【完結】俳優、女子中学生になる~殺された天才役者が名家の令嬢に憑依して芸能界に返り咲く!~ 作:朱音ゆうひ
文化祭初日が終わり、「お疲れ様ー!」「明日も頑張ろうー!」と声をかけ合って生徒たちは帰宅した。
帰宅してから自分の部屋でSNSをチェックすると、
奴はすごいな。よく燃える……「托卵されたけど自分の子だ」でフィニッシュしていれば被害者で終わっただろうに。
恭彦のインスタを見ると、フォロワーは増えていた。
私の宣伝が役に立っていたらいいけど、これは炎上効果だな。
あ、セバスチャンが配信中だ。どれどれ。
配信タイトルは『ブンカサイ・カンソウ』だって。
配信を観てみると、赤毛の執事セバスチャンは戦利品を紹介していた。
「ワタアメ。キャンディ。グミ。スコンブ。キンギョ。ラミカード。フィギュア。たくわん。鹿せんべい。お面……」
:執事さん文化祭おつかれ
:おつおつ
:なんかいっぱいゲットして来たんだな。
:たくわん?
:鹿せんべいが謎
:お嬢様が
:写真とか動画とか見たい
:金魚かわいい
:今日はゲームしないの?
「お嬢様の写真アリマス。スマホで撮りマシタ」
:おおおおおお
:見せて見せて
:みたい
:写真はよ!
盛り上がるコメント欄を見て、セバスチャンはいそいそとスマホを取り出し、写真を見せた。
「コレハ貞子お嬢様がポテトをカットしている写真。コチラは貞子お嬢様がツマミグイしてる写真。コッチは貞子お嬢様が兄君の足を引っ張っている写真」
えっ、いつの間に写真撮ってたの?
そして撮った写真を簡単に晒すな。コメントが大喜びだよ。
:これ
:貞子だな
:すごく……貞子です
:貞子がカレーつまみぐいしてる
:お兄ちゃんはこの後でんぐり返ししてた(動画)
セバスチャンの部屋は、比較的近い。
すぐ行ける。
奴の部屋のドアは「プライベートタイム」の札がかかっている。
最近かけるようになった札だ。無言で「邪魔するな」と言われている気がするが、知ったことか。
こん、こん、こん。
スマホで配信を観ながらノックを礼儀正しく3回すると、配信画面の中のセバスチャンがピタッとトークと動きを止めてドアを見た。
:来たかお嬢様
:貞子!?
:来るー!?
:本当によく来るな
:距離感が近すぎると思うの
:ドアを開けるなやられるぞ!
扱いがホラーだよ。今は貞子じゃないよ。
いや、ここは期待にこたえて貞子になるか?
ウイッグは部屋にある。コスチュームもある。
私は思い直し、自分の部屋に戻って着替えをした。
配信画面では、セバスチャンと視聴者が「開けた方がいいんじゃ?」「いや、開けるな」と問答を繰り返している。
では、素早く着替えを済ませたので、もう一度。
こん、こん、こん。
「……」
スマホを見ると、セバスチャンが意を決した様子でヘッドフォンを外し、ドアに向かってくる。
いつも思うんだけど、マイクミュートにしようよ。わざとなのかな?
私は貞子だ。
言葉で語らず、髪で語ろう。
見て、セバス君。
私の黒髪、とっても長いの。
「うひっ」
黒髪を揺らして迫ると、セバスチャンは悪魔にしては情けなすぎる悲鳴を立てて後ろに下がり、フィギュアにつまずいて転んだ。しかも転んだ先に金魚の水槽が。
「ギャアア!」
水槽が倒れて、金魚が床にこぼれだす。大惨事じゃないか、なんで床に置いてるんだ、危ないな。
「わぁわぁ、水槽戻して。金魚入れるよ、ほら。水少ないね。持ってくるよ」
貞子はライフセイバーに転職し、金魚の命をつなぎとめることに成功して、今後使い道があるのかわからないアッポーポイントを獲得したのだった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
――文化祭の2日目。
お化け屋敷に海賊部がやってきた。
「行けっ、
「かしこまりました!
