貞操逆転世界のオタサーの王子様   作:道造

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第六話「同人誌」

 同人誌を読んでいる。

 『現代文化研究会』が発行した同人誌である。

 活動内容を知って欲しいとの事だった。

 評すれば――単刀直入に言うが、めっさ上手い。

 高橋部長が一番突き抜けて上手いが、他の先輩方もとても高校生が描いたとは思えない技量である。

 そこらの生半可な美術専門学校生より上手いのではなかろうか。

 というか、この人たち部活中はひたすら毎日漫画描いてるんだよな。

 瀬川先輩も、藤堂先輩も、高倉先輩も、皆ひたすら液晶タブレットに向かって絵を描いている。

 同人誌の入稿日が限界らしい。

 色々と話して友人となりたいが、本気で忙しいぽいので今は我慢している。

 だから、すでに入稿を終えて暇な高橋部長と二人で会話するのだ。

 

「高橋先輩――いえ、入部した以上、これからは高橋部長と呼ばせていただきますが、絵まで描けるんですね」

「これでも、ちょっとした自信があるんですよ。皆、漫画家目指してますので」

 

 ちょっとしたどころか、めっさ上手い。

 僕は絵など描いたこともない――厳密にはやろうとしたこともあるが、すぐ挫折した。

 あれだ、根気がなかったのだな。

 絵を描いている友人などいなかったのが一番大きいが。

 

「というか梶原君、同人活動に理解があるんだね。いや、オタクだって言ってたから大丈夫か。一部、かなりえぐいの描いてる自覚あるんだけど」

「大丈夫ですよ」

 

 部長たちが描いているのはちょいエロ、ギリギリR18ではない程度のエロが多めである。

 肌色多めであり、フェティシズムが散見される。

 高橋部長は何か男性の手に思い入れがあるようだが。

 同時に、原作への愛が籠もっている。

 キャラクターのif(もしも)、パロディ、パラレルを取り扱った同人活動の基本的立ち位置に沿うものであり、正直言えば「えぐい」の意味がわからない。

 首を傾げながらに言う。

 

「部長は男性の手が好きなんですね」

「うぐ、気づかれるか」

 

 それは気づく、手の描写が異常に上手い。

 ルネサンス期の絵師アルブレヒト・デューラーばりの上手さである。

 よほど練習を積んだのであろう。

 

「どうですか、僕の手など」

 

 筋トレのしすぎで、皮膚が硬質化してゴツゴツとしている。

 部長のお気に召さないかもしれない。

 掌を突き出す。

 

「好きだね」

 

 あっさりと答えられた。

 褒められて悪い気分ではない。

 それに対して、僕が差し出せるものなど少ないが。

 

「では握りますか? 僕なんかの手で大変恐縮ですが」

「おおう? いいんですか?」

「部長の作品の参考になれればと思います」

 

 高橋部長がおそるおそる僕の手を両手で握り、接触する。

 部長の手は女性らしさそのもので、柔らかかった。

 というか、小さいな、部長のおてて。

 

「おー、男性の手なんて初めて握ったけど、ごついね。私のおかっぱ頭を殴られたら一撃で死んじゃいそう」

「僕が部長を殴るなんて天と地がひっくり返っても有り得ませんが、まあ死ぬでしょうね」

 

 腹を刺してくる相手を殴り飛ばせるぐらいには、一応鍛えている。

 とにかく腹を刺されるのはトラウマであるのだ。

 別に女性に刺されたわけでもなんでもなく、強盗被害にあっただけであるが。

 僕は犯罪を憎む。

 

「おー。大きい」

 

 部長は自分の「おてて」としか言えない小さな掌を僕の掌と合わせて、大きさ比べをしている。

 僕は部長に女性としての好意を抱いているわけではない。

 僕ごときがそんな感情を部長に抱くなど不敬であるからだ。

 だが、こうして接触していると、部長が女の子であることを少し意識してしまう。

 ちょっと恥ずかしい。

 

「そろそろいいですか」

「うん、ごめんね。スケッチ取りたいぐらいだけど」

「それはそれで、やるならお応えしますよ? 僕は絵なんて描けないから」

 

 ヌードモデル以外ならやってもいい。

 裸はさすがに恥ずかしいのでやれないけれど、部長のためならスケッチモデルになるぐらい構わない。 

 

