貞操逆転世界のオタサーの王子様   作:道造

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第二十三話「打ち上げ」

 

 即売会から無事に帰還する。

 新刊は全て頒布し終えて、会計広報担当の瀬川さんなどはホクホク顔であった。

 さて、僕等はいつもの即売会が終わると同時に出向くお好み焼き屋さんに来ている。

 打ち上げであった。

 いつもと違うところは、会場からの帰還時間がかかり、午後五時を回っていることだろうか?

 ランチタイムを避けた時間では無いため、夕食のお客さんがそこそこいる。

 僕等は迷惑にならぬよう、静かに乾杯をした。

 

「はい、今回も無事に乾杯となりました。今日は梶原君のお母様が手を回してくれて、皆の門限時間も緩めて貰っています。ですから、のんびりと飲み会を楽しみましょう。アルコールは飲めませんが」

 

 高橋部長が座ったまま、短めに乾杯の挨拶を済ませる。

 

「さて、それはそれとして。今回はちょっと変わったお仕事についての話が来ました。それについて相談したいと思います。重要なお話です。それこそ今後のサークル活動が変わるぐらいの」

「やっぱりその話になりますよね」

 

 僕は頷いた。

 あれだ、まあ話の内容はある程度まとまっているのだが。

 

「ともあれ、僕のキャラクターそのまま使うのはさすがに無しと言うことでいいんですよね」

「そりゃそうだよ。何が悲しくて自分の彼氏を鬼畜として売りださなきゃいけないのさ。しかも商業で」

 

 真顔の高橋部長。

 うん、そうなんだけどさ。

 今回のコピー本も、まあギリギリのラインであったし。

 

「あの、仰るとおりではありますし。その通りにするんですが。キャラクターを一から作り出して描けるかどうかがですね」

 

 エマさんが未だに抵抗している。

 納得はしているが不満というか、困難を迫られているかのような、苦渋に満ちた顔つきである。

 

「キャラクターを変更するだけでは? それほどに難しいことですか?」

 

 僕は彼女が何を言いたいのかよくわからん。

 キャラの顔だけ変えてくれればいいのだ、こちらは。

 

「人の表情を描くのって実はかなり高等技術で難しいですよ? というか、一からキャラクターを創り出す行為が難しすぎるんですよ。その辺りが難しいから梶原君という身近な男性を題材にしたというのがあります。勿論、挑戦そのものはやってみますけど」

 

 そんなものだろうか。

 初心者である僕には、彼女の言わんとするところが完全には伝わらないでいる。

 

「アレだよ。まあエマの言いたいことは分からんでも無いんだよ。同人畑から商業に入るとすれば、まあ単に商業作品として連載ペースを維持できるかというのが一番の難点ではあるんだけど。単に人様のアセットではなく、キャラクターを創り出す行為自体も難しいというのもある。だから一流の作家ですら有名人のオマージュを使ったり、他の作品から模倣を試みたりするわけだ。勿論、独自のアレンジは加えるけれど」

 

 逆に、藤堂さんは理解を示した。

 それはそれとしてだ。

 

「でも、それが出来なきゃどっちみち、この先やっていけないでしょう? 私たちも手伝うからさ」

 

 エマさんを窘めるようにして、言い聞かせた。

 そうしてビールジョッキに入ったサイダーを飲み、じっとエマさんの瞳を見つめる。

 

「うーん、やってみます」

 

 エマさんはようやく折れた。

 折れたというか、厳密にはようやく現実的な方向に歩き出したというか。

 じっと、財布から取り出した名刺を見ている。

 

「あの編集さん、編集長だったんですね」

「その雑誌、本当に大丈夫なの? 聞いたこと無いんだけど」

 

 瀬川さんはあの駄目な大人から、雑誌の存在が想像できないでいるみたいだが。

 僕も正直実存を疑っている。

 

「いや、そこそこ有名だよ。瀬川ちゃんが知らないだけで。私と初音は知っている」

「うん、そこそこ有名だよ。瀬川が知らん業界の雑誌と言うだけで」

 

 部長と藤堂さんのお二人はご存じのようだ。

 まあ、前世でも累計一千万部を超えてる少女漫画の殆どを、アニメ化したり実写化したところで男の大半は存在自体を知らんかったからな。

 知らん界隈のことは、何処まで行っても本当に知らないのだ。

 令和は特にエンタメ業界が膨らみすぎていて、全ての情報を把握するのは不可能に近い。

 

「実質書き下ろしみたいなWeb連載ではなく?」

「紙の雑誌だよ。発行部数も十万部きっちり超えてる」

 

 となると、相当見込まれたなエマさん。

 問題は内容が鬼畜陵辱物に最も限りなく近いのだが。

 あれ載せてもいいのだろうか。

 

