ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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67話 カイザーの目的

「……それで、俺の店を吹き飛ばしたってのかい」

 

「……そうよ」

 

 

 固い声で事実の確認をする大将にアルが同じような声で肯定した。

 

 今日は柴関爆破の翌日である。この病室には、便利屋一行と検査入院している大将、見届け人として先生と柴関のバイトであるセリカ、付き添いのアヤネがいた。

 

 先生は冷や汗を流す。

 

 いくら銃撃が日常のキヴォトスとはいえ、自分の店を吹き飛ばされて平気な顔をしていられるほど、大将も人間が出来ていないと思うのだ。

 

 しかも、理由が理由だ。早とちりで店を吹き飛ばしている。保証自体はゲヘナから出るだろうが、大将にも気持ちというモノがある。拗れた時の為に同席したが、どう転ぶか分からない。

 

 

「それで? 便利屋の嬢ちゃんは償いに何をしてくれるんだい」

 

「……お金を払うわ」

 

「……払えるのかい。嬢ちゃんたちは金欠だったはずだ。強がりは止めな」

 

「いえ。あるわ」

 

 

 確かに便利屋は金欠だが、それは前の話だ。彼女たちは銀行強盗の金を持っている。額が額だ。一日で使い切れる額ではない。それを返済に充てようというのだろう。いい使い道かもしれなかった。

 

 アルが持ち出したカバンを見て、大将は首を横に振った。

 

 

「……それは、拾った金だろう。嬢ちゃんたちが自力で稼いだ金ではないはずだ。坊主と話していただろう?」

 

 

 大将はベッドから身体を起こしたまま呟く。

 

 

「ゲヘナから保証が出ると風紀委員会から連絡が来た。今回の損害を上回る額だ。金はもういいんだ。俺は嬢ちゃんの気持ちを聞きたい。自分がやったことが悪いと思って償いたいと思っているのなら。拾った金なんか貰っても、俺は嬉しくなんかない」

 

「わかった。時間を頂戴」

 

「……そうか。思いついていないか」

 

「そういう意味じゃないわ」

 

 

 残念そうにする大将に、アルははっきりとした口調で言い切った。大将はキョトンとしてアルをみつめた。アルは大将の目を見て先ほどと同様にはっきり告げる。

 

 

「私が、私たちが納得いく金額を稼ぐまで待って頂戴。もちろん、便利屋で自分が納得いく仕事を受けて稼ぐの。ただ、それには時間が掛かるわ。時間を頂戴と言ったのはそういう意味よ。このお金だって、ゲヘナから補償が出るか分からないから、補填にと思って提示しただけ」

 

「……はは。そうか、悪かったな嬢ちゃん。早とちりした」

 

 

 アルの宣言に大将は嬉しそうだった。喜びが全身から溢れているようにも感じる。見届けていたセリカもアヤネも安心したように一息ついていた。

 

 

「じゃあ、店を止めるわけにもいかないな。丁度いいから屋台でも始めるかね」

 

「え。大将。お店は建て直さないの? お金をゲヘナから貰ったんでしょう?」

 

 

 大将の言葉にセリカが不思議そうに聞き返していた。先生も不思議に思う。お金はあるのだから建て直せばいい。それとも何か事情があるのだろうか。

 

 

「いや。カイザーから立ち退きを要求されててな。どうするか悩んでいたんだが、便利屋の嬢ちゃんの事もあるし。俺自身やりたい気持ちもあるのが分かったから、屋台で続けることにしたのさ」

 

「え!? 何でカイザーが出てくるのよ」

 

 

 驚くセリカに向かって大将は、まるで当然のような顔で言う。

 

 

「知らないのか? ここいら一帯はカイザーの土地だぞ? 昔、生徒会が売り払ったのさ。借金の返済の足しにしたんじゃないか?」

 

 

 それを聞いて、アヤネとセリカの顔が青くなった。その様子を見るに知らなかったらしい。先生はカヤツリの言っていたことに思いあたった。

 

 