相山先輩の左右に同じような女装海賊が並び、「左よし!」「右よし!」と安全確認している。
「僕、別に先頭でもいいけど。よっくんはどうしてそんなに後ろにいるの? もしかして怖い?」
「俺は最後尾でお前らを守る。後ろは任せろ」
「よっくん、試しに先頭に出てみてよ」
「誉、今日、俺は家を出る時に決めたんだ。リーダーが偉そうにする時代は終わった。これからは『実るほど
「怖いんだよね」
私はニヤニヤしながら二俣の後ろに忍び寄り、こんにゃくを首につけてやった。
「うおっ、で、出た! 葉室……! さては犯人はお前だな!」
一瞬で犯人を見抜くじゃないか。なんでわかるんだろう。
サッと物陰に潜むと、海賊部は二俣と円城寺を守るように陣形らしきものを作った。
「二俣様! お守りできず申し訳ございませんでしたッ!」
「いい。俺も油断した。気にするな。だが、次はないと思え……俺はお前たちを信じている。頼りにしているぞ」
「ありがたきお言葉……!」
なんか時代劇みたいなんだよな。
君たちの関係は本当になんなの。ごっこ遊びしてるの?
「……安全確認完了! 進みますッ!」
やがて、海賊部は指さし安全確認をして再び進み始めた。
「おのれ葉室。よくも二俣様を」
なんか恨まれてるよ。お化け屋敷なんだから恨まないでよ。おどかすのが仕事だよ?
心の中でつっこんでいると、長い黒髪を垂らしたアリサちゃんが彼らの前に這いずり出た。
「ぎゃあああ!」
「やめろ葉室ーー!」
私じゃないよ!
アリサちゃんだよ!
もっと正確に言うなら貞子を演じてるアリサちゃんだよ!
「よっくん、その子、葉室王司ちゃんじゃないよ」
円城寺は見抜いている。一人だけ全く怖がっていなくて冷静だ。
薄っすらと微笑を浮かべているのがなんか怖い。
海賊部がアリサちゃんから逃げようと方向転換したのを見て、委員長が日本人形を彼らの目の前に倒した。
「うわあああ!」
「葉室、お前最悪だな!」
なんで私が最悪になるのさ!
理不尽だな二俣!
円城寺は「それ、人形だよ」と腹を抱えて笑っていた。
声に出してつっこみたい――そんな衝動と戦い、ゴール地点でカレーを勧めると、二俣は「お前の気持ちはわかったつもりだったが、こんなに激しいとは思わなかった」と意味不明なことを言ってカレーを食べて言った。
また変な誤解をされたのだろうか……。
「王司ちゃん、海賊部の人たちが来てくれたから、私たちもあとで劇を観に行こう?」
アリサちゃんが提案してくれたので、休憩時間を迎えた私はアリサちゃんとカナミちゃんを誘って海賊部の『TSピーターパン』を観に行った。
劇は、盛況だった。
お客さんの会話が偶然聞こえたが、前日からのリピーターもいるらしい。立ち見もいる。
「この劇、昨日観た人が面白いって言ってた~! SNSにも感想があるよ」
「混んでるね~!」
3人で椅子に座ると、劇が始まった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
薄暗い会場のステージの上で、役者が芝居を始めている。
「ここが、ハーメルンという世界なの? すごい」
ウエンディ役の少年は、長髪のカツラをバッと脱ぎ捨てた。カツラの下は、丸坊主だった。
「性別が自分の意思で変えられるって、素敵……! 私は今日から男だ!」
わあ、ドレスを脱いで赤いふんどし一丁になっちゃったよ。世界観どうなってるんだ。……気にするのは無粋か。
「あはは」
「脱いだー!」
お客さんは笑っている。
性転換してしまう薬のせいで、みんなが性別を変えていく。
海賊部の少年たちの女装は、「俺は可愛くなる!」と可愛さを作ろうとした子と「俺はイロモノになる!」とネタに走った子に分かれていた。
可愛い子は目を疑うほど可愛い。
お客さんは「あの子、何組のだれだれ君だよね? うそ、可愛いー!」とざわざわしていた。
もちろん、ネタに走った子は笑い声をちゃんとゲットしていて、全体的に雰囲気がとてもいい。
下っ端海賊やピーターパンが「女になっちゃった!」と騒ぐ中、フック船長は男のままだ。
フック船長は、衣装の背中に大きく『彼女募集中・タツヤ』と書いていた。すごいな、誰も「おい、さすがにやめろよ」とか言わないんだな。
「ピーターパン! お前に復讐するときが来たな!」
縄でぐるぐる巻きにされて海賊に捕まっているピーターパンは、
「くっ、殺せ……見るな。こんな俺を……見るな……!」
感情がめちゃくちゃ籠っている。これは演技ではなく、本当に恥ずかしいんだろうな。
ちなみに、彼女であるこよみ
がんばれ相山先輩。彼女は喜んでいるぞ。
「うっ、ど、どうしたことか。憎いはずのピーターパンが可愛く見えてしまうだと……?」
フック船長が戸惑っている。
「この胸の高鳴りはなんだ? まるで……恋……そんな馬鹿な。憎い相手のはずだろう? しっかりしろ、俺……」
ところで、ピーターパンってこんな話だっけ?
