ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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78話 正体

「誰? ユメ先輩じゃないよね?」

 

 

 ホシノは目の前の、姿だけなら完璧なユメ先輩に静かに問うた。

 

 ”ユメ先輩”は変わらない微笑みのままで、ホシノに聞き返す。

 

 

「……まぁ、そうだよね。因みに理由を聞いてもいいかな?」

 

「悪意がダダ漏れだよ?」

 

 

 ホシノは落ち着いて答えを返した。

 

 一瞬騙されそうになったけれど、ユメ先輩の筈が無い。

 

 ここはカヤツリの中だ。居てもおかしくは無いのかもしれないが、本物では無い。それなのに、如何にも久しぶりに会った様な感じで現れた。本物を装って。

 

 本物で無くとも悪意が無いのなら、装う必要は無い。ただ普通に挨拶するだけでいい。

 

 それに一番の決め手は、その悪意だった。ユメ先輩だって、ホシノに悪戯や揶揄いをすることはあった。それも悪意と言えば悪意だ。ただこんな粘つくような悪意ではなかった。

 

 

「ああ、こっちのミスって事だね。良かったよ。ちゃんとした理由で。これで絆とか、勘とか、魂がそう言ってるとか。そんな甘っちょろい事を言われたら、ここから叩き出すところだったよ。成長したねぇ。ホシノちゃん?」

 

「その姿でそんなこと言わないでくれる?」

 

 

 ”それ”はユメ先輩が言わないようなことをユメ先輩の姿で言う。ホシノは気分が悪くてつい口を荒げた。ただ、それは残念そうに言うのだ。

 

 

「残念だけど、着れる”服”がこれしかないんだよね。上の兄の……いや、今は姉か。そのお下がりなんて嫌だし、口調も変わるから嫌だけど、ホシノちゃんのせいでもあるんだから」

 

 

 訳の分からないことを話す”それ”にホシノは容赦をするつもりはなかった。ユメ先輩の姿をしていようと中身は別物だ。だからさっさと用を済ませることにする。

 

 

「返してよ」

 

「何を? ちゃんと言わなきゃ分からないよ? そう先輩に教わらなかった?」

 

 

 さっきから、こちらを揶揄うような口調で、ニヤニヤと意地悪そうな表情で”それ”は言う。

 

 

「カヤツリを返してって言ってるの!」

 

「別にホシノちゃんの物じゃないでしょう? ホシノちゃんは何も知らないじゃない。どうせ私が誰かも分からないんでしょう?」

 

 

 あまりにも、その表情が癪に障るから。ホシノは答える事にした。どうやら”それ”は問答がお望みらしいから。

 

 

「セト。それが貴方の名前でしょ」

 

「……ちょっと違うけど。まあ、正解の範疇に入れてあげるよ。どうせ、あの黒い服の人からの受け売りでしょう? 少しはサービスしてあげないとね」

 

 

 相変わらずの表情でそれ──セトは言う。セトは不満顔のホシノを見て、溜息をついた。

 

「ちょっと怒り過ぎじゃない? そんなにこの姿が嫌なの? こんなんじゃ、話もできないよ」

 

「……」

 

 

 セトの溜息の付き方がカヤツリにそっくりでホシノは妙にイラついた。それに呆れられているのも分かっているが、嫌なものは嫌だ。

 

 

「ほら、これでいいでしょ。このままじゃ日が暮れるよ」

 

 

 セトが長い髪を後ろで括っている。かなり雑でまるで尻尾だ。けれど、ユメ先輩のイメージから離れたのでこれで良しとする。

 

 落ち着いたホシノを呆れた目で見つつも、セトはホシノのさっきの要求に答えた。

 

 

「嫌だよ。カヤツリ君は返さない。特にホシノちゃんの所にはね」

 

「どうして?」

 

「その無い胸に手を当てて考えてみたら?」

 

 

 セトの煽りを無視する。拒否するのは最初から分かっていたことだ。黒服の言った事を思い出す。説得しろと奴は言った。あまりそう言うのは得意ではないけれどやるしかない。

 