 ──借金を返した後は、土地を何とかしないといけないんです。

 

 

 先生は内心で顔を顰める。カヤツリの隠していたことだ。それがまた、最悪のタイミングで爆発した。慌てたようなセリカとアヤネを横目に先生は頭を回す。

 

 きっと二人はこの後、土地の事を調べるだろう。今日の対策会議で議題にあげるはずだ。

 

 そうすればどうなるか。

 

 昨日のホシノの様子が先生の頭に浮かぶ。おそらく、カヤツリに食って掛かる姿が容易に想像できた。二人が土地の事を調べ終わる前に、ホシノと話をする必要がある。

 

 

「……二人は土地の事を調べておいて、私はアビドス校舎に向かって会議の準備をしておくよ」

 

「え? 先生? 分かったけど……」

 

「頼んだよ」

 

 

 便利屋と大将への挨拶もそこそこに、先生はアビドス校舎へと急ぐ。その様子を目を丸くして、病室の全員がそれを見送った。

 

 

 □

 

 

 時間との勝負だった。手足を全力で回す。その甲斐あって、予想よりも早く校門まで着くことが出来た。

 

 しかし、全力疾走したせいで先生の息は限界だ。校門の柱に手をついて息を整える。

 

 そうしている所にノノミが登校してきた。ノノミは息も絶え絶えな先生をみて目を丸くしている。

 

 

「先生!? どうしたんですか。そんな息を切らして……」

 

 

 先生は喋ろうとするが、息が切れているせいで上手く喋れない。

 

 結局息を整えるのに数分かかった。その間、ノノミは心配そうに待ってくれていたのが申し訳なかった。自分の運動不足を嘆くばかりだ。

 

 気を取り直してノノミに説明する。カヤツリの事はどうしようか悩ましいが思い切って伝えることにした。

 

 ノノミはなんだかんだで対策委員の事をよく見ている。屋上のホシノとカヤツリの事も感づいていたようだし、もしかしたら協力してくれるかもしれない。取れる手は選んでいられない。上手く部分的に伝えれば行けるかもしれなかった。

 

 先生から土地の事と、昨日のホシノとカヤツリの件を聞いたノノミの顔が曇っていく。

 

 

「なるほど……分かりました。カヤツリ先輩の隠し事が最悪のタイミングで起爆したと……。それでホシノ先輩との間が拗れそうですか……。とりあえず、教室まで行きましょうか」

 

 

 その時アビドス校舎の方から激しい物音がした。そして誰かが突き飛ばされるような音も。

 

 先生の耳に入ったのはそんな音だった。

 

 先生はノノミと共に音の聞こえた教室へと急ぐ。さっきから嫌な予感が止まらない。

 

 先生の頭には最悪の想定が浮かんでいた。セリカとアヤネはまだ病院だろう。ノノミは脇にいる。まだ今日会っていないのは、ホシノとシロコ、そしてカヤツリだ。ホシノとカヤツリが昨日の事で揉めて乱闘騒ぎになっていてもおかしくなかった。

 

 

「……いつまでしらを切るつもり?」

 

 

 幸いなことに先生の想定とは違って、教室の中に居たのはシロコとホシノだった。シロコに突き飛ばされでもしたのか、ホシノはよろけた姿勢だった。

 

 シロコは、どこか怒ったような表情でホシノを睨みつけている。校門で会った時もそうだったが、シロコの様子もおかしい。まるで昨日の風紀委員に対するような威圧感だった。間違っても仲間である対策委員。それもホシノに向けるような圧ではない。

 

 ただホシノは、そんなシロコの威圧に怯みもせず、いつものちゃらんぽらんな態度を崩していない。昨日の空元気とは違っていつもの様子に戻っている。ただそれが先生には、とても良くないように思えた。

 

 

「うへ~、何のことを言っているのか、おじさんにはよく分からないな~……?」

 

「……嘘つかないで!」

 

「シロコちゃん!?」

 

 

