貞操逆転世界のオタサーの王子様   作:道造

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第十三話「砂のお城」

 夏の旅行二日目。

 少し口に入った、砂混じりの唾をぺっと吐く。

 僕らは築城をしている。

 大規模工事であった。

 プラスチック製ではあるが大きなスコップを使い、周囲から豪快に砂を掘り集める。

 すると、それを材料に高橋部長たちが城に加工してくれるというわけだ。

 役割分担だ、うん。

 より厳密に言えば、僕に造形センスがないことが問題なのだが。

 

「梶原君、そろそろ建築素材は十分に集まったから君も造形に挑戦しよう!」

 

 瀬川さんの呼ぶ声。

 気づけば、砂山が出来ていた。

 仕方ない、素人の手つきで築城に参加するか。

 僕はスコップを砂山に突き刺し、他の四人に近づく。

 海水を汲んだバケツが横に置いてあった。

 砂のお城作りに必要なもの。

 それは水分である。

 サラサラの砂では築城の素材にならないのだ。

 砂は、ギュッとつかんで固まるぐらいがいい。

 瀬川さんが事前に調べてきた情報なので、その詳細な理論を僕はよく知らないのだが。

 エマさんはペンを、藤堂さんはタオルを頭に巻いて気合いを入れ、その手にヘラを持っている。

 高橋部長は全体を見ながら現場監督指揮しつつ、自分でも製作を担当していた。

 うん。

 いや、そこまで本格的にやらんでもいいと思うのだが。

 僕の砂遊びのイメージとは違う。

 

「その、もっと牧歌的なものになると想像してたんですが」

「あー、クリエイター気質なもんでね、ウチは」

 

 瀬川さんはお城の土台にするつもりの、砂の入ったバケツを指さす。

 僕は意を汲んで、それを強引にドンと地面にひっくり返し、バケツ型の土台が出来た。

 それを幾度か繰り返し、巨大な土台を作る。

 

「梶原君、残念ながら和風の城を作るには参考資料が不足していた。西洋建築しかできないね」

「いや、和風洋風はどちらでもいいんですが」

 

 そもそも僕の考えていたのは、幼稚園児が作るようなお城であったからして。

 まあ曲輪も本丸も作りたいとは思っていたが、造形についてはそこまで細かくするつもりはなかった。

 そんなこと今更言えないが。

 だって、皆ガチなんだもの。

 

「ここを城までの階段にするから、初音はヘラでよろしく」

「あいよ」

 

 藤堂さんがヘラで、階段の形を整えている。

 集中力は高く、いつものヘラヘラとした様子は無く、ただひたむきに階段を作っている。

 

「エマ。城のデザインの全てを任せる。勝負所だよ」

「わかりました」

 

 エマさんはペンで、土台から城へのクリエイトを開始する。

 筆付きに迷いは無く、最初から全体像が見えているかのようでさえあった。

 

「瀬川ちゃんと梶原君は壁作ってね。同心円状に二重の城壁を築こうか」

「アイアイサー」

「承知しました」

 

 何はともあれ、僕と瀬川さんは同心円状に城壁を。

 あれだ、中世ヨーロッパ風のアニメでよく見る円状都市を造ろうと試みる。

 その作業をしつつ、瀬川さんと話す。

 

「これひょっとして、もう砂のお城じゃなくてサンドアートに片足を突っ込んでいるのでは?」

「梶原君の本意じゃ無かった?」

「いや、どうせやるなら本気が一番ですが」

 

 嫌ではないのだ。

 本気でやるのは嫌ではないが、僕は甘く考えていたのだ。

 

「エンジョイ勢とガチ勢ぐらいの空気を感じています」

「梶原君、梶原君」

 

 ぺたぺたと、砂粒のついた手で僕の肩を叩く。

 そんな瀬川さんが、少し困った表情で口にした。

 

「梶原君も大概ガチ勢の方だからね。皆を本気にさせたの梶原君だからね?」

「僕ですか?」

 

 何かしただろうか。

 すっと僕は指を示された方を見る。

 そこには僕が集めた砂山があった。

 

「材料を用意しすぎなんだよ。ああ、これは結果を求められてるなってなるじゃん」

「いや、そのつもりはなかったというか。何も考えずに穴掘りが楽しかっただけなんですが」

「梶原君の前世は犬だったのかな? まあ、とにかく皆は本気になった。これは止められないね」

 

 ぺたぺたと、僕がシャベルで大雑把に壁を造る。

 細かいところは瀬川さんが担当して、造作をこしらえている。

 

「もちろん、私はサンドアートを作ってさあ楽しかったねということで、波に消されて諸行無常にするつもりはないよ」

「というと」

「良い作品を作ってSNSで流してバズりましょうね。皆で写真も撮ろうね。そして認知度を上げて、夏の即売会での売り上げ向上を狙いましょう」

 

 うん、そういう人だよな、瀬川さんって。

 僕は彼女の俗っぽいところを好ましく思った。

 いつでもどこでも、部活の広告のことを考えているのだ。

 しばらく作業を続けるが、皆早い。

 これは五人がかりなら、二時間も掛からずに築城が完了するのではなかろうか。

 

「ねえ、梶原君」

 

 ふいに、瀬川さんから声がかかる。

 

「何でしょうか、瀬川さん」

「トンネルをここに造ろうか。城門だね」

 

 ふむ、いいだろう。

 僕はスコップを地面に置き、手で壁に穴を少しずつ掘る。

 逆側から瀬川さんも掘って、同時に穴が開けた。

 穴が無事に開いたことを喜び合い、お互いに伸ばした手をつなぐ。

 

「梶原君の手、やっぱりゴツゴツしてるね」

「一応男なので」

 

 少しだけペンダコのある、それでもつるりとした瀬川さんの手を握る。

 砂粒がついた指が、艶めかしく僕の手をなぞる。

 砂遊びの際に生じる独特の感触が、僕の背筋をぞくりとさせた。

 

「うん、いいね。こういうの」

 

 瀬川さんが、トンネルの奥で小さな笑い声を上げた。

 

「そうですね」

 

 僕も同じく笑う。

 母が言っていた、異性同士にて海で遊ぶと異常に楽しいという感覚は。

 母の追憶は、きっとこういうものであったのだろう。

 そう実感する。

 

「さて、真面目にやんないと藤堂がヘラを投げてくるから続けようか」

「そうですね」

 

 僕らは真面目に城壁作りを続ける。

 丹念に作業に没頭して、瀬川さんと二人での作業であり。

 牧歌的とはほど遠いが、これはこれで充実した時間だ。

 満面の笑みで川も造ろう、川もとはしゃぐ瀬川さんを見て。

 心のどこかが、安らいでいくのを感じていた。

 日差しも、彼女の笑顔もまぶしかった。

 

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