ホシノ同級生相棒概念   作:洞鼬

93 / 337
誤字報告、感想ありがとうございます。感想はとても執筆の励みになっています。


92話 変わらないもの

 釣り糸を垂らして数時間。なんの反応もない釣り竿を小刻みに振りながら。シロコは青空を眺めていた。

 

 ヘルメット団の襲撃の心配はない。さっき遠くの方で悲鳴と爆発音がしたから、きっと彼女たちが防衛装置に見つかって撃退された音だろう。複数の部隊で来ているのか、数分おきに同じような音と揺れが来ている。

 

 竿にアタリがないのも、この爆発音で魚が逃げてしまっているのかもしれない。

 

 ヘリの中に積んであった食料を思い浮かべる。カヤツリはバーベキューでもしようとしていたのか、肉やら野菜やらスイカやらがクーラーボックスに詰め込まれていた。シロコから見て結構な量だったが、あれを七人で分けるとなると少し物足りない。だから大物を釣ってくると意気揚々と宣言して数時間立っていた。

 

 そろそろ、釣りは諦めて潜水で貝類をかき集めるべきか、真剣に考え始めたシロコの後ろで聞きなれた声がした。

 

 

「釣れてるか?」

 

 

 シロコは無言で空っぽのクーラーボックスを指さした。カヤツリは何とも微妙な顔をしている。かける言葉が見つからない。そんな顔をしていた。シロコもカヤツリの立場だったら何も言えないだろう。あれだけの大口をたたいて、まさかの釣果ゼロは悲しいし恥ずかしすぎる。

 

 

「ホシノ先輩の所に居なくていいの?」

 

 

 シロコは釣果の事を追及されるのも嫌だったから、カヤツリに対しては特効の話題を振ることにした。個人的に気になったのももちろんある。てっきり、ホシノにつきっきりだと思っていたのだ。

 

 

「ホシノは疲れて寝てるよ。ハンモックの上でプラプラ揺れてな」

 

「疲れた? ホシノ先輩が?」

 

 

 確かにホシノはいつもは草臥れたおじさんのそのものの様子だが、実際はそうではないことを昔何度も叩きのめされたシロコは知っている。もしかしたら対策委員の誰よりも体力はあるかもしれない。そんなホシノが疲れて眠っているなんて悪い冗談だとシロコは思う。

 

 普段の、それこそシロコから見ても面倒くさそうな対策委員長の仕事なら分かるが、今回は休暇だ。それこそ全力で遊び惚けていてもおかしくない。カヤツリを引きずり回して楽しんでいるだろうなと思っていたのだ。

 

 疲れて寝ていると言う事は、疲れる何かがあったのだろう。ホシノを疲れさせるほどの何かが。そんな行為について想像がついたシロコはカヤツリの事をじとりとした目で見た。

 

 

「ん。スケベ先輩」

 

「いや、変なことはしてない。シロコの想像通りでなくて悪いけど」

 

 

 それじゃあ何をどうすれば、あのホシノが疲れるというのだろう。訝しげなシロコにカヤツリはどこか、おかしそうに笑いながら言う。

 

 

「夜のバーベキューの準備。ほとんど一人でやったんだよ。まだ早いって言ったんだけど」

 

 

 シロコはヘリの荷物を思い出す。確かに、あの数の道具を一人で引っ張ってくるのは骨が折れそうだ。

 

 

「カヤツリ先輩は?手伝ったんでしょ?」

 

「いや、あんまり」

 

「珍しいね」

 

 

 カヤツリはふるふると首を横に振る。普段から二人でやっているのが目立つのに、カヤツリが手伝わないとは考えにくかった。

 

 

「やる気が凄くてね。邪魔するのも悪いと思ったんだよ」

 

 

 カヤツリとの会話は繋がって、言っている言葉は分かるのに。そこにシロコには分からない何かが隠れている気がした。それが分かるのは、当のカヤツリとホシノくらいだろう。

 

 仲間外れにされたようで、寂しさと少しの苛立ちが湧いて、シロコは頬を膨らませる。

 

 あのカイザーの事件が解決してからはずっとそうだ。前ほどはカヤツリはシロコに構ってくれなくなった。前は、すぐに構ってくれたのに。最近はホシノばかりだ。ホシノの方も前ほどはシロコに構ってくれない。変わらないのはノノミだけだ。

 

 それは仕方ないのかもしれない。あくまで一緒にいるだけの他人なのだから、腹立たしく思うシロコがおかしい。ただシロコもこれは消化し切れないから、揚げ物みたいにいつまでもしつこく残っている。

