貞操逆転世界のオタサーの王子様   作:道造

33 / 58
第一話「サマーシーズン到来!」

 死んだ方がいい。

 

「サマーシーズン到来! 誰もが開放的になる季節! 夏! いよいよ、この藤堂初音が処女を捨てる日がやって参りました! なんてったって夏だから!!」

 

 素直に死んだ方がいいと思ったのだ。

 藤堂初音という名の親友について、そう考える。

 何を思ったのか、急に梶原君抜きでの集合を呼びかけてだ。

 そのようなことをほざきだした彼女を見て、そう考えた私を誰が責められようか。

 

「あのね、初音。その相手は誰よ」

「もちろん梶原君さ! それ以外の男は嫌だね! エヘン!!」

 

 親指を立て、自分の顔を指す初音。

 何を偉ぶっているのか、さっぱりわからない。

 いや、そもそも初音の言い分が何一つ判らないでいるのだが。

 

「あのね、藤堂ちゃん。別に梶原君は、貴女と彼氏と彼女の関係でも何でも無いの。少なくとも現状はただの後輩にすぎないの。そりゃあ春の頃と比べると、多少は仲良くなったけれど」

 

 私が言いたいところを、エマが口にしてくれた。

 そうだよ、その通りだよ。

 何をほざいているのだコイツは。

 

「そこは君、精神力の優位でなんとかならんのかね」

 

 第二次世界大戦末期の旧日本軍みたいなことほざきだしたな、コイツ。

 なるわけないだろ。

 この世は仮想戦記みたいに都合良く出来ていないのだ。

 そんな視線で見つめてやるが、初音は全くひるまない。

 

「おまえら、聞け。静かにせい。静かにせい。話を聞け。女一匹が命をかけて諸君に訴えているんだぞ。いいか。それがだ、今、藤堂初音がだ、ここでもって立ち上がらねば、皆が立ち上がらなきゃ、青春(アオハル)ってものはないんだよ。諸君は永久にだね、このまま処女のまま喪女になってしまうんだぞ」

 

 どこかから凄く怒られそうな事を言い出したな、コイツ。

 仕方ない、二・三発ビンタによる精神力注入をして、正気を取り戻させるかと。

 私はそのような判断を下したが、初音の女郎は語り続ける。

 

「そこでだ。私は三ヶ月待ったんだ。千尋が立ち上がる日を。・・・・・三ヶ月待ったんだ、そしてこの夏も・・・・・・待っているんだよ。千尋は殆ど彼女みたいなもんだろう。彼女ならば、どうしていつまでも処女を守っているんだ。どうして自分の価値もない貞操のために、おっかなびっくり、相手の反応を伺っているんだ。千尋が梶原君を口説き落としてくれない限り、私たちは永久に救われんのだぞ。千尋が駄目なら、私たちなんてもっと駄目じゃないか」

「具体的にどうしてほしいと?」

 

 瀬川ちゃんが、要するに何を言いたいのだと疑問符を示した。

 どうしたいも何も、初音の脳みそなんか性欲しか詰まっていないので。

 

「梶原君とエッチずくめのひと夏を過ごしたい。もうグチャグチャになりたい。五人で凄くエッチな夜を朝まで過ごしたい」

 

 聞くだけ損だった。

 所詮はエロで脳みそが詰まった処女の考えることなんて、性欲直結で計画性すらないのだ。

 さて、シバくか。

 私は部室に都合良く転がっていた、そこらのお土産屋さんで買ったと思われる木刀を拾って。

 

「あのさあ、真面目な話どうなのさ。キスぐらいはしたんだよね? デートを始めてから三ヶ月が経つよね。マジで何も無いの?」

 

 ぴたり、と動きを止めた。

 うん、そこを突かれると弱い。

 

「何にもしてない」

「はあ? あれから三ヶ月経ったよね? それなのに何もかい?」

「いやさ、確かに週一のおててを繋いでのデートぐらいはしてるよ。でも何も」

 

 何もしていない。

 その現実を突きつけられると、私も困ってしまう。

 

「あのね、ぬるま湯なんだよ。あまりにも平和ボケをしているとしかいえないね。こういうのは女の子の側が積極的にリードしてあげるべきじゃないのかい?」

 

 初音はだらんとした高い身長を猫のようにうんと伸ばし、両手をぶら下げて、私に歩み寄る。

 まるで影のように長い。

 私の背後に立ち、首筋にふっと息をかけた。

 

「私なら、三ヶ月もあれば仲良くなってればベロチューぐらいはしてるね。根性が足りないんじゃない、千尋」

 

 この口だけ女が。

 そんなこと出来るものか!

