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市街地に先鋒として侵入した『悪魔』の部隊の兵士、つまり第二百三遊撃航空魔導大隊の先鋒は共和国軍第二中隊の背後を取ることに成功したものの、その後攻めあぐねていた。
というのも、元来共和国魔導士は防殻が堅いことで知られているが、第二大隊が運用する高機動ユニットは防殻の強度において通常の魔導士を遥かに上回る性能を発揮する。第二中隊の能動的な障壁の的確な運用が、帝国軍による第二中隊の撃墜を阻んでいた。
加えて狙撃班によってちょっかいがかけられるのも鬱陶しかった。第二中隊は追いかけられつつも爆裂術式でひたすらデコイを排除し続け、帝国軍が照準反応に反応して打ち込んでいることがわかってからは、人の形が見えてもそれ自体を狙わず空間の何もない一点を爆裂させてデコイを排除した。
ゆえに狙撃班は少しでも浮いた兵士に迷いなく術式を撃ち込むことができた。狙っている対象がデコイではないと確信できるからだ。そして帝国軍は狙撃班の光学術式を意識して飛行し続けなければならなくなった。回避に失敗すれば撃墜されうるからだ。
行動を妨害するのは魔導士の術式だけではない。実弾においてもその効果は十分に発揮された。共和国軍の空挺部隊は市街地における対魔導士戦を想定した訓練を十分に積んだとは言えない。しかし彼らは魔導反応を一切発しない狙撃班としては十分以上の役割を果たすこととなった。
空挺大隊は今回の降下に際して、分隊規模で運用可能な対戦車銃を通常よりも多く持ち込んでいた。たった数秒でも直線飛行をしているのを見たならば、空挺兵は躊躇なくそれを帝国魔導士へ撃ち込む。命中率自体は良いわけではない。高速で飛び回る目標を撃つのであるから。しかし元々が戦車の装甲を貫通するために作られた兵器であることから、貫通力は十分だった。
目の前を飛ぶ第二中隊を放置して狙撃班を処理しようとすれば第二中隊が反転して攻撃してくる。狙撃班を放置して第二中隊の処理を強行すれば意図せぬ一撃によって撃墜されうる。
いかに術式を多く併用できようとも人間の意識が分割できる対象には限りがある。特に市街に先鋒として突入し、一時的に少数を強制されている彼らは数によって目標を分担することも難しかった。こうして彼らは一度第二中隊から離れざるを得なくなった。
第二百三遊撃航空魔導大隊の指揮官であるターニャ・デグレチャフ少佐は市街上空に到着し、一時的に後退した先鋒の兵士たちから以上の事柄についての報告を通信で受けた。
後方地域に浸透強襲やらかすだけあって命知らずなだけではないらしい、とターニャはあらためて思い、自らの大隊に号令をかけた。
「エンゲージ!連中できるぞ。油断せず切り込め。」
ターニャがそう号令するのを皮切りに第二百三大隊は次々と低空へ降下し、突撃陣形を保ったまま得意の近接戦に持ち込まんと第二大隊へ接近する。
それに対して共和国特殊作戦軍第二大隊も帝国魔導士をこれ以上勢いづかせまいと、ビアントが合流を終えた第二中隊を含む全大隊員に向けて指示を飛ばす。
「第二大隊!私の第一小隊が爆裂術式でデコイを排除する!それ以外の者は光学術式での統制射撃だ!」
「いいか、人型を狙うな!空中の一点で爆発させろ!」
それに従って第一中隊の第一小隊が爆裂術式で空間ごとデコイを排除すると、残りの大隊がデコイではない魔導士の本体に向けてすぐさま光学術式での統制射撃を行った。
この一連の戦闘において初めて第二大隊総員で行われた統制射撃はターニャが愕然とするほどの濃密な火線を形成した。ターニャにとってその火線の密度は、ダキアやノルデンでの二線級の魔導士部隊とは格が違う、列強国の最精鋭部隊との正面戦闘を自らの大隊が初めて経験することを表すしるしのように感じられた。
ターニャが手塩にかけた部隊だけあって正面から被弾するような者はいなかったが、予期せぬ規模の反撃を各個に回避したおかげで突撃陣形がかなり搔き乱された。共和国軍自慢の統制射撃対策を兼ねて編成したにもかかわらず陣形が崩されたことは、やはり今回の相手がこれまでの相手と違う、ということをターニャに物語るものであった。