 

 

「……先輩はもう少し私に構うべき」

 

「ああ、悪かったよ。釣り竿を見てれば良いのか?」

 

 

 こくりとシロコは頷いて、竿のリールを巻いていく。仕掛けを投げ直してカヤツリに預けて、その間にシロコは潜水して貝を拾う。完璧な作戦だった。きっとどこかの誰かもかんぺき~と言うこと間違いない。

 

 カヤツリを長時間拘束することになるが、シロコは気にしない。普段の時間を考えれはお釣りがくるくらいだ。ホシノは欲張りすぎだから、これくらいは良いはずだった。

 

 

「はい。カヤツリ先輩」

 

 

 シロコは引き上げた仕掛けと竿をカヤツリに渡そうとする。が、カヤツリは竿を見て、なんだか溜め息が出そうな様子でシロコに問う。

 

 

「それで、何を釣るつもりなんだ?」

 

「ん。カジキ」

 

 

 事前に調べたから知っている。ここの近海ではカジキが釣れるらしい。そのためにわざわざ専用のモノも用意したのだ。

 

 

「あー……道理で他の魚が釣れないわけだ。針がデカすぎる。これじゃあカジキ以外は食いつけないだろうな……」

 

 

 カヤツリが竿の先の仕掛けを見て、どこか残念なモノを見る目でシロコを見る。シロコだって、カジキが浅いところでは釣れないことくらい知っている。だからここから全力で竿を振ればそこそこの飛距離が出るはずだ。調べた釣れるポイントの近くまで投擲するだけでいい。そんなシロコの回答を聞いてカヤツリは呆れた声を出す。

 

 

「脳筋の極致みたいな力技は止めろ。……よし、シロコはカジキを釣りたいってことで良いのか」

 

「うん」

 

 

 カヤツリの問いにコクコクと頷く。するとカヤツリは初めて二人で銀行強盗をした時の顔で面白そうに言った。

 

 

「船釣りに興味はあるか?」

 

 

 □

 

 

「ん! ん! ん!」

 

 

 シロコはグイグイと海に向かって引っ張られる竿と格闘していた。

 

 カヤツリの提案に一も二もなく頷いたシロコは、あれよあれよという間に船に乗せられて沖に出ていた。船と言ってもモーターボートのような小さい船ではなく、いわゆる漁船サイズの船だった。

 

 カヤツリが言うにはリゾートの港に係留したままになっているのを持ってきたそうだ。船の運転は出来るのか心配になったが、どうやら自動運転らしく目的地を設定すれば、そのまま海上を走ってポイントまで連れてきてくれた。

 

 海上を走る船の上から釣り糸を垂らして数十分。直ぐにアタリが来て、合わせたシロコは今までずっと暴れ狂う竿と格闘している。

 

 シロコもノノミには及ばないが腕力はある方だと自負している。竿の先に居るであろうカジキよりも力を出すことはできるだろう。ただそれをやってしまえば糸か竿が保たないであろうことがシロコには分かっていた。だから、カジキが疲弊するのを待ちつつ、逃げられないように竿を制御していた。

 

 右、右、左、上、下と竿があらゆる方向に暴れ狂う。シロコも負けじと抵抗したり緩めたりしてチャンスを伺う。

 

 

「ん!!」

 

 

 ここだというところ。相手の竿を引く力が弱まった瞬間にシロコは思い切り竿を引き上げた。竿の先の獲物も抵抗するが、為す術なくシロコの竿で海上に引きずり上げられる。そして、その勢いのまま船の甲板にドンと鈍い音を立てて落ちた。

 

 獲物をみれば、シロコの思った通りにカジキであった。槍のような上口に大きい身体というおなじみのフォルム。間違いなくカジキだった。それを見たシロコの機嫌は上々だ。

 

 

「おお、デカいな。やったな!」

 

 

 カヤツリも嬉しそうにシロコに笑いかける。シロコも同じように笑顔で笑う。当初の目標も達成できたし、いつかの頃のような気持ちを思い出せたからだ。あの日の、銀行強盗の後のように気分は晴れやかだった。

 

 釣られたカジキといえば、あっという間にカヤツリによって血抜きされて、船上で逆さに吊られていた。随分と手慣れた様子だ。

 

 

「カヤツリ先輩。そんなのどこで覚えたの?」

 

「バイト先」

 

 

 変なバイト先もあったものだと思う。カジキを吊り上げて満足したシロコは、カジキの下処理をしているカヤツリに気になったことを聞いてみることにした。

 

 

