【完結】俳優、女子中学生になる~殺された天才役者が名家の令嬢に憑依して芸能界に返り咲く!~   作:朱音ゆうひ

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12、中学校、怖いかもしれん

 

 休み時間になると、アリサちゃんはインスタやTikTokを見せてくれた。

 

「王司ちゃん、見て。ナイショだよ。うちのパパだよー」

 

 どう見ても歌舞伎役者です。本当にありがとうございました。

 ナイショということは、複雑な家庭だったりするんだろうか。 

 

 あと、窓際にある空席は亡くなった田中たけし君の席みたいだ。

 

 休み時間にクラスメイトや他のクラスの生徒がやってきてお菓子や花を机に置いていく。手を合わせたりもしてる。

 昼休みには先生が「お供え物」を回収していく……。

 

「アリサちゃん、あの席って田中君だよね?」

「あっ、うん。そうだよ!」

 

 田中君の机に手を合わせると、アリサちゃんはグミを2個机にお供えした。

 ひそひそと噂する声が聞こえてくる。

 

「見て、葉室さんが手を合わせてる」

「仲良かったから」

 

 やっぱり王司は田中君と仲が良かったんだ?

 

 友達らしく涙を浮かべたりしたほうがいいんだろうか?

 

 でもログをちょっと読んだ程度で、どういう子か知らないんだよな……。

 思い入れゼロなんだよ。

 

 仕事ならウソ泣きするけど、こういうときにウソ泣きするのはなんか違う気もするんだよな。

 

 考え込んでいると、教室の入り口の方で「カナミがいい子ぶってるって言った!」という女子の大声が聞こえた。他のクラスの女子だ。

 

「ちょっと! やめてよ!」

 

 慌てた様子で言って、「カナミ」らしき女子は逃げて行った。

 

「なんだ……?」

「王司ちゃん、カナミちゃんのこと、わからないの?」

  

 首をかしげていると、アリサちゃんが袖を引いてスマホを見せてくる。

   

「王司ちゃんって……なんか、記憶喪失とか別人になったみたいって噂されてるよ」

  

 コソッと耳打ちして見せてくれるグループチャットには、「自分の教室わからなかったんだって」「席もわからなかったみたい」「円城寺様が同じクラスだと思ってたんだよ」と噂されているチャットが。

 

 わからないことが多すぎるし、その方向性で行った方がいいかもしれない。

 

「えっと……アリサちゃんにだけ教えるね。実はちょっと記憶障害っていうか、前のことを忘れたりしてるんだ。ママが予約してくれてるから、今度カウンセリングも受けると思うよ」

「なにそれかっこいい。あ、かっこいいって言っちゃダメだよね。大変だよね……ね、私たち、お互いナイショを教え合ってて、すっごく仲のいい友達って感じ」

「そうかも」

「あのね、給食は食堂で食べるんだよ」 

 

 アリサちゃんが誘ってくれるので一緒に食堂に向かう途中で、アリサちゃんの友達が遠巻きに手を振ったりスマホを示したりしていた。

 

「ちょっと待ってて」

 

 アリサちゃんはその子たちと何か話してから「いつも一緒に食べてるんだけど、今日はやめとくって。あの子たち、人見知りしてるみたい」と言い訳してくれた。

 なんか、ちょっと申し訳ないかもしれん。

   

「ここが食堂だよ、王司ちゃん」

  

 着いた食堂はバイキング会場だった。

 

 料理が置かれたテーブルが中央にあり、椅子テーブル席がぐるりと料理テーブルを囲んで設置されている。

 左側に窓が、右側に大型のテレビモニターがあった。

 

 給食の料理が選べるっていいな。カレーパンがある。いただこう。

 

 「栄養バランスよく選びましょう」って立て札が立っているのが微笑ましい。

 

 あ、カレーライスもある。いただこう。辛さも選べるのか――「甘辛」「中辛」「辛」「激辛」。激辛選ぼう、激辛。

 

