ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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79話 心の奥底

 懐かしい夢を見ている。

 

 カヤツリは目の前の光景を見ながらそう思った。

 

 先輩が居て、あの時のホシノが居て。あの時の生徒会室で談笑している。

 

 カヤツリ君と先輩が言う。カヤツリとホシノが言う。懐かしい、戻りたいとさえ思っていた光景だった。カヤツリの記憶のままだ。

 

 

「……はぁ」

 

 

 ただし、カヤツリの気分は最悪だった。口からは何回目か分からない程のため息が漏れる。

 

 記憶のまま過ぎて気持ちが悪い。かつての思い出をそのまま見せられている。ため息をつきたくもなる。

 

 もう戻らない幸福な日々を思い返すほど辛いことは無いと言う。今のはまさにそれだった。

 

 先輩を無視して、生徒会室を出る。先輩は呼び止めもしない。さっきまでカヤツリがいた場所に話しかけているだけだ。

 

 外に出れば、また生徒会室の光景が広がっている。椅子に座ったホシノと先輩がこちらを見た。きっと、さっきまでのような事が始まるに違いなかった。一回最後まで話に付き合えば変わるのかもしれない。

 

 

「相変わらずだね。流されてくれないのは」

 

 

 けれど、今度の先輩の様子はさっきまでと違った。困ったような顔でカヤツリを見ている。その口ぶりからして、今までとは違うようだった。

 

 

「ここはどこだ?」

 

 

 先輩相手だが、口調は変えた。今の口ぶりからいって、カヤツリをここに閉じ込めたのは、きっと目の前の先輩だからだ。

 

 先輩らしきものは、机を挟んだ向かいの椅子、ホシノの隣を指差した。

 

 

「まぁ、座りなよ。そんなにいきり立たないで。説明はするから」

 

 

 カヤツリは指示に従って席に着く。隣にいるホシノは無反応だった。きっとさっきまでの先輩と同じなのだ。ガワだけがそこにあるのだろう。

 

 

「カヤツリ君はどこまで覚えてる?」

 

「……家の鍵を開けたところまで」

 

 

 ホシノと別れた後、家の鍵を開けた後の事が思い出せない。そのことを把握したそれはさらりと言う。

 

 

「カヤツリ君はね。カイザーに攫われたの。家ごと爆弾で吹き飛ばされたんだよ。これで三回目だよ」

 

 

 それは言う。私が交代して、片付けておいたから安心して良いよと。

 

 身に覚えのある状況に、嫌な予感がカヤツリの背中を伝う。多分目の前のこれが黒服やホシノが言っていた、セトだ。

 

 

「皆は?」

 

 

 相手の目的が分からない。片付けたのはカイザーの事だろう。安心しての言葉から察するに自分の身体は安全らしい。なら、カヤツリが気にするべきは対策委員会と先生だった。きっと心配している筈だから。

 

 

「無事だよ? でも別に気にする必要は無いよ。カヤツリ君はしばらくここで過ごすんだから」

 

 

 カヤツリの言葉を聞いたセトは機嫌が悪そうに、そう言った。

 

 やはり、セトはここからカヤツリを出したくないようで、この状況にカヤツリは眉をひそめる。

 

 セトの目的が分からない。悪意の有無も。

 

 黒服とホシノは身体を乗っ取ろうとしていると言った。でもセトがやったのは危険の排除だ。自分が乗っ取る身体を守る為なのかもしれないが、やけにカヤツリに友好的な様子だった。それに対策委員会を気にしているわりには危害を加えた様子もない。何がしたいのか分からない。

 

 

「どうして、ここに閉じ込めようとするんだ?」

 

「……カヤツリ君は、いつの日か願ったでしょう? ここから逃げ出したいって。遅くなったそれを今、叶えているだけだよ」

 

「別にそんなことは……」

 

「本当に?」

 

 