「バイト先ってゲヘナの給食部? カジキを捌くの?」

 

「いや……通常業務は関係ないんだけど。テロリストの要求で捌くことがあるんだ」

 

 

 なんだか似つかわしくない言葉が飛び出した。テロリストなんて食堂に出現するとは思えないのだが。カヤツリは下処理の手を止めずに経緯を話す。

 

 

「美食研究会っていうのがいてな。食に対する姿勢は良いんだけども、気に入らないことがあると食堂を爆破してくるんだ。で、時々カジキみたいなデカい魚を捌いてくれって来るんだよ。この前はマグロを持ってきたな……」

 

「大変なんだね」

 

 

 遠い目をするカヤツリを見てシロコはこの話題に深入りするのを止めた。正気を疑うような事件が飛び出してくる気がするし、カヤツリの作業ももうすぐ終わりそうな気配がするからだ。

 

 シロコの想像通りに作業はすぐに終わり、カヤツリが目的地をホテルへ設定すると船は其方へ向けて航行を始めた。

 

 あとは島に着くまでダラダラするだけだ。カジキとの格闘で疲れたシロコは景色をぼーっと眺めていたが、妙なことに気がついた。

 

 

「カヤツリ先輩。ちょっと来て」

 

 

 訝しげな顔で近づいて来たカヤツリにも分かるように、シロコは指さした。

 

 

「船がある。遠くの方に沢山停まってる」

 

「……ここは群島だからな。他の島の船だろう。何が気になるんだ?」

 

「人が乗ってる」

 

 

 ここが群島なのはシロコも知っている。対策委員も知っているだろう。ホテル自体はあの島にしかないが、群島全体がリゾートなのだ。ロストパラダイスリゾート、それがこのリゾート地の名前だった。

 

 ホテルが廃墟と化していたという事は、他の島も同じようになっているはずなのに。あの船の数とそれに乗っている人は何なのだろう。

 

 

「このまま帰って、先生と皆に報告だな。少なくとも防衛装置が働いている以上はあの島は安全のはずだ。ここは様子を見よう」

 

「分かった」

 

 

 シロコは了解したように頷く。ここにはカヤツリとシロコの二人しかないし、武器も心もとないから。ひとまずみんなの所に帰るのは賛成だった。

 

 二人の乗った船は静かに海を進んでいく。冷たい潮風が気持ちよくてシロコは目を細める。そのまま波に揺れていると大事なことに気がついた。シロコが提案したとはいえ、カヤツリが忘れていることがあるからだ。

 

 

「そういえば、先輩。皆に連絡はしてあるの? 沖に出てくるって」

 

「したよ。皆が心配するからな」

 

 

 カヤツリは当然と言った雰囲気で返事をするが、シロコが心配しているのはそこではない。

 

 浜で釣る気だったシロコはカジキの事で頭が一杯だった。流されるままに沖まで来てしまったが、そこはどうなのだろうか。カヤツリの事だから、連絡はしているだろう。シロコが心配しているのは、そこではなく誰に連絡したかだ。

 

 

「え? 先生とアヤネ後輩とセリカ後輩と十六夜後輩だな。ホシノはほら、寝てたから。起こすのも悪いだろ」

 

 

 シロコは天を仰いだ。想像の通りだからだ。

 

 疲れて寝ているとカヤツリは言ったけれど、シロコが想像するホシノなら。”一緒に寝ようよ”くらいは言っていると思うのだ。どうせ家でも一緒に寝ているのだろうとシロコは思っている。そこまで聞いたことは無いが、シロコだけは知っている。もしかしたらセリカも知っているかもしれないけれど。

 

 シロコは鼻が良い。だから、分かるのだ。時々、ホシノとカヤツリが同じ匂いをさせている時があることに。わざわざ、それを口に出さないくらいの良識はシロコにもあった。

 

 いくら何でも、ホシノも夜まで寝ているという事はないだろう。途中で少なくとも一回は起きるはずだ。その時にカヤツリが隣にいないことに気がつくだろう。怒りはしないだろうが、良い気分はしないだろうなとシロコは思う。

 

 

「……カヤツリ先輩。頑張ってね」

 

「怖い事を言わないでくれ……」

 

 

 シロコの質問の真意に思い至ったのか、カヤツリはやらかしてしまったというような顔をしている。

 

 

「そもそも、どうやってホシノ先輩の所から抜け出してきたの? ホシノ先輩の事だから、気配で悟られない?」

 

「いや、ホシノが自爆したんだよ」

 

「自爆?」

 

 

