貞操逆転世界のオタサーの王子様   作:道造

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第十一話「嫌じゃないけれど」

 

 別に嫌というわけではない。

 繰り返すが、嫌というわけではないのだが。

 

「ダメに決まっているでしょ。藤堂さん」

「真顔で普通に断られた!」

 

 ガビーン、とショックを受けている藤堂さんには申し訳ないのだが。

 いや、僕的にはいいよ。

 本当は、別にそういうことをしてもいいのだけれど。

 

「なんというか、誤解が無いように言っておきますが。別にそういう行為をされるのが嫌とかそんなんではないです。藤堂さん個人を拒んだわけでは無いんです」

 

 全身を泡まみれに。

 そして両手に洗体スポンジを持って、何やらショックを受けている藤堂さんを慰めるために口にする。

 

「いや、本心を言っていいよ。普通に嫌でしょ。ごめんなさいね。初音はシバいとくから」

 

 高橋部長が本当は私もダメだと思っていたのだよね。

 そんな口ぶりをしているが、本当は許可出したでしょ。

 そうではなきゃ藤堂さんがこんな行動に出ないし、と察しつつも口には出さない。

 そこら辺はどうでもよいからだ。

 

「んー、なんというか」

 

 表現というか、言語化しづらい。

 女の子に身体を洗って貰うなんて、僕にとってはご褒美でしかないからだ。

 だから、嫌というのはまた違う。

 その、なんだ。

 

「藤堂さん、貴女にとって僕はなんなんでしょう」

「部活動の仲間で、お友達で、これからもっと親しくなりたいな!」

 

 びっ、と親指を立てて元気よく返事をする藤堂さん。

 うん、それで文句ないのだが。

 

「なんか――その、だったら違うと思うんですよね。上手く言語化できないんですが」

「というと?」

「そうですね、無理矢理言葉をひねり出すとすれば、これは青春ではない」

 

 違うのである。

 異性との身体の洗いっこは青春ではないのだ。

 それだけは間違いない。

 

「どっちかというとエロ本のシチュエーションですよね。サンオイルを塗るまでがギリギリ青春で、もう風呂場の洗体はそういうプレイですよね」

「それはそう。痛いところを突かれた」

 

 藤堂さんはこくん、と首だけで頷いた。

 こんなこと言わなくても、本当は本人も分かっていただろうに。

 

「だからダメです。あのね、本音を口にしますが、まあ僕は今更言わなくても高橋部長に好感を持っていますし、そりゃあ部員の皆さんも普通に好きですよ。それとこれとは話が別ですよね」

「ぐぬう」

 

 ぐぬう、ではない。

 とにかく反論できない藤堂さんを説諭するため、畳みかけに入る。

 

「それとも夏の想い出にそういうことがしたいと? もうそれだけしか、お猿さんのように考えられないと?」

「いや、うん。ごめんなさい。違います」

 

 しょぼんと、藤堂さんが項垂れる。

 わかってくれたならいいのだが。

 

「そういうわけで、まあお風呂には普通に入りましょうね」

 

 というより。

 更に隠した本音がある。

 僕もそろそろ限界である。

 あれだ、僕の感性自体はそれなりに普通というか、まあ僕の中にもいるのである。

 藤堂さんみたいな性欲のケダモノが。

 洗体プレイまでやってしまえば、そのケダモノが檻から解き放たれてしまう可能性があった。

 あまりある欲望をぶつけて、未だそこまでの関係に発展していない。

 四人を性欲のはけ口にしてしまう可能性があるというか。

 自分に自信がないというか。

 ともあれ、まあ多分限界である。

 僕はそういう理性の無い行為をしたくないのだ。

 

「というわけで、キチンと泡を落としてから露天風呂に入りましょうね」

 

 僕は泡だらけの藤堂さんに、洗面器に入ったお湯を浴びせた。

 

「ああ! 私の汚れきった性欲が、全身から落ちていく!!」

 

 藤堂さんの性欲だったのか、その泡は。

 ともあれ、性風俗のサービスのように全身を泡だらけにしていた藤堂さんは、ひとまず落ち着いたようだ。

 僕は背を向けて身体を洗い、ちゃぷりと露天風呂に浸かる。

 

「……」

 

 湯加減はいい塩梅だ。

 僕に遅れて、藤堂さんがお湯に浸かる。

 高橋部長たちはまだ身体を洗っていないので、入ることは出来ない。

 要するに、藤堂さんとしばらく二人きりだ。

 

「私は正気に戻った!」

 

 ぐっ、と握りこぶしを空に掲げるジェスチャーをする彼女。

 おそらく特に正気には戻っておらず、頭の中はエロで詰まっている。

 そういう人だとは知っている。

 だが嫌いにはなれなかった。

 なんだろうな、前世の自分とすら似ても似つかないのだが。

 中学生の頃はこういう煩悩の塊もチラホラいたな、と少し回顧する。

 

「……」

 

 あぐらをかく。

 昼間に遊んだ疲労が、温泉に溶けていくのを実感する。

 頭は少し茹だっている。

 

「梶原君や。ところで、先ほど口にしていたことなんだけどね」

「何か言いましたっけ?」

 

 藤堂さんが、手で波を起こしている。

 特に意味の無いジェスチャー。

 その仕草をしながら、僕に質問する。

 

「今更言わなくても高橋部長に好感を持っているって言ってた。まあそれは知ってるんだけどね。それなら、もう少し進展があってもいいんじゃない? 私の先ほどのそれは性急にも程があるって話だけれど」

「……」

 

 まあ、そうだ。

 藤堂さんの言いたいことは分かる。

 僕と高橋部長の仲はあまり進展しておらず、週に一度デートに行くだけで。

 キスをするどころか、告白さえしていない。

 だけれどだ。

 

「そんなに焦る必要ってあります?」

 

 ここからだと、高橋部長に内緒話は聞こえない。

 僕は心を少しだけ許して、尋ねた。

 

「恋愛はお互いの気持ちがあってのそれだからねえ。まあ梶原君は急いで無くても、千尋はそれなりに気にしてるさ」

 

 まあ、仰るとおりだろう。

 だがしかし、だ。

 

「僕には恋愛経験がなくて、よくわかりません」

 

 それが正直なところだ。

 どうして良いか、時々わからなくなる。

 高橋部長からの好意は感じている。

 僕だって惚れている。

 だからといって、ではドンドン前に進みましょうね、といかないのだ。

 この夏で、この旅行で、とは実のところ考えているが。

 

「どこかで、二人だけの時間を作るよ。そこでなんとかなる?」

 

 藤堂さんが問う。

 湯船の中をこちらへと、猫のように身体を伸ばしている。

 僕は答えた。

 

「……そうですね。その時間を作って頂ければ」

「ようし、じゃあ、なんとかするね」

 

 指で、デコピンをするように湯船の表面を弾きながら。

 藤堂さんは魅惑的な表情で、僕にそう告げた。

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