ホシノ同級生相棒概念 作:洞鼬
目の前のカヤツリを、信じられないものを見るような目で見て、セトは叫んだ。
「どうして! 何で良かったなんて言えるの! 痛みは、憤りは、悲しみは! カヤツリ君の中にあったのに! アイツは、それを気づきもしなかった!」
セトの言う事は間違っていない。それらの感情は確かにカヤツリが抱えていたものだ。抱えきれずに、目の前の自分に押し付けていたもの。
それにホシノは気がついてくれなかった。気づいたところで、どうしようもなかったのかもしれないが。それでも、少しは気にかけてほしかった。
カヤツリがやっていたことが、逃げではなかったこと。状況に流されたのかもしれないけれど後悔はしていないこと。
良かったというのは、結局はカヤツリの自己満足なのだ。
ホシノの所業は変わらない。確かにそうだ。否定のしようもない。
「不満だった筈だよ! 悲しかった筈! あんな頼み事をした梔子ユメを恨みさえした! 先なんて見えない暗闇の中で、自分の物でもない責務に押し潰されながら進むしかなかった! 辛い事しかなかったじゃない!」
そうだ。不満だし、悲しかった。先が見えない現状に突き落とした先輩を恨んだ。
確かにあった事実を並びたてるセトを,、カヤツリは真っ直ぐ見て言う。
「辛い事しかなかったって言うけど、本当か? そうじゃない事を、それだけじゃなかった事を、俺なら良く知っている筈だよ」
辛い事だらけだった。でも、それだけじゃなかった。辛い事もあったけれど、良い事も確かにあったのだ。
柴関の大将や先生のような、良い大人もいた。可愛い後輩もできた。悪いことばかりではなかった。それをカヤツリは知っている。
「そうかもしれないけど、それにアイツは殆ど関わっていないんだよ! それはカヤツリ君が頑張って手に入れたモノだよ! 断じてアイツが、小鳥遊ホシノが君と居て良かった事なんて、何一つ無いんだよ!」
負けじとセトは叫ぶ。もう先輩の体を取り繕えてさえいなかった。ホシノを否定したくて仕方がないようにカヤツリには見えた。
セトの一番言いたい事はそれなのだろう。カヤツリにホシノから離れてほしいのだ。アビドスやカイザーの事はどうでもよくて、一番はそれなのだ。
きっとカヤツリの事を心配して、見ていられないのもあるのだろう。それと同じくらいにホシノの事が嫌いなのだ。
アビドスの事を持ち出したのは、一度手を付けたことを投げ出さないのを良く知っているから。記憶を消すとか言うのも、カヤツリが罪悪感に苛まれない様にするため。ホシノが追ってこないようにする目的もあるかもしれない。
ともかく、ホシノを否定したいのだ。ホシノと一緒に居てもいい事なんて無かっただろう? 辛い事しかなかっただろう? これから先もそんな事しか待っていない。それなら全部投げ出してしまえと。問題は全て片付けるから、もう楽になっていいのだと。どうか自分を頼ってほしい。自分が必要だと言ってほしい。
嘆かわしいまでのカヤツリへの懇願と、凄まじいまでのホシノへの憎悪。自らを省みず、負債をカヤツリに、セトに押し付けたホシノへの。まるで、親を求めて泣き叫ぶ子供のような。憎悪と懇願がない交ぜになったそれがカヤツリにも流れ込んでくる。
──どうして、何もできなかったのか。どうして、助けてあげられないのか。自分はそのために生まれたのに。
──自分はどうしようもできない。それなのに、小鳥遊ホシノは負担を掛ける事ばかりしている。
──自分から、役目を奪い、その役目を放棄し、それに気がつきさえしないなんて。許さない。絶対に許さない。絶対に認めない。絶対に渡してなんてやるものか。
きっと、セトがこうなったのは、カヤツリのせいでもあるのだ。
勝手に作り出しておいて、役目も与えておいて、他人の皮だけ与えて、必要としなかった。知らなかったというのは言い訳なのだろう。だから、責任は取らねばならない。製造者責任と言う奴だ。
「……私の気持ちは分かった? 私は君を、カヤツリ君を助けたいの。アイツじゃ君は救えない。君を不幸にするだけなんだよ」
「そうかもしれないな」
思いがけないカヤツリの肯定の返答にセトは面食らったように黙り込んだ。直ぐに理解できないというように叫び出す。
「じゃあ、なんで!? なんで、私の手を取ってくれないの!?」
「ホシノに期待してるから。まだ信じてるから」
「ふざけないで! アイツが君にしたことに、そんな要素は一欠片だって無い!」
そうだ。ホシノの所業に関しては言い訳のしようも、弁護のしようもない。あの所業を見て、それでも信じるというのは、もう狂人の戯言に等しい。
「そうだな。過去の、昔の所業はそうだ。だが今は? 今やったことはどうなんだ。それを評価項目に含めないのはフェアじゃない」
それを聞いたセトは、さっきまでの叫びが嘘のように黙る。セトの感情が流れ込むのが止まった。不都合なことがあるのだ。
さっきセトはカイザーを片付けたと言った。おそらくカヤツリの身体を使ったに違いない。昨日のPMC基地の戦力を無力化できるくらいだ。相当強いのだろう。
それなのに、なぜここでセトは足踏みしている?