 有無を言わせぬ笑顔で迫るセトにカヤツリは言い返せなかった。別に言い返せばよかったのに、言い切ればよかったのに。

 

 セトはニコニコしながら、本当にうれしそうに言うのだ。

 

 

「私は覚えてるよ。あの日言ってくれたでしょう? こんなつらいのは嫌だって。こんなところに居たくないって。誰か替わってほしいって」

 

 

 カヤツリはぞっとした。

 

 セトの正体に思い至ったからだ。

 

 影だ。あの時から現れた先輩のような影。いつの間にか居なくなっていたと思っていた。黒服が幻覚だと言い、自分もそう思っていたもの。

 

 別に居なくなったわけでは無かったのだ。ずっとカヤツリの中にそれはいたのだ。

 

 それなら知っているはずだった。辛いときに心の中で何度叫んだか知れないから。

 

 黙り込むカヤツリをセトは下から覗き込むように見上げる。

 

 

「ずっと、心の奥底で、そう思っていたでしょう? 私は生まれたあの日から、ずっと聞いていたんだよ。カヤツリ君の悲鳴を」

 

 

 セトの笑っている顔がカヤツリは恐ろしかった。何もかも見透かされているようで気味が悪い。

 

 

「何がしたいんだよ……」

 

 

 自分でも分からないが、嫌な気持ちが収まらない。下から見上げるのを止めたセトはニコニコ顔のまま告げる。

 

 

「私はカヤツリ君を助けてあげたいの。ホシノちゃんや梔子ユメからね」

 

「はぁ!?」

 

 

 セトの言う意味が分からない。困惑するカヤツリをよそにセトは会話を止めない。

 

 

「だって、カヤツリ君はホシノちゃんがいるから、梔子ユメに頼まれたから、アビドスを何とかしようとしてるんでしょう? それだけじゃないけれど大きな理由の一つではある。それに分かってるよね? 本当はアビドスに未来が無いことくらい。誰よりも。先生とか言う大人よりも分かってるよね?」

 

「……」

 

 

 そうだ。

 

 ここに期待できるような未来などない。普通なら見捨てて何処かに行っている。残っているのはホシノが、対策委員たちがいるからだ。一緒に居たいと思ったから。その気持ちに嘘なんてないから。カヤツリの居場所はここだから。

 

 

「そこだよ。カヤツリ君。彼女たちがカヤツリ君をここに縛り付けた。本当ならカヤツリ君は何処にだって行けたのに、どこにも行けないようにした。折角、あの黒い人の契約から自由になったのに」

 

 

 ホシノとの契約の事を言っているのだろう。でもあれはカヤツリがやりたくてやったものだ。ホシノのせいではない。

 

 

「それは違──」

 

「違わないよ。あんなことされたら下手なこと言えないもんね。思いとどまったからよかったけど、そうじゃなかったら、ホシノちゃんはカヤツリ君をどうしていたんだろうね? カヤツリ君の罪悪感に付け込んだんだよ。優しいカヤツリ君なら言う事を聞いてくれるって」

 

 

 セトはカヤツリの反論を叩き潰す。

 

 そして、また何か思いついたのか、”そうそう”と言いだした。

 

 

「ずっと、ホシノちゃんは何もしなかったよね。パトロールとかはしてたみたいだけど、大事なことは何一つしなかったよね」

 

「それは、俺が何も言わなかったから……」

 

 

 思うように言い返せないカヤツリにセトは、カヤツリの言葉を引き継いで畳かける。

 

 

「知りようがなかったって? 梔子ユメも口止めしていたから? そうだね。それは正しいね。でもさ、何で他の方法を探さないの? パトロールしたところで改善しないのはしばらくやってたら分かるよね。なんでどうしようかとか、カヤツリ君に相談しないの? そのくらいの頭はあるよね?」

 

「……それは、それは……」

 

