アレーヌ市街戦   作:曽結

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第二十一話

 

殿を務めるロジェは、迫り来る帝国魔導士全員を一手に相手取るなどという英雄的な行動は決して考えなかった。そもそも彼らはその一人一人の質でもロジェと互角かそれ以上なのだ。その彼らが数的優位をもって攻撃してくるのだから、全員を足止めするなど到底不可能なのは自明だった。

 

ロジェが目視できる範囲には三人の帝国魔導士が飛んでいた。そして、例の女魔導士―セレブリャコーフ少尉―がその先頭にいた。先ほどまでの帝国魔導士の数と引き算し、砲兵陣地の襲撃へ向かう友軍に通信を入れようとした。しかし干渉術式が発動されているときの独特の感覚によって、その通信はアンリ達へ伝わらないことをロジェは悟った。

 

ロジェはアンリ達の幸運を祈り、現状で自分にできることが何かを改めて考えた。少数によって多数を遅滞させる戦闘は何度か経験したことがある。その時の経験から、ロジェは三つの要素が重要だと考えた。

 

第一に「無視するには邪魔な存在」であらなければならない。

ロジェの見るところでは、自分を追ってくる女魔導士は悪魔の大隊でも特に強力な魔導士である。それに、三人というのは数だけ見れば少ないが、アンリ達に最も接近していた戦力の三分の一をロジェ一人に割いていることになる。

ここから、第一の要素は達成できているだろうとロジェは判断した。

 

第二に必要とされるのは、できる限り長く生き延びることである。

これは彼我の戦力と運によるが、戦力の差についてはなかなか厳しいといったところだ。だが少なくとも、ロジェに死ぬ気はさらさらなかった。

第三の要素、自分を援護してくれる戦力については絶望的だった。ロジェの経験上、反攻に転じるにせよ、撤退するにせよ、援軍は必要だった。だが今回はそれを望めそうもない。

 

つまりロジェの考えるところでは、この状況は「あまり良くない」状況であった。

 

しかし帝国軍がいかに素早く部隊を移動させるとはいえ、大砲を移動させるのは手間である。しかもアレーヌが蜂起してから一日もたっていないのだ。現在この都市に向けられている砲は、どんなに頑張って集めたとしても、三十門程だろう。それが各方位に分散しているのだから、アンリ達が襲撃しに行っている砲兵陣地にある砲はもっと少ない。その程度の数ならば、中隊の内一人でもそこに到達できれば、瞬く間に陣地内壊滅させられる。それによって市民の被害も減る。状況が良くないとはいえ、ロジェにとって最善を尽くすのは当然のことだった。

 

追い立てるセレブリャコーフたちは、彼女がロジェの上を抑え、残りの二人が後ろからロジェを追跡する形だった。

ロジェは昼間の戦闘でセレブリャコーフとツーマンセルを組むグランツ少尉を戦闘不能に追いやり、つい先ほども第二百三大隊の魔導士を殺害に至らずとも一人撃墜している。それに彼女らも共和国軍の干渉術式によって通信を妨害されているので、他の部隊と分断されている。警戒して当然だった。

 

三人が連携しつつ放ってくる的確な射撃はロジェの動きを制限し、ロジェは致命的な攻撃を避けつつも確実に傷ついていった。その内に、ロジェは彼が騎乗する馬型の高機動ユニットに被弾した。これは帝国魔導士と同等の速度を出すのに不可欠であるから、装備品の中でもとりわけ頑丈に作られていた代物である。だが当たり所が悪かったらしく、ユニット内の宝珠がロジェの魔力に対して不安定な反応を返すようになった。

 

ユニットに据え付けてある機関砲はそろそろ弾切れであった。ロジェは攻撃の機能も飛行機能も十分に果たせなくなった高機動ユニットを一瞥し、宝珠へ魔力を丁寧に込めるとそのまま飛び降り、邪魔だと言わんばかりに後方に吹き飛ばして自爆させた。

高出力の宝珠は一時的に耳が聞こえなくなるほどの音量とともに大爆発を起こし、周囲の燃え盛る建物をいくらか崩壊させた。それによってセレブリャコーフたちの視界はしばらく遮られた。そして再び視界を回復するまでに、ロジェの魔導反応が消え失せた。

 

視界が回復するとセレブリャコーフたちは目を皿にして一帯を見回したが、それらしき人影は見えなかった。建物の中に潜伏するにしても周囲は赤々と炎に染まっており、耐熱術式なしでこれらの建物の中に入るのは自殺行為に違いないと思われた。物音に耳を澄ましても都市がごうごうと燃える音が聞こえるのみ。

 

「奴さん、どこに消えやがった。」

 

セレブリャコーフに随伴する魔導士の一人がそう言った。彼はロジェがまだ死んではいないことを確信し、次の攻撃を警戒していた。

セレブリャコーフも同様だった。しかし、魔力を使わずに生身でこの熱波の中に長くいられるはずもない。一分とたたずに姿を現すか耐熱術式を発動するかを選択せざるを得ないだろう。出てこなかったのならばそれは死んだと同じだ。

 

彼女がそう考えて言葉を発そうとした瞬間、重砲の発射音のような轟音とともに巨大な光の塊が飛んできた。彼女は最小限の動きで、他の二人はそれよりやや大きい動きでそれをかわした。

 

「西から?」

 

光線が飛んできた方向へ意識を向けた際に、思わず彼女の口から零れ落ちた言葉だった。その方角ではターニャが共和国軍の大尉―ジラール大尉―と戦っているはずだ。それを考える間も無く、発話と同時に共和国軍の干渉術式が途切れ、通信が舞い込んできた。

 

「砲兵陣地を敵魔導士が襲撃、敵戦力は既に排除済みなれど被害甚大にて砲撃続行不可能。」

 

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