ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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7話 息抜き

 カヤツリの仕事は格段に楽になった。校舎の補修が終わったのもあるが、ホシノが手伝ってくれるようになったからである。整備は不器用なせいか水道を破壊していたが、書類関係は普通にできるのでカヤツリは助かっていた。

 

 あの日から普通にホシノは話しかけてくるようになったし、カヤツリもそうするようにしていた。本当にカヤツリの事を信じてくれているようだった。損得勘定抜きのそんな対応はカヤツリは生まれて初めてで少し戸惑いもあったが嬉しかった。

 

 

「~♪」

 

「機嫌がいいですね。何かいいことでもあったんですか」

 

 

 朝、カヤツリが生徒会室で仕事をしていると、先輩が書き物をしながらずっと機嫌よさそうに鼻歌を歌っていた。

 

 

「もちろんだよ!最近は良いことばっかりだからね。仲のいい後輩は2人もできたし、利子も余裕をもって返せるようになったからね」

 

「借金の元金は減ってませんけど」

 

「それでもだよ」

 

 

 相変わらず楽観志向の先輩だが、カヤツリは此処ではそういうのも大事なんじゃないかと思うようになった。借金のことをずっと考えていると気が滅入るのも確かだからだ。ただご機嫌な先輩には悪いが、いい報せと悪い報せがあった。

 

 

「戻りましたよ」

 

 

 そんなことを考えているとホシノがパトロールから帰ってきた。ホシノを手招きして呼ぶ。ホシノはけげんな顔で近寄ってきた。

 

 

「何。カヤツリ」

 

「まあ、相談があるんだが、いい報せと悪い報せどっちから聞きたい?」

 

「どうせ、どっちも聞くんでしょ。……いい方からで」

 

 

 カヤツリはタブレットを取り出して画面をホシノに見せた。ドローンで撮影したアビドス校舎周辺の写真だった。砂に埋もれた住宅地が見えるが、ホシノにはいつもと変わらないようにしか見えないようだった。

 

 

「いい報せは、大体のヘルメット団の拠点が壊滅したこと。これである程度遠出ができる。別の学区にも行けるかもな」

 

「悪い方は?」

 

「指名手配依頼がいまだに枯れていることと、さっきも言ったがヘルメット団の拠点があらかた壊滅したから、金策がもうアルバイトか宝探ししかない」

 

 

 ヘルメット団の襲撃ついでの強奪と指名手配依頼はかなり割が良く、ホシノが無法な強さのため効率がかなり良かったのだ。ただ結構なローテーションで回した所為か、一向に復活の兆しが見えない。彼女たちも金策が大変なのだろう。

 

 

「待って。なんでユメ先輩の前に、私に相談するの?」

 

「そのまま、先輩に言ったらどうなると思う?」

 

 

 カヤツリの想像では何かとんでもないことを言い出しかねなかった。少なくとも、人助けとか言って、無計画に砂漠を掘り返す羽目になったのは勘弁してほしかった。結局オーパーツも見つかったからいいものの、カヤツリはしばらく疲労でまともに動けなかった。ホシノも同じような想像をしたのか、顔色が良くない。

 

 

「一応、最終手段はあるんだけども」

 

「それ、碌な手段じゃないでしょ」

 

「……」

 

 

 ホシノの指摘に黙り込む。他学区のヘルメット団への襲撃である。見つかったら他学区で戦闘行為を行った関係上、大問題になる。ただ一人で何とかする自信がカヤツリにはあった。

 

 

「ダメだよ。カヤツリ。何考えてるかわからないけど、たぶんユメ先輩も反対するから」

 

「やっぱりそうだよな」

 

「他の学区に行けるならさ、そっちで稼げばいいでしょ」

 

 

 まっとうな答えにカヤツリは頭を抱える。今はある程度の余裕があるからまだいいが、この先のことや不慮の事態を考えると、もう少し稼いでおきたかった。

 

