ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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1年生時点でのホシノの同学年に対する口調が見つからず分からないので、ノノミと初遭遇時の口調を参考にしています。


6話 ホシノとカヤツリ

「そういえば、最近カヤツリ君とどうなの? ちゃんと話せてる?」

 

 

 生徒会室での先輩の唐突な疑問にホシノは、ぶっきらぼうに答える。

 

 

「ユメ先輩、いつも見てたら分かるでしょう? さっきみたいな感じですよ」

 

「ホシノちゃん。仕事振りを見て決めるんじゃなかったっけ? あれでもまだ足りないの?」

 

 

 信じられないものを見るような先輩の視線に耐えきれなくなったホシノは叫んだ。

 

 

「そうじゃないから、先輩に相談したんでしょう! 忘れたんですか!」

 

「あっ。そうだったね」

 

 

 ごめんね。と謝る先輩を横目にホシノは、カヤツリとのさっきのやり取りを思い出す。基本的にホシノの問いかけにしか答えていない。かれこれカヤツリが入学してから数週間経つがカヤツリとはまともに話をしていない。完全に避けられていた。先輩と相談した仕事量を減らそうという計画も鯨の話で無しになってしまった。

 

 

「宝探しが気晴らしになればと思ったんだけどね。あんなに反対されたらね。私もそんなものがいるなんて知らなかったよ」

 

 

 先輩が寂しそうに言った。先輩もカヤツリを心配しているのだ。これが成果が出ていないなら止めようがあるのだが、実際に校舎は奇麗になっていた。そもそも校舎の事も今までのツケが溜まった結果なので文句もつけられなかった。

 

 

「そうだ。ホシノちゃん。何か知ってるんじゃないの。カヤツリ君が頑張る理由も、ホシノちゃんだけにそっけない理由も」

 

「うぐっ」

 

 

 ホシノには心当たりしかなかった。たぶん先輩には相談した段階で気づかれていたのだとは思う。

 

 

「私にはホシノちゃんが何を考えているかはわからないけど、もうカヤツリ君に直接言うしかないと思うよ。きっと今のホシノちゃんなら大丈夫だから」

 

「うう。わかりましたよ。先輩」

 

 

 ホシノは重い足取りでカヤツリのいる空き教室へと向かった。

 

 

 □

 

 

「入りますよ。いるんでしょう?」

 

 

 空き教室を開けるとカヤツリが椅子でグッタリしていた。部屋周りを見回すと以前とはかなり様変わりしている。

 

 

「だいぶ弄りましたね。ほぼ教室の原形が残っていないじゃないですか。あなたの家じゃないんですよ」

 

「もう誰も使ってないんだしいいだろ。先輩に許可はもらったし。直せっていうなら直す」

 

 

 椅子にもたれたままカヤツリが言う。泊まり込みの時に使いやすいように、少しずつ弄っていたのだろう。ベッドや冷蔵庫などもあるためこの部屋で生活もできそうだった。

 

 

「で、何の用なんだ。文句だけ言いに来たのか」

 

「仕事の量の事です。先輩も心配してます」

 

 

 面倒くさそうにホシノを見るカヤツリの顔が、少し歪んだように見えた。

 

 

「別に校舎はもうすぐ終わるから安心しろ」

 

「他のこともやってるじゃないですか。何でそんなに頑張るんですか」

 

 

 とうとうカヤツリは黙り込んでしまった。

 

 

「……」

 

「じゃあ、少し手伝ってください」

 

 

 ホシノの言葉に疑わしそうな目を向けるとカヤツリは椅子から立ち上がった。ついでにホシノに紙の束を押し付けてきた。

 

 

「何ですか、これ」

 

「さっきの指名手配依頼の詳細データ。足りなかったら後で言ってくれ。先に校門にいるから」

 

 

 ひらひらと手を振って、空き教室から出て行くカヤツリを見送る。ホシノは押し付けられた紙を見返した。

 

 

「やり過ぎでしょ。いつ寝てるの」

 

 

 ホシノは素の口調で呟く。さっき纏めていた依頼に地図やルートが書いた紙がついている。休憩していた人間ができる量ではなかった。もう指名手配依頼はホシノがわざと枯らしたとはいえ、このままではカヤツリは倒れるだろう。手伝いをするにしてもホシノはあまりこういったことは得意ではなかった。

 

 2人だけの時も仕事以外の話はしない。ずっと初仕事の日の関係のままだ。むしろ先輩の方がカヤツリと普通に話しているのではないだろうか。いつまでも、大人相手に話すような話し方で、普通に話せない自分が嫌だった。

 

 そんなことを考えながら、空き教室を出て校門へ向かう。カヤツリとの待ち合わせ場所はいつもここだった。あの日のようにカヤツリは先に待っていた。

 

 

「で、今回は何を手伝えばいい」

 

「いつものパトロールです。ヘルメット団が増えてきたので」

 

 

 アビドスでは彼女たちは装甲車や重火器を持っていることが多い。ホシノ一人でもなんとかなるが、今回は戦車や装甲車の数が多く手間取りそうだったためカヤツリを呼んだのだ。

 

 

「ああ。いつも通り、車両を全部壊せばいいのか?」

 

「そうです」

 

 

 カヤツリは用意していた荷物を背負うとそのまま目的地に向かってゆっくり歩き始めた。

 

 

「それで何が聞きたいんだ」

 

「珍しいですね」

 

「話したい事があるから、誘ったんじゃないのか。あまりにも露骨すぎる」

 

 

 素直に話に乗ってくることがホシノは意外だった。本当にカヤツリは仕事以外の話をあまりしなかったからだ。

 

 

「何で私を避けてるんですか」

 

「……」

 

 

