ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

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81話 手に入れたもの、積み上げていくもの

 扉を抜ければ、変わらない光景が広がっていた。さっきと同じような生徒会室だった。あの時の、まだユメ先輩が居た時の生徒会室。窓からは夕暮れだろうか、夕焼けの光が差し込んでいた。

 

 おおむね、セトと話した時と変わりない。ただ違う点が一つだけあって、そこに居るのがセトではなく、カヤツリだという事だった。

 

 

「カヤツリ?」

 

 

 背中を向けて座っているカヤツリに向けて、恐る恐るホシノは名前を呼ぶ。さっきのセトとカヤツリの会話が頭をよぎる。

 

 

 ──俺は、ホシノに会わない方が良かったのか。そう俺は思っているのか?

 

 

 ホシノはそれに対するセトの答えを聞いていない。聞く前に戻されてしまったからだ。

 

 ホシノの心中は不安で一杯だった。さっきから、ずっとその事について考えている。セトに、カヤツリが不満に思っていると。そう言われた時は、そうでもなかった。昨夜の事があった。大抵の事なら屁でもないと思うことができた。

 

 実際に聞いてみれば、そんなものはすぐに砕けてしまったけれど。

 

 ここはカヤツリの心の中だ。だから、カヤツリは嘘はつけない。本音でしか語れないのだと、あの場にいたホシノには本能的に分かっていた。きっとカヤツリもセトもそうだったのだろう。

 

 辛かった。自分の過去の所業を晒されるのは。自分の罪を見せつけられるのは。

 

 先輩が居なくなってホシノは限界だった。けれど、カヤツリもそうだったはずなのに。ホシノはカヤツリに、ただ甘えていたのだ。

 

 それを、セトに指摘されたカヤツリは最初は否定していたけれど、最後は何も言わなかった。きっと言えなかったに違いなかった。

 

 さっきセトは、すんなりとホシノの言う事を聞いた。それは、カヤツリがホシノを否定するからなのではないのか。昨夜はカヤツリは、助けてほしいと。そう言ったけれど、あの時にはカヤツリは、ホシノへの悪感情を自覚していなかったはずだ。だから今、カヤツリはホシノの事をどう思っているか分からない。

 

 怖い。とても怖い。

 

 結局は自分のせいなのだけれど、謝る事しかできないのだけれど。カヤツリがホシノになんて言うのか。それを聞くのが、とても恐ろしかった。

 

 怒鳴られるのはいい、責められるのもいい、殴られたって文句は言えない。けれど、もう一緒に居たくないと、顔も見たくないと、お前となんて会わなきゃよかったと。そう言われるのは嫌だった。

 

 だって、あの質問はそういう事だからだ。

 

 さっき、セトにはああ言って、自分でも前を向きたいと思っているけれど、その気持ちは今でも変わらないけれど。それはホシノだけだ。カヤツリもそう思ってくれているとは限らない。

 

 あまりの情けなさに、ホシノはまともにカヤツリの方を見れなかった。

 

 

 ──昔と変わらないじゃないか。

 

 

 結局ホシノは弱いままだ。自分では何一つできやしない。今もカヤツリに、カヤツリの言葉に縋りついている。

 

 

「……ホシノ?」

 

 

 こちらを呼ぶカヤツリの声に、ホシノは我に返った。声の方を見れば、カヤツリが心配そうにホシノを見ている。

 

 その目に嫌悪感や怒りなどは感じられなかった。ひとまずホシノは安心する。

 

 その間に、カヤツリは席を立ってホシノの方へ近づいてきていた。何か言われるかと思って固まるホシノに、カヤツリは言う。

 

 

「大変だっただろ。ここまで来るのは。助けに来てくれたんだろ」

 

 

 いつものカヤツリだった。昨夜と何も変わらない。ホシノにはその理由が分からなくて、何も言えずに固まったままだった。

 

 

「色々、話すこともあるけど、まずはここから出ようか。多分、出口は校門かそこらかな……」

 

 

 色々話すこと?