「それなのに、疲れてるカヤツリ君を、毎日パトロールに付き合わせてさ。ホシノちゃんは昼寝ができるから良いけど。カヤツリ君はあんまり寝る時間なんかなかったもんね。それに後輩に構えって? それもカヤツリ君の仕事なの? もっとやるべきことがあったよね」

 

 

 反対する材料を探そうとしても見つからない。

 

 

「もっと早く聞いてくれたら、まだ、汚い仕事をする前の、あの時のカヤツリ君なら言えたよね。ずっと、ずっとホシノちゃんがああいう風に、逃げるように自分のできる事に没頭していたから。カヤツリ君は、待つことにしたんだよね。ホシノちゃんがいつか言ってくれるって、もう大丈夫って。それまで頑張る事にしたんだよね。ホシノちゃんの方が自分よりずっと傷ついたんだからって、自分の事は後回しにしたんだよね。…………それでいつまでかかったの?」

 

「……」

 

 

 何も言わないカヤツリをみつめて、セトは言いたい放題だった。

 

 

「そうだよね。ついこの間までかかったよね。それも、カヤツリ君と先生が止めなかったら、ホシノちゃんは何をしようとしたのかな」

 

 

 カヤツリはもう、何も言えなかった。セトの言いたいことは分かっている。セトは誰かに勝ち誇ったかのように言う。

 

 

「言いたいことは、まだまだ沢山あるけど。もう言わなくても分かるよね。私が言いたいことも、私が何でこうしているかも、どうして今更出てきたのかも」

 

 

 セトが言っていることは、かつてカヤツリが思っていたことだった。ホシノに直接言ったことは無いけれど、心の奥底で思っていたこと。ずっと我慢していたこと。ホシノの方が辛いのだからと、ずっと自分に言い聞かせていたこと。

 

 全部が全部そうではない。ホシノに対する感謝や愛情だってある。あの夜言った事は嘘ではないし、契約も後悔はしていない。けれど、それが全てでは無かった。カヤツリだって思う所はある。でも、それを言う勇気がなかった。言えば何かが壊れる気がして、言ってはいけない何かを言ってしまいそうな気がしたから。

 

 ここまで話せば分かる。セトはカヤツリだ。だから、カヤツリの思っていることを知っているのだ。自分自身なのだから。

 

 あの日、先輩が居なくなったあの日から、ずっとため込んで、押し込んできたホシノに対する悪感情。それが先輩の皮を被って勝手に動き出した。誰も助けてくれる人が居なくて、ホシノには頼れなくて。だから心の中で想像の先輩を作ったのだ。自分だけじゃどうしようもなかったから。どうすれば良いか分からない時は先輩に聞くのだ。そうして何とかやり過ごしていた。幻覚が出てきてからは止めたけれど、それはずっと居たのだ。

 

 アビドスに縛り付けられている? その通りだ。そう思ったことはある。

 

 なんでもっと早く言ってくれなかったのか? そう思ったこともある。テュポーンの仕事のような、汚い事に手を染める前なら言えただろう。

 

 そんな、どうしようもないことを考えたことなどいくらでもある。それを言ったところで何も解決しない。ホシノを傷つける。ホシノに嫌われる。だから言わなかった。

 

 きっと、だからセトは今更になって出てきたのだ。

 

 

「そうだよ。だから、今になって私が出てきたんだよ」

 

 

 セトはカヤツリの考えを読んだのか肯定する。

 

 

「私は、カヤツリ君から生まれたもう一人のカヤツリ君だから。これまで起こったことも、その時にカヤツリ君が何を思ったかも知っているよ。ホシノちゃんがカヤツリ君にしていたことを知っている。あの夜は決して悪いことではなかったけれど、お互いに想いを伝え合えたかもしれないけれど。きっとこの先、何も起きないなんてことは無いよ。ホシノちゃんはまた何か間違えるよ。人間なんだからね。その時にカヤツリ君がまた何とかするの? カヤツリ君だって助けてほしいことはあった。それをホシノちゃんは気づきもしなかったんだよ。ホシノちゃんが前を向いたから大丈夫? 本当に?」

