貞操逆転世界のオタサーの王子様   作:道造

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第二十一話「高橋部長の本音」

 

 

「というわけで、高橋部長に相談をしたいんですけど。写真集の話、受けるべきでしょうか?」

 

 コスプレブースでの撮影会を終えて、即売会を後にして。

 まだ門限まで時間的余裕があるのでと、皆でファミレスに来ている。

 ドリンクバーと一緒に軽くつまめるものを頼みつつも、僕は高橋部長に尋ねた。

 月島さんの誘いに応じて、写真集を出しても良いものだろうか?

 

「えーと、うん。実際のところ、露出度が高くなければいいんじゃないかなって私は思うけど。そんなの、あくまでも私の感想だよ?」

 

 その「私の感想」が聞きたいのだ。

 何よりも重要視しているのだ。

 僕は高橋部長の判断が気になっている。

 

「梶原君は、私が仮に反対したら、じゃあそうしますって止めちゃうの?」

「まあ止めますよ。部長がコスプレも今回限りにしときましょ、って仰るならそうしますよ」

「えっ、そうなの?」

 

 部長が驚きの目で僕を見た。

 そうなのである。

 というか、僕はそこまでコスプレに固執するつもりはない。

 確かにやってみたら楽しかったが、それだけといえばそれだけだ。

 ここまで連れてきてくれたのは高橋部長と現代文化研究会の皆である。

 

「初心を忘れちゃいけないと思うんですよね。僕がコスプレをしたのは同人誌の販促のためであって、チヤホヤされるためじゃありませんから」

「でも、コスプレ自体は楽しかったんだよね」

「それはもう」

 

 楽しかったこと自体は本音である。

 だが、違うのだ。

 元はと言えば、僕を優しく歓迎してくれた現代文化研究会の役に立てればそれでよかった。

 部員としての貢献>コスプレの順番である。

 そこのところを履き違えて勘違いするようなつもりはない。

 

「あー、梶原君。一応知り合いとして言っておくけど、月島さん自体はそこそこ信用しても良い人間だよ。変な事にはならないと思う。まあ千尋の許可以前に親御さんの許可ないと、写真集なんて発売できないだろうけど」

 

 藤堂さんが、とりあえず補足するように口を挟んでくれる。

 

「まあ、それはそうなんですけど」

 

 母さんにも確認はとるつもりであった。

 だが、先に高橋部長である。

 その、なんだ。

 ここで部員であることを忘れた恩知らずであるとか、そんなことを思われたら僕はもうたまらない。

 ……?

 僕はなんでこんなにも、高橋部長に嫌われるか嫌われないかを気にしてるんだろうか。

 

「……」

 

 ドリンクバーで入れてきたメロンジュースを口にする。

 自分の意志がどこにあるのかを確かめようとする。

 人任せにしているのではない。

 部長に判断を頼っているようで、それとはまた違う。

 僕は僕の行動について、部長がどう判断をするか聞きたいのだ。

 

「部長に嫌われてまでコスプレなんかしたくもないです」

 

 真剣に考えて、辿り着いた答えを口に出し、本音を吐露する。

 エマさんがひゅっと、何故か息を呑んで高橋部長の顔を見た。

 

「あ、いや。そう言ってくれると本気で嬉しいけどね。えーと、どうしようか」

 

 高橋部長は僕の発言に、喉を詰まらせたかのようにして返事に困っている。

 僕の隣席に座っている瀬川さんは、そんな高橋部長をじっと見つめている。

 何故だか、その視線はどこか愛おしそうにも感じた。

 

「そこまで言われると困っちゃうな。私は……うん、梶原君が本音でそう言ってくれたなら、私も本音を言うよ。部活動の範囲内でやってほしいという変な答えになっちゃうかな」

「部活動の範囲内でというと?」

「私たちの手の届かないところに行っちゃうのは嫌かなって。いや、本当に身勝手な事言ってるのはわかっているけれど」

 

 いじいじと。

 手持無沙汰に、高橋部長は自分のコーヒースプーンを回しながら答えてくれた。

 

「その、勝手な事だけど、人気コスプレイヤーになって、忙しくなって現代文化研究会を梶原君が辞めちゃったら嫌だなって。自分と一緒に部活動が出来なくなるのは嫌だなって。一緒にサークルで売り子して、同人活動して、部室内でカードゲームをして、これからも遊んでいきたいなって、そう思っているの。この答えじゃ駄目かな」

「よくぞ言った! 千尋! それでこそ女だ!!」

 