 

 そんなカヤツリの言葉に、ホシノの心臓が跳ね上がる。何を言われるのだろう。いい予感はしなかった。

 

 ホシノが入ってきた入り口は、いつの間にか廊下に繋がっていた。おそらく、そこから校庭へ、校門に行くことができるだろう。セトは本当に止める気はないようだった。

 

 それなのに、ホシノの心は晴れないままだ。

 

 昔の事を謝りたいのに、これからの事を話したいのに。上手く言葉が出てこない。今更ながら溢れてくる罪悪感と拒絶されるかもしれない恐怖に塗れながらも、何とか声を絞り出す。

 

 

「……カヤツリ。ちょっと良い?」

 

 

 廊下へ出ようとしたカヤツリが動きを止めた。振り向いてホシノを肩越しに見ている。その眼差しには、少しの困惑のようなものが見えた。

 

 

「いいけど。ここで話していくか? それとも歩きながらにするか?」

 

「……歩きながらでもいい?」

 

 

 少し悩んで、ホシノはそっちを選択した。

 

 きっとカヤツリは知らない。ホシノがセトとの会話を聞いていたことを。言わなくても良いかもしれない。そうすれば、今まで通りの日常が待っている。

 

 それは逃避だった。そんな事はしたくないし、ずっと後悔することになるだろう。それは嫌だったし、セトとの約束を破ることになる。けれど、上手くいかなかった時の事を考えたくない。歩きを選択したのは、歩きながらなら、カヤツリの顔を見なくて済むからだ。

 

 そんな後ろ向きの思考で、カヤツリと廊下を歩く。ホシノの気持ちを反映するように、足取りは重い。カヤツリは何も言わずに速度を合わせてくれていた。

 

 

「ごめん。カヤツリ。すごい迷惑を掛けて。カヤツリは大変だったのに。私はそれに気が付けたはずだったのに。助けられたかもしれないのに。私はそうしなかった。しようとも思わなかった。……ごめんなさい」

 

 

 一息にホシノは言う。できなかったことを、しようともしなかったことを、謝った。今更遅いのかもしれないけれど、そうしなければならない。道義とかそういうのもあるけれど、そうしなければ、ホシノはどうしようもないのだ。清算はしなければならない。それが、カヤツリの拒絶と言う結果に終わるのだとしても。それだけの事をホシノはしたのだから。

 

 ホシノの謝罪を聞いたカヤツリはしばらく黙っていた。その沈黙が嫌で、ホシノは蹲りたかったがそうもいかないのだ。

 

 

「……ちょっと本音を言うよ。ここは、それしか言えないから。嫌な話になるけど我慢してくれ」

 

 

 ぼそりと、そうカヤツリは呟いてから、口を開いた。

 

 

「ホシノは自分の事ばっかりだ。そのくせ自分を大事にしない。残される他人の事なんて考えない。本当に腹が立つ。俺の気持ちなんか考えやしない」

 

 言葉がグサグサとホシノに刺さる。セトに言われるよりも辛い。

 

 淡々と、声に感情を乗せずに、カヤツリは原稿を読むように呟く。ホシノの方を向きもせずに言葉を吐き出している。

 

 

「私の事なんて見てくれない? ユメ先輩の事ばっかり見てる? ふざけているのか。ホシノの方がよっぽど、俺の事を見ていないじゃないか。毎回毎回、私、私、私。俺だって限界はあるんだよ。何でもはできやしないんだ。いつまでもホシノの面倒なんか見ていられないんだ」

 

 

 カヤツリの言葉の内容は怒っている。けれどやっぱり声に感情が乗っていない。まるでどうでもいいものを語るような口調だった。

 

 ギリギリとホシノの胸の奥が嫌な音を立てる。

 

 自業自得だ。昔の所業が跳ね返ってきている。これは仕方がない事なのだ。きっとカヤツリの方が辛かったのだ。そう必死に自分に言い聞かせる。

 

 

「だから、もういいだろう。もうホシノの面倒は見ない。ある程度は、自分の面倒は自分で見てくれ。もう俺は、俺のやりたいことしかやらないし、できない。明日からはそうなる。ホシノもこれから大変になる。今まで通りじゃいられない。今までの関係は終わりになる」

 

「…………うん。分かった」

 

 

 それしか言葉が出なかった。それしか言葉を絞り出せない。

 

 見捨てられた。

 

 カヤツリに見捨てられた。

 

 気分が悪い。心が冷えていく。なんだか視界がぐらぐらする。

 

 されて当然なのだけど。想像はしていたけれど、とても堪える。想像よりもずっと。目から涙がこぼれる。けれど、何とか残りの言葉を絞り出す。

 

 

「……いつ。何時、アビドスから出ていくの? 明日すぐに? 見送りくらいはさせてよ…………」

 

 

 カヤツリがピタリと歩みを止めた。

 

 

「何を。何を、戯けたことを言っているんだ? 俺が何時、ここを出て行く何て言った?」

 

 

 それを見て、ホシノはまた痛みを感じる。また、何か言うのだろう。さっきとは違って声に感情が乗っている。余程、嫌なのだろう。

 

 

「……ああ、そういうことか。怒ったから、言葉が足りなかったのか……。でも、バカじゃないのか。本当にバカだよ。本当に俺の事をなんも分かっちゃいないんだな。ホシノの基準で勝手に判断するんじゃないよ……」

