貞操逆転世界のオタサーの王子様   作:道造

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第十七話「お互いの告白」

 

 旅行期間の一週間が過ぎた。

 大体のことはやった。

 海水浴や砂遊びといった海遊びに飽きたら、それこそ庭でのバーベキューもやったし、近くの水族館に行ってシャチやイルカのショーを観たりもした。

 大体のことはやり終えたと思う。

 良い一週間であった。

 その締めくくりとして、やるべきことがある。

 

「アンタップ・アップキープ・ドロー」

 

 呪文のように唱える。

 海水浴旅行中の最終日、僕等は早々に帰り支度を済ませて。

 帰りの電車までの時間をどうして潰そうかと思い、そして暇な時間があればオタクという物は何かゲームをするのだ。

 僕と高橋部長にとってのゲームとは、イコールでカードゲームのことで。

 旅行だというのにそれぞれデッキを持ってきていて、二人でプレイをしている。

 

「瀬川さんは?」

「貸別荘の鍵を管理人さんに返しに行ったよ」

 

 思えば懐かしい。

 高橋部長と出会えた切っ掛けはカードゲームであり。

 このおかげで、僕たちは友人になり。

 現代文化研究会という同好会に誘われて、多くの友人を得ることが出来た。

 そして、今では――キスだってした。

 

「藤堂さんとエマさんは?」

「浜辺に、貝拾いに出かけたよ。らしくもないけれど」

 

 おそらくは気を利かせてくれたのだろう。

 僕は三人に感謝しながら、色々な事を考える。

 

「梶原君、それ最初に私が貸していたデッキと同じだね」

「思い入れがあるので」

 

 あれから三ヶ月、僕は所持していなかったカードをショップで揃えて。

 最初に高橋部長に貸していただいたデッキと、全く同じ物を組んだ。

 デッキ構築の一枚一枚がそっくりだ。

 おそらく、このデッキ構築が崩されて、他のデッキに転用されることはないだろう。 

 ずっとそのままだ。

 カードゲームのルール上で現行環境落ちして、いつか使えなくなったとしても。

 それぐらいに思い入れがある。

 僕は、高橋部長と出会えたことほど。

 

「ねえ、梶原君」

 

 カードゲームをやっていて良かったと思うことはないのだ。 

 前世であれだけ傾けたゲームへの情熱に、少しだけ不純な気もしているが。

 その情熱が理由で、惚れた女性と出会えたのだ。

 

「まだまだあっつい日々が続くねえ、梶原君」

「そうですね、まだ夏も序盤で八月初めですから」

 

 無難に、時候について語る。

 窓から見える空は晴天だ。

 ウミネコは朝も早くからニャーニャーと鳴いている。 

 

「この海水浴旅行、楽しかったね」

「そうですね。皆と来られて本当に良かったです」

「ねえ、梶原君。キスを先にしといてなんだけど。私の事好き?」

 

 重要なこと。

 それを先に確認される。

 僕等はまだ告白という物をキチンとしていない。

 

「好きですよ」

「うん、私も梶原君の事が好き」

 

 認識のズレが無いことを確認する。

 そして、お互いに話をする限りでズレはない。

 僕は一安心して、いよいよ踏み切る。

 アクセルスタートだ。

 

「高橋部長。言おう言おうと思っていて、いつ言い出すか迷っていたんですが」

「――は、はい」

 

 互いに結論は出ているのだ。

 それでも僕はちゃんと告白をする。

 

「僕は高橋部長が人として大好きですが、女性としても好きです。何回かデートをこの四ヶ月重ねて、ずっと考えていましたが。僕なんかが告白を申し出るとすれば、失礼でしょうか?」

「失礼なことなんて、ないよ」

 

 僕は顔が火照るのを感じた。

 何せ、人生初めての告白準備であったから。

 緊張で背筋がピンと伸び、高橋部長が返事をすべく口を開いた。

 

「梶原君、あのね。ずっとこうして側にいられたらと思うんだよ。私、お母様から梶原君の事を色々と聞いたんだ。他人に心を開かないところとか、どうにも雰囲気に馴染まないところとか」

「事実ですよ。僕の悪いところです」

 

 そうだ。

 きっと、僕はオタク同士にしか心を開けないのだろう。

 それは分かっている。

 自分の趣味を共有できない人間とは、同じ空気を共有することすら不快だと思っている。

 それこそ我慢は出来ても、息苦しいとは思っているのだ。

 だから、こうも現代文化研究会の空気に馴染んだ。

 

「ねえ、私にも悪いところが一杯あるよ」

「そんなものあるんですかね。僕はないと思っていますが」

「あるさ。具体的には、まあ梶原君を他人に盗られたくない。独占したい。自分の卑しさと独占欲はよくよく分かっているよ。多分、現代文化研究会の皆がギリ許せる範囲で、それ以外の女に盗られたら発狂しちゃうよ」

 

 それはまあ普通なのでは?

 そもそも一夫多妻制でなかった前世を経験していれば、僕などはそう考えてしまうが、この世界では嫉妬深い方なのだろう。

 

「梶原君、ねえ。私と付き合ってくれるかな。私の想いはきっと重たいけれど。君が私の事を嫌いになったら、それは綺麗に諦めるから。でも、そんなことはさせないと約束するから」

 

 卑下と約束を。

 それを口にしつつも、ハッキリと言ってのける。

 

「きっと、死ぬまで退屈させないから。だから私の側にいてくれるかい?」

 

 告白をしようとして、逆に告白される。

 女性からの、男に送る告白だった。

 

「ねえ、高橋部長」

 

 僕はそれを真っ正面から受け止める。

 

「僕は男として足らんところが色々とあると思うんです。例えば、貴女に告白させてしまったところとか。いえ、まあ、世間の常識では女性からになってるんですが――」

 

 足らないところ。

 僕の世間に疎いというか、変な価値観のそれ。

 それ自体は付き合いの内で理解してもらっているだろうが。

 

「僕の中ではね、男の側からも、キチンとすべきものであるということになっているんですよ」

 

 僕の中ではそういう価値観になっているのだ。

 だから。

 

「だから、僕からも告白します」

 

 僕が今からやるそれも、真っ直ぐに受け止めてもらいたい。

 

「僕と真剣に交際してくれませんか、高橋さん。それこそずっといられる将来を見据えて」

「喜んで!」

 

 高橋部長はそれこそ飛び跳ねそうな勢いで、叫んだ。

 あれだ。

 まあ色々とあった海水浴旅行だが。

 何事も上手くいった!

 これ以上ないほどに上手くいったのだ!

 互いに、旅行前は考えもしなかったほどに。

 

「それはそれとして、真剣勝負と参りましょうか」

 

 僕は手札を確認する。

 別にカードゲームにおける勝利を目的とはしていない。

 ゲームに負けても死ぬわけではないのだ。

 負けて悔しいと言う思い入れはない。

 大会でもなんでもないし、まして恋人同士の遊戯である。

 だけれど。

 

「わかっているよ。手加減は嫌いなんだよね?」

 

 ゲームそのものは真剣にやるべきなのだ。

 僕はカードゲームをするだけで楽しい。

 それが恋人同士となれば尚更だ。

 勝利を掴もうとはすれど、真の意味では勝利を目的とはしていない。

 けれども。

 

「そうですよ。遊ぶなら真剣に遊びましょう」

 

 むしろ、だからこそ、僕は真面目にゲームをするのだ。

 ただ、楽しむために。

 お互いに相手を尊重しながら。

 今にも喜びで叫び出しそうな心境を必死で抑えて、手札をプレイするのだった。

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