 また掴みかかろうとするシロコをノノミが急いで止めた。シロコは暴れるが、ノノミの怪力に為す術もない。

 

 

「ホシノ先輩に用事があるの。……だから二人きりにして欲しい」

 

 

 今のシロコの剣幕ではどう考えても乱闘騒ぎになる未来しか見えない。先生としてはそれを認めるわけにはいかなかった。この様子だと理由を聞いても答えないのが目に見えている。

 

 そんなシロコにノノミが笑顔のまま告げる。

 

 

「ダメです。私たちは対策委員で、運命共同体なんですよ? 二人だけでの隠し事は無しです」

 

 

 ノノミがシロコの提案を拒否した。シロコの威圧をまったく気にもせずノノミは笑っている。おそらくノノミは引かないだろう。ただ、シロコも引く気はなさそうだ。

 

 

「あ~。ごめんね。昨日の長いお昼寝もあってさ。それでシロコちゃんに怒られちゃったんだよね。それで私が変な言い訳しちゃったからさ。それでシロコちゃんが怒っちゃったんだよ。おじさんも謝るからさ。喧嘩は止めて欲しいな~」

 

 

 ごめんね。シロコちゃん。そう謝るホシノにシロコは何も言えないようだった。さりとて、このままの状態を続ける気力もないようで、シロコは威圧感を消した。

 

 正直言って、雰囲気は最悪だ。これでは、カヤツリが来る前にホシノと会話するのは難しいと言わざるを得ない。

 

 そんな事を考えていると、廊下をバタバタと走る音がする。

 

 先生は頭を抱えたくなった。時間切れだ。この足音はセリカとアヤネだろう。おそらく先生と同じように全力疾走してきたに違いない。キヴォトスの住人は足が速い。後方要員のアヤネですら先生より速いのだ。それも圧倒的に。

 

 どうしようとノノミの方を見るが、困ったような笑いを浮かべて首を横に振った。

 

 

「皆! 大変な事が分かったの! 早く来て!」

 

 

 セリカが泡を食って教室に飛び込んで来る。

 

 その様子に先生は違和感を覚えた。おそらく土地の事なのだろうが、病院の時よりも慌てている様子なのだ。

 

 まるで病院の時よりも事態が悪化したような。そんな慌てようだった。

 

 その答えはすぐに分かった。

 

 

「アビドスの土地が殆ど残っていない!?」

 

「はい、先生。残念ながら……」

 

 

 カヤツリを除いた全員が揃った対策委員会の部室で、アヤネが沈痛な面持ちのままそう答えた。

 

 先生にとっても寝耳に水だ。土地が売られているのは聞いたが、ここまでとは思わなかった。

 

 呆然としているのは、先生だけでなく皆がそうで、ホシノですら困惑を隠せずに疑問を口にする。

 

 

「……どういうこと。アビドス自治区がアビドスの所有じゃないなんて、そんなわけ……」

 

 

 ホシノの疑問に答えるように、部屋の入り口の方から声が響く。

 

 

「カイザーに売ったんだよ。前の生徒会がな」

 

 

 カヤツリの声だった。

 

 そちらへ全員が視線を向けると、何かの束を抱えたカヤツリが立っていた。そのまま、カヤツリは続ける。

 

 

「利息が払えないから、補填に売っていったらしいな。この校舎と周りしか残ってないだろう?」

 

「……はい。合っています」

 

 

 アヤネがタブレットの画面を見せる。カヤツリの言った通りに、アビドスの所有である校舎とその周りは青く、それ以外は真っ赤に染まっていた。

 

 あまりの現実に静まりかえった部室の中で、ホシノの声が響く。

 

 先生には、その声がどこか震えているように聞こえた。

 

 

「……何でカヤツリは知ってるの? おじさんは何も知らないのに……」

 

「先輩から聞いたそれを、俺が言わなかったからだが?」

 

 

 ホシノの顔が真っ青とも真っ赤ともいえない色に染まるのを先生は見た。マズイ。そう思うが、先生の身体は言う事を聞いてくれなかった。

 