「王司ちゃん、激辛ってすっっごく辛くて、選ぶ人少ないんだよ。 大丈夫?」

「辛いの好きなんだ」

「へえ……」

「アリサちゃんは甘いのばっかり選んでるね」

「へっへ~。ドーナツ! ケーキ! ゼリーもあるよ! このプリンはおすすめ!」

  

 アリサちゃんは甘党らしく、偏りまくった料理を選びながら座席のローカルルールについて説明してくれた。

 

「料理テーブルを挟んで左側の窓際席は企業の重役の家の子たち、右側の壁際の席は芸能系の家の子たちが集まりがち。絶対そうってわけじゃないんだけど、暗黙の了解みたいに分かれてるの。派閥があるから気をつけて」

 

 中学生なのに家柄で派閥社会か。なんか大変そう。生きづらそう。

 

「私は左側にいたの?」 

「うーん。王司ちゃんはいつもご飯の時見かけなかったよ。目立たなかったし……田中君と一緒に食べてたと思うけど、ごめん、私、気にしてなかった……」

「あ、ぜんぜん大丈夫。気にしないで。なんかごめんね」

 

 アリサちゃんは中央右寄りの席に誘ってくれた。

 

 すぐ近くの席に他のクラスの女子グループがいる。

 あの「カナミ」という子がグループの端にいて、他の女子が面白がるように声をあげた。

 

「カナミ、ほら言いなよ。葉室さんに。なんでフレンド削除したのって()いてみな~!」

「嘘だから本人には言えないんだよね、カナミ!」

 

 葉室さんというのは私のことではないだろうか?

 

 見ていると、カナミちゃんと目が合った。金髪に近い茶髪で、ポニーテールだ。

 

 追い詰められた感じの顔で、目の下に隈がある。大丈夫?

 

「う……うそじゃないもん」

 

 震える声で言って、カナミちゃんは立ち上がった。

 スマホの画面を見せて、こっちを指さしてくる。何事?

 

「ほら。フレンド一覧に葉室さん、いないでしょ? 前はね、フレンドになってって言われてフレンドしてたの。削除されたの」

「カナミ、いつ削除されたの?」

「えっと……オ、オーディション番組の日、だったかな……」

「この前と言ってること違くな~い?」

「告られて振ったらキレたってのはなんだったの?」

「そ、そ、それは、えっと……仲良くしてくれないなら絶交って言ったんだよ。あのね、でもね。……フレ戻したら仲直りしてあげてもいい!」

 

 い、意味がわからない。

 

 たぶん嘘なんだろう。周りの子たちも嘘だとわかっちゃってて、「嘘でしょ」って言ってる。

 でも、このカナミちゃんは後に引けない感じになっちゃってるんだな……。

 

 ふと、田中君と王司のLINEチャットが思い出された。

 

田中たけし:A組の女子がお前に告られて振ってやったって

葉室王司:そんなことしてない

田中たけし:連中、チビに人権ないのにって笑ってたぞ 

 

 王司の主張は、ログに残ってた。王司の代わりに言おうじゃないか。

 

「そんなことしてない」

 

「……!」

「ほらー! カナミー!」

 

 周りの女子は「ほらね!」と鬼の首を取ったような顔をした。

 カナミちゃんはぎゅっと口を結び、一度俯きかけてからキッと顔をあげ、新しい嘘を展開し始める。

 

「は、葉室さんは、う、嘘つきだもん。っていうか性別も偽るんだもん、嘘つきなのは証明されてるでしょ! あのねえ、言わないつもりだったけど、言っちゃう。告られたの、ほんとなんだから。葉室さん、同性が好きなんだって。私、葉室さんを思って黙っててあげたのに」

「おい、うるさいぞ」

「あっ……」

 

 低い声で制止されて、カナミちゃんは動きを止めた。

 

 周りの生徒たちが「ねえ」「ちょっと見て」とざわざわと声が発せられた方向を見ている。

 

