日は休みだよ。ほら、大将から追加のサービスだってさ」
「ちょっと待ちなさい」
小鉢を置いて立ち去ろうとするカヤツリを、さっき叫んでいた女生徒が呼び止めた。何やら言いたいことがあるようで、カヤツリの事をじっと見ている。
「どうして、あのカバンを置いて行ったの?」
「……昨日の金が入ったカバンの事か?」
そうよ、と彼女が肯定した。自分たちにとっては、拾うのは別に誰でもよかったのだ。あれは自分たちにとってリスクの塊だっただけだから。
「いらなかったから。捨てて行ったんだよ」
「アビドスにはお金が必要なはずでしょう? 聞いたもの。借金で大変だって。なんで捨てて行ったの?」
適当に誤魔化すつもりだったが、妙に彼女の目は真剣だった。昨日のセリカとのやり取りをかいつまんで教えた。目的は金ではなかったことと、盗んだ金では、納得できないから意味はないのだという話を。
「……」
それを聞いたらまた彼女は黙り込んでしまった。いや、よく聞けば呻き声が漏れている。何やら悩んでいるらしい。その様子があまりに真剣で、さっきの暴言を吐いている様子とはまるで違った。
このまま放っておいてもいいのだが、昔こんな気分になったことがある気がする。それがなんだか気になって、もう少しだけ付き合ってやっても良いかもしれないと、カヤツリは思い始めていた。
「何に悩んでるんだ?」
聞いてみるが、呻くばかりで返事が返ってこない。しびれを切らしたのか、髪を括った方がため息交じりに話し出した。
「社長は朝からこうなんだよ。ずっと悩んでる。たぶん、アンタたち──アビドスと戦いたくないんだと思う」
「意味が分からないが? 仕事だろう?」
「社長のポリシーかな。まあ座りなよ。立ったままじゃ疲れるでしょ」
髪を括った方がテーブル席の空いたところを指さすと、ズサーとショートの方が対面の席へと逃げるように移動した。残ったのはサイドテールの方だけで、当の彼女は面白そうな顔をしている。何がそんなに面白いのか。そう聞こうとして彼女たちの名前を知らないことに気がついた。調べはしたが名前なんてすぐ忘れてしまったのだ。向こうもカヤツリの名前を知らないことに気がついたようで、簡単な自己紹介の後に、髪を括った方──カヨコが話し始めた。
アビドスを襲撃する仕事を受けたこと。前金をもらわないポリシーだったのに、それを破ってしまっていること。金銭問題は解決したけれど、社長──アルの踏ん切りがつかない事。
「それを襲撃相手に言うのは違うんじゃないのか」
「アンタが聞いてきたんでしょ。責任もって最後まで面倒見なよ」
「チッ」
カヨコの言う通りで、面倒なことになったとも思う。けれど、悪い気分ではない。何処か懐かしい気分だった。まだその正体は分からない。
「結局のところ、自分のやりたいことと、やらなきゃいけないことが、ごっちゃになってるんじゃないのか」
「ごっちゃ?」
隣でムツキが首をかしげている。たぶん享楽的なこいつには縁遠い感情なんじゃないだろうかとカヤツリは内心笑う。カヤツリはよくわかるから、直ぐにピンときた。
「アウトローに拘り過ぎて、どこを大事にするのか分からなくなってるんじゃないのか。たぶん、前金貰ったあたりから崩れてきて、それを修正するために色々捻じ曲げて、それで全体像が狂ったんじゃないか?」
「そう! それよ!」
バッとアルが顔をあげる。さっきまでとは違い目が輝いている。よっぽど嬉しいらしい。
「で? 何が一番大事なんだ? 社長さん。金か? 依頼の内容か? それとも依頼人か?」
「うっ」
ようやく話が進むと思って具体例をあげつらうと、またアルは黙り込んでしまった。細かいところはまだ煮詰まっていないようだ。ここまで話して、やっと既視感の正体にカヤツリは気がついた。
先輩だ。うだうだ悩む先輩にホシノと二人であーだこーだ言っていた時の気分だ。だから懐かしい気分になったのだろう。便利屋に何だかんだ甘かったのも、かつての自分たちの姿をそこに見たのかもしれない。
「じゃあ、後は自分で考えてくれ」
「え、お兄さん帰るの? もうちょっと付き合ってよ」
疑問が分かってすっきりして帰ろうとするカヤツリをムツキが呼び止める。けれど、十分付き合った。もうすぐ帰らないと皆に心配をかけることになる。渋るカヤツリにムツキはボイスレコーダーをぶら下げた。