 ”ホシノちゃんの所には”と言う一言が気になった。まるで他の人間ならいいような言い方だ。余程、ホシノの事が嫌いなようだった。

 

 

「別の人なら良いわけ?」

 

 

 ホシノの質問にセトは少し考えた後に答える。

 

 

「……まあ、そうだね。本当はここから出したくはないんだけど。ホシノちゃんと対策委員会だっけ? そこ以外なら誰でもいいよ。便利屋ちゃん達とか風紀委員会もいいかもね」

 

「返す気はないってこと?」

 

 

 セトの言い分は滅茶苦茶だった。それでは返さないと言っていることと同義だ。憤るホシノにセトは、可哀想なモノを見る目で言った。

 

 

「ホシノちゃんの所に帰ることが、幸せだとは思えないからね。私の立場としちゃ、止めるしかないよ」

 

「それは、君の意見だよね。カヤツリは──」

 

 

 ホシノはあの夜の事を思い出して、強気に出る。カヤツリはそれが良いと言ってくれたから。けれど、セトは可哀想なモノを見る目のまま、ホシノの言葉を引き継いだ。

 

 

「──好きだって、言ってくれたから?」

 

「……覗き見は趣味が悪いよ」

 

 

 ホシノはまた嫌な気持ちになった。あの夜の事を知っている。あれはホシノとカヤツリ、二人の思い出なのに。

 

 セトを睨みつけるが、セトは飄々とした態度を崩さない。

 

 

「ここは暇なんだよ。少しくらいの覗き見は許してほしいな。まぁ、それで? カヤツリ君がそう言ってくれたから、自信満々なわけだね? ホシノちゃんが居ればカヤツリ君はずっと幸せだって。そう信じているわけだね。とっても押しつけがましいね」

 

 

 自信満々も何も、事実だ。セトはカヤツリの幸せがどうとか、殊勝なことを言っている。けれど、カヤツリはああ言ってくれたから。

 

 

「ああ、やっぱり気がついて無いんだね?」

 

「何が? さっきから、そればっかり。動揺させようとしても無駄だよ」

 

 

 セトの可哀想な物を見る目は更に強くなった。口を開いて言葉を紡ぐ。

 

 

「ホシノちゃん。それは今の話だよね? 私が言いたいのは先の話だよ」

 

「……」

 

 

 先の話と言われて、ホシノは何も言えない。考えた事も無かったからだ。先を見るのが怖くて、最近になってやっと見るようになったホシノには反論できない。考えてもいなかった事は言えない。

 

 

「あの夜は良くやったと思うよ? あの強情なカヤツリ君から本音を引き出した。お互いの思っていることを曝け出して、分かり合う事ができた。想いが通じあってお互いハッピーって? お話ならそれでいいけどね。ここは現実だよ。ホシノちゃんとカヤツリの人生は続くんだよ。これから先もね」

 

 

 ホシノはセトの言いたい事が薄々分かっていた。セトはさっきのホシノのように強気で言う。

 

 

「借金はどうするの? 確かにもうカイザーの横槍は無いよ? 私が念入りに潰したから。利率も先生が居るから少しはマシになるだろうね。それでもすぐには返せないよね? あの時の利率で返済まで三百年だっけ? 改善はしても少なくとも十年単位はかかるよ?」

 

 

 セトは現実を叩きつける。

 

 

「砂嵐はどうするの? 私くらいだよ? 止められるのは。アビドスの復興だっけ? そんな荒唐無稽な夢にまたカヤツリ君を付き合わせるの? ホシノちゃんや梔子ユメのワガママに? ふざけてるの? カヤツリ君の人生を何だと思ってるの? 何時もそうだよ。縋り付く人しかいない。お礼なんて言わないし、出来なかったら、期待外れとか、好き放題言って捨てていく。頑張れば頑張る程に縋り付く」

 

 

 いつの間にか、セトの飄々とした雰囲気は吹き飛んでいた。残っているのは怒りの感情だけだ。

 

 それは全てに怒っていた。カヤツリ以外のもの全てに。

 

 

「どうして、そこまで怒っているの? 何で、そんなにカヤツリに執着するの?」

 

 