「よ、寄るな! 俺には彼女が……」
ピーターパンにふらふらと近づくフック船長。
身の危険を感じたピーターパンが全身で船長を拒絶している。そこへ、アメコミヒーローみたいに白いマントを翻したウェンディ(男)がやってきた。
ふんどし一丁の裸体に白いマントって変態っぽいな。大丈夫かウェンディ。
「待たせたなピーターパン! もう大丈夫! 何故って!? 私が来た!!」
「オールマイト!」
いや、オールマイトじゃないだろ。
これはアドリブなのか、台本なのか? くっ、初日を観てないからわからない。
「いかにも! 私はウェンディをやめたんだ。今の私はオールマイト!」
あっれぇ。なんか別の作品にシフトしてない?
ウェンディはフック船長を追いやり、ピーターパンをあっという間に救ってみせた。
そして、マントを翻し、ピーターパンの前に膝を突いて指輪を指に填めた。
「ピーターパン。これは
教えちゃってるよ花言葉。オールマイトがヒンメルになっちゃったよ。
ウェンディだかオールマイトだかヒンメルだかよくわからない白マント赤ふんどし少年は、マントをバサッと翻し、前髪を手でふぁさっとかきあげて、「ふっ」とナルシストっぽく微笑した。
そして、ピーターパンに背を向け、立ち去ろうとした。
指輪を填めてもらったピーターパンは、西部劇のヒロインみたいになった。
「待って! せめてお名前を。なぜ、助けてくれたんですか?」
なんで名前忘れてるんだよ!
ほら、お客さんがつっこみ入れてるよ。笑われてるよ。
名前を忘れられたヒーローは、少し哀愁を漂わせながら渋く低い声で言い放った。もはや謎キャラである。
「日本は理不尽にまみれてる。そういう
去っていく謎のキャラ。
ピーターパンのもとに男体化したティンカーベルがやってきて、締めくくる。客席から「ゆうたー!」という男性の声が響いた。ティンカーベルはゆうた君。名前を呼んだのはゆうた君パパだ。
「ウェンディは大変なものを盗んで行きました。ピーターパンの心です」
謎のキャラがルパンになったところで、劇は幕を下ろした。
「わああぁぁっ」
「ブラボーー」
「TSばんざい!」
みんなと一緒に拍手しながら、私は頭の中を「?」でいっぱいにさせていた。
「なんかすごい。これが若さか」
思わず呟くと、カナミちゃんとアリサちゃんに笑われてしまった。
「王司、たまにおっさんくさいこと言う」
「あはは」
拍手の中、監督を名乗る
円城寺は、私の方を手で示しながら声を響かせた。
「僕たちは、このふざけた劇をするべきか、真面目な劇をするべきかで、最初の方は揉めていました。そこにいる葉室王司ちゃんが、僕の背中を押してくれました。感謝しています。皆さん、どうぞこの『TSピーターパン』の影の立役者である葉室王司ちゃんにも拍手を贈ってください!」
なにっ。
「わああ!」
「さすが王司ちゃん!」
みんなが私に注目して拍手するではないか。
わ、私は初期の台本を読んで「面白いですね、楽しみ」と言っただけだよ!
「ち、違いますよ。私はただ……」
「葉室王司がこの劇を考えたんだって」
「面白かったよ、王司ちゃーん!」
「え、いえ、違います。台本を書いたのは円城寺さんです……」
円城寺は暗黒微笑を浮かべて「才能豊かな葉室王司ちゃんでした! それでは、これにて終了です! ありがとうございました!」と締めくくった。
才能豊かなのは不名誉ではない。プラスに働くイメージだ。
これは「よかった」と思うべき出来事なのだろうか?
よくわからないが、劇自体は面白かった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。
文化祭はつつがなく終わり、後片付けの教室では「楽しかったね!」「みんなおつかれ!」という明るい声が飛び交った。
「みんな! 最後に全員で写真を撮ろうよ!」
委員長が提案して、日本人形を真ん中に置いてクラスメイト全員で記念撮影をすると、日本人形の周りに黒いもやもやがある写真が撮れたので、クラスは大騒ぎになった。
「ぎゃああ! 心霊写真だ!」
「祟られるーー!」
私もさすがに「やばいのでは」と思ったので、ママに電話して帰宅時に塩を撒いてもらった。あと、日本人形はお祓いした。とても怖かった。