カヤツリに無断でカイザーの殲滅までやるくらいだ。全てが終わってから、それこそ、ホシノの記憶を消してから、事後承諾のように突きつければいい。
それをやらないのは、セトの優しさもあるのかもしれない。けれど、そうではないとセトを信じてみる。昨夜のホシノを信じてみる。
「今、邪魔されてるんだろう? 先生か、対策委員会に。それにホシノも来てるんじゃないのか。ここに」
「……それがそうだとして、今の話に何の関係があるの? ホシノちゃんがカヤツリ君を守れなかったことには変わりないよね」
セトは否定しなかった。無駄だと思ったのかもしれない。ホシノはここに来ているし、セトはここに来るまでのホシノの動きを知っている。それなら、安心してカヤツリはこう言える。
「あるよ。大ありだ」
カヤツリが居なくなったことは今朝には分かったはずだ。今の時間は分からないが、セトの口ぶりから、数日は経ってはいないと予想する。
セトは言った。砂嵐を止めるとか、記憶を消すとか、そういった尋常でないことを。セトは、そういった超常的な手段を持っているのだろう。
それを上手い事に食い止められている。対策委員会や先生はその手の知識はないだろう。もちろんカヤツリにもない。
それを知っているのは黒服だけだ。けれど、黒服は自分の得にならないなら何も手を出さない。でも、実際にセトは邪魔されている。それが意味する事は一つだった。
「ホシノは動けたんだよ。俺が居なくても。俺を助けるために動いた。それは昔とは違う所なんじゃないのか。昨夜の俺の頼みを聞いてくれている。それは俺を助けてくれているってことじゃないのか」
ホシノは行動した。おそらくできる事をしたのだ。しっかり考えて。
昔だったら、あの夜の前だったら、対策委員や先生を巻き込めないとか言って一人で突撃しただろう。それで黒服あたりに良いように使われたはずだ。上手く情報を聞き出せても目の前の事に手一杯で、後詰めとかそういうのを考えない。カヤツリはホシノのそういった悪いところを良く知っている。何回も尻拭いしたからだ。
でも、今は違う。セトは困っている。手を潰されて。それは頑なに思考を閉ざしているセトが証明していた。性格や思考が違うとはいえ、セトの元はカヤツリだ。事前準備はしっかりやるだろう。今回はカイザー襲撃と言う突発的事態とは言え、勝算があったからやったはずなのだ。
それを食い止められているという事は。しっかりと綿密に、セトがやっていること、やろうとしていること。それを調べて対策したのだ。
ホシノは黒服のオフィスを知っている。先生も知っているが、主導はホシノだろう。セトが黙っている所を見るにそうだ。もし先生ならば、ここぞとばかりに反論が飛ぶ。
きっと、ホシノは先生や対策委員会を頼ったのだ。そうでもなければ、黒服と交渉して情報を聞き出せるとは思えない。身売りはしていないはずだ。さっきと同じようにセトが黙りっぱなしだから。
これは、成長だった。僅かかもしれない。けれど確かなホシノの成長の証。
「確かに昔のホシノのままだったら、俺は潰れただろう。昨夜の事が失敗して、黒服への身売りを防げなかったら俺は頷いたよ」
本当にそうだ。昨夜の事が無かったら、ホシノを止められなかったら、ホシノの本心を聞いていなかったら。きっとカヤツリは頷いただろう。もうホシノの事を信じられなくなったに違いない。全てを投げ出しただろう。
「でも、そうじゃなかった。ちゃんとホシノは変わろうとしてくれた。それなら、俺は期待するよ。きっと変わってくれるって。いつか本当に前を向いて一緒に歩いてくれるって」
「……嘘だよね。それは」
今まで黙りこくっていたセトが、間違いを見つけた子供のように指摘した。また勝ち誇ったような顔をしている。
「心の底から信じていないでしょう。疑いが残ってる。不安も残ってる。アイツの事を信用しきれてないよ。強がりを言うものじゃないよ」