 

「二人で何話してるの?私も混ぜてよ」

 

 

 先輩の声にカヤツリは飛び上がった。いつの間にか先輩の鼻歌が止んでいたことに気がついていなかった。先輩は固まるカヤツリに近づいてくる。助けを求めるようにホシノを見るが、黙って首を振られた。

 

 

「先輩。相談があります」

 

「えっ。カヤツリ君が?珍しいね」

 

 

 カヤツリはあきらめた。いつもはまともな案が出ない先輩も、たまにはいい案を持っているかもしれない。先輩へ簡単にホシノにした説明を繰り返した。

 

 

「で、どうしますか。先輩」

 

「うーん。ヘルメット団がいないっていうのは、それは今だけなんだよね?」

 

「そうですね。しばらくしたら、夏場の虫のように湧くんじゃないですか。むしろそうでないと干上がるのはこっちですが」

 

 

 先輩は考え込んでいるようだった。カヤツリとしては思い付きで”宝探しに行こう”なんて言い出すかと思っていたのだ。こんなに考え込むのは珍しかった。

 

 

「よし、今日は外にみんなで遊びに行こう!」

 

「何言ってるんです」

 

 

 カヤツリは呆れた。”金策をどうしますか”という話をしていたのに、それと反対のことを言い出すとは思わなかった。

 

 

「そうですよ。ユメ先輩。何考えてるんですか」

 

 

 ホシノも先輩に文句を言っている。カヤツリ的にはもっと言って欲しいくらいだった。

 

 

「だって、余裕があるのは今だけなんでしょ?しばらくしたら、また忙しくなっちゃうよ。ホシノちゃんだってずっと仕事は嫌でしょ」

 

「それは、そうですけど……」

 

「水族館に行こうって言っても?」

 

「行きます!!」

 

 

 先輩の”水族館”の一言で瞬く間にホシノが陥落した。何だか目がキラキラしている。そんな姿のホシノを見るのはカヤツリは初めてだった。

 

 

「ね。カヤツリ君もいいでしょ」

 

「いいですけど、どこにあるんです。一日で戻ってこれる距離なんですか」

 

「カヤツリのバイクがあるでしょ」

 

 

 カヤツリはせめてもの抵抗をするが、ホシノに叩き潰された。バイクはパトロールの効率化のためにオーナーの所から回収したものがある。ホシノや先輩が乗れるようにサイドカーもつけたのだが、今になって裏目に出るとは思わなかった。確かにサイドカーに1人、バイクに2人乗りすれば3人はギリギリ乗れるはずだった。

 

 

「分かりましたよ。校門で待っててくださいよ」

 

 

 カヤツリはバイクの準備に向かう。2対1では勝てないし、もうこうなったら全力で乗って楽しんだ方がいいからだ。

 

 

 

 

 何とか数時間かけて他学区の水族館まで来ることが出来た。どっちがサイドカーに乗るかで揉めたが、先輩がサイドカーに、ホシノがカヤツリの後ろに乗ることで収まった。逆のパターンは事故を起こさない自信がなかったカヤツリが猛反対したためである。

 

 

「早く行きましょう!」

 

「水族館は逃げないよ。ホシノちゃん」

 

 

 水族館に着いてからホシノのテンションがおかしい。ずっとそわそわしていて落ち着きがない。いままでのホシノとはだいぶ印象が違った。もしかしたら、これが素なのだろうか。

 ずっと、魚の入った水槽に張り付いて目を輝かせている。そんなホシノを少し離れたところから見つめるカヤツリに先輩が話しかけてきた。

 

 

「ね。かわいいでしょ。ホシノちゃん」

 

「あれがホシノの素なんですか。先輩」

 

「そうだよ。私も久しぶりに見たかな」

 

 

 少し遠くを見る目をして先輩が呟く。なんだかいつもの先輩と雰囲気が違うように感じた。

 

 