「おおう、意欲的だね。でも、どうせなら梶原君も同人活動やろうよ」

「僕がですか?」

「そうそう。一日30分のクロッキーを欠かさずやる根気があれば、誰でも絵は描けるようになるよ。大事なのは太陽に向かって歩いていく志なんだよ。それともイラストでも書く? 『現代文化研究会』は創作活動なら漫画でもイラストでも、小説でも大変歓迎なのです」

 

 えへん、と偉ぶる。

 そんな部長が可愛い。

 

「小説やイラストならやってみたいですが、技量が違いすぎますよ? 漫画の多大な視覚情報量に対しての小説なんて、所詮は劣化品でしかない」

「それは偏見だねえ。梶原君、ラノベを読んでいるのに偏見はよくないよ」

 

 ふふん、と部長が指を振る。

 

「確かにライトノベルより漫画は売れる。でも、それは漫画を読む人間が多いからさ。小説が漫画に一段劣るなんてことは一切ないね!! 読者数が多ければ、それだけでそれは名作と呼べるのかい? ハンバーガーとコーラは世界で一番売れているからって、それが一番世界で貴方にとって美味しいものなのかい?」

 

 小説に対して一家言あるようだ。

 黙って拝聴する。

 

「別に、漫画がメジャーカルチャーになったのはいいさ。漫画を描いている立場としてはね。でもね、私たちは所詮オタクなのさ。どこまでいってもオタクなんだよ。同人誌即売会では購入側も一般参加者で、客じゃあないんだよ。そんな中で、やれ絵師は神様だとか、小説家はSNSのフォロワーが少ないとか、そんな偏見や些細な中傷で卑下しちゃいけないね! オタクは誰もが平等なんだよ!!」

 

 ばん、と断言する。

 そこまで言い切るのか。

 僕は明らかに小説は漫画より下で、メジャーではないと思うのだが。

 まあ、高橋部長が言うならそうなのかも。

 そう信じさせる何かが部長にはあった。

 

「というわけで、梶原君も何かしましょう。そもそもエマなんか、イラスト始めて一年でこんなに漫画描けるようになったんですよ」

「うそぉ!?」

 

 僕は驚愕する。

 『現代文化研究会』の最新刊――といっても、研究会の歴史は浅くて一年にも満たないが。

 その最新刊を見るかぎりでは、高倉先輩の絵がイラスト始めて一年の絵には見えなかったのだ。

 というか、高橋部長の次に上手い。

 

「……中学時代はなにもしない無産型のオタクでした。本当にごめんなさい」

 

 見えない何かに謝る高倉エマ先輩。

 僕らナードは見えない何かに時々謝るのだ。

 あ、この人、多分中学時代の休憩時間は机に突っ伏して寝たフリしていたタイプの人だな。

 ブロンドサラサラヘアーに青い目なのに。

 まあ、別に白人さんも黒人さんもこの時代は珍しくもないけれど。

 

「どこで何が弾けるかはよくわからないね! だから、梶原君も何かするといいよ!! 

何かしたら、同人誌に載っけるね!!」

 

 元気いっぱいに高橋部長が叫ぶ。

 まあ、そこまで言われるなら。

 

「ならばイラストでも描きます。でも雑魚なので馬鹿にされると思いますが」

 

 とてもこのレベルについていけると思えないのだが。

 

「同人なんてそんなもんでいいんだよ。参加することに意義があるんだよ」

 

 高橋部長は言い切る。

 それはそうだが、部の存続に関わる行為だよ。

 僕は最初、『現代文化研究会』には部費が出ていると勘違いしていたが、どうも出ていないらしい。

 液晶タブレットは全部持ち込みで、部活の運営費に関しては全て同人の利益で成し遂げているらしい。

 というか、同人誌を読んだけど、技量がハンパない。

 強烈なエロがないから壁サークルとまではいかないのだろうが、部費を稼げる程度には売れる冊子なのだ。

 

「早ければ来月号には梶原君のイラスト載っけるからね」

「やめてくださいよ……」

 

 僕は高橋部長からのプレッシャーに恐怖を味わうと同時に、同人創作活動に携わる感動と。

 奇妙な高揚感を覚えていた。

 

「高橋部長は人を乗せるのが上手いですね」

「それが取り柄だからね。こうやって、部員全員を絵描きにしたのさ」

 

 部長はあっけらかんと、そう口にした。

 僕は彼女を素直に尊敬した。

 

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