 

「じゃあやってみなさいよ。別に私は初音と梶原君が仲良くなったって、あれこれ言うつもりはないよ。ほら、やりなよ。やれって。やりなさいよ」

 

 開き直って煽ってやる。

 そうすると、初音は何を言うべきだろうかと。

 そんな思案するそぶりを少しだけ見せて、次にこう口にした。

 

「海に行こう」

「海?」

 

 なんでそこで海なんだよ。

 首をひねる。

 

「生命の起源は海にある。そうは思わんかね」

 

 何故か急にご大層なことを口にした。

 

「要するに?」

「梶原君のトランクス型水着一枚の裸体が見たい。超見たい」

「ただの欲望じゃないの」

 

 呆れた。

 なんかバカバカしくなりながらも、海か、と考える。

 

「あれだ、千尋。ここは大人になろう。ひと夏を過ごそう。青春(アオハル)だよ。青春。私は高校時代に男の子と海に行ったという思い出が欲しい。是非欲しい。くれなきゃ嘘だ」

「うーん」

 

 悪い話ではない。

 話の切っ掛けがあまりにも酷いし、初音が話題を少しだけズラしたのは理解しているが。

 それはともかく、海には行きたかった。

 男の子との海!

 なんたる甘美な言葉か!!

 

「海に行きたい人」

 

 挙手を募る。

 私が手を挙げると、勢いよく初音が。

 その後に、瀬川ちゃんが。

 そしておっかなびっくりと、エマが手を挙げてくれた。

 全員賛成だ。

 となると、あとは梶原君に聞くだけとなるが。

 

「日帰りで良いよね? それ以上に踏み込む勇気は無いよ、さすがに」

 

 とりあえず日和る。

 さすがに同じ宿を共にするのは無理だろう。

 

「三千世界の鴉を殺し、褥を一緒にしてみたい」

「初音はもう黙ってなさい」

 

 初音の欲望は無視する。

 さすがにそこまでするとなれば、まあ梶原君のお母様にも許可を貰わねばならないが。

 私の事を認めてくれてはいても、積極的な性的交際を許して貰えるとは思えなかった。

 この男が希少な世の中、彼氏の母親の心証を損ねるのは良くない。

 それがわかっていないから、初音は欲望をペラペラと口にしてしまうのだ。

 彼女が実際に私の立場なら、こうもあっけらかんと性欲を口にしないだろうに。

 

「ここから一番近い海水浴場って何処でしたっけ? 調べておいても?」

 

 調査は瀬川ちゃんに任せるとして。

 

「水着なんて学校指定の物しかないです。海どころか市営プールにも行ったことが・・・・・・」

 

 とりあえず、エマのために水着を一緒に買いに行くとするか。

 梶原君と一緒に買いに行くのも良いけれど、友達同士でショッピングも良いものだ。

 うん。

 

「それじゃあ、梶原君に聞いておくね。多分オーケーって言うと思うけれど」

 

 それは疑っていない。

 だが、その前にだ。

 

「皆、そんなことより原稿は終わったの? あと二週間もないけれど」

 

 同人誌の締め切りはもうすぐだ。

 現在の進捗を私は尋ねるが。

 

「ようし、この夏は諦めよう」

「その、あと少しなんですが」

「もっと良く出来るはずだと、その、構図が決まらなくて。性的ギリギリまで攻めて、あの、今回は性行為寸前のポーズを取りたいんですが。経験というものが存在しなくて」

 

 よし、全員駄目だ。

 特にエマ、今何描いているの?

 私はすっごく気になるよ。

 何はともあれだ。

 

「アレだ。原稿も出さない奴は海に連れて行けないからね?」

 

 そこだけを念押しして。

 私は部員の発憤を促すことにした。

 足りぬばかりの創作活動を、精神的な優位で成り立たせようと私は思うのだ。

 うん。

 しかし、海か――。

 夕日が海に溶け合う前に放つ。

 血のように赤い光を語る。

 そして海によって、いかに太陽がその力を失うかを語る。

 残るのは心の中の炎だけ。

 ふと、そのような映画の名台詞が頭に思い浮かぶ。

 海で、梶原君と一緒に太陽が沈むのを見届ける。

 それはとても悪くないアイデアに思えた。

 

「さて、夏を始めよう」

 

 私はその言葉をとうとう口にした。

 男性と生まれて初めて一緒に、ドキドキの夏が始まる。

 







現在(2026/2/15)、一巻がAmazon Kindle,BOOK☆WALKER様などで半額セール中ですので、よろしければご購入お願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。