 カヤツリの言っている意味が分からなくて、シロコは言葉を繰り返す。自爆とは何だろう。まさか言葉通りの意味ではないだろうし。シロコの頭の中で自爆の言葉がくるくる回っていた。

 

 そんなシロコを見て、カヤツリは指を三本立てて、一言ずつに折っていく。

 

 

「海、熱い日差し、水着。必要なものは? 十六夜後輩に何か渡されなかったか?」

 

「ん。日焼け止めなら渡された」

 

 

 そんなものは必要ないとシロコは思うのだが、ノノミはそういう事にとてもうるさい。逆らっても、あの笑顔のままで言うことを聞かされるのは身に染みている。だからおとなしく肌の露出部分に塗っている。見たところカヤツリもそうだろう。水着にパーカーを羽織って、帽子まで被っている。日差し対策は完璧だった。その日焼け止めがどうして自爆に繋がるのかはシロコには分からなかった。

 

 

「だから、ホシノは自分で塗らなかったんだよ」

 

「……ん。大胆。カヤツリ先輩に塗らせたの?」

 

「背中だけな……」

 

 

 役得だろうに、カヤツリはどこか死んだ目をしている。嫌な予感がひしひしとするけれど、興味には勝てずにシロコは先を聞いた。

 

 

「どうなったの」

 

「ホシノは背中と首筋が弱いんだよ。そこに塗ったらさ。まあ、その、なんだ。醜態を晒したというか、奇声を上げたというか、ちょっと見せられない姿になったというか……まあ、恥ずかしいことになったんだよ」

 

「ん。やっぱりスケベ先輩」

 

 

 シロコの一言に今度はカヤツリは反論しなかった。できなかったのかもしれない。ある意味、納得だった。きっとホシノは設備の設営が終わった後にカヤツリに頼んだのだろう。その後に醜態を晒してふて寝したのだ。疲れたのもあるだろうが、一番の理由はそれだろう。

 

 偶然ホシノがああなったから、カヤツリはシロコの所に来たのだ。少し残念な気持ちになる。カヤツリに構ってもらえるホシノが羨ましいし、ホシノに構ってもらえるカヤツリが羨ましかった。だからだろうか、その気持ちのまま聞くつもりのなかった質問が飛び出た。

 

 

「カヤツリ先輩は、面倒くさくならないの?」

 

「ホシノが?」

 

「そうじゃなくて、色々、私たちの為にやってくれている事。ホシノ先輩なら分かる。カヤツリ先輩にとって大事な人だから、でも私たちは違う。ホシノ先輩じゃない」

 

 

 確かにカヤツリの言う通りに、ホシノは相応に面倒くさいのではとシロコは思うことがある。けれど、それはカヤツリも承知なのだろう。むしろ頼ってほしいくらいなのかもしれない。今のホシノはシロコと初めて会った時とは違うから。我儘だけど、本当に幸せそうだから。同じような笑顔のはずなのにどこか違うのだ。

 

 でも、シロコ達はそうじゃない。確かに大切な仲間なのかもしれないけど、ホシノよりは程度が落ちるはずだ。それは最近シロコに構ってくれない事が証明していた。

 

 あの尾行事件までは普通に構ってくれていたのに。交際している事が発覚してからは構う頻度が減っていた。考えてもみれば当たり前の話だ。もう隠す必要はないのだから。

 

 今はシロコに付き合って船まで出してくれたけど、本当はカヤツリはホシノと一緒に居たかったのではないだろうか。

 

 もし、そうなら嫌だなとシロコは思う。

 

 卑怯な質問だ。そうではないことは、カヤツリがそう思っていない事は分かっている。カヤツリが、そんな人間でないことは十分に承知している。これは試しなのだ。自分の中の寂しさや孤独感を一人じゃどうしようもできなくて、ただそうじゃないよと言ってほしくて、カヤツリを利用しているだけなのだ。

 

 

「……シロコ。確かに程度はあるよ。もちろん、対策委員の皆も大事だけれど、ホシノも大事だ。俺の中では天秤がホシノの方に傾きやすいという事があるかもしれない。今までみたいにな」

 

「……」

 

 

 期待した答えが聞けなくて、シロコは少しショックだった。気分が暗くなってしまったシロコにカヤツリは静かに話す。

 

 

「それで、何かが変わるという訳じゃないんだよ。最近はあまりシロコと話してないのは悪かった。気を付けるよ。俺も浮かれてたから。でも、決してシロコ達がどうでもいいわけじゃないんだ」

 

「ん……」

 

 