 ホシノは分からなくて、セトに問いかける。さっきのホシノの答えは、完全な正解ではなかったのだろう。

 

 ただの、カヤツリの中に居る誰か、ホシノの敵対者だとしか思っていなかった。けれど、理由がある筈だ。カヤツリも良く言っていたように、そこまでする理由が。

 

 

「本当に助けが必要だったのは、カヤツリ君だったから。私はずっとそれを近くで見ていたから。何にもできないままね。だから私はホシノちゃんが大嫌い。私にできないことが出来たくせに何もしなかったから。そのくせ、今になって私のやりたかったことをしてるから」

 

 

 ぼそりと、セトはそう呟いて、ホシノに聞いた。

 

 

「黒い服の人から聞いた? カヤツリ君の状態を」

 

「聞いたけど……」

 

 

 ホシノは困惑していた。セトの様子がおかしい。さっきまでの怒りが嘘のように落ちついている。確か黒服はテクスチャが限界だとか、二人入っているからとか言っていた。正直、ホシノは良く分かっているとは言えない。

 

 それを聞いたセトは呆れたような顔でいる。

 

 

「じゃあ、分かりやすく言ってあげるよ。私の生まれにも関係あるしね。昔話をしてあげる」

 

 

 少し長くなるとセトは言い、ホシノは耳を傾ける。それはどこか聞き覚えのあるような話だった。

 

 

「前のカヤツリ君がやっていたことは。怖~い蛇から、王様の乗った船を守る。そういう仕事をしていたらしいの。で、もう一つは自分のお兄さんを殺して、その地位を奪うってことをしたらしいんだ。一つは忠実な守護者で、もう一つは薄汚い反逆者。どちらも似ても似つかないけど、どちらもそれは前のカヤツリ君がやったことなんだよ。どっちも自覚はないけれど、そういう事になっているの。二つは切っても切り離せない。元々は一つなんだから」

 

 

 ホシノは黙って聞いていたが、妙に聞き覚えがあった。

 

 前のカヤツリと言うが、昔のカヤツリもビナーから運び屋を守っていた。それに地位を奪うなど、さっき目の前のセトとやらがやったことではないのだろうか。ホシノの頭には嫌な予感があった。

 

 黙ったままのホシノを見て、セトは話を続ける。

 

 

「キヴォトスに来たばかりのカヤツリ君はね。自分がかつて誰だったのか思い出せなくて消えかかっていたの。そこにあの黒い服の人が思い出せるように、かつてのカヤツリ君がやった記録と同じようなことをさせたの。おかげでカヤツリ君はかつての自分を思い出して安定した。けれど、安定した矢先にあの事件が起きた。ホシノちゃんも良く知ってるでしょう? 梔子ユメが居なくなったんだよ」

 

「それに何の関係が……」

 

「それが原因なんだよ。全ての原因」

 

 

 ホシノの反論に、セトが憎々し気に吐き捨てた。

 

 

「あの時にね。カヤツリ君は、”自分が梔子ユメを殺してしまった”って思ったんだよ。決してそんなことは無いんだけど。かつての、前のカヤツリ君だった時の記録が悪さをしてね。それが確信と言えるレベルまでに思い込んだ。自分が先輩を殺して、その地位を奪い取ったってね」

 

「そんなこと……」

 

 

 ホシノの呟きを無視して、セトは続きを話す。

 

 

「しばらくは、カヤツリ君は耐えてたよ。ホシノちゃんの面倒を見ることで考えないでいられた部分もあると思う。でもいつか限界は来るものだよ。止まない襲撃、限界の同級生、梔子ユメへの罪悪感、減らない借金、未来への不安。二人なら耐えられたかもしれない。けれどカヤツリ君には本当の意味で頼れる人は、もう居なかったから。自分で消してしまったから。だから、無意識にカヤツリ君は作ったんだよ。自分を助けてくれる、頼れる誰かをね。だから自分を引き裂いて、二つに分けた」

 

 

 私が誰か、もう分かったでしょう? そうセトは言った。

 

 

「もう一人のカヤツリってこと……?」

 