「それはそうだ。他人なんだからな。俺とホシノはどこまで行っても他人なんだよ。きっとお互いの気持ちが完全に分かる日なんて来ない。この前の身売りの件もある。また勝手な事をするんじゃないかという一抹の不安は付き纏うよ。だから、期待なんだよ」
いくら他人の身を案じて忠告したところで、他人は変わらない。変わるには、その者自身が変わりたいと思って行動しなければ変わらないからだ。
ホシノは言った。”皆で一緒に考えようよ”と。そして言ったことを実行した。言った事を守った。それなら期待できる。過去の所業はある。過去は変えられない。ただ未来に期待する事はできる。過去は否定できても未来はできない。未来の事は誰にも分からないから。
「……じゃあ何? 過去の所業に目をつむって、私に引けって言いたいの? カヤツリ君の中で眠りながら、しばらく様子を見ろって?」
「そうだよ。それで、ホシノが看過できないことをやらかして、それに我慢が出来なかったら好きにすればいい」
「嫌だよ。今、我慢が出来ないんだよ。そんなの言わなくても分かるよね。過去は変えられない。やったことは覆らない。私にとってアイツは、小鳥遊ホシノは期待するにも値しない」
セトは聞く耳を持たないようだった。もう先輩の皮が剝がれかかっている。髪は黒い色が見え始めているし、眦も吊り上がり、口調も崩れていた。
「それはフェアじゃない。俺たちがホシノに、それを言うのは特に」
「どこが!? 私は十分我慢したし、君は十分迷惑を掛けられたでしょう!? フェアどころか、十分譲歩したよ!」
セトは相変わらずの勢いだ。でも、そうなのだ。カヤツリはホシノに対して負い目がある。この場合に関しては。
「俺が初めてホシノと先輩に会った時に吹っ掛けただろう」
「それの何が……」
「先輩とホシノから見たら、俺は悪人だった。未遂とはいえ、ぼったくりのな。それは信用できない過去じゃないのか。書類も偽装で、過去を何も語ろうとしない怪しい生徒。それが俺だったはずだ。あの時の俺に信用できる要素なんて何もなかった」
言いたいことが分かったのか、セトは口を閉じた。必死に何かを考えているようだった。
「それなのに、先輩とホシノは俺を信用したぞ。ホシノは先輩の執り成しがあっても、ああだったけど。それでも背中から撃ったりするような真似はしなかった。しっかり俺の仕事ぶりを見て吟味してくれた。ホシノが我慢してやったことをやらないのか? ああも悪し様に言ったのにか。それはフェアじゃないだろう?」
□
カヤツリの言ったことは正論だった。正論中の正論。
かつて、小鳥遊ホシノにしてもらった事。過去や、かつてやったことを度外視して、現状を評価してもらった事。それを見ないふりをして、自分の感情を優先してのごり押しは、セトにはできなかった。
それは、セトが最も嫌う行為だったからだ。相手の都合を考えず、自分の都合だけを考える。それはセトが罵った小鳥遊ホシノの行為と同じだ。
今のカヤツリの言葉を無視して反論することはできる。あくまでそうしてもらったのはカヤツリだからだ。セトがしてもらったわけでは無い。でも、もう一人のカヤツリという立場で、これまで小鳥遊ホシノを悪し様に罵った。自分の都合の良い事だけ享受して、都合の悪い事は見ないふりをする。それはダブルスタンダードだ。
それをしてしまったら、自分の正しさを投げ捨てることになる。カヤツリの事を考えていないと非難した小鳥遊ホシノと同じ行動をとってしまえば、今までの自分の行為が欺瞞に満ちる。
結局はセトの行動は、根本的には小鳥遊ホシノと一緒なのだ。自分の都合を他人へ押し付けている。それが、自分のためか、他人のためかと言う違いでしかない。セトは、これ以上傷つくであろうカヤツリを見ていたくなかった。カヤツリの為というお題目で多少マシに見えたとしても、やっていることは同じだ。
だから、これはどうしようもない。
セトは知っている。小鳥遊ホシノがここに来るまでに努力したことを。さっきまでのセトはアビドスの王だったから。アビドス内の事は手に取るように分かる。黒服との会談も覗いていた。