 

 

 怒りの滲んだ声だった。ホシノが横を向けば、怒りの籠った眼差しでカヤツリがホシノを睨んでいた。

 

 

「俺が、全て放り捨てて、アビドスを出ていくと。そう思っていたわけか? ええ? 俺がそんな奴だって思ったわけか? あの夜の言葉を嘘だと思ったわけか?」

 

「だって、それだけの事を私はしたんだよ……。それに、あの時はカヤツリに自覚はなかったんだよ……。だから、”私に会わない方が良かったのか”なんて聞いたんでしょ?」

 

 

 何かを言おうとしたカヤツリは口を閉じた。しばらく口の中でもごもご言ってから、いつもの口調になる。

 

 

「……聞いてたのか? あの会話を全部?」

 

「質問の所までだよ。答えは聞いてない、それから先も」

 

「だから、その反応なのか……。言い方が悪かった。ごめん」

 

 

 さっきとは様子の違うカヤツリに、ホシノは何の感情も湧かなかった。きっと答えは変わらない。それだけの事をしたのだから。だからセトは解放したのだろう。結果が変わらないから。

 

 

「アイツは否定しなかったよ。ホシノと過ごした日々は辛かったけど、間違いではなかった。いいこともあった。俺は後悔はしていない。それがあの質問の答え。だからアビドスを出て行ったりなんかしない」

 

 

 予想とは違う答えが聞こえた。

 

 さっきまで、ホシノを苛んでいた痛みが一気に無くなった。ホシノの心中が喜びで満ちていく。けれど、それを引き留めるかのように心の中で声が聞こえる。

 

 都合が良すぎる。またカヤツリに我慢をさせる。それでは何も変わらない。また、同じことの繰り返しだ。それだけの事をお前はやったのだろう? ずっと負担を掛け続け、苦しみを見ないふりをした。そんな事をした奴を誰が好きなままで居てくれるというのか。

 

 

「……良いの?」

 

「何だ。ホシノは嫌なのか」

 

 

 また歩き出しながらの、そんなカヤツリの言葉にカチンときた。今のホシノは一杯一杯なのだ。さっきのカヤツリの本音を聞いたせいで、感情を処理しきれない。カヤツリが居てくれる喜びと、また我慢を強いるかもしれないという不安。それがぐちゃぐちゃに交じり合って、どうしようもできない。

 

 やるべきことは分かる。昨夜、カヤツリに言った事だ。カヤツリと一緒に頑張る。カヤツリの手伝いをする。口にするだけなら簡単だ。でも、それは一人で完璧にできるのだろうか。ホシノは何も知らなかった。カヤツリがやっていたことを知ろうともしなかった。だから簡単に言えたのだ。手伝うなどと。

 

 ホシノはカヤツリのように器用ではない。すぐにカヤツリの様にはなれない。最初はカヤツリに手伝ってもらわないといけないだろう。でも、それでは今までと変わらない。

 

 だから、これからどうすれば良いのかも分からない。初めての事ばかりだ。今まで通りでは何も変わらない。でも、カヤツリに頼れない。また負担を掛けることになる。

 

 もう思考がどん詰まりに行き当ってどうしようもなかった。やらなきゃいけない事は分かるのに、その方法や、何が正しいのかすら、もうなんにも分からない。

 

 もう、ぶちまけてしまおうか。

 

 そんなことを思うと同時に、口が勝手に動き出す。

 

 

「嫌なわけないでしょ。嬉しいよ。私はカヤツリが大好きだから。好きな人が一緒に居てくれるって言うんだよ。そうに決まってるでしょ」

 

 

 それは間違いではない。

 

 

「一緒に過ごしたいよ。一緒に頑張りたいよ。今までもこれからも、そうだと思ってたんだよ。でも、もうそれじゃダメだって分かったんだよ。私はカヤツリに甘えてばっかりだったんだよ」

 

 

 カヤツリは後悔はしていないと言ってくれたけれど、そのままでは駄目なのだ。セトが今回激怒したように。このままなら、いつかカヤツリは潰れてしまうだろう。

 

 カヤツリは優しいから、優しい言葉を掛けてくれるけれど、ホシノは嫌だった。

 

 

「でも、分からないんだよ。カヤツリに負担を掛けない方法が分からない。私はカヤツリみたいには成れないんだよ。きっとアイツが言ったとおりに迷惑を掛け続けるんだよ」

 

 