 

 

 セトは言っているのだ。今ならまだ間に合うよと、まだ何もかもを捨てて逃げられるよと。ずっと、ずっと、心のどこかで思っていただろうと。

 

 そうだ。カヤツリは不安なのだ。あの夜に言ったように、ホシノに頼ることは良い。けれど、本当に大丈夫なのか、これから先二人はやっていけるのか、そういった不安が無いとはいえなかった。これまでがこれまでだからだ。真の意味で信用する事と、頼るという事は、責任を頼るものに被せるという事だから。

 

 今だってそうだ。対策委員や先生、ホシノが心配で仕方がない。

 

 セトはカヤツリを守るために出てきた。おそらくセトは、ホシノのこれまでの所業と環境を吟味した。きっと結果は不合格だったのだろう。だから、まだ引き返せる最後のチャンスである今になって出てきたのだ。

 

 

「そうだよ。今ならまだ引き返せる。私に替わってくれれば、全部何とかしてあげるよ。砂嵐もカイザーも、ホシノちゃん達の記憶も何とかしてあげる。全部まっさらにしてあげる。誰かに強制された訳じゃない。やっと、カヤツリ君の人生が始まるんだよ。やっと自分の好きなように生きられるんだよ」

 

 

 契約をそそのかす悪魔のようにセトは言う。

 

 

「もうやりたくないことをやらなくてもいいの。自分のためだけにやればいいの。感謝もしない彼女たちに、ただただ恩恵を享受する彼女たちに、配慮しなくてもいいの」

 

「そんなことはないだろ……」

 

 

 あまりのセトの行き過ぎた発言にカヤツリは思わず言葉を挟んだが、セトは気にした様子もなく、当然のように返した。

 

 

「……じゃあ、なんでホシノちゃんからカヤツリ君に”好き”って言わないの? あの夜に言ってないよね。案外まだ甘えてるんじゃないの。言わなくても分かってくれるって。言わなきゃ人の思ってることなんて分からないのにね」

 

「……」

 

 

 カヤツリは、また何も言い返せなかった。言われてみればそうだ。本当に自分の想いは通じていたのだろうか。胸の中で不安が育っていく音がする。

 

 

「迷う理由なんてないでしょう? ほら、この手を取ってよ」

 

 

 そう言って、セトがカヤツリの目の前に手を伸ばした。

 

 それを見て、カヤツリは悩んだ。普段なら悩むことなんてないはずなのに。手を取る必要なんてないはずなのに、心の中で何かが引っかかってしまった。見ないように、気がつかないようにしていたことが、浮上してきてしまった。

 

 目の前のセトはカヤツリ自身なのだという。それなら、カヤツリが思っていて自覚しなかったことを知っているはずだった。そのセトが言うのだ。

 

 

 ──ホシノちゃんに会わない方が幸せだったんじゃない?

 

 

 そう直接的には言ってこないけれど、言外にそう言っている。カヤツリ自身が、ホシノに会ったことをとても後悔しているんじゃないかと。先輩への言い訳の為にこれまでのことをやっていたんじゃないかと。本当はホシノの事なんてどうでもよかったんじゃないかと。心の奥底でそう思っていたんじゃないかと。

 

 もしそうであるならば、本当にそうであるならば。カヤツリはあそこには居られない。居る資格が本当に無い。だって、そうなら、カヤツリはホシノを道具扱いしていたことになる。自分の罪悪感を減らす便利な道具に。

 

 セトはカヤツリの事なら知っているという。自覚していない事でもだ。だから、セトの提案に乗るにしろ乗らないにしろ、最後に聞いておくことが一つあった。

 

 カヤツリは最後の質問をするために口を開いた。

 

 

 □

 

 

 迷ったような表情のカヤツリを見て、セトはほくそ笑んだ。

 

 結局はこうなるのだ。

 