 分かっている。それは分かっている。でも期待していた答えはこれじゃない。自分でも答えが分からないくせに、違う事は分かった。シロコは何かが不安だった。前までとは違って順風満帆のはずなのに。前の方がこんな気持ちを抱くことは無かった。なんだか自分の気持ちが分からなくなってしまった。

 

 そんなシロコをカヤツリはじっと見て、質問をした。

 

 

「寂しいのか?」

 

 

 カヤツリの質問に首を横に振る。そうなのかもしれない、けれどそれだけではない気がする。寂しいのは本当だけれど、この不安は一体何なのだろう。

 

 

「置いて行かれそうな気がしたのか? それで寂しくて、不安になったのか? 皆が居なくなってしまうんじゃないかって」

 

「うん。そうかもしれない」

 

 

 カヤツリの出した答えがぴったりかもしれない。ずっと一緒だと思っていたのだ。ずっと変わらないと思っていたのだ。ホシノがカヤツリが、ノノミが、セリカやアヤネが。ずっと一緒に居てくれるものだと思っていた。

 

 でもそうじゃないのだ。それを最近のホシノとカヤツリを見て思い知らされたのだ。それぞれに人生があって、偶々シロコの人生と重なり合っているに過ぎないのだ。いつかそれは離れる時が来るのかもしれない。構ってくれなくなった二人を見て、そう思ったのだ。

 

 

「私の世界はここなんだよ。カヤツリ先輩。この対策委員会が私の世界の全てなんだよ」

 

 

 シロコの世界はここから始まったのだ。あの雪の日にホシノとノノミに拾われて、カヤツリに会って、アビドスの生徒になった日にシロコの全てが始まったのだ。シロコにとって、それが壊れるのが、一人になってしまうのが。シロコにとっては嫌だった。置いて行かないでほしかった。

 

 

「時間は流れるものだよシロコ。何時までもこのままではいられないんだよ。確かに変わらない物なんて無いよ。いつか俺は大人になるし、シロコだって大人になる日が来るだろう。これは生きている限り逃げられないんだ。いつか俺たち全員が対策委員会でなくなる日がきっと来るんだ。嫌だけどな」

 

 

 シロコにとって聞きたくない話だ。いつか来るであろう日の話だった。でもカヤツリは優しい顔で言うのだ。

 

 

「でも、変わらない物もあるんだよ。シロコが俺やホシノの後輩である事には変わりがないし、ノノミがシロコの同級生である事には変わりない。もちろん、アヤネやセリカにとってシロコが先輩であることに変わりない。それは変わらないものだよ。別に俺たちが対策委員会で失くなっても、その関係は変わらないんだ。何時でも会えるし、話せるだろ。そんなに怯えなくていい」

 

「そうなのかな……」

 

「そうだよ。そのためには今が大事なんだよ」

 

 

 またぞろ難しい話をカヤツリはする。でも大事な話だろうからシロコは耳を傾ける。

 

 

「今はただただ楽しめばいいんだ。今は楽しんで、未来でさ。こういう事もあったねって話せばいいんだ。あったことは変わらない。過去は変えられないなんて悪い意味で使う事が多いけれど、良いことだってあるんだ。だからさ。元気出してくれ、ある程度の事は聞くからさ。皆にタコ殴りにされたくはないんだ。俺が、そうされてもおかしくない程にシロコは皆に大事に思われてる」

 

「……ん」

 

 

 期待した答えでは無かったけれど、十分シロコにとって納得ができる答えだった。つまるところ今を楽しんでいれば良いという事だろう。シロコが大事にしている者はそんな簡単には壊れないと。カヤツリがそう言うのなら、シロコは安心できた。

 

 

「じゃあ、ホシノ先輩と同じで良いから、お弁当作って。お金は出すから。そしたら元気が出る」

 

「まあ、いいよ。二つも三つも変わらないからな。そんなに気に入ったのか」

 

「うん」

 

 

 前に作ってもらったものはとても美味しかったから。なんだか温かかったから。即答してくれたことが嬉しくて、シロコは笑う。

 

 前方を見れば皆が居る島が近づいていた。きっと吊り上げたカジキを見ればみんな驚くし喜ぶだろう。これもまたカヤツリが言ったように、いい思い出になるはずだ。こういう幸せな思い出を積み上げていくのだ。そうすればきっとシロコは怖くない。変わってしまうモノも、変わらないモノもきっとあるのだろう。

 

 でも、願わくば、この幸せな日々がずっと続いてほしいと、皆とずっと一緒に居たいと、シロコは思うのだ。

 

 それを肯定してくれるかのように、青空には太陽が輝いてシロコを照らしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。