「大変失礼ですが、あの内容はその雑誌のカラーに合ってるんですか?」

 

 僕は率直に尋ねる。

 かなり冒険的な作品だと思うのだが。

 

「……むしろカラーに合っているね」

「かなり受け入れられると思うんだ」

 

 やっぱりあの編集長、駄目な大人でないのだろうか。

 この場合は仕事が出来ないの駄目では無く、人として駄目の意味だが。

 

「そこそこ実力のある少女漫画雑誌なんだよね」

 

 大丈夫なのだろうか、その雑誌というか、この世界の少女漫画業界は。

 僕としては首をひねるばかりで、ようわからん。

 

「先ほども今後のサークル活動が変わるぐらいの、と言ったけれどね。エマはもう完全に二次は書かない方向で進めます。一次創作に、つまり商業読み切りに向けて集中ということでひとまず」

「私だけ除け者にされてるみたいなんで嫌なんですが」

 

 エマさんはどっちもやるよと言いたげだが、無理だろう。

 

「別に商業やりながら同人やっちゃ駄目なんて古くさい考え方してないけどね。手が及ぶ範囲ってのがあるでしょう。ここできっちり区切りを付けておくべきだと思うよ?」

「部長が仰るならそうします……」

 

 まあ、そうした方がいい。

 ただでさえ高校生活があるのだ。

 学生の本分と両立すること自体がすでに困難なのだから。 

 ハッキリとオリジナルを軌道に乗せることを考えた方がよいだろう。

 

「しかし、まあ悪い話じゃないよ。いつかエマは認められるだろうと思っていたけれど。プロの世界か……」

 

 うーん、と藤堂さんが腕組みをする。

 何か言いたげである。

 

「これが本当に商業連載にまでいければいいんだけど、甘い考えかな。そんで、前にも言ったように千尋がチーフアシになってさ、私たちもアシになってエマを支えて漫画家として食べていくの」

 

 それは今のところ夢のような話である。

 一介のオタクが抱くには大それた夢であったが。

 だが、いい夢だ。

 

「悪い夢じゃないですね」

「そうだろう?」

 

 ふふん、と藤堂さんが笑う。

 僕もそれに応じて微笑んだ。

 決して悪い夢じゃない。

 だがまあ、実現はかなり困難だろうが。

 あの駄目な大人の編集長は、観測気球として読み切りから連載へだなんて目論んでいるようだったが。

 そうそう上手くいく世界では無いのだ。

 エマさんは変態だ。

 異常変態的作風である。

 彼女の創作には特別感がある。

 だからといって、商業の世界で成功するとは限らないだろうな。

 サイダーを飲む。

 甘い炭酸が、喉の奥で弾けた。

 エマさんの創作はこの甘い刺激とは違い、強烈な刺激に溢れすぎているのだ。

 

「現実問題、どれくらいの確率で今回の作品が成功すると思います?」

 

 僕は誰にというわけでもなく尋ねる。

 

「五分五分くらい?」

 

 部長が答えた。

 半分もあれば、かなり高い確率である。

 

「あれだよ、ライトノベルの表紙じゃ無いけれど。エッチな男性が魅力的に描かれていれば大抵の作品なんて成功するよ」

 

 暴力的な理論を口にするなあ。

 まあ世の中そんなもんだけど。

 僕の感性で逆に言い換えれば、ライトノベルの表紙に魅力的な女性キャラが描かれてなければ売れないとなるが。

 実際まあそんなもんだろうから、反論は出来ない。

 

「さて、のんびりお好み焼きを食べるとしましょうか。梶原君、マヨネーズとってくれる?」

「はいはい」

 

 僕等は相談を終え、打ち上げ会を始めることにした。

 エマさんの成功とともに、今更ではあるが本日のコピー本がネット上に無断掲載されないことを祈りながら。

 まあ杞憂だろうと、僕はマヨネーズに手を伸ばす。

 それと同時に、スマートフォンがブザー音を鳴らした。

 同好会の皆がここにいる以上、電話先の相手など一人しかいない。

 マヨネーズを部長に渡すと同時に電話に出る。

 

「もしもし、母さん?」

 

 さて、何用だろうかと僕は眉を顰める。

 ある程度で打ち上げを切り上げて帰宅しろ、程度の連絡だろうと検討をつけるが。

 

「一郎、今日は全員で泊まりに来なさいって皆さんに伝えておいて」

「はい?」

 

 僕は母さんの言葉に、とりあえず耳を疑った。

 




 本日二巻の発売日となりました。
 電子でも紙でもよいので、ご購読をよろしくお願いします

 今回の特典はメロンブックス様のみとなります。
《link:https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=3523787
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