【完結】俳優、女子中学生になる~殺された天才役者が名家の令嬢に憑依して芸能界に返り咲く!~ 作:朱音ゆうひ
――『|BLGS日本大会(BATTLE LAW2 Global Series)』
FPSバトロワゲーム『BATTLE LAW2』の公式大会が始まっている。
「高台、取る」
「トル、オーケー」
韓国人兄弟の兄ソジュンが
2人はカタコトの日本語だが、ゲームプレイにおける意思疎通に支障はない。
「アタッカー、
敵のアタッカーを死にかけまで削ってる――と日本語で伝えながら、シウはグレネードを高く放った。
「セーガ、ゴーゴーゴーゴー!」
「OK」
普段のプレイ時の何倍も大きな声は、聞いているだけで必死さが伝染する。
まるで、本当に命がかかっている戦場にいるようだ。
星牙は「落ち着け」と自分に言い聞かせながらいつも通りの
『王司の親衛隊』?
変な名前つけやがって。
「セーガ、ソノママ」
「OK」
敵後衛が距離を詰めてくる。
同時に先ほどシウが放ったグレネードが落ちてきて、飛び込んで来た敵後衛にダメージを与えた。
「ナイス」
近距離武器で敵にトドメを刺すと、また変な名前だった。
『王司のナイト』?
こいつら、もしや公式配信でファンアピールして爪痕残そうとしている葉室王司ファンか?
「
「
「クソゲー、はよ、サービスオワレ」
「ノーノーノー」
韓国兄弟は口が悪い。オンラインゲームあるあるだが、クソアプデをしてきた運営への恨みもある。
例えば、チーターを放置するとか、キーマウ(キーボードマウス)よりPAD(コントローラー)有利にしちゃったとか。
怒りや恨みを覗かせつつも、兄のソジュンは冷静だ。
彼は、大会慣れしている。
プレイスキルは
「ジャパンチーム、同じ漢字ネーム多いナ」
気付いてしまったか。漢字が何を意味するのかわからないのが救いかな。
「
なにっ、シウが葉室王司を知っているだと。ハムじゃないんだが?
「ハム? ナンダソレ。シウ、集中シロ」
外国語である日本語でIGLをするソジュンは脳を酷使する。
日本語スキルが上がって最近ではマシになったようだが、以前は「ツカレル」とよく言っていた。
試合中に未知の情報で脳を疲れさせてはあかん。
ノイズはカットだ――星牙は「集中集中!」と大声を出して敵チームの残党を倒した。
予想通り、名前はふざけていた。
『王司の未来の夫』?
お前は炎上しとけ。ファンに怒られろ。
「セーガ、シウ、漁夫ダ!」
ソジュンが叫ぶと同時に、星牙とシウは新手の部隊への攻撃を始めた。
交戦の証であるキルログを見て「戦って疲弊した生き残りを狩ってやる」と漁夫の利を狙ってやってきた敵部隊は、TSチームが先制してきたので驚いたようだった。
「キルしたら、移動」
ソジュンが移動先の位置を示す
葉室王司が宣伝したせいか、日本大会はカジュアルプレイヤーチームが多い。ゲーム運営会社や大会運営も喜んでいることだろう。
――大会の公式配信も、エンジョイ大会並みに盛り上がっているらしい……。
試合中の選手は、当然だが配信コメントを見ることができないし、見る余裕もない。
接客に労力を割かず、プレイに集中できる――それが3人には楽だった。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
――【
「王司先輩。この大会って、これ一回で終わりじゃないらしいですよ」
芽衣ちゃんがネットで調べた情報をスマホで共有してくれるので、私は「ふむふむ」と首をかしげた。
「日本大会のあと、世界大会もあるんだ。へえ~、すごいね」
芽衣ちゃんはこのゲームを全くやったことがないらしい。
ふっ、芽衣ちゃん。
先輩はね、CMを撮ったんだ。
ゲームのことを教えてあげるよ。
「芽衣ちゃん、このゲームね、安全地帯がどんどん狭くなっていくんだよ」
「へえ……」
大会公式配信では、司会のお兄さん(元プロプレイヤー)がメイド服を着て映っていた。
名前は『
:メイドwww
:これも仕事だから
:親が見てるぞ!
:仕事選べ
:葉室王司が応援配信してる件
:王司ちゃん見てるー?
:王司ちゃんは自分も初心者なのに後輩にドヤ顔でゲーム知識披露してるよ
:可愛いじゃないか。俺は王司のキッズっぽいところ好きだぜ
:かわいいねえ王司ちゃんと芽衣ちゃん
:芽衣ちゃんって体調不良はどしたん
:それ以上いけない
見てるよ。
ハンバーガーかじりながら、みんなで観てるよ。
ダブルチーズバーガー美味しいよ。キッズってなんだよ。私は大人だよ。
:王司ちゃんキルログ見てる?