 ホシノは震えた声のまま問い掛ける。

 

 

「なんで? 先輩ってことは、ずっと前からでしょ……。なんでずっと黙ってたの? 答えてよ」

 

「どうしようもないから言わなかった。それだけの話だよ。手続きは正しいものだし。売り先はカイザーだ。借金を返さずに”売った土地だけ買い取りたいです”みたいな話が通るわけがないだろう。言ったところでどうしようもない。だから借金を返す目途が立ったら言う心算だったんだよ」

 

 

 その答えにホシノは黙り込んでしまった。反論のしようもないからだろう。最悪だ。昨日の流れと一緒で、良くない方向に進んでいるように見えた。

 

 

「前の。って?」

 

 

 先生は空気を変えるべく、別口から切り込んだ。個人的に気になったこともある。

 

 先生は何も知らないのだ。ホシノとカヤツリがいた時期の事を。二人が言う先輩の事を。この二人を何とかするためには、この事を知っておかないといけない気がした。

 

 何とか気を持ち直したであろうホシノは話し出した。カヤツリは席について、それを見ているだけだ。いつもはカヤツリが説明役なのに、それは珍しかった。

 

 

「……最初カヤツリは居なかったんだよ。先生。だから全部はカヤツリは知らないんだ。生徒会とはいっても、私ともう一人の先輩の二人だけだったんだけどね。前の人たちは、引継ぎもろくにしないでいなくなっちゃったんだ」

 

 

 随分と無責任な話もあったものだと思う。それにカヤツリが途中参加だったのは初めて聞いたが、ホシノに先を促す。他の対策委員も昔の話は知らないのか聞き入っている。

 

 ただカヤツリだけが、苦虫を嚙みつぶしたような苦々しい顔をしているのが印象に残った。

  

 

「二人と言っても、新任の生徒会長と私だけだったし。生徒会長は無鉄砲で校内でも随一のバカで、私の方も嫌な性格の後輩でさ。いや~、何もかも滅茶苦茶だったよ。カヤツリが来てからじゃないかな。軌道に乗ったのは。私は先輩に文句ばっかりで、何にもできなかった……」

 

「でも、ホシノ先輩が居たから対策委員会があるんでしょう? 何にもできなかったわけじゃないと思うけど?」

 

 

 セリカがまるで当然の事のように言った。シロコも頷いて同調する。

 

 

「少なくとも、今ここに対策委員会があるのはホシノ先輩のおかげ。何もできなかったって言うけど、カヤツリ先輩が来るまで頑張ってたのはホシノ先輩じゃないの?」

 

 

 そう二人に言われたホシノは、何を言われたのかが一瞬分からなかったようで、気の抜けたような顔をしていた。そのあとすぐに、真っ赤になって慌てた様に言い訳を始めた。

 

 

「いや、そうかな。おじさんは怠け者だからねぇ」

 

 

 ホシノの様子を見て、先生はある種の確信を得た気がした。試しに褒めてみる。

 

 

「ホシノは必ず前線を張るだろう? それは皆を守りたいからじゃないのかい。それにセリカが誘拐されたときに真っ先に私を頼ったのはホシノじゃないか。もっと自信を持って良いと思うよ」

 

「おじさん。こういう雰囲気少し苦手なんだけど!!」

 

 

 周りから急に褒め殺しにされて、照れと恥ずかしさでホシノは照れ隠しだろう。そう叫びだして椅子の上で丸くなってしまった。

 

 けれども、昨日のような鬱屈とした雰囲気や空元気は無くなったように見える。

 

 きっと自信を喪失したに違いない。最近はカヤツリの担当であろう工作ばかりで、ホシノが活躍できるような場面がなかったから。風紀委員会との騒動でも間に合っていなかったようだから、それで疎外感と罪悪感を感じていたのかもしれない。

 

 それなら対策委員の皆は別にそんなことを思っていないのだと、言ってやればいいのだ。

 

 しばらくすれば、さっきまでの重い雰囲気は無くなり、ホシノも落ち着いたようで様子も元に戻っていた。

 