一方で第二大隊は統制射撃によって第二百三大隊の突撃陣形が乱れたのを見てここぞとばかりに猛射しつつ、第二百三大隊から一定以上の距離を保ち続けた。ここにおいて共和国軍魔導士にとっての理想的な戦い方が、ごく短い時間であれ、実現された。
そのおかげで目の前の帝国軍魔導士の中には出血している者もいくらか見られ、確実に敵部隊を削っていることを第二大隊の兵士たちに実感させた。しかしビアントにも負傷者の発生が徐々に報告されてくる。
「離脱二騎!」
「百貨店の空挺狙撃班がやられました!」
「距離を取れ、近づけるな!」
高機動ユニットはその名称がつけられるだけあって帝国の並のエースと戦うならば十分比肩するほどの機動性を持っているが、第二百三大隊を相手にするのはやや不利であろうとビアントは判断した。反面、直線の速度においては第二百三大隊と互角かそれを上回る。ゆえに第二大隊は第二百三大隊に格闘戦に持ちこまれないように、徹底的に距離を取ろうとする。
だが第二百三大隊は確実に距離を詰めてくる。高機動ユニットがいかに直線飛行において高速であるとはいえ、実戦では数十秒、場合によっては数秒ごとに進路を変えねばならない。魔導士と言えども重力や自然法則から自由ではないため、進路を変えるごとにエネルギーは失われ、速度が一時的に落ちることとなる。
それに加え、市街地という複雑な地形を持つ場所においてはそのような進路変更が頻繁に行われ、最高速度を出せる時間というのは非常に限られたものとなる。
しかし第二百三大隊は速度をほとんど落とさずに進路を変更し、第二大隊へと近づいてくる。その距離はもはや数ブロックも離れていないところまで来ているのがビアントには見えた。
このままでは押し切られる。そう考えるとビアントは術弾ではなく術式で直接爆裂術式を起動し、通常の術弾による爆裂術式とは比べ物にならないほどの威力で、受動的な防殻ならばともすれば破壊されてしまうほどの威力で射撃を行い、無理やりに距離を取った。
その爆炎の中から帝国の魔導士が数人上方へ抜け出すと、彼らは退却していった。それが一時的な退却であることは明らかだったが、短くとも時間は貴重だった。その時間で状況を整理するためにビアントは副官に報告させた。
「被害を報告しろ。」
「第二大隊については、第一中隊は離脱なし。第二中隊は離脱三騎。第三中隊は離脱一騎、第四中隊は離脱なしです。第二大隊は狙撃班も含めて被撃墜は今のところおりません。」
それを聞いたビアントは少し安心した表情を浮かべた。これならばまだまだ戦えるという保証を得たような表情でもあった。続けて、空挺大隊についての報告を聞いた。
「空挺大隊は。」
「詳しくは不明ですが、潜んでいた建造物のうちのいくつかが破壊されています。現時点では一個中隊規模の損害が推定されています。」
「そんなにもか。」
ビアントの表情は一転して険しくなった。空挺兵の損害は非常に重大な事項である。なぜならばビアントたちはアレーヌ市をできる限り長く抑え続け、ライン戦線における共和国軍の「大反攻」を補助するのが使命であるからだ。
民兵という一般市民がいる限り、帝国は砲撃や爆撃のような大規模な攻撃は市街地に行えない。そうなれば帝国軍は地上戦力をアレーヌに投入するしかない。そうなったとき、共和国側が戦うのに必要なのはまとまった数の訓練された地上戦力なのだ。
魔導士では数が少なすぎる。民兵のみでは武装や統制に問題がある。この問題を解決するために投入されたのが空挺大隊なのだ。数自体は五百人程度だから、それ単体で都市を制圧するには少なすぎる数だ。しかし共和国の空挺兵は魔導士と連携できる兵士であり、全員が下士官以上の教育を受けた兵士である。彼らはまさに、アレーヌにおいて起こるだろう帝国の地上戦力との戦いにおいて、民兵の統制を強化し、より長く戦うという目的で投入されたのだ。悪く言うならば民兵のおもりである。
その空挺部隊が、この一時間余りの戦闘で、一個中隊の損害を被った?
『厳しくなるな。』
ビアントはそう心の中で呟いた。
次回投稿は多分来週土曜日です。
なんかサブタイトル全然思いつかんかったです。あと原作読み返したらアレーヌ市での戦闘って思ったより描写が少なくて「あれ?」ってなりました。