貞操逆転世界のオタサーの王子様   作:道造

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第二十五話「そういうことしちゃう?」

 

 ダイニングルームにて、来客用の布団を敷いて皆が眠っている。

 エマさん、瀬川さん、藤堂さんは騒いでいたが早々に寝こけてしまった。

 僕はというと、自室に帰ろうとしたのを高橋部長に引き留められ、この深夜までカードゲームを嗜んでいた。

 

「実際のところ、梶原君のお母様が酔い潰れたって言うのは完全にわざとだと思うの」

「でしょうね」

 

 二次会、三次会にまで行ってアルコールを飲んだのは本当だと思うが。

 じゃあそんな馬鹿な行為をその場のノリでやるかというと、そういう人では無いのだ。

 そんなにいい加減では無い。

 だから、きっと。

 

「理解あるお母様なのか、奔放というか」

「ガッチガチにお堅い方だと思ってたんですけどねえ。ウチの母さんは」

 

 別にそういうことを家でしても良いよと。

 変なことをしないという信頼では無くて、むしろ無条件に許可を与えているのだ。

 エッチなことをしてもいいよと。

 

「困っちゃうねえ」

「困っちゃいますよねえ」

 

 困っちゃうのだ、色々と。

 確かに僕と高橋部長は彼氏彼女の関係になった。

 だからといってだ。

 これからゆっくりと関係を進展させていくつもりであって。

 いきなりそういうことをしたいわけではない――とまでは言わないが。

 うん。

 

「困っちゃうねえ」

「困っちゃいますよねえ」

 

 言葉を繰り返す。

 そうだ、困ってしまうのだ。

 お互いにエロスへの期待というものはある。

 それを隠しては嘘だろう。

 でもなあ。

 

「ねえ、梶原君。実際のところどう?」

「どうといわれても」

 

 尋ねられても困るのだ。

 男らしく、じゃあエッチなことをしようかというのも別にアリだとは思う。

 僕は前世の価値観を維持したままでいる。

 据え膳食わぬは男の恥ともいうが。

 

「責任は取りますよ? 覚悟もあります。親の理解もありましょう。それでも」

「それでも?」

 

 カードゲームを続ける。

 高橋部長が召喚したクリーチャーによる攻撃宣言。

 カードがタップされて攻撃を開始して、僕はブロックするが。

 その攻撃に耐えかねて、ブロックしたクリーチャーは死んでしまったが。

 おかげさまでプレイヤーにダメージは無い。

 

「――この場で?」

 

 僕は首を傾げた。

 地面には布団の上で、別な部員三人が寝こけている。

 高橋部長は面白くなさそうな顔をした。

 

「うーん、いらない子たちだ。この時だけは排除してやりたい」

 

 露骨に邪魔者扱いである。

 まあそうだが。

 

「ゆっくりでいいじゃないですか。僕等にはそれが似合っているように思えませんか?」

 

 笑顔で口にする。

 焦ってはいけないのだ。

 ゆっくりで、本当にゆっくりとでいい。

 それが僕等には相応しいように思えるのだ。

 

「ま、そうだね。打つ手無し。サレンダーします」

 

 山札のカードを引いたが、トップ解決はしなかったようである。

 高橋部長は最後の抵抗を諦めた。

 

「続けますか? それとも――」

「止めとこう。私も寝ることにするよ」

「何処で寝ます?」

 

 僕は首を傾げた。

 来客用の布団は二組しか無い。

 藤堂さんは猫のように丸まって一つを占領し、仕方なく瀬川さんとエマさんが二人で一つを使っている。

 もう寝床は無い。

 

「……」

「……」

 

 奇妙な沈黙。

 寝床がないわけではない。

 

「梶原君の部屋に行ってもいい?」

 

 カードを、デッキケースに仕舞いながら。

 高橋部長が上目遣いで尋ねた。

 ここからはカードゲームではなく、直に視線を合わせての心理戦だ。

 そうしてもよい。

 それは本音だが。

 

「自信がありませんね」

「何の?」

「手を出さない自信がです。ですので、藤堂さん辺りを蹴っ飛ばして寝床を確保して下さい」

 

 丁重に断る。

 ゆっくりとやることにしたという宣言を裏切りたくは無い。

 

「うーん、梶原君はお堅いね」

「大切にしたいんですよ」

 

 これも本音だ。

 この想いを粗略に扱いたくないのだ。

 僕は高橋部長を愛している証明として、そういうことを今はしない。

 やや頑固かもしれないが、そうさせて欲しい。

 

「抱けぇ」

 

 呻き声が聞こえた。

 藤堂さんの声だった。

 

「抱けぇ……。抱けぇ……。ついでに私も混ぜてくれると」

 

 目を閉じたまま、藤堂さんが呻いている。

 高橋部長は真顔になって椅子から立ち上がり、藤堂さんの様子を見た。

 小さな両手で一生懸命に藤堂さんを揺り動かし、挙動を確認する。

 寝たふりをして僕等の様子を窺っているなんて趣味の悪いことだ。

 

「うっそお、本当に寝てる……」

 

 寝言だったらしい。

 寝たまま寝言を吐くのか、この人は。

 僕も立ち上がり、寝床に戻ることにした。

 

「おやすみなさい。高橋部長」

「おやすみなさい、梶原君。ところでさ」

「はい」

「二人だけの時は、部活の部長じゃあなくて。梶原君の恋人でありたいな。一人の女の子でいたい」

 

 うん。

 それも少しだけ考えていた。

 自室に戻る前に、少しだけ彼女の肩を掴む。

 そして自分の側に引き寄せた。

 

「おやすみなさい、千尋さん」

「おやすみなさい、一郎君」

 

 僕等は互いに名を呼び、口づけを交わした。

 おやすみのキスだった。

 静かに、そしてやや長く舌も入れないキスをする。

 

「抱けぇ……」

 

 藤堂さんの寝言を聞くという、よく分からないシチュエーションの中で。

 高橋部長が寝ている藤堂さんをそいや、とばかりに蹴り転がして、寝床を確保している姿を見ながら。

 僕は名残惜しくもあったが自室へと戻る。

 明日はもっと良い日になることを祈りながら。

 

 








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