詰みだった。肯定すれば、小鳥遊ホシノを見逃さなければならない。否定すれば、小鳥遊ホシノと同じになる。それはセトにとって死んでも嫌なことだ。
「……」
セトの答えを待っているのか、カヤツリは何も言わない。ただ、申し訳なさそうな目でセトを見ているだけだ。
「……なんで、そんな目で見るの。喜べばいいじゃない」
捨て鉢になってセトはカヤツリに吐き捨てる。勝ったであろうカヤツリがそんな目をするものではない。自分がとてもみじめになる。
「悪かった。勝手に生み出したくせに、俺は君を放置した。居ないものとして扱った。ただの幻覚だと。確かにそこに居たのに」
それは意味のない謝罪だった。だって、カヤツリが無意識でやったことだ。これだって、セトが勝手にやったことだ。でも、少し嬉しく思う自分がいる事への戸惑いがあった。
「それと、ありがとう。気持ちは嬉しかった。少なくとも三回は助けられたし、他にも何かやっていたんだろう? そうじゃなかったら、俺はここに居なかった。だから、言うよ。今まで、俺を助けてくれてありがとう」
頭を下げるカヤツリを見て、セトは何も言えなかった。別に呆れたわけでは無い。なんだか胸が一杯なのだ。
セトは神様になりたかった。カヤツリを救う神様に。セトには、カヤツリの中から、そういう記録に触れる事の出来たセトには、それが出来た。
何もしない、自分がやりたかったことをやらなかった小鳥遊ホシノの代わりに、カヤツリを救いたかった。
だって、それが自分の存在意義だったから。それを奪った小鳥遊ホシノがとても憎くてたまらなかった。今でもそれはあまり変わっていない。
けれど、今のカヤツリの感謝でどこか満足している自分がいる。満足してしまった自分がいる。
きっと、セトは、認められたかったのだ。カヤツリを救いたかったのも本当、小鳥遊ホシノが憎いのも本当。でもそれと同じくらい認められたかった。ここに居てもいいのだと。役目を果たせなくても、そんな無力な自分でも、ここに居ていいし、意味はあったのだと。
だから良いのだ。カヤツリを救う神様にはなれなかったけど、感謝をされるくらいの存在には成れたのだから。だから、少しだけ、少しだけなら我慢してやってもいい。
「……分かった。少しここで待ってて。来るのは私か小鳥遊ホシノかは分からないけど」
セトはカヤツリを生徒会室に残し、元の場所に戻る。最後にやることがあったから。
□
最初の生徒会室でホシノは項垂れていた。セトがこちらに勝ち誇った顔を向けた時点でここに戻ってきていた。カヤツリがセトに聞いた内容を聞く前に戻ってきてしまった。ホシノの思考は同じところをぐるぐるしている。
「……結構堪えた顔をしてるね。聞かせた甲斐があったよ」
暫くしてから、ホシノの前に現れたセトは項垂れたホシノにそう言った。もうユメ先輩の皮は完全に剥がれて、黒髪のアビドスの制服を着た女生徒が立っていた。どことなくユメ先輩に似ていた。
そして相変わらずの敵対的な態度だ。それに噛みつく余裕は今のホシノには無かったけれど。
だって、知らなかったから。カヤツリがあんなことを思っていたなんて。でもそれも当然なのだ。カヤツリだって人間だ。そう思うのは当たり前だった。ホシノはそれに気がつきもせずに甘えていた。カヤツリの悲鳴に気がつきもしなかった。
あの場では身体は動かせないし、声も上げられなかった。本気で動けば何とかなったかもしれないが、その勇気がなかった。あの話はホシノが聞いてはいけない類のものだったから。
「私の言う事を聞く気になった? どれだけ自分がカヤツリに負担を掛けているか自覚した? それでも私に返せって言うの?」
「言うよ」
「へぇ。面の皮が厚いなんてもんじゃないね」
セトがホシノをせせら笑う。
