アレーヌ市街戦   作:曽結

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第七話 悪魔の部隊

 第四中隊は急速に上昇を始めた。並みの魔導士ならば、この速度で上昇すれば気を失い、そのまま墜落するだろう。だが、第四中隊の隊員はそのようなこともなく、上昇を続けた。

 高度八千に到達すると同時に通信が入り、彼らは上昇を停止した。その通信は、高度六千において第一中隊が『悪魔』の市街地接近を遅延させるための長距離狙撃をしたものの、ことごとく回避されたことを伝えるものだった。つまり、数分以内に間違いなく近接戦に移行することを告げられたのである。

 近接戦に移行するとなれば、魔導士にとっては下手に高度を稼ぐよりも、市街地の地形を活かして遮蔽を使うほうが有利な場合もある。特に今回は高高度戦闘に優れるとされる『悪魔』が相手である。

 ゆえに、第一中隊の長距離狙撃が失敗したからには、高度を稼ぐことは最優先事項ではなくなったと判断されたのである。次いでビアント中佐からの指示が伝達された。各小隊ごとの統制射撃で遅延戦闘に努めよとのことであった。

 その指示を受けて第四中隊は中隊から小隊へと分かれ、帝国軍の来る方へと進んでいった。第四中隊が帝国軍の来る方向に最も近かったことから、彼らが先鋒となった。

 ロジェは自分たちのものではない魔導反応が近づいてくる方、つまり正面やや下方、を目を凝らして見た。小さな点が高速でこちらに寄ってくるのが見える。どうやらこのまま突っ込んでくるらしい。こういうときは先に撃つに限る。ロジェがそう考えると同時に、同じように考えたらしいジラール大尉から指示が出た。

 

「光学術式用意!」

 

 共和国魔導士の対魔導士基本戦術は小隊単位での統制射撃の連携であり、初歩的な運用は以下のとおりである。まずある小隊が横隊をつくり、横方向の逃げ道を塞ぐように射撃する。敵魔導士は必然的に上下の回避行動をとるが、その動いた先をまた別の小隊の射撃の列が塞ぐ、といった具合だ。これを対空砲や航空機と組み合わせるなどして動きを制限していくことがライン戦線では主流である。

 ジラール大尉が率いる第四中隊は指示通り光学術式での統制射撃をするために、光学術式が封入された術弾を彼らの銃に装填した。国を問わず、魔導士の攻撃術式には大きく分けて二つの種類がある。光学術式と爆裂術式である。

 前者は熱線を打ち出す術式であり、主に魔導士の能動的な障壁や重目標の装甲を貫通することを目的として使われる。後者は名前の通り任意の座標で大爆発を起こす術式であり、光学術式よりも広範囲に被害を与える。しかし装甲目標への威力は光学術式のそれよりも低く、ライン戦線では主に歩兵や砲兵を排除する際に使われる。

 この二つの術式は、通常術弾に封入されて使われるが、高練度の魔導士であれば銃を王笏に見立て、術弾がなくとも術式を発動し、弾丸がなくとも術式を打ち出せる。これらを基礎とし、干渉術式や誘導術式、狙撃術式など様々な補助術式を組み合わせて魔導士は戦うのである。

 そして今回指示されたのは光学術式、当然の判断だ。もしここで、万が一にも、なぜ爆裂術式ではないのかと質問する奴がいたならば、そいつは新兵訓練からやり直しだろう。ロジェは徐々に人の形を明らかにして来る帝国魔導士たちを見ながらそう考えた。

 通常、敵中へ正面から突入する魔導士は能動的な障壁を形成する。常時展開可能な受動的な防殻と違い、能動的な障壁はある部分の防殻の密度を意識的に強化するのである。強力な魔導士であれば能動的な障壁で高射砲弾の直撃を防げるとまで言われている。その場合爆裂術式は防殻の表面で爆発するだけとなってしまうがゆえに、その障壁を貫通しうる光学術式が使われるのである。

 突っ込んでくる帝国の魔導士たちは中隊規模であり、直線飛行を数秒以内に抑えながらロジェたちへと近づいてくる。彼らが接近してくる間に残りの第二大隊が到着し、第四中隊ととも戦列を形成した。統制射撃が命中すると確信できる距離にあと数秒で入るだろうという刹那、第四中隊の面々はひと月前の戦闘が急に脳裏によぎり、目の前の光景に強烈な違和感を覚えた。