 もう滅茶苦茶だった。自分でも支離滅裂なことを言っていると思う。話し合えばいいとホシノは思っていた。けれど、話し合っても自分ができる事はあまりないのだ。できるようになるとは言っても、その間はカヤツリに負担を掛けっぱなしだ。今までと同じではないか。

 

 

「バカだと言ったが訂正する。大バカ者だよ。ホシノは」

 

 

 呆れた顔をしたカヤツリが優しい声で言う。

 

 

「そんなことは百も承知なんだよ。アイツは俺が負担だったことを強調して言ったけれど。一番俺が嫌だったのは、ホシノが気が付きもしなかったことだよ。俺がやっている事を知りもしないでいられたのが、嫌だっただけだ。ホシノの無関心が嫌だった。それに昨日言った事も忘れたのか」

 

 

 カヤツリはあの夜言った事をもう一度言った。

 

 

「俺はホシノがいいんだ。ホシノじゃなきゃ嫌なんだよ。俺は助けるのも助けられるのもホシノじゃなきゃ嫌だ。教えるくらいなんてことは無い。そんな事は負担でも何でもない。好きな娘相手なら別になんてことはない」

 

 

 それは優しさの暴力だった。カヤツリは言うのだ。ホシノなら別に良いと。

 

 

「ホシノは今までと変わらないって言うけど。それは違う。何とかしたいっていう意識がある。そのままでいる気もないだろう? 焦んなくていいんだよ。手伝いたい、負担を掛けたくない。その気持ちが俺は嬉しいんだから。俺はそれがずっとほしかったんだから、それをずっと言えなかったんだけども」

 

 

 安堵と喜びと少しの不安。それでぐちゃぐちゃのホシノは、気になったことを呟いた。

 

 

「……私の面倒を見ないっていうのは?」

 

「ごめん。あれは言い方が悪かった。あれは今まで通りにはしないってことだよ。昨日言ったのは覚えてるか。手伝ってもらうって」

 

 

 ホシノの言葉にカヤツリは頷いた。ホシノが勘違いしたような意味ではないのは分かるけれど、分かりにくかった。

 

 

「もう、お姫様待遇はお終いだ。加減はするつもりだったけど、もう容赦はしない。さっきみたいにムカついたら怒るし、嫌なことは嫌だと言う。何から何まで全部はやらない。やり方も教えるし何回だって付き合うけれど、俺は俺のやりたいことを優先する。疲れたら寝るし、ホシノの事をそんなには優先しない」

 

 

 まあ、あれだよ。普通の対応ってことだよ。そうカヤツリは言った。

 

 

「それでいいの?」

 

「それがいいの。それに、分かってるのか。今までと同じようにはいられないんだよ」

 

 

 もう昇降口だった。そこを出ればもう校庭だ。校庭を突っ切れば、出口であろう校門が待っている。

 

 昇降口の扉を開けてカヤツリは言う。

 

 

「普通の対応ってことは、ホシノの対応によっては、俺がホシノを嫌いになることだってある。昔みたいな事を乱発されたら流石にな」

 

 

 今の言葉で少しホシノに痛みが走り、顔が歪んだ。

 

 しまったと、そういう顔になったカヤツリは、言葉を付け足した。

 

 

「逆に俺がホシノに愛想をつかされるかもしれない。もう配慮は止めるから、扱いが多少雑になるかもしれない。お互い様なんだよ」

 

 

 そんなことはあるのだろうか。ホシノは想像がしにくかった。自分がカヤツリに迷惑を掛ける場面しか想像できない。それを見たカヤツリは笑って言う。

 

 

「お互い、好きなことを言っていいし要求してもいい。それを断ってもいいし、了承してもいい。ただお互い最低限の配慮はしましょうね。そういう話だよ」

 

「そんな普通の事……」

 

 

 ホシノは夕日の照り付ける校庭を歩きながら、言葉を漏らす。カヤツリが言ったのは、あまりにも普通の事だったからだ。他人が当たり前にやっていること。そんな事でいいのだろうか。

 

 

「そんな当たり前が、俺たちはできてなかったんだよ。俺は抱え込みすぎたし、ホシノは無関心で甘えすぎた。そんなものはいつかガタが来るに決まっているんだよ。それが限界を迎えて爆発した。そんな簡単なことが今回の顛末の原因だよ。そこに至るまでは色々あったけどさ。昔はできてたことができなくなってたんだよ」

 

 

 昔は、ユメ先輩が居た時は、まだできていたような気もする。もう一度同じようにできるだろうか。あの時とはもう何もかもが違ってしまったけれど、あの時のようにできるのだろうか。

 

 

「私にできるかな」

 

「できるよ。俺はホシノに期待してるんだよ。きっとできるってね。それは、ホシノが一番知ってるはずだ」

 