そうだ。自分でも厚かましいにも程があると思う。でも、ホシノはカヤツリと一緒に居たかった。自分にできる事はまだまだ少ないけれど、カヤツリは助けてほしいと言ってくれたから。自分もそうしたいから。
前を向いてみたかった。カヤツリと一緒に頑張りたいし、後輩たちともそうだ。アビドスの事も本気で取り組んでみたい。今までも本気だったけれど、逃避の側面もあったから。それをあの会話で自覚した。だから、今度こそはとそう思うのだ。
「口で言うだけなら、何でも言えるんだよ。君は、私を説得しなければならない。私には君に対する信頼はないし、君には大した実績もない。君が居なくなった後で、カヤツリ君が多少弁護はしたけれど、満点には程遠い。どう説得するって言うの?」
「こうするんだよ」
「……へぇ」
ホシノは頭を下げた。
ホシノにはこうすることしかできない。セトの言う通りだからだ。ホシノには信頼も実績も何もない。あるのはここに来るまでの働きだけだ。ホシノはカヤツリのように口は上手くない。でも、やれる精一杯の事をするしかないのだ。
「お願い。君の言う通り、都合が良い事を言ってるのは分かってる。でもチャンスを下さい」
「実績はないよね。まさか、ここに来るまでの実績を加味しろって言うの?」
「お願い」
ホシノにできる事はこれしかない。やれと言われれば、土下座でもなんでもやってやるつもりだった。セトは大きなため息をついた。きっと呆れているのだろう。
「過去にやった所業は弁護できない。さっきまで気づいてもいない。ここに来るまでの動きでやっとプラスに傾いた。そんな君に我慢しろって?」
「……お願い」
「……はぁ。いいよ。我慢してあげる」
ホシノの顔が跳ね上がった。セトは不満たらたらの表情でホシノを見ている。喜びの表情を浮かべるホシノにセトは言う。
「ただし、君がまた、同じことをしでかしたら。カヤツリ君を辛い目にあわせたり、ましてや、また逃避なんてしてみろ。問答無用で不合格にする。余程の事がない限り、今回のような再試験は認めない」
「ありがとう!」
礼を言うホシノにセトは舌打ちをする。ホシノの方を見ようともせずに、背を向けて手を払うように振る。
さっさと出て行けと言うのだろう。後ろには生徒会室の扉がある。
でもホシノはセトに最後に言う事があった。
「ありがとう。カヤツリを守ってくれて。負担を掛けた私が言うのもあれなんだけど。君には言っておかないといけないから」
「……さっさと帰って、顔も見たくない。ホントに私をイラつかせる。最後まで思い通りに動かない奴」
後ろを向いたままセトはぶっきらぼうに言った。すると触れてもいないのに、扉がスルスルと開いた。そこは光っていて先の光景は見えないけれど、ここから外へ出られる。そんな確信があった。
「その先にカヤツリ君がいる。さっさと連れて帰って」
「……わかった。じゃあね」
「……最後に聞いて良い?」
生徒会室から出ようとしたホシノに、セトが声をかけた。ホシノは振り向いて聞き返す。
「何?」
「カヤツリ君を何で信用したの? 第一印象は最悪だったでしょ? 吹っ掛けられて、書類も偽装だった。過去も分からない。どうして?」
変なことを聞くものだと思う。
確かに、信用はしていなかった。ユメ先輩に言われても、最低限しか信用する気はなかった。
「……嘘をつかなかったから。ただの一度も。言えない事は言えないって言ってくれたから。本気で私に向き合ったから。アビドスの一年だとか、子供だとか。そんな事は関係なく、カヤツリは小鳥遊ホシノを見たんだよ。カヤツリにその自覚は無いのかもしれないけど、私はそう思ったから。だから信用しても良いと思った」
「そう、分かった。もういいよ。お詫びもかねて、アビドスの皆に対するサービスもつけたから、さっさと帰って」
今度こそホシノはセトに背を向けて、扉の向こうに足を踏み入れる。
急速に背中のセトの気配が遠ざかる。そして、消え去る直前に何か聞こえた気がした。
──さっきの言葉が嘘にならない事を祈ってるよ。
最後に、そんな声が聞こえた気がした。