花火大会が始まっている。
貸別荘の庭で、男おらずの女子三人にて花火を鑑賞する。
私は親友である千尋と、梶原君が今頃何をしているのだろうかと考えて。
「今頃あの二人、さすがにキスぐらいはしているかね?」
実際に口にもした。
「さすがにしたでしょう。それぐらいはやってもらわないと私たちが困る」
ここまでお膳立てしたのだからと。
そう言いたげに、瀬川が答えた。
「梶原君の初恋、高橋部長にもって行かれちゃいましたね。まあ元々私たちはお呼びじゃなかったと言えばそうなんですが」
エマは縁側に座っている。
大人しく、夜空に輝く花火を見つめていた。
「まあ、それは羨ましいと言えば羨ましいけどさ。私たちにとっても悪い話じゃなからね、これは」
私の計算ではだ。
確かに梶原君にとっての初恋相手は千尋なのだろう。
だからといって、それは私たち女子三人の初恋までイコール破れたとはならないのだ。
そう話の方向を向けてやる。
「このまま五人一緒の関係に持ち込みたいと」
「そうそう」
梶原君と千尋の恋の成就は、私たちの敗北を意味しない。
私には男心がわからぬ。
中学生の頃はエロマスターと呼ばれて、クラスでエロ本を高値で転売していた。
高校では限りなくエロに近いR15という言い訳を前提とした同人誌を描き、部員の皆と遊んで暮らして来た。
けれども惚れた男に対しては、人一倍に臆病であった。
間違いなく、自分では梶原君に告白などできなかったであろうことは理解している。
それどころか、部室に連れてくることすら出来なかったであろう。
千尋がいてくれてよかった。
「あれだね? 仮に私たちが将来、同棲生活をするとすれば、どんな日常が待っているんだろうね?」
「そりゃあ――きっと幸せな日常だよ。思ってもみないぐらいの」
「うん」
夢のようなことを口にする。
どうか、このまま五人での同棲生活まで持って行きたい物だ。
少なくとも高校を卒業したら、そんな生活がしたい。
「私たちは二人のお邪魔にならないでしょうか」
エマはいまいち乗り気じゃない、大それた夢をという顔をしているが。
いや、皆で幸せになろうよ。
「全員が全員受け入れられるのが一番いいんだろうと。それが難しいなら千尋だけでも幸せになって貰うのが一番いいと。そう考えていたけどね。でも、やっぱり諦められないよね」
「そりゃあ、私たちだって初恋を成就させたいですよ。もちろん高橋部長の幸せが一番ですから今回は譲りましたけど」
エマが少しだけ本音を吐露する。
梶原君と出会って三ヶ月が過ぎた。
いろいろなことがあった。
私と梶原君の間に色々とあったように、他の皆と梶原君の間にも様々なイベントくらいあっただろう。
それをジューサーで振り絞るかのような声で口にした。
「あわよくば責任有りでエッチなことがしたいね!」
「急に欲望を叫ぶんじゃない」
瀬川に咎められる。
ここからは猥談の時間だ。
「8歳と9歳と10歳の時と! 11歳から15歳にかけて、私はずっと! 待ってた!!」
「あの、何を? 要するに8歳から15歳に渡ってずっとだよね」
特に意味も無く小刻みに分けた。
それにツッコミを入れたエマに対し、私は真剣な面持ちで答えた。
「性の目覚めを覚えたときから願ってた、私の考えた都合の良い男の子です」
「それは皆願ってるよ。富裕層のママぐらいしか用意してくれないよ」
瀬川が鋭いツッコミを入れた。
そういう世の中だから仕方ないのだ。
「それなのに、だ! 急に都合良く16歳になって都合よく目の前に現れたとは想いもしなかった! 世の中捨てたもんじゃないね!!」
「運だけどね。ほぼ運で来たけどね」
あれだ、運だ。
運命ではない。
三つのダイスを振ったら都合良く6、6、6のゾロ目が出ることだってあるさ。
一部のゲームでは問答無用のクリティカルだ。
「運か!」
「都合良くなんか現れたまでは運で、高橋部長がそのチャンスを掴んできた。それについては運じゃないけれど」
瀬川が分析を続ける。
うん、そこは運ではない。
我が親友が少ないチャンスをもぎり取ったのだ。
私はコホンと咳をして、猥談を続ける。
「ねえ、繰り返すけど。梶原君にとっての一番は千尋でいいけど。皆で幸せになろうよ。見知らぬ顔の幸せまで祈っているほどの余裕があるワケではないけれど、せめて観測範囲内の身内だけは幸せになろうよ」
私はカミソリと呼ばれた昼行灯の言葉を口にしつつ、猥談を終えた。
エマは少しだけ悩んだそぶりを見せたけれど。
「そうですよね。私たちだって幸せになってもいいですよね」
最終的には理解を示してくれた。
「梶原君と、高橋部長の優しさに付け込むことにしましょう」
瀬川もやる気満々だ。
と言うわけでだ。
「千尋に配慮してやれるのはここまで。ここからは私たちも一転攻勢にでるよ。明日からは皆で幸せになれるよう、千尋が開けた突破口に付け込むのだ」
「承知しました。でも、私はその前に寝そうなんですが」
そうこうしているうちに、エマがうつらうつらとしてきた。
眠いらしい。
瀬川と二人して支えながら、大部屋寝室へと出向く。
私たちは梶原君と一緒の同棲生活が出来るよう、それぞれがアピールできることを祈りながら。
それぞれのベッドで、まんじりとして目を閉じた。
もちろん千尋の奴を待つようなことはしない。
あれはあれで、今頃はよろしくやっているだろうから。
このまま起きたまま出迎えて、それを揶揄うのも無粋であろう。
私は夢の中に落ちていく。
将来の、全員が幸せになれる夢を抱きながら。