貞操逆転世界のオタサーの王子様   作:道造

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第十二話「藤堂の思惑」

 

 ゆるやかに湯加減を楽しむ。

 腕を組んで、小さいけれど確かにある自分の胸を押さえながら。

 梶原君を目の前にして考え込む。

 さて、どうやって千尋と梶原君に二人だけの時間を与えてやれるか。

 

「さてはて」

 

 千尋との出会いを回想する。

 幼なじみである。

 同じ中学校の出身であるが、小学校は違う区域に生まれたために違う。

 では何を切っ掛けに幼い頃から仲良くなったのかと言えば。

 あれだ、出会いは運命であった。

 小学生五年の時である。

 私と千尋が性の目覚めを覚え、古本屋のボーイズラブコーナーにて互いにコイツとよく会うなと認識した頃は。

 うん、端から見れば最低の出会いである。

 声はどちらから掛けたのだろうか。

 よく思い出せないな。

 まあ性格を考えれば、間違いなく千尋から声を掛けてくれたのだとは思う。

 きっと台詞はこうだ。

 

「貴女もオタクですか? よろしければ友人になりませんか?」

 

 おそらくはそうだったのだろう。

 最初の話題は、確か「何故エロ本は禁止されているにも関わらず、ボーイズラブの性表現は子供に対しても何の制限すらなく、販売が許可されているのだろうか?」であった気がする。

 そんなしょうもない、どうしようもない性癖の暴露と論議が切っ掛けで。

 彼女と刎頸の交わりにも近い仲になるとは思いもよらないことであったが。

 ともあれ、千尋は私にとって大事な親友となった。

 友人はいた。

 他にも友人はいたが、お互いに性癖をのこりなく開陳し、何処までも猥談をして眉を顰めないのは彼女だけであった。

 梶原君は何やら千尋に女の理想像を描いているかもしれないが、彼女はどうしようもないドスケベなのだ。

 いつか褥で驚くことになるだろう。

 それはともかく、千尋は輝いていた。

 あれだ、何というか、光の戦士であったのだ。

 千尋は何一つ自分の性癖や、性質や、オタクであることを恥だと思っていないし。

 それに、人に優しくするのは当たり前だと。

 そのような善良を信じて疑わない女だったのだ。

 私は彼女をすっかり好きになってしまったし、彼女にとって一番の友でありたいと思ったのだ。

 今のところ、それは続いている。

 瀬川やエマは大事な友人だ。

 だが、千尋の一番の親友という立ち位置だけは譲りたくないと考えている。

 そうだな、そうだ。

 同時に、『現代文化研究会』の五人全員が幸せになればいいとも考えているのだ。

 その幸せの鍵は目の前に存在している。

 梶原一郎という存在だった。

 あれだ、血はニカワ、人類原初の接着剤である。

 こんなことは梶原君にも千尋にも、とても言えないのだが。

 思い切り下ネタなので、ぶん殴られるから言わないのだが。

 私は千尋と、ある意味で『姉妹』になりたいのだ。

 恋愛という過程を通し、結婚という果実を残して、五人で家族という者を形成したかった。

 今回は、少しだけ思いが先走りすぎたが。

 それについては反省しておこう、うん。

 

「藤堂さん、さっきの話ですけど」

 

 梶原君が、エマと千尋が身体の洗いっこをしているのを微笑ましく見ながらに口にする。

 おっと、意識が宙に飛んでいた。

 梶原君との話を続けなければならない。

 

「千尋と、ちょっと二人きりで話がしたいって部分だね」

「そうですね」

 

 うんうん、首尾良く進んでいる。

 あれだ、先ほどの行為は拒否されてしまったが。

 別に梶原君に嫌われていることではないのは、言質が取れた。

 誠によろしい。

 

「旅行の途中でいいかな? 少し中途半端なタイミングになるかもしれないけれど」

「十分です。そうしていただけると」

 

 私の目をまっすぐ見据えての要求。

 大変によろしい。

 とどのつまり、私が千尋に幸せになってほしいというのが大前提としてある。

 あるが、私もそれに加えてもらえればなと思う。

 『現代文化研究会』まるごと面倒を見てくれないかと考えている。

 もちろん努力はする。

 皆が幸せになれるよう、この藤堂は努力するさ。

 エマが夢を見ていたな。

 梶原君もいない昨年に、夢みたいなことを口にしていた。

 漫画家になりたいだなんて。

 彼女にとっては、大変勇気のいる大言壮語だっただろう。

 だがまあ、実のところ皆が考えていることがある。

 千尋にも、私にも、瀬川にも才能は無いだろう。

 所詮は二次創作の同人止まりの連中だ。

 だが、エマは違うのだ。

 誰が見ても才能を感じさせる人物だ。 

 異常で、変質的な、偏愛的で、妄執を描いた、そんな作品を創作できる。

 彼女は特別(スペシャル)なのだ。

 だから、まあおそらくは漫画家として食べていけるだろう。

 エマはこうも言っていた。

 プロの漫画家になれたなら。

 それこそ、現代文化研究会の全員を自分のアシスタントして養えるくらいの漫画家になったら。

 一生、皆で一緒にいられればいいなと。

 そんな、夢みたいなことを口にしていた。

 小さな女の子が、ケーキ屋さんになりたいだなんて口にするぐらいの甘ったるい夢。

 現実には大変な苦労をしなければならない。 

 実際にケーキ屋さんになるということは、パティシエールになるということで。

 大変な苦労と、経済的な困難と、才能がなければならない。

 だが、やるだろう。

 きっと高倉エマは最後までやり遂げるだろう。

 あれは荒れ地を選んで這っていき、血みどろになりながら目標地点に達することができる女だ。

 彼女は、私たちと共にいられることに執着している。

 それを私は理解している。

 だから、彼女の夢を叶えようと思うのだ。

 眼前にいる梶原一郎という男を手に入れることで。

 彼をニカワにすることで。

 我々の永遠を手に入れよう。

 『現代文化研究会』を永遠のものにしよう。

 

「さてさて、梶原君。告白の際の口説き文句はもう用意したのかね?」

 

 そんな軽口を叩きながら。

 さて、どうしましょうと考え込んだ梶原君を見つめて。

 私はしめしめと、満足げに微笑んだ。

 

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