貞操逆転世界のオタサーの王子様   作:道造

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第十七話「皆で昼食を」

「というわけで、食事にしようか」

 

 ポスターの代わりに「完売しました」とだけ書かれた紙をぶら下げて。

 サークルスペースの椅子をたたんで、代わりに小さなピクニックシートを敷いて、早めの昼食に入る。

 それぞれのお弁当を持ち寄っての食事だ。

 高橋部長が、僕の弁当を見て目を丸くしている。

 

「梶原君、お弁当箱でかいね。いや、それ明らかに一人用じゃないよね」

「母が張り切りまして、部活の皆様もどうぞと……」

 

 おせち用にしか見えない、三段になった重箱を取りだす。

 中身はおせちではなく、一般的なオードブルの内容だが。

 

「すいません、空気を読めてないですよね」

「いやいや、そんなことないよ。でも、私たちもちょっと多めに作っちゃったよ。事前に言っておいた方がよかったね」

 

 私たち、イベントの時はいつもお弁当の中身を少しだけ交換してるからさ。

 梶原君にも少し食べてもらおうと張り切っちゃったんだよね。

 そう藤堂さんが口にする。

 嬉しいことだ。

 皆で和気あいあいとして、お弁当を並べる。

 箸はなく、簡単に食べられるサンドイッチやおにぎり、またプラスチックの爪楊枝で刺せる唐揚げやナゲットの肉類が多い。

 

「梶原君は午後のイベントがあるから、しっかり食べておかないとね」

「……コスプレブースに行くんですが、どんなことするんですかね?」

 

 行く、と言っておいて何なんだが。

 僕はコスプレのルールといったものを全く知らないのだ。

 ここで聞いておく必要があったが。

 

「私は詳しくない。初音、昔は少しだけカメコやってたよね」

「カメコ?」

「カメラ小町。略してカメコ」

 

 僕のお重から唐揚げを摘み取りながら、話を振られた藤堂さんが答える。

 なるほど、前世でのカメラ小僧が、この世界ではカメラ小町か。

 上手いことを言うものだ。

 

「中学生の時分はエロ目的で男性コスプレイヤーの写真を撮っていたんだ。そんな目的でカメラ小町をやっていたんだ。許してくれ。エロが欲しくて欲しくてたまらないのが中学生なんだよ」

「いや、別にいいですけど。許すも許さないもないんですけど」

 

 実際、前世でも性を売り物にした露出度の高いコスプレイヤーはいたし。

 それを好んで写真を撮るカメラ小僧も沢山いた。

 この世界でも、藤堂さんを責められたものではない。

 

「中学生の後半くらいになるとエロも容易く手に入りやすくなって辞めたんだよね。親がまったく止めなくなった。事実上のエロ解禁だったんだ。いやあ、コスプレ愛の無いカメラ小町だったよ」

「はあ」

 

 それにしても、藤堂さんは赤裸々に自分のエロ事情を話すな。

 いや、嫌いじゃないんだけどね、藤堂さん。

 朝も体中をまさぐられたけど別に嫌な気分はしてないし。

 

「私は中学校でも有名なエロ写真のサプライヤーだったんだよ。千尋にも大分エロを融通したんだから感謝して欲しい。彼女の性癖も私が作ったと言っても過言ではないんだ。きっと男性コスプレヤーに握手してもらった手で色々スケベなことだって即売会帰りにやってたに違いないんだ」

「初音、しばくぞ」

 

 しばくと言った瞬間から、ぱかんと良い音を立てて藤堂さんの頭が殴られている。

 なんだよう、事実じゃないかよう、と彼女はけらけらと笑った。

 本当に仲良いな、高橋部長と藤堂さん。

 

「しっかし、梶原君に聞きたいんだけど。コスプレって楽しいもの? 色々な女性に性的な目で見られるのって嫌じゃないですか? 男性コスプレイヤーの数って、本当に少ないですよ?」

 

 瀬川さんが不思議そうに尋ねて来る。

 いや、それがやってみると、これが凄く楽しいのだ。

 

「楽しかったですね。本当に本音で話すんですが、やってみたら楽しい」

「チヤホヤされるのが好きなの? いや、失礼な言い方かもしれないけど」

 

 そうはっきりくっきり他人から言われると、さすがに気恥ずかしいものがあるが。

 ちらりと、高橋部長を見た。

 特に高橋部長に褒められたのは嬉しかった。

 

「好きですね。いや、あまり軽々しくチヤホヤされるのに慣れてないせいもあるんでしょうが」

「えー、梶原君なら普段からチヤホヤされてそうなものだけど」

 