 ホシノの質問にカヤツリは、困惑している様子だった。横顔しか見えないが、何を言おうか迷っているように見えた。

 

 

「初めて一緒に仕事をしたとき、自分で言っただろ」

 

 

 ──ああ。やっぱりそうなんだ。ホシノは確信した。

 

 

「私が、最低限の信用しかしないって言ったから?」

 

「分かってるじゃないか。あんまり、絡むのも悪いと思ったんだ」

 

 

 それはそうだった。”お前なんか信用しない”と言った奴に誰がどうして好き好んで話しかけるだろう。普通は完全に無視されても仕方ないのに。ホシノはあの時の自分に色々言ってやりたくなった。不信に目が曇り過ぎて色々言ったが、もっと言い方があったはずなのだ。ホシノはやっとあの時先輩の言った意味が分かった気がした。

 

 

「仕事の量は心配を掛けない程度に減らすから、安心してくれ」

 

 

 カヤツリが会話を切り上げようとしていた。これを逃したら次はいつこういった機会が巡ってくるかわからなかった。

 

 

「だから、あんなに仕事を頑張るんですか」

 

 

 図星だったのだろうか。歩いているカヤツリの身体が一瞬震えた。あの日、カヤツリが雑務を始めた日からはいつもこうだった。きっと初仕事の時の言葉を律儀に守っているのだろう。

 

 別にホシノはそこまでやれと言った覚えもないし、そんなつもりもなかった。初仕事の帰り道の問答で正直に答えてくれただけで十分だった。大人の紐付きだろうが、アビドスのことをしっかり考えていたからだ。

 

 

「それしかないだろ」

 

 

 喉の奥から絞り出したかのような声が聞こえた。ホシノが初めて聞く声だった。

 

 

「言葉で言って信用できるのか。俺みたいな奴を。できないだろ。じゃあもう働きで証明するしかないだろ。違うか」

 

「あそこまで、頑張らなくていいじゃないですか」

 

 

 それを聞いたカヤツリは信じられないものを見る目でホシノを見た。

 

 

「仕事に手を抜けって?」

 

「違いますよ」

 

 

 すぐさまホシノは否定した。別にそこまで求めていたわけではないのだ。ただ自分たちと一緒に考えてくれるだけで、手伝ってくれただけで、きっとホシノは嬉しかったのだ。

 

 もうアビドスに先輩と自分以外の生徒が一人もいなくなった時、先輩の言うとおりにもう2人だけで頑張るしかないと思っていた。もう自分が先輩とアビドスを守るしかないのだと。初めは平気だったけれど、大人や借金や砂嵐の解決しない問題に段々心の中の何かがすり減っていた。ずっと、自分ではどうしようもないものに対する怒りで頭が一杯だったのだ。

 

 だからきっと、カヤツリに初めて砂漠で会った時も、2回目に生徒会室で会った時も喧嘩を売った。先輩に言われた時も、色々と理由をつけたがきっと違ったのだ。本当は、とても怪しくて大人の影がある、自分ではどうしようもないものに対する象徴のような人間だったから。でもこの数週間、仕事をしている姿や一緒にパトロールをして気づいたのだ。自分の気持ちが楽になっていることに。

 

 以前はずっと疲れていて、イライラして、先輩に嫌味ばかり言っていたのにそんなこともなくなった。いつの間にか自分の中の憤りが消えていた。完全になくなったわけではないけれど、ずっと楽になっていた。逆にカヤツリの余裕がなくなっているように見えた。

 

 

「じゃあ、どうしろっていうんだ」

 

 

 カヤツリの問いにどう答えたものかホシノは悩んだ。きっと口で何を言っても、彼はきっと信じないだろうから。先輩に叱られた時のホシノと同じように。だから、先輩と同じようにまずは少しだけ信じてみることにした。きっとまずはそこからなのだ。

 

 

「仕事はいままで通りでいいです」

 

「意味が分からないんだが」

 

「その代わり」

 

 

 ホシノはカヤツリの前に回り込んで顔を見上げた。今なら普通に話せる気がした。

 

 

「私も手伝うから」

 

「効率が悪い」

 

 

 ホシノはカヤツリが何を言おうと引くつもりはなかった。先輩もホシノが何を言おうと引かなかったからだ。

 

 

「じゃあ、教えてよ。覚えるから」

 

 

 カヤツリは引かないホシノを見て、あきらめたのか、立ち止まってため息をついた。

 

 

「なんでだ。いままで通りでいいだろ。ついに仕事まで信用できなくなったか、口調まで変えてどういう心算だ」

「違う。私が口で言っても信用できないと思うけど、信じてみることにしたの」

 

 

 ホシノの言葉にカヤツリは怯んだようだった。俯いて下を向いた後ホシノを見た。

 

 

「話せないことも多い」

 

 

 ──それはそうだろう。でも嘘は言わないと信じてみる。

 

 

「言ってないこともある」

 

 

 ──いつか話してくれると信じてみる。

 

 

「急に裏切るかも知れない」 

 

 

 ──ないと信じてみる。そうなった時は力づくで止めればいい。その自信はある。

 

 

「こんな奴でいいのか」

 

「いいよ。君がいい」

 

 

 ホシノは断言した。だって、カヤツリは一度も先輩やホシノに見返りを要求しなかった。こちらを疑わなかった。嘘も言わなかった。むしろこちらは貰ってばかりだった。背景や立場はまだ信用はできないけれど、この数週間のカヤツリは信用できたから。

 

 

 カヤツリは、ふうと息を吐いた後、ホシノに向かって手を伸ばした。

 

 

「これからよろしく頼む。ホシノ」

 

「よろしくね。カヤツリ」

 

 

 ホシノも手を伸ばしてカヤツリの手を取った。

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