アレーヌ市街戦   作:曽結

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時系列的には前話より前です。

12/16 文章間隔の調整をしました。
2/25 文章表現の一部修正をしました。


第二話 車両にて

 四月初めの曇り空の下の平原を列車が走っている。

 その列車を観察した者は、その行き先についての情報が書かれていないことに気付くだろう。

 いくらかの者は「行き先がわからない列車なんて珍しいものを見た」というようなことを述べるかもしれない。

 しかし、多くの者は不思議がることはない。彼らは戦争が始まって以来たびたびそのような汽車を見ているか、知っているからである。つまり、この列車は軍用列車なのだ。

 この列車は大体二十両ほどの編成で、前線に向かう際は食糧や弾薬、医薬品、燃料、郵便物に建設資材に補充兵などを満載していく。

 しかし今回走っていくのは前線とは反対の方向へであった。後方へ帰る際には列車に積むものも多少変化する。

 弾薬、食糧、建設資材、補充兵などの代わりに傷病兵や休暇兵が乗るのである。

 大規模な戦闘の後には、その戦闘の結果としての怪我人の多さゆえに、車両からはみ出してしまうのではないかというほど数の兵士が積み込まれる。

 だが、今走っているこの列車の内部を見てみると、人をそれほどよけずとも車両の中を歩いていけるほどの混み具合であるから、むしろ空いている方であろう。

 車両の中を覗いてみると、まだ冬の寒さを残す天気からか、多くの兵士がコートを着ている。その青を基調とした色合いを見れば、彼らが共和国軍の兵士であると一目でわかる。

 そして、そのような兵士の多くは疲れや安心感からかボックスシートの座席で眠りこけていた。起きている者も、会話をする元気などなさそうなものが大半を占めた。

 しかし他の多くの者と違い、眠らずに、起きたままでいる者たちがいくらかいる。

 そういった者らのだいぶ煤けた軍服をよく見ると、起きているもの数人が全員共和国軍の魔導士であるということがわかる。

 その中に特務曹長の階級を持つ、二十四、五ほどの黒髪の男がいる。将校は別の車両に振り分けられるため、彼はこの車両内で最も高い階級を持つ者の一人である。

 彼は黒髪碧眼で、内面を深く話したがらないという無愛想さが顔にも出ている典型的な都市育ちの顔立ちをした青年であるが、戦場での三年間の経験にもかかわらず、その顔には長い間前線にいた兵士が持つ独特の険がほとんど見られない。

 彼は新聞を読み終えると頭の向きを変えないまま、自分の右斜め前でボックスシートの窓側に座っている自分と同じ階級の小柄な赤毛の男へ静かに話しかけた。

 

「なあ、アンリ。」

 

 話しかけられたアンリ・ブリュネは視線を外の景色から外さないまま返答した。

 

「新聞になにか面白いことでも書いてあった?ロジェ。」

 

 ロジェは多少頭をアンリの方向に向けながらこう返した。

 

「いや、特には書いてない。しいて言うなら『兵士の生活』欄くらいじゃないか。」

「そうか、じゃ、何の用?」

 

 そう聞かれるとロジェは一度軽く息を吐き、自分の服のポケットのどれかに入っているはずの煙草を手で探しはじめながらこう言った。

 

「この大隊はこれからどうなると思う。」

 

 その言葉を聞くとアンリは視線を窓から外してロジェのほうを向き、多少笑いながら何か予想外のことを聞かれたような顔を見せると「さあね。」と答えた。そしてこう続けた。

 

「まあ大隊といっても『悪魔』のせいで今じゃ中隊規模の人数しかいない。僕たち第三中隊も二個小隊に満たない人数しかいなくなってしまったし、再編成するしかないでしょ。」

 

 そこで言葉を切り、ロジェが煙草を探しているのを見てとると多少呆れた様子で

 

「あと、煙草の最後の一本は新聞と交換してたでしょ。なんで覚えてないの。」と言った。

 

 ロジェはそのことを思い出すと、少し黙ってから「そうだった。」と呟いた。

 そして忘れていたことをごまかすようにアンリに言った。

 

「しかし、再編成するとなれば新しく補充兵が送られてくることになるだろう。うちは壊滅したとはいえ特殊作戦軍だ。生半可な状態の兵士を送られると死ぬ奴が増えるじゃないか。」

 

 アンリはそれに頷いてからこう返答した。

「だから、再編成するにしたって腕っこきの兵士たちが送られてくるはずだよ。」

 

 ロジェはその返答に多少疑問を持ったようでアンリにこう言った。

 

「それだと前線の負担がますます増える。軍は使える戦力を全て帝国軍に投じている状況だ。その状況で前線からさらに腕利きを引き抜くなんてよろしくないだろう。」

 

 アンリもその点はわかっていたようでロジェにこう尋ねた。

 

「それもそうなんだよね。じゃあ、ロジェはどう思う?」

 

「そうだな、例えば……、これはどうだ。我々の大隊は教導隊の役を負うことになるんだ。」とロジェは静かに言った。

 

「うちの大隊は、おそらく共和国で初めて『悪魔』の部隊と本格的に戦った魔導士部隊だ。奴と戦った者は過去にもいたが、奴の率いる部隊と交戦し、生き延びたのは我々だけだ。大隊の規模は縮小したが、なお戦力は残っている。これを活かさない手はないだろう。どうだ?」

 

 「たしかに、それは十分ありえる話だ。」とアンリは納得したように言った。

 

「それなら、補充兵の訓練だけに時間を費やすより、もっと大きな成果が期待できそうだ。」

 

 そうしていると、アンリよりも少し背の大きい金髪の青年が戻ってきた。ロジェは彼が戻ってきたのを見ると、それほど大きくはない声で彼に呼びかけた。

 

「ヴィクトル、ずいぶん長かったな。どこに行ってた?」

 

 ヴィクトル・グレゴワールはロジェを見て答えた。

 

「はい、特務曹長殿。トイレに行った後、列車の一番後ろで景色を眺めていました。自分の力とは無関係に運ばれる感覚が面白くて、つい長居してしまいました。」

 

 ロジェは苦笑しながら言った。

 

「つくづく変な奴だな、お前は。」

 

 そして、こう尋ねた。

 

「ところで、ずっと景色を見ていたなら、今どのあたりかわかるか?アンリも俺も土地勘がないんだ。」

 

 ヴィクトルは少し考えてから答えた。

 

「はい、いいえ、特務曹長殿。メッススを出発したことを考えれば、多分ロンスに向かっていると思いますが、正確な場所はわかりません。」

 

 ロジェは頷き、「そうか。ありがとう。」とだけ言った。

 

 ロンスの近くにはマルヌム・キャンプがある。そこは、大損害を受けた部隊が再編成される場所だ。もしそこに向かっているのなら、しばらく前線には戻らないだろう――ロジェはそう考えた。

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