:王司親衛隊やられとるやんけ!
:未来の夫とか抜かした奴は許されない、追放だ
:公式配信に爪痕を残したな
:あれVtuberだぞ
:あとでVtuberの配信観に行くか
:絵は嫌いだ
:絵って呼ぶな
「王司先輩。プロゲーマーって大変なんですね」
「芽衣ちゃん。私はプロチームのオーナーのインタビューを見たことがあるんだけど、彼らはゲームするだけじゃなくてインフルエンサーとしての生き方を意識させられてるんだって」
「それでメイドを……」
:女子中学生達にプロゲーマーが誤解されてるぞ
:オーナー責任取って
:ゲーマーの仕事に女装は含まれません
公式配信と応援配信、両方でコメントも盛り上がってる。いいことだ。
「それでは各チーム視点を見ていきましょう。『Team Success』、略して『TS』が南下中……あっ、交戦していますね」
大会の公式配信は、プレイヤーごとの画面を転々と映していった。
3人1組で移動して敵チームを発見し、襲撃する攻撃側の画面を映し、戦況を伝えながら応戦するチーム側の視点に移行。
互いの視点が見れるのだが、この映し方が「今の鮮やかなキルが、やられた相手画面ではこんな風に見えていた。相手はこんなリアクションをしていた」というのがわかるのだ。
無双する高プレイヤースキルのプレイヤーと、「今のなに? やば!」とやられた側が驚くリアクションは、切り抜き動画が作られるくらい人気のコンテンツである。
「あ、星牙が敵チームを蹂躙してるぞ」
「これ? 今映った画面、星牙なの?」
画面は次々と変わっていくから、初心者にはわかりにくい。
左右を確認しながら仲間と一緒に移動していた視点キャラが突然画面に出てきた星牙っぽいキャラに襲われる。
「ぎゃっ。星牙だ!」
「うわ、びっくりした」
襲われたキャラと味方が至近距離の星牙にショットガンを撃つが、撃つのを予想していたように星牙のキャラは右斜め上へと跳んでいた。
わあ、視点主の追いかける速度がついていけてない。
星牙を追って動いた視点映像は、左、上と視点を動かし、動く星牙をとらえきれずにシールドを前方に張った。
すると、星牙の仲間がシールドの横から銃弾を撃ち込んでくる。
気づけば、視点主の味方は死体にされていて、視点主は左右から体力を削られてゲームオーバーの文字を大会配信視聴者に見せる結末になったのだった。
:TS最強!
:TSWIN!
:ソジュンヒョンがんばれー
:シウくんかわいい♡
:ママファンきちい
:なんでそんな酷いこと言うの
:ファン同士で喧嘩すんな
「ふう。星牙、勝ってくれ。勝利直後の空気ならきっと言える……」
おや、
勝ったら何か言いたいことがあるらしい……?
「実は俺……」
あれ、今言うの?
なになに? 重大発表?
「アイドルとえっちする夢を見た……!」
:は?
:どゆこと??
:??????
:【東】チームに投票してきた
:俺も
ああ、コメント欄が「なに言ってんだこの役者」って雰囲気だよ。
た、TAKU1さん……。
「待ってみんな! 変なこと言ったからってライバルチームに投票するのおかしくない?」
「ふっ。この気まずいムードをなんとかしたい。そうお考えですね、王司さん?」
「あっ。大吾お兄さん」
高槻大吾は、ハンバーガーにマヨネーズをかけていた。
マヨラーだこの人。
マヨネーズがこんもりと盛られている……やばいよ。
もうこれハンバーガーじゃないよ。マヨネーガーだよ。
「皆さん、ごらんください。僕が今、王司さんに愛情たっぷりの大吾スペシャルバーガーを『あーん』しますからね。王司さん、これは辛しマヨネーズです。あなた好みに盛りました。さあ、め、し、あ、が、れ」
:なに言ってんだこの役者
:コミュ抜けます
:【悲報】歌舞伎プリンス、変人
:このお兄さん、王司ちゃんのお兄ちゃんにロリコンって呼ばれてた人だよね
:【東】に投票してこよーっと
ああっ、西の人気が落ちていく……!?