 ぽん、と藤堂さんが高橋部長の肩を叩いた。

 まるで生まれたてのバンビがようやく立ったみたいな感じの愛おしそうな視線で、彼女を見ている。

 僕はと言えば、高橋部長の本音が聞けて、素直に嬉しかった。

 僕とこれからも部活をして遊んでいきたいと。

 そう思ってくれているのだ。

 

「……有難うございます」

「いや、その、私の身勝手な考えだよ。梶原君が本気でコスプレイヤー活動したいっていうなら、それでもいい。ちゃんと応援するから」

「そんなつもりは欠片もないですから、安心してください」

 

 僕はと言えば、欲しい答えが聞けた事でいっぱいになっている。

 そうだ、僕は高橋部長から是認されたかったのだ。

 一緒に遊ぶオタク仲間だから、どっか余所に行くなと一言言って欲しかったのである。

 ただ、それだけ。

 ……なんか、僕の感情って重いのかな?

 高橋部長にやや執着じみた感情を覚えている気がする。

 

「部長の仰る通りのことを、僕もしたいと考えています。じゃあ、写真集は断っておきましょうか?」

「いや、別にやって良いと思うよ? コスプレも立派な同人活動だよ。月島さんが宣伝も広告も頒布も全部あっちでしてくれるなら、そんなに負担にもならないしね。良い想い出になるんじゃない?」

 

 それもそうか。

 じゃあ、やるか。

 後はもう一人、許可を取るべき人がいるが。

 

「梶原君、お母様の説得って出来そう?」

 

 藤堂さんがそう尋ねて来る。

 さて、どうかな。

 母は堂々としていれば何も言わない人だとは思うが、コスプレ写真集を出すとまで言えば、どういう態度を取るかはわからない。

 

「わかりませんね。多分、大丈夫だとは思うんですが……そもそもコスプレしてるってことさえも母さんには言ってませんし」

「大丈夫なの、それ」

「別に、白ワイシャツとネクタイにサスペンダーなんて紳士然とした恰好してただけなのに、露出度がどうたら言われることもないとは思うんですが」

 

 多分大丈夫だろう。

 大丈夫じゃないかな。

 そう判断する。

 

「ところでだ、梶原君。話がまとまりそうなところで言っておかねばならないことがあるんですが」

「何でしょう」

 

 突然、瀬川さんが真剣な顔でこちらを見た。

 ずい、と彼女がスマホを僕に突き付けて、その画面を見るように言う。

 僕が素直に目をこらして画面を見つめると。

 

「……バズってる?」

「バズってるね」

 

 月島さんのSNSアカウントであった。

 月島さんが写真をSNSに上げたところ、大分ネット上に拡散されたらしい。

 どうやら僕のコスプレ姿はかなり受けたようだ。

 だが、それがどうしたというのだろう。

 

「良いことじゃないんですか?」

「いや、良いことなんだけど……回りまわってサークルが認知されること自体はすっごい良いことなんだけど……」

 

 瀬川さんは何が言いたいのだろう。

 そう首を傾げていると、僕のスマホが鳴り響く。

 母さんからの電話である。

 

「もしもし?」

「一郎、SNSでアンタのコスプレ写真がいきなり載って、しかも世界中に拡散されてたんだけど」

「それがどうかしたの?」

 

 瀬川さんに引き続いて、母さんも何か言いたいことがあるようだが。

 いったい何が言いたいのだ?

 

「誰か傍にいる?」

 

 周囲をゆっくりと見つめる。

 確かに傍にいてくれる人はいる。

 現代文化研究会の皆である。

 

「現代文化研究会の皆と一緒にファミレスにいますが」

「部長さんと代わって」

「え、なんで?」

 

 通話が漏れていたらしく、高橋部長は何か覚悟をしたように頷いた。

 

「梶原君、代わってください。状況をお母様に説明するので」

「え、何か問題なの?」

「いつのまにやら、大事にしている息子さんが勝手にコスプレして、しかもネットで写真が拡散されたことに対して、部長としての責任問題は……あるかなあと。もしもし、あの、初めまして。部長の高橋千尋と申します。はい。梶原君とは親しくさせて頂いております」

 

 そう呟きながら、僕の手に優しく手を添えてスマホを受け取る。

 そんな高橋部長を見て、僕は少し考えた後。

 別に露出度が高いコスプレをしたわけでなし、そんな大層な問題かなと考えて――僕はとにかくも、帰り次第に部長は何も悪くないことを母に告げるよう考えていた。

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