ホシノ同級生相棒概念 作:洞鼬
「ふむ……神秘の出力が上がっていますね。何度も聞いて申し訳ありませんが、心当たりは?」
「知りませんよ……」
いつもの薄暗いオフィスでのオーナーの質問に、カヤツリは顔を歪ませて答えた。同じような質問を何度もされているのだ。心当たりのないカヤツリとしてはこの反応になるのも仕方なかった。
オーナーとの契約にある定期的な身体検査である。朝から拘束されたため、検査自体はすでに終わりカヤツリは椅子で休憩していた。オーナー曰く、アビドスに入学してから少しづつ神秘の出力が上がっているらしかった。
「テクスチャが安定したせいでしょうか。それとも土地の影響……。いや、ホルスとの接触?仮説はいくつも出てきますが……」
机の前で検査結果を見て唸っているオーナーを横目に、カヤツリは新しい銃を弄っていた。今迄はドローンと護身用の拳銃しか使っていなかったし、それで十分だったのだが突然オーナーに押し付けられたのである。
「悩んでいるところ悪いんですけどオーナー。このデカブツは何です。狙撃銃にしては大きすぎませんか」
新しい銃は全長が170㎝くらいの長物だった。全体的に細身であるが外装にケーブルやらよくわからない部品が付いておりそれなりの重さがあった。それに加えてカヤツリの身長並みの長さだ。取り回しは最悪だろう。
「それは電磁加速砲。所謂レールガンですよ。今の貴方の神秘の出力ならば扱えるでしょう。これでも軽量化はしてあるんですよ?まあ威力は銃というよりは砲ですが」
「なんで突然こんなものを」
「こういう長物の扱いはお手の物でしょう?これまでの実験に対する報酬ですよ」
オーナーの返答にカヤツリは素直に喜べなかった。今迄のことを考えれば必ず裏があるはずだった。聞いて答えてくれるかはわからないが、一応カヤツリは尋ねてみることにした。
「何か仕込んでませんよね」
「そんなに心配しなくとも大丈夫ですよ。計測装置くらいです。検査の際に持ってきて頂ければ十分ですから」
どうも、この銃は計測装置のついでのようだ。それならありがたくもらっていくことにする。そのままカヤツリは帰る準備を始めた。この後もパトロールの予定があるためだった。
「ああ、これは忠告ですが、しばらく、貴方はアビドス砂漠には入らない方が良いと思いますよ」
「分かりましたよ」
あまりにも意味深なオーナーの忠告にカヤツリは肯定の返事を返した。こういう事をオーナーが言う時は素直に聞いておいた方が得だったからだ。
「おや、今度は理由を聞かないのですね?」
「聞いても答えないでしょう?」
オーナーは”思いますよ”と言ったのだ。”入らないでください”とか”入ってはいけない”ではない。オーナーが断定しないときは大抵答えてくれないのだ。それが拘りかそうでないのかはカヤツリには知る由もなかったが。
「ええ、そうです。一本取られましたね」
くつくつと笑うオーナーに別れの挨拶をした後、カヤツリはアビドス校舎へ向かった。胸の中ではオーナーの忠告がずっと引っかかっていた。
□
オーナーのオフィスから歩いて校門まで行くとホシノがもう待っていた。まだ時間には余裕があるはずだが、カヤツリはオーナーの忠告のこともあって嫌な予感がした。
「随分早いじゃないか」
「暇だったからね。まだ時間もあるし、少しぼーっとしてたよ」
よくホシノの顔を見ると眠そうな目をしていた。また先輩が攫われたとかそういった異常事態でなくてカヤツリは安心した。ホシノはカヤツリの背負っている物を見て気になったようだった。
「その銃はどうしたの。すごい大きいけど、昨日まで持ってなかったでしょ」
「貰い物。今日のパトロールで試し打ちしようかと思って、こういう長物を使うのも久しぶりだから」
オーナーの仕事を受けるようになってからはカヤツリは銃をあまり使う機会がなかったが、練習だけはしていた。あまり腕が鈍っていないといいなとカヤツリは思う。また元の腕に戻すのは大変だからだ。