 

「なんか、変じゃない? 最初からどうしようもないって言うか……」

 

「そりゃそうだ。周りの企業が金を貸さない中でカイザーだけが金を貸したんだ。周りの企業は回収の見込みがないから手を引いたんだよ。それなのに貸すってことは、何か目的があったに決まってるだろ」

 

 

 セリカの疑問にカヤツリが投げやりに答える。

 

 これまでの騒動で明らかになった事実を合わせると嫌な構図が浮かび上がってきた。

 

 シロコが考えを整理するためだろうか、流れを声に出して整理し始める。

 

 

「カイザーコーポレーションがアビドスにお金を貸す。当然返せるわけがないから利子が膨れ上がっていく。それで土地を売るように仕向ける」

 

「……最初はいらない土地からだったんだろうね。それでどんどん歯止めが利かなくなって……」

 

「今の状況になったと。アビドス自治区のほとんどの土地がカイザー名義になってしまった。……そう言う事ですね」

 

 

 ホシノが中継ぎしてノノミが最後に締める。言葉にすると分かりやすかったが、無駄がないというかなんというか。あまりの悪辣さに言葉が出ない。

 

 

「随分、悪質な罠に嵌められたね……」

 

 

 そう感想を言葉に出すが、何か変だった。最初からこのことを知っていたカヤツリなら、気がついていたのではないのだろうか。この絡繰りに。

 

 

「銀行強盗のあたりでそうじゃないかなとは思いましたよ。その時までは目的が金か土地か絞れなかったので。今になって良く分からなくなりましたが」

 

「よく分からない? どうしてだい? カイザーの目的はこれ以上ないほどに分かったじゃないか」

 

「……何で土地なんです? 最盛期のアビドスならまだしも、砂まみれの何もない土地ですよ。ここに経済圏を敷くのにどれだけかかると思いますか。完全に足が出ますよ」

 

 

 カヤツリの疑問は尤もだった。先生も考えてみるが分からない。そんな先生の脳裏に昨日のヒナの言葉が蘇った。

 

 

 ──カイザーコーポレーションがアビドス砂漠で何かを企んでる。

 

 

「アビドス砂漠……」

 

「そう言うと思ってましたよ。先生」

 

 

 にやりとカヤツリが笑って持っていた束を差し出してきた。受け取ってよく見れば写真の束だ。ドローンで撮影でもしたのか上空からの物が多い。どうやら遅れてきたのはこれを調べていたからだったらしい。よくよく見れば何かの前線基地のように見える。かなり大きく、壁にはどこかで見たようなロゴがある。カイザーPMC?

 

 PMCは民間の軍事会社だ。いわゆる民間の傭兵集団。つまりはカイザーの私兵がそこにいるということだ。明らかに何かを企んでいる。

 

 

「なによ。どこに行ってもカイザー、カイザーって。頭がおかしくなりそう! この戦力で何をしようってのよ。ここに行って、問いただしてやるわ!」

 

 

 セリカがイラつきを隠せないのか怒鳴る。

 

 ただ、その意見には賛成だった。この写真では何も分からないし、現地に行くことで分かることもあるだろう。対策委員も乗り気のようで頷いている。

 

 

「待て。それは認められない」

 

 

 だが、それに冷や水を掛けるようにカヤツリが待ったをかけた。ホシノの機嫌がまた悪くなる。それを気にせずにカヤツリが言う。

 

 

「こういうのは、ちゃんとアポイントメントを取るもんなんだよ。このまま行ったら不法侵入で戦闘になるだろ」

 

「……受けてくれるはずがないよ。相手はカイザーなんだよ。どっちにしろ戦闘になるよ。それにカヤツリ。連絡先も知らないんじゃない?」

 

 

 先生としても、カヤツリの言う事も分かるが、ホシノも言う事も分かる。どちらに味方するか悩ましい。けれど、先生は今は不安定であろうホシノの味方をしてやりたかった。カヤツリなら今ここで、言えば分かってくれるかもしれない。