「カヤツリ君。ありがとうね。アビドスに入学してくれて」

 

「お礼を言われるほどのことでもないんですよ。成り行きでそうなったに過ぎないんですから」

 

 

 先輩らしくなかった。それに本当に礼を言われるほどのことでもないのだ。ホシノや先輩のように本気でアビドスを何とかしようと思って入学したわけではないのだから。むしろ、オーナーの依頼がなかったら来る気などなかった。

 

 

「それにホシノから聞いて知ってるんでしょう?紐付きだってこと。むしろこっちがお礼を言わなきゃいけないんですよ」

 

「それでもだよ。カヤツリ君。私じゃホシノちゃんに迷惑を掛けるばっかりだったから」

 

 

 そんな事を言う先輩にカヤツリは驚いた。まさか落ち込んでいるのだろうか。

 

 

「何です。いつもの調子はどうしたんですか」

 

「私もね。こんな風に皆と遊びに行ける様になるとは思ってなかったから、嬉しくてね。私は失敗ばかりだったから、最近になっても二人に迷惑ばっかりかけてるし」

 

 

 少し先輩が涙ぐんでいる。カヤツリはため息をついた。先輩が気に病むことなど何もないのだ。カヤツリだって本当に大したことはしていないし、ホシノだってきっとそうだろう。カヤツリは自分の中から言葉を選んで呟いた。

 

 

「ホシノに色々言ってくれたのは先輩なんでしょう?かれこれ数ヶ月経ちますが、先輩がいなかったら破綻してたと思いますよ。俺もホシノも不器用ですから。ありがとうございます」

 

 

 数ヶ月の付き合いでホシノが不器用なのは分かっていた。結構優しい癖に中々口に出さないのだ。そんなホシノが数週間でカヤツリに”信用する”なんて言うのは、先輩の後押しがあったとしか思えなかった。

 

 

「失敗ばかりって言いますが。俺もホシノもそうですよ。ホシノなんてこの前、水道直す時に逆に壊したんですから。俺だって仕事やり過ぎて、ホシノに何回か寝坊したのを叩き起こされてますから」

 

「ふふっ。そんな事もあったね」

 

 

 先輩が苦笑した。少し元気が出てきたようだった。

 

 

「それにね先輩。俺は感謝してるんですよ。ホシノだって口には出さないですけどきっとそうです」

 

 

 本当にそうだった。カヤツリは今幸せだった。皆がいなくなる前、運び屋をやっていた時よりもずっと。それはきっと先輩のおかげだった。砂漠であった時と翌日の生徒会室の時に先輩の言葉がなかったらカヤツリは今ここにいなかっただろう。たぶん期間中ずっとアビドス本館跡地でオーパーツを発掘していたに違いなかった。

 それは今よりも金銭の余裕はあるだろうが、代わり映えのしない日々の中、機械のようにひたすら発掘をする日々など、今から考えたら地獄だった。

 

 

「だから、迷惑とか失敗ばかりなんてそんなこと言わないでくださいよ。今日だって、ホシノがあんな風になってるのは”先輩が遊びに行こう”って言ったからなんですよ。俺は行く気なんてなかったんですから」

 

「ありがとう。カヤツリ君」

 

 

 そういってしばらく先輩は目をつむって、次に目を開いた時にはいつもの先輩に戻っていた。少なくともカヤツリの目にはそう見えた。

 

 

「何二人で話してるんですか。早く次の水槽にいきますよ!」

 

 

 今いるフロアを堪能したのか、ホシノが少し遠くから呼んでいる。それを見た先輩はいつものように笑って、カヤツリの方に振り向いた。

 

 

「じゃあ、行こうかカヤツリ君。あんまり待たせるとホシノちゃんが怒るからね」

 

「それは嫌ですね。アイツは怒ると怖いので」

 

 

 先輩とカヤツリははしゃぐホシノの後を追いかけた。まだまだ今日は終わりそうになかった。

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