ホシノは大きなあくびを一つした後、カヤツリに向き直った。もういつもの顔に戻っている。
「カヤツリ。最近、少しおかしいと思わない?」
「ヘルメット団か?」
「やっぱり、カヤツリも気づいたんだ」
ホシノの質問には心当たりがあった。ヘルメット団の湧きが少ないのだ。以前はいくら潰しても翌日にはそれ以上の集団が湧いたものだが、ここ最近パトロールをしても一回も遭遇しないという事態が数回あった。
普通なら割に合わないと思って別の場所に河岸を移したと考えるのだが、それならこれまでだって起きていないとおかしかった。それに減るなら徐々に減っていくはずだった。こんな一斉に示し合わせたように姿が見えなくなるのはどうもおかしかった。
「何でだと思う」
「そういうのはカヤツリの得意分野でしょ」
「ちょっとは考えてくれ。俺がいなくなった時どうするんだ」
思考放棄するホシノに少し文句を言う。いつもカヤツリが傍にいるわけではないのだから、少しくらいは自分で考えて欲しかった。そんな事を言うとホシノの表情が変わった。雰囲気も少しさっきとは違って尖っている。
「何、今の」
「今のって……」
「いなくなるって何?何かあったの?」
──ヤバい。急に雰囲気が変わったホシノにカヤツリは自分が盛大に口を滑らせたことに気が付いた。とりあえず言い訳をする。
「言い間違えた。俺がいない時だってあるだろって話だ。さっきだって俺が遅れてきただろ」
「ああ、そういうこと。紛らわしいよ。カヤツリ」
雰囲気が戻ったホシノを見てカヤツリは安堵した。まだ大分余裕はあるがオーナーの依頼の期限は1年だった。最低期限と言っていたから、1年経ったら直ぐという訳ではないだろう。カヤツリとしてはすぐに戻ってくるつもりではいるのだ。
最近、気が抜けているとカヤツリは自戒した。
「何か、気づいた事とかないのか?」
さっきの空気を掻き消したくてカヤツリは話題を元に戻した。遠距離からドローンで爆撃しているカヤツリより、近距離で銃撃しているホシノの方が分かることがあるかもしれなかった。
「気づいた事って言われても……。別にいつもより手強いとかもなかったし……」
ホシノも首を捻っている。寝起きの頭で聞くことではなかったかもしれない。そのまま踵を返そうとしたカヤツリの足が、ホシノの一言で止まった。
「そういえば、カヤツリの新しい銃をみて思い出したけど、ヘルメット団の武器に重火器が多かった気がする」
「こういう長物ってことか?」
カヤツリが背負った銃を揺らすとホシノは首を振った。そのまま目を瞑って記憶を辿りながら呟いた。
「そういうのじゃなくて、なんだろ……。ロケットランチャーとかグレネードランチャーとか、榴弾を飛ばすのが多かったかな」
カヤツリも思い返してみれば、いつもより1台か2台は戦闘車両が多かった気がした。
確かに高速で動き回りながらショットガンを連射してくるホシノに、範囲爆撃は効果的ではあるだろう。ただそればかりで武器を固めては何の意味もない。敵に向けて一斉に撃ったところで前衛の味方ごと吹き飛ぶだけだ。まさか、いくらヘルメット団といえどもそこまで馬鹿ではないとカヤツリは思いたかった。
「そんなに考えても仕方ないと思うよ?早めにパトロール終わらせて、ユメ先輩にも聞けば?」
「……本当に正解を出してくることあるからな。あの人」
普段はポンコツな先輩だが別に頭が悪いわけではないので、ホシノとカヤツリが分からないことを普通に知っていたりする。そのあと調子に乗るのでホシノに冷たくあしらわれて涙目になるのがいつもの光景だった。
「そろそろ行くよ。カヤツリ。早くしないと置いてくよ」
もう考えるのに飽きたのか、前を行くホシノに”はいはい”と生返事をしてカヤツリは後を追った。
□
「ちょっと度が過ぎてないか。あれ」
「校門でカヤツリが変なこと言うからでしょ。どうするのさ」
「人のせいにしないでくれ」
遠くを双眼鏡で眺めながらホシノとカヤツリは言いあっていた。ヘルメット団を見つけたのはいいのだが、彼女たちが持っているものが問題だった。