 

『おかしい、奴らは上から来るはずだ』と。

 

 そのときヴィクトルが叫んだ。

 

 「曹長!大尉!上です!」

 

 その声が聞こえた途端、ロジェとジラールは高空を見上げた。そしてすぐさま目を凝らすと、自分たちの遥かな上空で何かが動いていた。それは明らかに意図を持った存在が動く様子であり、続いて何かが光るのが見えた。その瞬間、ジラールは叫んだ。

 

「回避しろ!」

 

 第二大隊が回避行動をとるやいなや、彼らが数コンマ前までいた場所を凄まじい数の光線が通り過ぎた。それは正面の敵からの攻撃ではなく、遥か上空より降ってきたものだった。そしてそれらの光線は共和国軍が見ていた正面の敵が人間ではなかったことを明らかにした。

 

 「デコイだ!」

 「ビアント中佐!奴らは上です!デコイに本体と同量の魔導反応を付与している可能性大!」

 

 デコイに本体と同量の魔導反応?確かに先ほどまで見えていた正面の敵はデコイ特有の魔導反応の薄さが全く無かった。つまり最も妥当な結論は―信じがたいが―ほぼ確実に、奴らは同量の魔導反応を付与しているということだ。ビアントは瞬時にそう考えると矢継ぎ早に指示を飛ばした。

 

 「デコイに惑わされるな!第一、第二中隊、爆裂術式でデコイを吹き飛ばせ!第三、第四中隊は牽制!本体を引きずり降ろせ!」

 

 第三中隊と第四中隊はその指示を聞くとともに急上昇し、弾幕を器用にすり抜けながらも加速、上空の帝国軍への接近を開始した。

 

 「魔導反応―…!!?でかい!!!」

 

 第三中隊と第四中隊が高度九千に到達するかというとき、彼らの目前に十字架の形をとった巨大な術式が現れた。出現から数舜でそれは巨大な光線となって彼らに向けて放たれ、ジラールはまたもや同じ言葉を叫ぶこととなった。

 

 「回避!」

 

 数人は回避が完全には間に合わず、能動的な障壁でもってその光線を受けることとなった。その光線は共和国軍魔導士を撃墜するに至らずとも、彼らのヘルメットがいくつか破損し、第三中隊と第四中隊の突撃陣形が崩されるという結果を招いた。

 帝国軍はそれを見て取り、分断して近接戦に持ちこむ好機と判断したのかアレーヌ市街上空へと加速しながら降下し始めた。第二大隊はそれを阻止すべく統制射撃を行うも、先鋒を止めることはかなわなかった。

 

 「敵先鋒防空識別圏突破!市街上空とられます!」

 

 市街地に侵入されると同時に空挺部隊と狙撃班による近接伏撃戦が開始される。狙撃班は魔導士であるが、空挺部隊はそうではない。デコイを魔導反応によって区別することが不可能であると判明した以上、彼らには想定よりも厳しい状況での戦闘が予期されることとなった。

 

 「中佐!デコイ排除のために爆裂術式使用許可を願います!」

 「市街地での爆裂術式使用を許可する!狙撃班と空挺部隊を援護しろ!」

 

許可を取るが早いか、第二中隊と狙撃班が市街上空で爆裂術式を使用してデコイの排除を図り始めた。爆裂術式でデコイを吹き飛ばすやいなや、第二中隊に猛烈な射撃が加えられ、中隊員が叫んだ。

 

「後ろだ!」

 

 第二中隊は驚愕した。彼らからしたら背後に突然帝国軍が現れたのだ。彼らとて魔導反応の探知を怠ったわけではない。それどころか警戒を厳にしていたのだ。彼らは反撃する最中である事実に気づき、愕然としつつも全体に大至急通信した。

 

 「照準反応を狙われている!デコイに照準すること自体が敵弾の誘導を招いている!」

 「馬鹿な!?三つの術式を併用することになるぞ!?」

 

 攻撃術式、干渉・欺瞞術式、誘導術式。これらは二つ併用することが限界である。限界のはずだった。『悪魔』の部隊はその限界をいとも簡単に乗り越えてきた。

 第二大隊は全ての兵士が同じ思いを抱くしか無かった。

 奴らは宝珠も魔導士も化け物だ。

 これが『ラインの悪魔』とその軍勢なのか、と。

 




次回投稿は多分来週の土曜日とかです。
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