「惜しいかな。上手くキヴォトスに来れた場合のカヤツリ君ってところだね。だから厳密には違うね。私は中から、ずっと見てたんだよ。ホシノちゃんが、カヤツリ君にした事を。誰も助けようなんてしなかった事を。その時にカヤツリ君がどう思ってたかも知ってる」

 

 

 そう言って、セトはホシノを怒りの籠った目で再び睨みつけた。

 

 ホシノは信じたくなかった。自分が結果的にカヤツリを追い詰めていたこと。自分が何も言わなかったせいで、こうなってしまったことを信じたくなくて。否定の材料をあげつらった。

 

 

「でも、何でユメ先輩の姿を取るの……」

 

「人に頼る時、自分には頼らないでしょう? 他人を頼るはずだよ。この姿なのは、カヤツリ君があの時に一番頼りたかった人なんだよ。ホシノちゃんじゃなくてね。まあ、そうじゃなくてもそんなに変わらないんだけどね。それに手助けは黒い服の人が余計なことを言ったせいでできなくなったんだけど」

 

 

 ホシノは何も言えなかった。カヤツリの身体の不調の原因が分かったからだ。セトもそれを察して答えを言う。

 

 

「あの黒い服の人は勘違いしてたんだよ。一つのテクスチャに二人が入ってるんじゃなくて、一つのテクスチャを二つに分けたからこうなってるんだよ。私はホシノちゃんが、何もしなかったから生まれたの」

 

 

 カヤツリがこうなってしまった原因は分かった。返してくれない理由も分かっている。

 

 セトはホシノが何もしなかったから生まれたのだと言う。ホシノがカヤツリを省みなかったから。

 

 確かに腹立たしいだろう。苦しみの原因が目の前にいて、返せと言うのだから。

 

 返したくないだろう。きっと、あの夜以前の事も見ているのだ。セトのホシノに対する信用は地の底だろう。

 

 けれど、ホシノは要求するしかない。

 

 ホシノはセトを睨みつける。

 

 

「早く返してよ」

 

「理由は言ったよ。カヤツリ君が幸せになれないって。どん詰まりの未来しかないアビドスになんで、大事なカヤツリ君を返さなきゃいけないの? またホシノちゃんは、対策委員はカヤツリ君に頼るでしょう? 当たり前の顔してさ。口でならなんだって言えるんだよ。それでカヤツリ君を傷つける。ここに縛りつける。カヤツリ君は優しいから良いのかもしれないけど、私はそうは思わない。私はボロボロになるカヤツリ君を見たくない」

 

「じゃあ、どうすれば返してくれるの!」

 

 

 どうしようもない現状にホシノは叫ぶように問いただす。それを見て、セトは笑って言うのだ。

 

 

「ホシノちゃんにできることはないよ。私に王権を返して、ここから出ていけば問題を解決しておいてあげるよ。また記憶を思い出せないようにしてもらうけどね。カヤツリ君はずっとここで昔の幸せな夢を見るの。それが良いの。もう頑張ったんだから、他人の為にこれ以上頑張らなくてもいいの。私の役目はカヤツリ君を守る事だから。そのために私は居るの。そのために私は生まれたの。やっと役目を果たせるの」

 

 

 ホシノの頭は怒りに染まりかけていた。

 

 説得しようと思って話を聞けばこれだ。元々、こいつは返す気はないのだ。話を聞くだけ無駄だった。分かりやすく、ホシノの得意分野でお願いを聞いてもらった方が速かった。

 

 敵意を滲ませたホシノを見て、セトは面白がるように笑う。

 

 

「勝てると思ってる? 黒い服の人が言ってた事を忘れたの? 外では私は手加減してたんだよ? 間違って殺さないように。私は別にそれでもいいんだけど。カヤツリ君が悲しむからね。ここなら別に死にはしないから全力を振るうけど……どうする?」

 

 

 ホシノはセトの言葉に固まった。それを見てセトは煽るように言う。

 

 

「うんうん。賢いね。また一つ成長したね。ホシノち──」

 

「ねぇ」

 

 

 セトの煽りを断ち切って、ホシノはセトに問う。

 

 

「カヤツリの所に連れて行ってよ。できるんでしょ」

 

「何を──」

 