「みんな、コミュニティは抜けてもいいけどすぐ入り直してね」
芽衣ちゃんはしっかりしていた。
:芽衣ちゃん意外と元気だな
:安心したわ
:体調不良(健やか)
:いいことじゃないか
:元気になってくれておじさん嬉しいよ
:↑だれだよ
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
――【
ゲームが進行し、安全地帯はかなり狭くなっていて、残りチーム数は、3チームになっている。
――ソジュンとシウがやられた。
狭まる安全地帯の隅で、星牙は一人隠れていた。
キャラの視界では、残りの敵2チームが互いに撃ち合っている。
左側チームは『青春きらめき隊☆』――企業所属の女性Vtuber2人とプロゲーマーの男性1人の「仲良してぇてぇ」チームか。
こっちは男3人なのにあっちのプロはハーレムか。
右側チームは『ボクガール・トライアングル』――プロゲーマー男2人に、これまた女の子(プロゲーマーの妹らしい)を連れた女子入りチームだ。妹がボクっ娘なんだってさ。
はあ。
名前がちゃらちゃらしてるわりに、プロが女の子をコーチングしていて中身がガチだったりするのがこの手のチームの特徴だ。
かく言う星牙も、ちょっと前までは
「セイガ! 負けたらゴハン抜きだよ!」
「セーガ、体力回復!」
仲間2人は死体になったあと、星牙を応援したり指示出ししたりしている。
これが女子だったら「だいじょうぶ?」「がんばって……!」「星牙しんじてる!」「あたしを世界大会に連れてって♡」と可愛く応援してくれるのに。
おっしゃ任せろ、ってやる気が出るのに。
「このままいける。黙ってろ」
ぴしゃりと言って、星牙は脳内で仲間2人を女子化させた。
お前ら、姉妹になれ。ソジュンは巨乳アネゴや。シウはちっぱいでドジでよく転ぶ子な。
うーむ。あまり可愛くない――いや、なにを考えているんだ。集中せな。
「すーっ」
自分が息を吸う音が大きく聞こえる。
あの2チーム、今男女でワーキャー青春しとんのやろなあ。
くそ、くそ、くそ、
僕の教え子で初恋の子はいなくなったのに、青春しやがって。
格差社会やで。はらたつのり。
「フーッ、はらたつのりや……」
殺意を研ぎ澄まして銃の照準を『ボクガール・トライアングル』の男に向ける。
『青春きらめき隊☆』に体力を削られ、仲間と
すぐに『青春きらめき隊☆』のプロゲーマーに照準を移し、
この1秒の処理の間に2チームはそれぞれ1人ずつを倒し合っている。
残った2人が「仲間をやられた! 自分が戦わないと!」と殴り合っている。
もしかしたらキルログで星牙に気付いた仲間が「待て、もう1人いるぞ」と警告を発しているかもしれないが、もう遅い。
遅い遅い遅い。遅すぎて暴言出るわ!
「シーバ、ファッキューPADキッズ、高IQ神プレイを切り抜き動画にして褒め称えろ。パリピ、リア充、爆発しろやあ!」
アドレナリンが止まらん。
殴り合う2人に平等に弾を撃ち込んで、星牙は漁夫の利をゲットした。
「っしゃああああああ! 死ねやカップル! なにが青春やくそがあああ! 勝利やあああ!」
――勝利である。
「セイガアア!」
「ヨクヤッター!」
日本語がわからない仲間たちは大喜びだった。
まあ、こいつらは口が悪いし、意味がわかっても「ソウダソウダ」と言ってくれそうやな。
星牙は仲間と共に喜びつつ、日本代表の肩書きを手に入れた。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
――【葉室王司視点】
「勝ったーーーーーーー!」
「わあああーー!」
星牙の勝利に、【西】チームのメンバーは大歓声をあげて抱き合って喜んだ。
あっ、ハンバーガーとフライドポテトが宙を舞ってる。
食べ物投げちゃだめだよ。炎上するよ。
:TS勝ったあああああああ
:なんか暴言吐いてなかった?
:やったあああああああ
:暴言なんてなかった
:公式大会でぶち切れる星牙わろた
:TSWIN!
:ストレス溜まってたんだな星牙
:日本代表(3人中2人が韓国人)
:Vのファンが怒るぞw
:星牙、燃える
:勝てばええねん!強さが全てやねん!
:王司ちゃん「ざぁこ♡」って言ってみて
:TSキッズうぜー
:これだからTSファン嫌い
:負けたチームのファンが顔真っ赤だ
:ざまあ!
:星牙は彼女がいない
:許してあげて
:彼女募集中~タツヤ~
:タツヤ!?
:解放区のタツヤ!?
コメントがカオスだ。
喧嘩やめてえ。盛り上がりすぎだよ。
でも、お祭り感があっていいね。
「午後、公演見てねー! 星牙君も出るよ!」
全員で舞台を宣伝して配信を締めくくると、「チケットがねえよ」というツッコミコメントがいっぱい寄せられた。
演劇祭も盛り上がっているし、なによりだ。