「ほら、参考資料に録音した依頼内容もつけるよ。どう? お兄さん」
「よし、乗った」
「くふふ。お兄さんも現金だねぇ」
それは魅力的な提案で、カヤツリは飛びついた。ムツキは笑っているが、無視してさっそく再生する。
「……ああ。社長は悪くないな。相手が悪いよこれは」
聞けば、中々話の運びが上手かった。彼女が気にしていた前金も、ちゃんと話してはいない。依頼を受けると言った後に押し付けている。これでは気がつかないし、よしんば気がついたとしても断れないだろう。この手口は、昔教えてもらったやり方だ。知らなければ対策のしようもない。
「……」
内容が追加依頼の所まできた。カイザーに恨まれる理由はあるだろうが、なぜ自分なのか分からない。たぶん情報が足りないからだ。これは置いて行くしかない。便利屋を見れば、カヤツリを捕まえようとする気配がなく、ただこちらをみつめている。
「捕まえなくていいのか?」
「社長がやる気じゃないからね。私たちは雇われ社員だから」
「私は楽しければそれでいいけど、それは楽しそうじゃないからね」
「アル様がやれと言わないので」
社員に慕われているようで何よりだった。社長は未だに悩んでいて白目を剥き始めていて、そろそろ助け船が必要そうだ。
「どういうアウトローになりたい? まずはそこからだろ。悪いことがやりたいのか?」
アルは頷く。続けてカヤツリは、質問を変える。
「悪いことの種類は、何でもいいのか」
「そこよ。そこが分からなくなったの」
急にアルが話し出した。理由は大体想像がつくが、ゲヘナには向いていないだろうなとは思った。けれどたぶんそこが良くて社員の三人は着いてきているに違いない。多分言っても社長に失望するなんてしないだろう。
「社長。アンタはな。優しいんだよ。相手の事情を知ってしまったからじゃないのか?」
アビドスの事情を知ってこうなったというのなら頷ける話だ。きっと同情したのだろう。これが、普通の理由なら違ったのかもしれないが、アビドスの事情は重いから。憧れているというアウトローも義賊か何かの類に違いなかった。
だから、今悩んでいるのだ。水着団にあってテンションが上がったのは指針が見つかった気がしたから、朝になったらそれの高揚は無くなる。それで金銭の問題が解決して、アビドス襲撃の板挟みになっているのだ。アビドス襲撃は良心が痛むからやりたくない。けれど、仕事を放りだしたらアウトローの流儀に反する。まあ悩むだろうなとは思う。
カヤツリの答えを聞いて、アルは萎れたようになった。
何やってんだよ。そういう視線が他の三人から突き刺さる。特にハルカなんかは、今にも銃でカヤツリに向かって発砲しそうな剣呑な雰囲気だった。急いでカヤツリはフォローを入れる。
「好きにやって良いと思う。結局は社長が納得できるかの話なんだ。アンタが参考にしたアウトローだって、そうやって悩むことはあったんじゃないのか」
アルは少しだけ立ち直ったように見える。他の三人からの視線も和らいだ。もう一押しだろうか。
仕事のこだわりなんて、自分で決めるものだ。考える時間があればいつか答えは出るだろう。
「別にアビドスを襲ってもいいし、しなくてもいい。最後は納得できるかどうかなんだ。始めたら終わらせるしかないんだ。途中では止められない。始めたら後悔しないようにするしかないと思うね。まだ考える時期なんじゃないのか。時間はまだあるんだろう?」
「……そうね。そうよね。アウトローにだって悩むときはある。いいわね!」
急に元気になった。情緒が心配になるが、他の三人を見るに平常運転らしい。社長は元気になったし、カヤツリは依頼内容を聞くことが出来た、それに襲撃の遅延もできている。お互いウィンウィンだ。便利屋に許可を取って帰ろうとした矢先に、カヤツリの携帯が鳴った。表示を見れば幽霊からだ。
「ああ、出なよ。私たちは気にしないから」
カヨコの言葉に甘えて通話ボタンを押す。ただ予想とは違って、流れた声は別人だった。
『もしもし。あの人からの伝言なんだけど』
幽霊の後輩の声だ。向こうからかけてくるのも珍しいが、後輩が電話してくるのはもっと珍しい。初めてのパターンだ。彼女は淡々と要件を言う。
『カイザーがアビドス砂漠で何かやってるよ。って、確かに伝えたから』
「珍しいじゃないか、そっちから掛けてくるなんて」