 

 けれどカヤツリはホシノの懸念を一蹴するように、小さい名刺サイズの紙を取り出す。

 

 

「知ってたらいいんだな? あるぞ。これで先生にシャーレ名義でアポを取ってもらう。受けてくれないならそれでいい。好きに突撃でもしてくれ。そうはならないだろうけどな」

 

 

 そう言って、カヤツリは先生に、その紙と自分の携帯とは違う電話を出してきた。妙に古い電話だった。あちこち傷だらけだ。これでこの連絡先に掛けろと言う事だろうか。

 

 そう聞くとカヤツリは頷く。

 

 対策委員が見守る中で、先生は半信半疑で電話を掛ける。幾らシャーレの権限があるとはいえ、後ろ暗いところがあるなら拒否されると思うのだが。カヤツリの言う事だから勝算があるのだろう。

 

 

『はい。こちらカイザーコーポレーションです。なんのご用件でしょうか』

 

「はい。突然のご連絡、失礼いたします。こちら連邦捜査機関シャーレと申しまして……」

 

 

 受付のロボットだろう声が聞こえ、先生はアポを取りたい旨を伝える。受付は最初は乗り気でなさそうな声だったが、しばらくしてから慌てた様に了承の旨を言ってきたのだ。そのまま、日時を確認し礼を言って電話を切る。

 

 驚くべきことだった。どんな魔法を使ったのだろうか。驚きの目でカヤツリを見るが、笑うだけでカヤツリは答えてはくれない。

 

 

「で? いつになりましたか? たぶん直ぐでしょう?」

 

「うん。今から行って丁度くらいの時間かな」

 

「じゃあ、行きましょうか。俺は準備してきますから。校門で待ってます」

 

 

 そんな言葉と共にカヤツリは姿を消してしまった。先生と対策委員はその背中を見送る事しかできない。ホシノはまたどこか落ち込んでいるようだった。

 

 もう少し手心というモノがあればいいのにとも思うが、カヤツリなりに必死なのだろうか。今日は妙に余裕がない気がする。何時もは、遅れる時は連絡してくるらしいのだが、今日は何の連絡もなかった。アビドス砂漠を調べて遅れたのなら、そう言えばいいのに。ホシノへのフォローも少なめだし、さっきのホシノを褒め殺しにしている時も何も言わなかった。他の対策委員は色々言っていたのに。さっき揉めたシロコですら。

 

 カヤツリは、ただ、何か寂しそうな顔で見ていただけだ。いつもなら照れ隠しか知らないが、それとなく褒めるはずだ。何度か見た事がある。ホシノも気がついたのか、物足りなさそうな顔をしていた。

 

 何か距離を測り直しているような気がして、先生はどう介入したものか分からなくなる。あくまで、先生は第三者だから誘導か助言しかできない。しかも、さっきの問答で、これは二人しか知らないなにかが絡んでいそうで、時間がかかるのが嫌でも分かっていた。

 

 先生は気を取り直す。今は問題が多すぎる。手近の物から片付けていくしかない。

 

 そうなると、さっきの電話が気になった。

 

 最初、先生はカイザーPMCに繋がると思っていたのだ。けれど繋がったのは親会社であるカイザーコーポレーションだ。そこで一つ。

 

 次に、やけにすぐ繋がった。ああいう大企業の電話は直ぐには繋がらない。それはあの電話に秘密があるのだろうか。

 

 最後に、アポが直ぐに取れたことだ。シャーレに捜査権があって、向こうに後ろ暗いところがあるとしても、普通はその日に取れない。対応する職員にも予定というモノがある。偶々予定が空いていた可能性もあるが、偶然の一言で片づけるのも気にかかった。

 

 つまり、コネがあったんじゃないかと先生は思ったのだ。

 

 

 ──けれど、どうやって?

 

 

 そんな風な、何か胸の中にしこりを残したまま、先生はアビドス砂漠へ向かう準備を始めた。

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