「迫撃砲とか馬鹿じゃないか。ホシノはともかく人に撃っていいもんじゃ―痛い!やめろ!本気で殴るな!」
あまりの事態にカヤツリの口から悪態が飛び出した。すぐホシノの鉄拳でうめき声に変わる。犯人であるホシノは冷たい目で自分の拳をさすっていたが、何かに気づいたようで彼女たちとは別の方を指さした。
「でも、向かっているのはアビドス校舎の方じゃないよ」
「本気で殴る奴がいるか……そっちはアビドス砂漠の方だ。いくらなんでも砂漠から校舎までの射程はないだろうし……何を考えてるんだ。アイツら」
砂漠で訓練でもするのだろうか。弾代もタダではないだろうし彼女たちの目的が今一つ分からない。それに行き先がアビドス砂漠というのも気になった。朝のオーナーの忠告と同じ場所だ。
考え込むカヤツリをよそにホシノは銃の準備をし始めた。相変わらずのホシノにカヤツリは顔を手で覆う。
「何で、戦闘準備を始めてるんだ」
「先手必勝でしょ。カヤツリも準備しなよ」
「どうして、跡をつけるっていう選択肢が出ない……」
別にヘルメット団を殲滅してから聞いてもいいのだが、今回はオーナーの忠告のこともあり、彼女たちと砂漠の事実関係をしっかり確認しておきたかった。殲滅してからだと、嘘をつかれても確認のしようがないためであった。
何とかホシノを説得して、ヘルメット団の跡をつける。ドローンも同時並行で飛ばして音声も拾っていく。あまり近づくと感づかれてしまうため、音質はあまり期待できなかった。
『……おいし……依頼……』
『砂漠で……つだけ……楽』
『アビ……相手……良』
何か喋っているようだがまともに聞き取れない。しばらく跡をつけるとアビドス砂漠の入り口まで到着した。ここからは遮蔽物も何もないため普通に追えば見つかってしまうだろう。ここからはドローン頼みだった。
「普通に砂漠に向かって迫撃砲を撃ってるだけだよ。カヤツリの考えすぎだって」
ドローン映像ではひたすら砂漠に向かって、迫撃砲を発射しているヘルメット団が映っている。しかし、カヤツリの中にはホシノの言葉に納得できない自分がいた。しかしホシノの言葉を否定できないのも事実ではあった。
カヤツリは諦めて背負った銃を下ろした。オーナーがレールガンだとか言っていた”これ”だけでも試さなければやっていられなかった。
「ああ、試し撃ちするんだっけ」
「威力とか反動とかわかってないから離れた方がいい」
ホシノを遠ざけながらカヤツリはオーナーのオフィスで読んだ仕様書を思い出す。普通に引き金を引けば弾が出るのは普通の銃と同じらしいが、電力のチャージ時間で弾速が変わるようだった。フルオートも可能だとも書いてあったが、数分で銃身のレールが焼き切れるらしく非推奨になっていた。
遠くに撃ち終わった迫撃砲を運搬するヘルメット団が見えた。迫撃砲を狙ってカヤツリはレールガンを腰だめに構える。チャージが始まり、銃身のレールに紫電が走る。多少の倦怠感がカヤツリを襲うが無視できる範囲だった。
照準などついていないためドローンからの映像と目視で賄う。昔の勘は鈍っていないようで、それに従って銃についているレバー状の引き金を絞った。
「「は?」」
ホシノとカヤツリの声が重なった。思ったより銃声は大きくなく反動はそれなりだが、カヤツリでも耐えられる程度の物ではあった。問題は威力だった。
弾が直撃した迫撃砲は真ん中からへし折れて、残骸が放射状に散らばっていた。着弾の衝撃で迫撃砲を運搬していたヘルメット団の幾人かは吹き飛ばされている。弾は地面を貫通したのか地面に深い穴が開いていた。こんなものを間違って人にでも撃った日には殺人犯の仲間入りである。しかも、これがフルオート出来る?もう少し加減というものを考えて欲しかった。
遠くのヘルメット団も気絶した仲間を抱えて撤退を始めている。華々しいデビューを飾ったこの銃だが、しばらくは出番はこないであろうことは確かだった。