貞操逆転世界のオタサーの王子様   作:道造

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第四話「海だ!」

「海だ! 始まりの海だ! 父よ、私はここに帰ってきた! 人工授精の子ども達である私は、アンタの顔もしらんけど!!」

 

 藤堂さんが大きく海に対し、名乗りを上げる。

 都市圏から電車で片道一時間半。

 母が手配してくれた会社の保養施設である貸別荘はなかなか良い物件で、温泉浴場まで付いていた。

 さすがエリートビジネスウーマンである。

 ここで一週間、現代文化研究会の皆と過ごすのか。

 楽しみである。

 さっそくと荷物を各自の部屋に下ろし、僕らは海水浴場へと飛び出したわけだが。

 

「Here we go!(さぁ、行こうじゃないか!)」

 

 世界一有名な配管工のオジサンのような叫び声を上げて。

 きっちりジャンプもしていた。

 そんな藤堂さんの後ろを歩きながら、僕はとりあえず海の家のお姉さんからパラソルを借りた。

 まあ一つあれば良いだろう。

 それにしてもだ。

 

「人があまりいませんね」

 

 今世で海に来るのは初めてだ。

 海水浴場と言えば、人混みで一杯のイメージが強かったのだが、あまり人はいない。

 もちろん全く居ないわけではないが、パラソルはぽつりぽつりと立っている程度で、男と言えば田舎のタヌキのようにチラホラといるだけであった。

 

「その方がいいよ。ゆっくり楽しめるし」

 

 高橋部長はそのような感想を述べる。

 まあ仰るとおりだ。

 何か余計なトラブルに巻き込まれてもつまらないし。

 僕はパラソルを立てた。

 貴重品はコテージの鍵のみを、防水リストバンドに入れている。

 僕はと言えば、トランクスの海パン姿なのだが。

 

「それにしても、目に毒だ」

 

 誰にも聞こえないように、僕はぽつりと呟いた。

 皆さんの姿は印象的である。

 体躯こそ小柄だが胸が大きい、トランジスタグラマの高橋部長。

 背が高く、猫のようにすらっとした痩身の藤堂さん。

 一番巨乳でいて、あっけらかんとした笑顔の瀬川さん。

 サラサラのブロンドヘアーを光らせながら、オドオドとした様子のエマさん。

 というか、改めて思うが皆さん美人だよなあ。

 この世界の男女比率が歪でさえなければ、皆さぞかしモテただろうに。

 いや、高橋部長に関してはあまりにも光の戦士が過ぎるので、この世界の男にも普通にモテるよな。

 誰だって惚れるわこんな人。

 僕は彼女と出会えて、本当に運が良かったのだと考える。

 それにしてもだ。

 

「ウオオ! いい体してるねえ、梶原君! ウオオオオオ!!」

 

 ばんばん、と音を立てて僕の腹筋を叩いてくる藤堂さん。

 いや、別にボディタッチぐらいは良いのだけれど。

 何処となく手つきが厭らしく感じる。

 人差し指で、へその周りをぐるぐると撫ぜられた。

 

「藤堂ちゃん、ちょっと・・・・・・」

「なんだい! エマは撫ぜたくないのかい!」

「そういう問題じゃあ・・・・・・」

 

 藤堂さんの腰を掴んで引き剥がそうとするエマさん。

 いや、別に良いよ、腹筋を撫でられるぐらい。

 

「僕の腹直筋は見事に六つに割れてるので問題ないですよ?」

「あれ、そういう問題なの? そこが重要なの?」

 

 エマさんが疑問符を浮かべる。

 そういう問題である。

 たぷんたぷんとしているお腹を触られるのは恥ずかしいが、アスリートばりの見事なシックスパックを撫ぜられても何の問題もない。

 むしろ見ろ。

 僕を見てくれ。

 そういわんばかりに鍛え上げてきたのだから、触って頂いても何も差し支えないのだ。

 

「ええと、じゃあ・・・・・・触っても良いですか?」

 

 瀬川さんが断りを入れてきた。

 もちろん良いのだ。

 おっかなびっくり、僕の腹筋を手で触れる。

 

「おお、堅い」

 

 僕の腹筋はゴムタイヤの分厚さである。

 前世の死因でもあった、腹部への刺殺も懸念して。

 出刃包丁で刺されても大丈夫なように鍛え上げてきたのだ。

 実際には刃物は肉を切断するために存在するから、よく考えたら普通に無理なのだけれど。

 僕は「太陽を崇めよ!」といわんばかりのポーズをとり、特に意味も無く高橋部長以外の三人に腹筋を撫ぜられる。

 

「性質の悪いカルト宗教か何かかしら?」

 

 高橋部長のツッコミが入る。

 女子高生が三人よってたかって、僕の腹筋を素手でぺたぺたと触っている。

 傍から見れば確かに異様な光景だった。

 それも人が少ないとはいえ、海水浴場という公衆の面前でする行為ではない。

 やめよう。

 