後輩は電話の向こうで疲れたような声を出す。
『こっちも忙しいの。私もあの人も。あの人は別の用事に駆り出されてしばらくいないから、私にお鉢が回ってきたの。これでいい?』
「……忙しいところ悪かったな。情報ありがとう」
後輩の声は今にも死にそうだった。疲れすぎて口調に抑揚がない。相当向こうは修羅場らしい。愚痴を吐かない所を見るに相当だろう。これ以上の邪魔をするのは悪いと思って切ろうとするが、便利屋が静まり返っているのに気がついた。
アルの顔は青いし、ハルカは何か表情が怖い。他の二人もどこか探るような表情だった。
「あんた、風紀委員長と知り合いなの?」
「は? そんな知り合いは居ないが……」
カヨコの言葉にカヤツリは反応に困って、言い淀んだ。そんな肩書の知り合いは居ないはずだ。
「だって電話の声が……」
『何? 今聞き覚えのある声がしたんだけど』
「電池が切れそうだから切るぞ。そっちも休める時に休めよ」
隙をみて電話を切る。便利屋たちはさっきとは違って警戒した目をしていた。
「いや、本当に?」
「うん。あれは風紀委員長の声だね。嫌でも覚えてるもの」
断言するムツキに、カヤツリは歯噛みする。アイツ分かってて黙ってやがったな。カヤツリは幽霊を罵る。罵ったところで奴はここにないから意味はないのだが、そうでもしないとやっていられなかった。
「まあ、その様子を見るに本当に知らなかったみたいだね。アビドスならそうかも知れない」
カヨコは分かってくれたようで、ムツキもそんな雰囲気だった。アルは風紀委員長と聞いてからフリーズしている。余程恐ろしいのだろう。丁度いい時間だし用事も終わったから、今度こそカヤツリは帰る準備を始める。便利屋たちも見送ってくれるようで、アルを再起動させようとしていた。
ただ、それを邪魔するように、大きな声が外から響いてきた。
「貴様らは包囲されている! 扉を開けて、とっとと出てこい! そこに居るのは分かっているんだ便利屋68!!」
バカでかい声だ。拡声器で叫んでいる。誰だか見当がつかないが、便利屋を見れば焦ったような顔をしている。
「開けろ! ゲヘナ風紀委員会だ!!」
ここまで便利屋を追ってきたらしい。随分暇な組織なのだろうか風紀委員会とやらは。そう聞けばカヨコは首を横に振った。
「そんな暇じゃないはずだよ。なんでこんなところにまで……」
「ヒナが来るの? もう終わりよ……。もういっそ、ここで自爆するしか……」
復帰したアルが絶望したような声を出すが、カヤツリはいないと思う。電話口では外の音はしなかった。書き物の音がしていたから室内だろう。外には居ないんじゃないだろうか。
「アル様。分かりました。私やります」
「えっ」
「は?」
「あっ。バカ野郎!」
何をとち狂ったのか、ハルカが起爆装置を手にして何かを起爆させようとしていた。カヨコもムツキも焦った顔をしている。止めるにはもう間に合わない。
「大将!!」
厨房の大将に覆いかぶさったカヤツリの後ろで何かが爆発した。
□
「坊主! おい! しっかりしろ!」
大将は自分に覆いかぶさったカヤツリを押しのけて、揺さぶっていた。
大将には事態の把握は難しく、カヤツリが自分を庇ったのだという事しか分からなかった。周りは瓦礫の山で店は跡形も無い。大将はカヤツリが庇ったおかげで無傷だった。肝心のカヤツリは身体は平気そうだが、意識を失っている。けれど、しばらく揺すっているとカヤツリの目が開いた。
「よかった。坊主。大丈……」
大将は安心して、カヤツリの目を見た。強烈な違和感を感じて、言葉が途切れる。
「いや……誰だ。お前、坊主じゃないな」
大将は目の前のカヤツリに問うた。姿かたちはカヤツリだが、何かが違った。
けれど、それは答えずに大将を小脇に抱えて歩き出す。大将の身体は大きく重いはずなのに、まるで軽い荷物を運ぶかのように抱えられていた。暴れようとするが、力が強く抵抗できない。
しばらくすると、見覚えのある場所に着いた。
シェルターだ。
そこに大将は放り込まれる。何かをされるかと思ったが、それは目の前で大将を見ているだけで何もしてこなかった。
それは、指を一本立てて、唇の前に当てる。黙っていてね。そういうジェスチャーだった。
「しー」
それはそう言った後、カヤツリらしからぬ顔で笑った。