「カヤツリの幸せを語るなら、カヤツリに聞くのが筋じゃないの? カヤツリの幸せの為にこんなことをするのなら、カヤツリは良いって言ったの? それこそ幸せの押し付けって奴なんじゃないの? さっき自分で言った事も忘れたの?」

 

 

 さっき固まったのは黒服の言葉を思い出したからだ。手加減がどうとかではなく。意味ありげに言った方だ。

 

 

 ──これは忠告ですが、戦う方法を間違えてはいけませんよ。

 

 

 きっとここではセトに勝てない。だからさっきから喧嘩を売るような言葉選びなのだ。戦いになれば絶対に向こうが勝つから。

 

 砂漠でカヤツリが言った言葉を思い出す。

 

 

 ──なんで敵の言う事をほいほい聞くんだ。交渉しろ。妥協点を探れ。

 

 

 そうだった。カヤツリの身柄を抑えられているから、下手に出ていたが違う。カヤツリが大事なのは向こうもそうなのだ。だから、圧倒的に有利なのはホシノの方だった。王権を剝ぎ取って、契約で縛り上げているこちらが。

 

 ユメ先輩の姿だったのは、動揺を誘うのもあるのだろうが、我を忘れさせるのもあったのかもしれない。それで、カヤツリの話をして、ホシノの罪悪感を刺激した。他の方法は無いと思わせるために。カヤツリの言葉を思い出して考えれば何のことはない。むしろ言う事を聞かなければならないのは向こうだ。

 

 カヤツリを守るためだとセトは言った。そのために生まれたのだと。そうなら、カヤツリの意に反することは、あまりできないはずだ。

 

 それを聞いたセトは渋々と頷く。

 

 

「……そこまで言うなら連れて行ってあげるよ。でも、いいのかな? ホシノちゃん」

 

 

 セトは悔しそうにも、嬉しそうにも見える顔で告げる。

 

 

「確かに、ホシノちゃんの言う通りだよ。でもね。私の言ったことは確かにカヤツリ君が思っていたことなんだよ。それをホシノちゃんにも思ったことはあるんだよ。それでもいいの? 私は聞くよ? ホシノちゃん達をどう思っているのか、本当はどうしたいのか。ここは心の中だからね。嘘は意味をなさない。ホシノちゃんはそれでもいいの? もし、少しでも、ホシノちゃんのところへ戻るのが嫌なそぶりを見せたら、私の勝ちだよ?」

 

 

 本当にそれでもいいのと。セトは聞く。

 

 ホシノは即答した。

 

 

「いいよ。その代わり、そうじゃないのならカヤツリを連れて帰るよ。カヤツリは私のだから。誰にも文句は言わせない。そっちこそ、それでもいいの?」

 

 

 ホシノには恐れるものは何もない。

 

 きっとセトが言った事は本当なのだろう。カヤツリだって人間だ。言わないだけで、そんな事を思う時だってあるだろう。

 

 これまでだってそうだ。中途半端にしかお互いが分からないくせに。そうだろうと、お互いに考えを押し付け合った。ホシノはカヤツリが信じてくれていないのだと勝手に思ったし、カヤツリはホシノが前を向いているはずがないと勝手に思っていた。

 

 でもホシノは信じているのだ。あの夜に話したことを。あの夜に確かにお互いが信じあっていたことを。

 

 今でも、ホシノにはカヤツリの気持ちなど分からない。きっといつまでも、完全には分からないのだろう。だって他人なのだから。

 

 けれど、ホシノはそれが良かった。完全に分からない方がいい。分からないのなら聞けばいいのだ。もうホシノにはそれができる。そうしてお互いに話していけばいいのだ。それはあの夜に知ったことだったからだ。

 

 きっとホシノがそう感じた様に、カヤツリもそう感じたと信じている。だから、怖くなどないのだ。きっと自分と気持ちは同じなのだと信じている。

 

 だから、こんな奴の言う事なんて屁でもない。

 

 

「……随分と自信があるね。じゃあ、カヤツリ君の所に行くよ」

 

 

 ホシノの方を憎憎しげに見ながらそう言って、セトは生徒会室の扉を開けた。

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