「さて、何しましょう?」

「話を逸らしたね。いや、いいんだけどさ。真面目に鍛えている梶原君がちょいとナルシストでもね? 私は理解するよ」

 

 手持ち無沙汰に、高橋部長はビーチボールをぽんぽんと叩いている。

 まるで自分も本当はやりたかったと言いたげな手つきだが、おそらく僕の勘違いだろう。

 

「んーと、海に来たんだから、海に入ってボール遊びでもする? それとも肌を焼く? 遊泳区域限界ギリギリのブイまで泳いじゃったりする?」

 

 そこのところ無計画であった。

 とにかく海に行くという計画自体は立て、こちらに辿り着いたが、海で何をするかだなんて何も考えちゃいなかった。

 はて、今は亡き父と母は、何をして楽しんだのであろうか。

 右から左に聞き流していないで、どうせなら少しは真面目に聞いておくべきだったと悩むが。

 焼きそばを食べて、ビーチボールで遊んで、お城作ってただけの当事者以外は楽しくない惚気話を聞くのは親孝行といえど苦しかった。

 

「まずは何をするにしても、オイルを塗ろうか? お肌によくないしね。一週間もあるんだよ。日焼けと洒落込みながら、何をするか話をして決めよう?」

 

 高橋部長が提案する。

 確かに良くない。

 肌のダメージを抑えつつも、健康的な小麦色の肌に日焼けできればベストだ。

 僕はそこら辺の気遣いが出来ていないので、良くないな。

 サンオイルだって買ってきてやしないのだ。

 

「すいません、迂闊なことに用意しておりませんでした。そこらのコンビニでひとっ走り買ってきましょうか? 海の近くなら売ってるはず――」

「私が用意しているから大丈夫だよ」

 

 そう口にしながら、部長がサンオイルを手元で揺らす。

 さすがに準備が良い。

 

「問題はこれローションなんだよね」

「何か問題が?」

「いや、スプレーの方がよかったかなって」

 

 別にローションだろうとスプレーだろうと構わないだろう。

 浜辺に五人が寝転がれるぐらいの大きなレジャーシートを敷く。

 僕は有り難くサンオイルを借りて、それを使用しようと試みるが。

 

「梶原君、提案がある」

「なんですか藤堂さん」

 

 ピシ、と元気に手を挙げる藤堂さんが、片手でサンオイルを握りしめつつ語る。

 

「君とサンオイルの塗りあいっこがしたいんだ。凄くしたいんだ・・・・・・」

 

 真剣な表情だった。

 野獣のような眼光だった。

 まあ、おそらくオイルマッサージというドスケベに近い行為がしたいという願いなのだろう。

 思いっきり尻を高橋部長に叩かれている。

 だがしかしだ。

 

「別に構いませんけど・・・・・・」

「いいのかい!?」

「念のため言っておきますけど、水着は着用しておいてくださいね」

 

 藤堂さんはあれだ、平気で脱ぎそうな気がするのでよくない。

 そんなことされたら、さすがに僕も理性を保てないぞ。

 

「じゃあ、とりあえず高橋部長をいっときましょうか。順番です」

 

 さらっと瀬川さんがそう告げた。

 単に高橋部長が最初にされるべきだと思ったのか。

 それとも、全員に僕がサンオイルを塗らねばならないことにしたかったのか。

 おそらく両方だ。

 いや、僕は別にいいのだけれども。

 ぶっちゃけ役得みたいなものだ。

 手にサンオイルを垂らし、ぐにぐにとローションのベタつく感覚を味わう。

 

「え、本当にするんですか? 本当に!?」

 

 何故かエマさんがうろたえているが。

 別に僕は嫌どころか楽しいし、正直言えば少し興奮している。

 性的な興奮なのか、それとも異性と単に遊んでいるのが楽しいのか。

 あれだ。

 海での夏という悪魔が僕の心に到来していた。

 

「いや、ちょっと待って、梶原君。なんか、正直言えば恥ずかしいというか、その、公衆の面前でそういうのは・・・・・・」

 

 高橋部長が慌てるが。

 藤堂さんと瀬川さんが、その両脇を挟んで、小柄の彼女を取り押さえた。

 僕は高橋部長の前に立ち、両手をぐにぐにとする。

 

「じゃあ、まずは高橋部長から行きましょうか。綺麗に塗りたいので、あまり動かないでくださいね」

「え、う、うん・・・・・・」

 

 僕はなすがままの高橋部長の全身に、サンオイルを塗りたくった。

 当たり前だが、胸とか股間とかのデリケートゾーンには触れていない。

 夏の悪魔が如何に誘惑しても。

 僕にもかろうじて理性というものは残っているのだから。

 







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