 小鳥遊ホシノよりもカヤツリの事を良く知っているのは自分だ。梔子ユメが居なくなった時に分かたれたから、思考や感覚は別物だが。

 

 カヤツリはずっと迷っているのだ。

 

 アビドスを救えるのか、このままでいていいのか、本当に小鳥遊ホシノと一緒に居ていいのか。自分は小鳥遊ホシノを幸せにできるのか。

 

 気負い過ぎだとセトは思う。このままでは小鳥遊ホシノに人生を食い潰される。これまでだって、そうだったのに。もう黙ってみているつもりはセトには毛頭なかった。

 

 セトは、カヤツリを助けたいのだ。カヤツリがそう思って生み出した。壊れそうな心を守るために作り出された。それがセトの存在意義。今までずっと、大したことはできなかった。仕事の手伝いだって、指さして探している物を教えることくらいしかできなかった。

 

 一番助けが必要な時期に何もできなかった。だから、周りの人物に期待した。けれど、ほとんどは頼るばかりだった。カヤツリは後輩には話さない。例外は柴関の大将だが完全なる部外者だった。黒服は論外。唯一の例外は小鳥遊ホシノだけだ。小鳥遊ホシノだけが、カヤツリを助けられる可能性があったのに。

 

 だから、セトは小鳥遊ホシノが嫌いだった。自分にできないことをやれたのにしようとしなかった小鳥遊ホシノが。神秘の影響も多少はあるかもしれないけれど、そうなのだ。

 

 セトはカヤツリの隣の、過去の姿の小鳥遊ホシノに勝ち誇った顔を向ける。

 

 あの中から、小鳥遊ホシノは今までの会話を聞いている。たぶん中で怒り狂うか焦っているのだろうが、何もできない。そうすれば小鳥遊ホシノの負けだから。

 

 今の会話は、カヤツリが隠したかったことだ。小鳥遊ホシノにだけは知られたくなかった、カヤツリの本音。

 

 ここで、無理に動いてカヤツリを止めれば、カヤツリは逃げるだろう。思ってはいけないことを思った事を小鳥遊ホシノに知られれば、セトの手を取るはずだから。

 

 だから小鳥遊ホシノは動きたくとも動けない。

 

 もう、セトの勝ちは揺るがない。

 

 まだまだ甘い。この経験を次に生かしてほしいとは思うが、その機会は訪れない。記憶は消させてもらうから。

 

 そう、勝ち誇るセトに、カヤツリが言葉を掛ける。

 

 

「一つ聞きたい」

 

「何かな。何でも答えてあげるよ?」

 

 

 カヤツリは迷ったように言う

 

 

「俺は、ホシノに会わない方が良かったのか。そう俺は思っているのか?」

 

 

 カヤツリの言葉を聞いたセトの顔が引きつった。

 

 ”そうだ”と答えられないからだ。

 

 確かに不安に思ってはいる。疑ったり、不満に思ったことだってあった。それはセトは知っている。だから、そこを責め立てた。

 

 カヤツリの質問が、小鳥遊ホシノのことを本当に好きなのかとか、これまでの事は間違っていたのか。そういった質問なら、曲解して答えられた。

 

 これまでにそうしたように、それらしい事実だけを並べて、カヤツリ自身が小鳥遊ホシノとの出会いを後悔しているのだと誤認させたように。

 

 でも、これは無理だ。

 

 だって、カヤツリは心の奥底では全く後悔などしていないからだ。会わない方が良かったなんて思ってもいない。カヤツリは、小鳥遊ホシノとの出会いを否定していない。だから、セトはカヤツリの思っていないことを肯定はできない。

 

 嘘を言おうものなら即座に看破されるだろう。セトがカヤツリの事を分かるように、ここでは逆もしかりだ。だから、何も言えない。黙り込むしかない。

 

 黙り込んだセトに向かって、カヤツリは笑って言った。もう、さっきまでの不安はない表情で。

 

 

「ああ、よかった」 

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