 つられて視線を向けると、二俣(にまた)夜輝(よるてみ)が眼光鋭くこっちを睨んでいた。

 円城寺(えんじょうじ)(ほまれ)と取り巻きらしき男子グループを連れて、ぞろぞろとこっちにやってくる。

 

 うわぁ。うわぁ。謎の威圧感がすごい。

 THE・権力者の坊ちゃんたちって感じだ。

 現実にこんな中学生グループがあるのかよ。やばいな。

 これって、リーダーのご機嫌を損ねたら学校生活が終わるとか、親が会社クビになるとか、そんな漫画みたいな特殊な身分社会なんじゃないの?

 

「ごっ、ごめんなさ……、失礼しました……!」

 

 ほら、カナミちゃんが蒼褪めて頭を下げ、食べかけのトレイを返却口に置いて食堂から逃げて行った。

 逃げ足が速い……。いや、でも気持ちわかるよ。

 「目に留まったら最後」って雰囲気あるもんな。

 

 二俣はカナミちゃんを見送り、私に流し目を送った。

 

 近くにいた女子が「キャー」とか言ってる。

 女子諸君、その「キャー」はときめいてるキャーなの、怖いキャーなの? 両方?

 

 やっぱり、年齢差と性別の差があると考えがよくわからない瞬間ってあるよな。

 難解でデリケートな女子心を理解して完璧な女子中学生になりたいものだ。

 楽しいワークショップだよ。

 

 私が女子の気分を理解しようとしていると、二俣は低い声で問いかけてきた。

 

「お前、ズルしたの?」

 

 意味のわからない質問。

 それに、中学生とは思えない威圧感。なんだこの刃みたいな眼力は。

 大人を舐めるな、私は怖がらないぞ。

 たぶんうちのママは社長だし、影響も……あ、あったりするんだろうか?

 取引先とか、業界関係の付き合いとか?

 

「おい、返事をしろ」

 

 とりあえず二俣は偉そうだ。

 偉そうにするということは、偉くできるだけの身分だということだ。やだなぁ。

 ひとまず、返事はしよう。怯えた感じは出さないぞ。いじめっ子はターゲットが弱いと調子に乗るんだ。私は弱くないぞ。

 

「二俣さん。ズルって、なんのことですか?」

 

「してないの?」

 

「なんのことかわかんないですけど、(やま)しいことはしてません」

 

「ふーん」

  

 なにせ心当たりがない。

 堂々と答えると、二俣は視線を落として私のトレイを見た。

 

「お前、激辛食うの?」

「はいっ? 食べますけど?」

 

 カレーの辛さに文句でもつけるのだろうか?

 まさか「生意気」とかいちゃもんつけられたり? 

 カレー食べてるだけでいちゃもんつけられる学校ヒエラルキー、やだなぁ。

 

 身構えていると、二俣の威圧感がふっと消えた。

 そして、子供っぽい表情になる。おや?

 

「……そっか。でも量は少ないな。俺はお前の倍は食う。じゃあな」

 

 キリッとした顔で偉そうに言って、二俣は去っていった。なんだぁ?

 

 二俣の後を追う円城寺が「変な絡み方してごめんね」とにやにやしながら謝ってくれたが……。

 

 

「……」

「…………」 

 

 

 緊張感がすごかった。

 嵐が去ったって感じだ。

 

 食欲どっかいっちゃったもん。

 いや、でも深呼吸してたら食欲戻ってきた。食べよう。

 お昼休みは有限なんだよ。貴重な休み時間だよ。

 カレーだって冷めちゃうんだから。

 

「いただきまーす」

「あっ、私も。いただきます。ねえ、王司ちゃん。びっくりしたね、今の。なんだったんだろね?」

 

 アリサちゃんの呟きに共感しかない。

 

 あっちもこっちもわけわかんないな……中学校、怖いところかもしれん。

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