 

 カヤツリが隣を歩きながら、さっきよりも速く足を進めながら、言うのだ。

 

 そうなのだろうか。ホシノは自信がなかった。いつもカヤツリは優しいことを言うけれど、これも無理をさせていることにならないのだろうか。

 

 

「失敗を反省してくれるのは良いけど、さっきまでの俺みたくなられても困る。それに今回は根拠があるから」

 

「なんでよ。私はまた、カヤツリに慰められてる。セトにもカヤツリがなんか言ってくれたんでしょ。あんまり変わらないよ」

 

「でも、ホシノはここまで来た。誰かを頼って、自分のできる事をして、精一杯頑張って。満点とはいかなかったけれど、十分及第点だと思うよ。少なくとも俺は嬉しかった。初めてで、俺抜きでここまで行けるんだから、次はもっとできるんじゃないか。そうやって一つずつ成果を積み上げていくんだよ。それがホシノの自信になるんだ」

 

 

 カヤツリは、誇らしそうに、まるで自分の事のように喜んで。ホシノに伝えるのだ。

 

 

「今回は、ホシノが頑張った成果なんだよ。おかげで俺は今ここにいる。皆の所に帰れる。ありがとうホシノ。助けてくれてありがとう」

 

「……うん。どういたしまして」

 

 

 確かにその通りだと、ホシノは思った。これはホシノが初めて掴んだ成果だった。やっとホシノが手に入れたモノ。ずっと欲しいと渇望していたモノ。ホシノはやっとそれを手に入れたのだ。これなら少しは自分の事を認められそうな気がした。

 

 そうしているうちに校門まで着いた。その向こうはさっきの生徒会室の扉のように、白く光り輝いていて先は見えない。この先が出口だ。ここから出れば帰れる。そんな確信があった。

 

 

「よし、着いたな。忘れ物は無いか?」

 

「そういえば、色々話すことって? さっき言ってたでしょ」

 

「ああ、あれ。今みたいな事を、もう少しオブラートに包んで話そうと思ってたんだよ。ここは、よくも悪くも、本音しか言えないから。頑張ったっていうのと、遠慮はしないよっていうのと。これから先もよろしくね。みたいな?」

 

「そうなんだ」

 

 

 そうなんです。と答えるカヤツリに、ホシノは一つだけやることを思い出した。

 

 セトが言っていたことだ。確かにホシノからは言った事は無かったこと。甘えるのを控えるというなら、まずはこれからだろう。

 

 

「ねえ、カヤツリ」

 

「何? また忘れ物か」

 

「うん」

 

 

 忘れ物といえば忘れ物だ。大事なことは言わなければ分からないのだ。これは今回の騒動で分かったことの一つだから。だから忘れないうちに実践するのだ。

 

 

「私は、小鳥遊ホシノは、兎馬カヤツリの事が好き。ずっと一緒に居たいと思ってる。……返事を聞かせてよ」

 

 

 あの夜に、お互い言葉にしなかったこと。契約にはしたけれど、態度や行動で答えは分かっているけれど、そう言った事の積み重ねがこの事態を引き起こしたから。だから、ホシノは今言う事にしたのだ。これはとても大事なことだから。ここから始まるのだ。新しい二人の日々は。

 

 

「……俺は、兎馬カヤツリは、それを受け入れるよ。俺も、小鳥遊ホシノの事が好きだし、ずっと一緒に居たいと思ってる」

 

 

 ホシノとカヤツリ。二人の間に沈黙が流れる。答えは分かり切っていたし、今更の事ではあるのだけれど、これは大分恥ずかしい。

 

 カヤツリも何も言わないけれど、顔が随分と赤い。きっとホシノも同じ顔だ。だって顔が熱い。

 

 暫くしてから二人は校門に並んで向き直る。

 

 もう忘れ物はない。ここでやるべきことは無い。やるべきことはこの先に沢山待っている。大変だと思うけれど、きっと大丈夫だ。後輩たちもいる。先生もいる。何より隣にカヤツリが居てくれる。

 

 まだできない事の方が多い。けれど、できたこともある。それを今度は一つづつ積み上げて増やしていくのだ。それは、きっとできると信じられる。

 

 二人で校門をくぐる。白い光が二人の目を焼き、あまりの眩しさに目を瞑る。

 

 二人揃って目を開けば、アビドス校舎の保健室の天井が見えた。それと、心配そうに覗き込む、後輩たちと先生の姿が。

 

 彼女たちは二人に言う。それに対する答えは決まっていた。

 

 

「「「「「おかえり」」」」」

 

「「ただいま」」

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