 藤堂さんが本当に不思議そうに首を傾げた。

 まあ、クラスではよく話しかけられるのだ。

 休み時間に、部活に行く前に、色んな人から話しかけられる。

 というか、まあ口説かれているのだ。

 さほど親しくもない相手に告白されたこともある。

 大分積極的なアプローチは受けているが――応える気はない。

 なんというか、わかってもらえるかどうか怪しいが。

 

「なんというか、クラスメイトから交際を前提としたアプローチは重たいんですよね。あんまり楽しくないんです。オタク仲間でそのコスプレいいですよねって褒められるのとはまた別なんです」

「そういうものかね」

「そういうものです」

 

 はっきりと口にする。

 何度も言うが僕は高橋部長にコスプレを褒めてもらって、本当に嬉しかったのだ。 

 嫌なわけないだろう。

 原作キャラも大好きだしな。

 

「お客さんに写真を求められたり、握手を求められたりするのも、その――悪くないんです」

 

 悪くない。

 前世・今世を通して初めての快感でもある。

 

「まあ、コスプレの目的は自分の好きな作品の仮装をして、その世界観を楽しむってことが大前提としてあるんでしょうけど……やっぱり、自分の容姿を褒めてもらえるのは僕だって嬉しいですよ?」

 

 自分の鍛え上げられた体躯に引け目はないが、意外とその辺りを褒められることは少ない。

 単純に「見られること」への快感はくすぐったいが、自尊心を満たしてくれるのだ。

 

「……軽蔑しますか? 口にしてみるとちょっと恥ずかしいなあ。ナルシストみたいで」

「いや、全然。別にいーじゃん。誰がそれで困っているのさ。梶原君かな? カメラ小町かな? どちらでもないでしょうに」

 

 藤堂さんが真理を口にした。

 確かに、誰も困っていないな。

 

「梶原君、まあ既製品とはいえ原作キャラも知っているし、その上でコスプレしているんだから、何も悪いことはないよ。原作愛が前提にある以上、コスプレを楽しむことは許容されるべきだし――」

 

 それに、と彼女が続いて口にする。

 

「あれだね、やっぱりエロだね。エロはいいね。エロは心を潤してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ」

 

 本当にエロ好きだな、藤堂さん。

 彼女はあけっぴろげなオープンスケベなのだ。

 僕はそんな彼女のところが嫌いじゃない。

 

「しっかし、午後からどうしようかねえ。カメラ小町ども、間違いなくうようよ寄ってくるよ」

「寄ってきますか?」

「寄ってくる。男性コスプレイヤーは本当に人気あるから」

 

 いくら、ここの即売会の民度が高いとはいえ、ちゃんと統率をとれるか怪しいねえ。

 私たちもコスプレブースはさすがに慣れてないし。

 うーん、と藤堂さんが悩まし気な顔をする。

 唐揚げをひょいと口にして、咀嚼しながら長考した後。

 

「知り合い呼んでいい?」

 

 そう口にした。

 

「知り合いですか?」

「そう、カメラ小町時代の知り合い。中学生時代に知り合った年上の人なんだけど、コスプレ撮影にも超慣れているし。この即売会じゃあ、ちょっとした顔の人。今日も来てたはず」

 

 そんな人がいるのか。

 高橋部長が光のオタクでそこら中にオタクの知り合いがいるのは知っているが、藤堂さんもかなり顔が広いなあ。

 

「その人に任せていれば、結構安全だと思うんだよ。行列ができるだろう撮影の順番整理もやってくれるから。代わりに無茶苦茶写真を撮られるだろうけど」

「藤堂先輩のお勧めなら全部お任せしますよ。しかし、行列なんかできますか?」

 

 僕は首を傾げる。

 そりゃ人気男性コスプレイヤーならば行列ができて、ちゃんと整理しないと捌ききれないなんてこともあるだろうが。

 僕は初参加だし、コスプレすることも告知なんてしてないし、知名度なんか全くないぞ。

 そう口にしようとするが。

 

「あー、梶原君が何考えているかわかるけど。オタクの性欲を甘く見ちゃいけない。特に梶原君みたいな筋肉モリモリマッチョマンなんて男性コスプレイヤー界では超貴重だから、もう間違いなくそっち系が好きなカメラ小町が集団でたかってくる」

 

 たかってくるだなんて、蟻じゃないんだから。

 そうは思うが。

 

「ではお願いできますか?」

「任されよう。さっそく電話連絡するね」

 

 藤堂さんがスマホで何やら連絡をとる。

 僕はそれを黙って観ながら、食べて欲しいなあ、とばかりにエマさんがおっかなビックリ差し出してきたお弁当箱から、サンドイッチを受け取った。

 しかし、コスプレブースで写真撮影か。

 なんだかドキドキしてきたな。

 僕は心臓の不思議な鼓動を感じながら、何やら心配そうな顔をしている高橋部長の視線が少し気になった。

 

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