貞操逆転世界のオタサーの王子様   作:道造

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第七話「夏の光景」

 いかん、完全に寝ていた。

 なにせあまりにも日光浴が心地よかったものだから、思い切りリラックスしてしまった。

 僕は寝ぼけ眼で上半身を起こし、周囲を見渡す。

 

「別に寝てて大丈夫だよ、梶原君。まだ二時間も経ってないし」

 

 隣で同じく日光浴をしていた高橋部長が、笑いながらに対応してくれた。

 ややサンオイルでてかりを得ている肌が魅力的だった。

 

「あれ、皆さんは?」

「初音は小腹が空いたとのことで焼きそばを買いに。瀬川ちゃんは泳げないので浮き輪を調達に。エマは緊張のあまりに行く必要もないトイレを探しに旅立ちました」

「エマさん、楽しめてますかね?」

 

 僕は不安になる。

 藤堂さんと瀬川さんはなんだかんだ放っておいても別に大丈夫だろうが、エマさんは前世の僕だというか。

 完全に陰キャなので、こうして遊びに来ても楽しめるかどうか不安なところがあった。

 是非とも海を楽しんでほしいのだが。

 

「楽しめてますか、じゃないよ、梶原君。ちょーっと違うねえ」

 

 ちっちっち、と舌打ちをする高橋部長。

 うん、この人なら多分言い方を変えるだろう。

 

「楽しませてあげるのさ! この私がね!!」

 

 右手の親指を自分にビシと指し、名乗りを上げるかのごとく口にする。

 そうだ、高橋部長はそういう人なのだ。

 私が来た、とばかりにすくりと立ち上がり、両手を腰にやって叫ぶ。

 

「梶原君さえよければ、もう誰にとっても最高の夏にしてみせるよ!!」

 

 おお、後光が見える。

 本当に光の戦士だな、この人。

 

「僕さえよければ、というと」

「初音がね、ちょっと男と女とでは超えられない垣根があるって口にしててね!」

「はあ」

 

 あるのだろうか。

 まあ、この世界では価値観が異なるとはいえ、どうにも僕は積極性に乏しい自覚はある。

 先ほどのサンオイルのぬりあいでも、胸やお尻には触らないように気を遣ったのだが。

 いや、そこらへんはやれと言われてもできないのだ。

 僕にだって性欲はちゃんとあるわけだし。

 ちゃんと、部活仲間の四人に対する好意だってあるのだが。

 あるからこそに、そういうやましい行為に出るのはよくないのだ。

 なんというか。

 『そういう行為』をするからには、大前提として『覚悟』と『責任』というものが求められるのではなかろうかと、僕は身構えてしまう。

 だが。

 実のところ、高橋部長に限ってだけなら、その大前提の『覚悟』もあれば、『責任』をとる気もあるのだ。

 未だ彼女と彼氏というほどの関係には至れていないが、週に一度のデートだってしているのだから。

 とにかくも尋ねてみる。

 

「何か計画でもおありで? エマさんをとびきりキュートな笑顔にさせる方法が?」

「もちろんあるね!!」

 

 おお、頼りになる返事だ。

 人任せにするのはよくない、僕も何か考えねばならんとなるが。

 ひとまずは高橋部長の計画を聞いてみよう。

 

「あのね! さっきから口にしようとしていることは察していると思うけれど」

「ようするに僕側からのアプローチが必要だということですよね?」

「そういうこと!」

 

 別にかまいやしない。

 部員の皆さんを笑顔にするためなら、何だってできるさ。

 

「何だって協力しますよ。何でも仰っていただければ。例えば僕の頭をスイカ割りの代わりに叩きたいぐらいまでなら許容できます」

「そこまでは身体を張らなくてもいいね! そうだね、とりあえずエマを捕まえよう」

 

 ふらふらと。

 相も変わらず微妙にオドオドとしながら、サラサラのブロンドヘアーをなびかせて帰ってくるエマさん。

 

「ああ、梶原君。起きたんですね。あのですね、ちゃんとこの海水浴場にもトイレが整備されてて・・・・・・」

「梶原君。とりあえず捕まえて」

「はい」

 

 後ろから、がっしりと両肩を掴む。

 ひとまず確保であった。

 

「え、何? 急に何!?」

「そして、お姫様抱っこをしてね。大切に扱ってあげてね」

 

 言われるがままに動く。

 エマさんをお姫様抱っこするぐらい、僕の無意味に鍛え上げられた筋肉ならば容易に可能なのだ。

 なんなら片手で持てる。

 

「何が起きているんですか!」

 

 動揺するエマさん。

 キョドっているというより、状況が理解できない様子である。

 

「さあ、梶原君。エマと一緒に海に突撃だ!」

「ウオオオオオオオオオッ!!」

 

 僕はエマさんを落とさないようにがっしり抱えたまま、海に向かって突撃する。

 駆け足だ。

 波をジャブジャブと掻き分けて、海に突入する。

 

「ウオオオオオッ!」

 

 高橋部長も後から駆け足で付いてくる。

 そして同様に海に突撃した。

 よく日で焼けた肌に、波しぶきが当たり、気持ちが良かった。

 

「高橋部長! この行為に何の意味が!?」

 

 僕は意図を尋ねた。

 

「世の中勢いだよ! とりあえず勢いさえあればなんとかなるものだよ! 努力・友情・勝利だった頃のジャンプ漫画みたいなものだよ!!」

 

 そうかな、と一瞬だけ悩んで。

 まあ高橋部長のいうことならば、そうだろうと納得した。

 部長への信頼度はマックスに至っている。

 海の中にジャブジャブと入り、胸元に波がかかる。

 エマさんもぷかりと海に浮かび、腕の負荷が一気になくなった。

 

「エマさん、何かしてほしいことはありますか? やりたいことでもいいですけど」

 

 僕はちゃんと尋ねる。

 垣根を越えるには、会話が一番大事だった。

 

「えっと、その、とりあえず離してほしいというか。いや、ちょっと惜しくはあるんですが・・・・・・」

 

 何やらニョゴニョゴと喋るエマさんの要望に応えて、とりあえず手を離す。

 エマさんはゆっくりと海に浮いた。

 

「えっとですね」

「はい」

 

 僕はエマさんの答えをゆっくり待つ。

 エマさんは視線を逸らして、やはりゆっくりと呟いた。

 

「あの、すいません、ノープランです」

「大丈夫です、僕もノープランですから。いきなり言われて答えられる方が変です」

 

 僕は元気よく答えた。

 大丈夫だ、エマさん。

 前世の僕ならば、突然に異性となんかしろ、と言われたところで間違いなく混乱する。

 その回答は予想できていた。

 だからだ。

 僕から誘おう。

 

「さて、とりあえず高橋部長。その小脇に抱えたビーチボールをなんとします?」

 

 準備はすでに高橋部長が整えているのだから。

 それとなく促すだけで事足りる!

 

「もちろん遊ぶのさ。エマ、トスだ!」

 

 ぽーんと、ビーチボールが宙を舞う。

 エマさんが、オドオドしつつ頭の上に振ってきたボールを弾いて。

 僕がそれを受け取り、片手で投げ返した。

 

「うん、いいね。いいねえ」

 

 高橋部長が笑っている。

 波しぶきが揺れ、チャプチャプと海水が揺れている。

 エマさんがオドオドしながらも表情をゆるめ、期待通りのキュートな笑顔を見せて。

 それを見つめながら、相互にボールをやりとりしながら思うのだ。

 この旅行はまだ、始まったばかりだと。

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